呉原狼対仁義なき組織暴力 ☆5点
昭和63年の広島を舞台にヤクザの抗争とそれを取り締まるマル暴を描いた警察小説で2016年の第69回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞した柚月裕子の同名小説の映画化。
監督は白石和彌、主演は役所広司、共演に松坂桃李、真木よう子、江口洋介
予告編
映画データ
本作は2018年5月12日(土)公開で、全国337館での公開です。
配給は東映です。
普段、東映作品だと劇場で予告編を目にする機会は少ないのですが、本作はTOHOシネマズでも上映されるのでよく目にしました。
予告編からはビンビンに面白そうなのが伝わってきましたが、テンションを上げ過ぎると裏切られたとき怖いので、気持ちをフラットにして観てきました。
例によって例の如く原作は未読での鑑賞です。
監督は白石和彌さん
監督作は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』を観てます。
凶悪、日本一、かの鳥とアベレージが高かったんですが、サニーがビックリするくらい酷かったので、本作を観るにあたり期待半分、不安半分という感じです。
主演は役所広司さん
近作は『渇き。』『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』『三度目の殺人』『オー・ルーシー!』を観てます。
共演に松坂桃李さん
近作は『日本のいちばん長い日』『劇場版 MOZU』『人生の約束』『湯を沸かすほどの熱い愛』『ユリゴコロ』『彼女がその名を知らない鳥たち』『不能犯』『娼年』を観てます。
共演に真木よう子さん
近作は『さよなら渓谷』『まほろ駅前狂騒曲』『脳内ポイズンベリー』『劇場版 MOZU』『海よりもまだ深く』『ミックス。』を観てます。
共演に江口洋介さん
近作は『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』『脳男』『天空の蜂』『人生の約束』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
大上章吾: 役所広司
日岡秀一: 松坂桃李
高木里佳子: 真木よう子
嵯峨大輔: 滝藤賢一
土井秀雄: 田口トモロヲ
五十子正平: 石橋蓮司
一之瀬守孝: 江口洋介
高坂隆文: 中村獅童
瀧井銀次: ピエール瀧
吉田滋: 音尾琢真
永川恭二: 中村倫也
上早稲二郎: 駿河太郎
上早稲潤子: MEGUMI
友竹啓二: 矢島健一
野崎康介: 竹野内豊
岡田桃子: 阿部純子
加古村猛: 嶋田久作
尾谷憲次: 伊吹吾郎
吉原圭輔: 中山峻
善田新輔: 九十九一
善田大輝: 岩永ジョーイ
岩本恒夫: 井上肇
毛利克志: 滝川英次
菊地: さいねい龍二
有原: 沖原一生
金村安則: 黒石高大
瀧井洋子: 町田マリー
苗代広行: 勝矢
備前芳樹: 野中隆光
柳田タカシ: 田中偉登
賽本友保: ウダタカキ
あらすじ
昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島・呉原─。そこは、未だ暴力団組織が割拠し、新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の「加古村組」と地場の暴力団「尾谷組」との抗争の火種が燻り始めていた。そんな中、「加古村組」関連企業の金融会社社員が失踪する。失踪を殺人事件と見たマル暴のベテラン刑事・大上と新人刑事・日岡は事件解決の為に奔走するが、やくざの抗争が正義も愛も金も、すべてを呑み込んでいく……。警察組織の目論み、大上自身に向けられた黒い疑惑、様々な欲望をもむき出しにして、暴力団と警察を巻き込んだ血で血を洗う報復合戦が起ころうとしていた……。
(公式サイトhttp://www.korou.jp/introduction/より引用)
ネタバレ感想
原作者の柚月裕子さんは本原作の執筆にあたり、ご自身が好きな映画の『仁義なき戦い』や『県警対組織暴力』を見返して、担当編集者にプロットを練って出したそうで、音楽でいえば原作自体がこれらのリミックスになるのかな?と思います。
柚月さんが『仁義なき戦い』を観たのは作家デビューした前後とのことで、デビューが2008年頃なのでわりと最近だと思うんですが、ハマる気持ちはすごく分かります(笑)
(「麻雀放浪記」とかも趣味が同じだw)
自分も映画を見出してから、過去の作品を遡るようになって、もう20年以上前ですが『仁義なき戦い』を初めて観たときはその面白さに衝撃を受けました。
『仁義なき戦い』を観ると深作欣二監督×菅原文太主演で作られた、「仁義なき戦いシリーズ」5作と「新仁義なき戦いシリーズ」3作を制覇せずにはいられなくなるんですが、どの作品もちょうど100分前後と見やすいんですよね。
ただこの頃には『県警対組織暴力』まで手が伸びなくて、観たのはわりと最近でした。
今だとアマゾンプライムビデオ、フールー、ネットフリックス全てで見られますね。
本作は主人公がマル暴刑事の大上なので、筋立てとしては『県警対組織暴力』の方がメインとなります。
大上(役所広司)は地場ヤクザの尾谷組(伊吹吾郎・江口洋介)と懇意にしているので、『県警対組織暴力』だとマル暴刑事・久能徳松(菅原文太)と大原組若頭・広谷賢次(松方弘樹)の関係性になるんだと思います。
ただ『県警対組織暴力』では久能が1人で行動していたのに対し、本作では大上から大卒のため「学士さん」と呼ばれる新人刑事・日岡(松坂桃李)が付きます。
そのため映画としてはバディものとしての側面もあり、新人刑事の成長物語ともなっています。
(余談ですが日岡は広島大学卒でキャリアか準キャリアか分かりませんが、準キャリアだとしても階級が巡査からスタートすることがあるんでしょうかね?)
しかし、話が進んでいくと日岡がただ大上と組まされた訳ではないのが明らかになります。
日岡は広島県警本部の監察官・嵯峨大輔(滝藤賢一)から、大上の不正の証拠を掴むように送り込まれたスパイなのでした。
ただ、日岡が嵯峨に証拠を上げても、大上に処罰が下される気配はありません。
嵯峨は大上が持っている日記(ノート)を手に入れろと言いますが…。
物語的には大上のノートは大上の死後、日岡の手に渡ります。
日岡がノートのページをめくると、そこには県警幹部の揉み消された不祥事がリスト化され、県警にとって大上がアンタッチャブルな存在だったと分かる、という仕掛けです。
大上はアウトローな刑事ではありますが、『アウトレイジ』の片岡(小日向文世)のような悪徳刑事ではなく、自身の正義は持ち合わせています。
この辺が日岡に「正義とはなんじゃ?」と聞く所以ですね。
そしてアウトローな捜査が出来たのも、県警上層部からはアンタッチャブルの存在だったからで、この辺の刑事としての立ち位置は『新宿鮫』の鮫島刑事(真田広之)と非常に近いものがあります。
(『眠らない街 新宿鮫』も同じ東映配給で、鮫島と大上の襟足の長さなんかも似てると思います。新宿鮫ならぬ呉原狼です)
なので本作は『仁義なき戦い』『県警対組織暴力』『新宿鮫』をミックスした感じだと思います。
本作はオープニングから往年の東映ロゴ「荒磯と波」で始まり、冒頭から東映ヤクザ映画のようなナレーションで、その世界観に一気に引き込まれました。
ちょうど庵野秀明監督が『シン・ゴジラ』で取った手法と同じです。
14年前の第三次広島抗争を説明するシーンも、昨年ヒットした『22年目の告白-私が殺人犯です-』の冒頭のような上手さがありました。
そして、その世界観に引き込まれたら、すでに『日本で一番悪い奴ら』で1970年代から90年代を撮ってる白石監督なので、あとはお手の物で、呉原東署内、パチンコ屋、薬局、クラブ梨子など昭和感満載でした。
加古村組のフロント企業・呉原金融の上早稲(うえさわ)二郎が養豚舎で追い込みかけられる冒頭は、なかなかにエグかったんですが、『ハンニバル』を想像してたので耐えられましたね(笑)
本作は映倫区分R15+なんですが、おっぱいの方じゃなくて専ら殺傷描写の方でというのも潔くていいです。
吉田滋(音尾琢真)の真珠とか、五十子正平(石橋蓮司)の小便器とかサイコ―じゃないですか!
しかし、『アウトレイジ』の村瀬といい石橋蓮司さん、どれだけ酷い目に遭うのでしょうか(笑)
それにしても本作を観てて思ったのは、昭和63年という時代設定もあると思いますが、広島仁正会(五十子会・加古村組)という巨大資本(大型店)が、呉原(呉市がモデル)という小さな街を飲み込もうとするのを、地元商店主(尾谷組や大上や里佳子)たちが、必死に抗おうとしている話にも感じられました。
なんか、この頃から暴対法の施行や大店法の規制緩和で地方が急速に寂れていったことを想起して、大上はそういったものに抗おうとする存在の象徴ような気もしましたね。
大上を演じた役所広司さんは『シャブ極道』と『渇き。』での演技が、『仁義なき戦い』の広能昌三と『県警対組織暴力』の久能と広谷から、本作の大上章吾へと受け継がれた魅力的なキャラクターで結実した感じで素晴らしかったです。
日本のダニエル・デイ=ルイスと言ってもいいんじゃないでしょうか。
日岡を演じた松坂桃李さんも『日本のいちばん長い日』や『ユリゴコロ』の狂気が感じられてよかったです。
原作がベストセラーになったことから続編が刊行され、続編では日岡が主人公とのことですので、映画の方もヒットして、続編も是非、松坂さんに演じてもらいたいと思います。
鑑賞データ
新宿バルト9 夕方割 1300円
2018年 83作品目 累計75300円 1作品単価907円
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