入江版『万引き家族』の趣もあるが ☆3点
2010年に刊行された鈴木大介のノンフィクション「家のない少年たち」を原案に、2013年から2017年まで「週刊モーニング」に連載された、鈴木大介原作・肥谷圭介作画の同名漫画の実写映画化で、社会の最底辺からの逆転を狙って犯罪に手を染める少年たちを描いた作品。
監督は入江悠、トリプル主演に高杉真宙、加藤諒、渡辺大知、共演に金子ノブアキ、篠田麻里子、MIYAVI
予告編
映画データ
本作は2018年11月23日(金)公開で、全国98館での公開です。
後から3館ほど増えて101館での公開のようですが、そのうち72館は12月6日(木)で上映終了なので、ほぼ2週間限定公開みたいな作品です。
製作・配給はキノフィルムズ/木下グループ
監督は入江悠さん
近作は『ジョーカー・ゲーム』『太陽』『22年目の告白-私が殺人犯です-』『ビジランテ』を観てます。
主演に高杉真宙さん
近作は『渇き。』『PとJK』『散歩する侵略者』『虹色デイズ』を観てます。
主演に加藤諒さん
近作は『本能寺ホテル』『火花』を観てます。
主演に渡辺大知さん
近作は『勝手にふるえてろ』『寝ても覚めても』『ここは退屈迎えに来て』を観てます。
共演に金子ノブアキさん
近作は『ストロベリーナイト』『白ゆき姫殺人事件』『新宿スワン』『東京無国籍少女』『新宿スワンⅡ』『blank13』を観てます。
共演に篠田麻里子さん
近作は『リアル鬼ごっこ』『テラフォーマーズ』『RE:BORN リボーン』『ビジランテ』を観てます。
共演にMIYAVIさん
近作は『不屈の男 アンブロークン』『キングコング:髑髏島の巨神』『BLEACH』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
サイケ: 高杉真宙
カズキ: 加藤諒
タケオ: 渡辺大知
高田: 林遣都
ヒカリ: 伊東蒼
ユキ: 山本舞香
サクラ: 芦那すみれ
川合京三: 勝矢
班目慎司: 般若
真鍋: 菅原健
海老名兄弟: 斉藤祥太
海老名兄弟: 斉藤慶太
加藤: 金子ノブアキ
アゲハ: 篠田麻里子
安達: MIYAVI
あらすじ
親から虐待され、ろくに学校にも行けず、青春期を少年院で過ごしたサイケ(高杉真宙)・カズキ(加藤諒)・タケオ(渡辺大知)。
社会に見放された3人が生き抜くためにつかんだ仕事は、犯罪者だけをターゲットにした“タタキ”(窃盗、強盗)稼業。
そんなある日、タタキの最中に偶然にも振り込め詐欺のアガリ(収益金)の隠し場所を知ることとなった3人。
それは“半グレ”系アウトローによる犯罪営利組織カンパニーとして台頭する「六龍天」のものだった。
「六龍天」に身元がバレないよう、慎重にタタキを繰り返すも、あるきっかけから3人の身元が「六龍天」に知られ、絶体絶命の状況に追い込まれてしまうが・・・(公式サイトhttp://gangoose-movie.jp/about.phpより引用)
ネタバレ感想
本作は劇場で予告編もポスターも目にしなくて公開されるの知らなかったんですけど、いつものようにヤフー映画の公開カレンダーを眺めてたら、入江悠監督の新作ということで目に留まりまして、内容は全く分からないものの、最近注目している高杉真宙さんや、出演作の打率が高い渡辺大知さん、ハリウッド俳優のMIYAVIさんが出演してるので気になりました。
しかし年末にかけての新作ラッシュだったので、後回しにして観ようと思ったんですけど、上映期間を調べたら殆どの映画館が2週間で上映終了するようだったので、いつ観に行こうかと思案していたところ、映画の日でしたがみんな『ボヘミアン・ラプソディ』に夢中のようで、幸いにして満席で無かったので、映画の日の割引で観ることが出来ました。
漫画原作の実写映画化だとは知らず、原作の名前も知らず、当然未読での鑑賞です。
感想を書くにあたり、ウィキペディアを見たら漫画原作はノンフィクションが元になってるんですね。
公式サイトにも用語集があって、そういうリアルな部分が売りなのかな?と思いました。
【カンパニー】
半グレ系アウトローの人間で構成された、犯罪営利集団。営利を目的としている組織体制の為、仁義や体裁を重んじるヤクザとはその根本が異なる。
【タタキ】
窃盗、強盗の隠語。
【ハリ】
見張り役のこと。
【受け子】
騙された被害者に直接会い、金を受け取る担当のこと。
【半グレ】
暴力団に所属せずに犯罪を繰り返す集団のこと。「グレる」、白(堅気)でも黒(ヤクザ)でもない「グレー」などを語源とする。
【年少】
少年院のこと。
【発発(はつはつ)】
発動発電機の略。
【テンプラ】
盗用ナンバープレートなどカモフラージュに使用する道具の隠語。中身と実態がことなることから。
【番頭】
カンパニーのオーナーのもとで詐欺店舗を統括する存在。
【プレイヤー(掛け子)】
振り込め詐欺のシナリオをもとに電話をかけて金を要求する担当のこと。
ただそういう使用単語にリアルさがある反面、冒頭からリアルに感じられないシーンもあって、その辺のバランスが悪いかな?と思いました。
冒頭、3人は半グレの売上金が集まってるとされる金庫がある廃工場みたいなところに、見張りが居なくなった隙に盗みに入るのですが、金庫を開けられず、金庫ごと盗もうとするんですけど、その金庫が1mはあったので200kgはすると思うんですが、そんなの運べないじゃないですか。
でもそれを何とか運ぶんですけど、見張りがいつ戻って来るかも分からない中で、そんなリスクを冒すかな?と思ったんですよね。
結局、苦労して運んだ金庫には大した金が入ってなくて、道具屋の高田に必要工具のレンタル代として殆どの金を取られるんですが、そこでもう、ちょっとリアリティを感じられなくてノレなかったんですよね。
ただ、思い返すと『全員死刑』でも後先考えずに殺して金庫を開けられず、金庫ごと運び出すシーンがあって、運び出した金庫を開けるのに四苦八苦してたシーンがあったんですけど、あの人たちの思考レベルが同じって点ではリアリティがあったのかもしれません。
結局、大金を手に入れられなかった3人は、食うのにも困って今度は盗品が保管されているプレハブ小屋にタタキに入るのですが、そこでハリをしてたのは虐待を受けていると思われる少女でした。
3人はハリをしてるのが少女だったのに驚いていると盗品グループが戻ってきます。
サイケとタケオは急いで逃げようとしますが、カズキはその少女ヒカリの中に、虐待で亡くなった妹の影を見ると、ヒカリを連れて一緒に逃げるので、ここからは『万引き家族』みたくなります。
カズキは虐待が酷かった父親を殺した罪で少年院に入っていた設定なので、キャラクター的にも『万引き家族』のリリー・フランキーさんの役に似てたと思います。
ただ、まぁここもリアルに考えると、食うのにも困っていて廃バスに住んでいる3人が、少女を連れてくかな?とは思ったんですが、本作はここが肝の話でもありますので、まぁいいかなと思ったんですが、実際にこういった話があったのかは気になるところでした。
行きがかり上、ヒカリと一緒に暮らすことになった3人ですが、ヒカリが振り込め詐欺グループのヤラレ名簿(カモリスト)が入っているSDカードを持たされていたことが幸いします。
3人はそのリストを元に振り込め詐欺グループを張ると、弁護士に扮した受け子や数人の運び役を経由してトランクルームに金が集められてるのを掴みます。
するとそこからはまとまった金を手にできるようになり、3人は1人1千万円の目標金額を決めると、1千万円貯まったら身分証と住所を手に入れ、タタキから足を洗い、定職に就くことを目標にするのでした。
この辺のシーンは振り込め詐欺の手口を詳しく見せて、ノンフィクションでの取材が活きてるリアルな部分なんだと思います。
ただ最近はテレビのワイドショーや情報バラエティなんかでも、詳しい手口を解説してるので、個人的にはそんなに目新しさを感じなかったかな。
しかし、個人的に説得力あるなと思ったのは、六龍天の番頭・加藤役の金子ノブアキさんの長台詞のシーン(下の動画の5分15秒から)です。
日頃からこの振り込め詐欺のニュースを見るたびに、「なぜ一向に無くならないのかな?」と思ってるんですが、これは現在の日本が構造的な格差社会に陥ってるからで、振り込め詐欺自体は犯罪であり正当化もできないのですが、ある意味「富の移転」だなとも思っていて、この構造を直さない限りは無くならないんだろなぁと思ってたので、このシーンは説得力がありましたね。
ある意味フランス革命とかにも近いなと思ってるんですが、最近は振り込め詐欺から発展してアポ電強盗殺人にまで至ってるので、命まで奪われることが無かった振り込め詐欺より、さらに危険性が増してきたなと思います。
振り込め詐欺の話はこの辺にして、次は半グレ集団の六龍天についてです。
劇中では六龍天の下っ端へのリンチが容赦なく、詐欺店舗店長の班目役にラッパーの般若さん、その上の統括でグループ番頭の加藤役に金子ノブアキさん、さらにその上のオーナー安達役にMIYAVIさんが扮してるので、重厚感があったのはよかったです。
特にMIYAVIさん演じる安達は、いわゆる強面ではなく、前髪を下ろした坊ちゃん刈り風だったので、余計に怖さが際立っていて、最初に登場するシーンでも女体盛りならぬ女体釣りをしていたのでインパクトがありました。
おまけに裸の女性の人身売買オークションみたいなこともやってたので、主人公3人には絶対敵わない相手だと思ったんですが、ラストになって対決して勝ってしまったので、ここの部分は劇画調といいますか、所謂ピカレスクロマン風に仕上がってしまって残念でした。
たぶん実際だったら、あの3人は埋められて終わりじゃないかと思います。
3人は目標の1千万まで、あと僅かに迫るとグループに警戒されタタキが停滞したことから、六龍天オーナーの安達に関する情報を仕入れようとキャバクラを訪れます。
しかし、そこで、偶然客として居合わせた少年院が一緒だった真鍋とその仲間に目を付けられてしまいます。
六龍天の下っ端である真鍋は、3人が安達に関する情報を聞いてることを不審に思います。
そして後を付けると、グループの売り上げを盗んでいたのが3人だったことを掴み、3人が暮らしてる廃バスを訪れます。
3人は真鍋たちにボコボコにされると、「六龍天に知られたくなかったら、今後、一生上納金を払え」と言われ、今まで盗んだ金も全て奪われてしまうのでした。
全てを失った3人はこのまま引き下がるか、死を覚悟して六龍天に挑むかを話し合うと、六龍天の安達から金を奪うことを決意します。
そしてそんな危険にヒカリを巻き込めない3人は、ヒカリを養護施設に連れて行き、強く生きろと言って、別れを告げるのでした。
3人は一度は断られたキャバ嬢のユキから安達に関する情報を聞き出すと、中国から届く積み荷に大量の現金が隠されていることを掴みます。
また、安達に妹を殺され復讐を誓う川合という男と知り合うと、協力して輸送車をタタく準備を始めます。
決行の日、輸送車は番頭の加藤が運転していましたが、3人は「府中3億円事件」方式で見事に金の入ったケースを奪うことに成功します。
しかし逃げ切った3人が安全なところでケースの中を確認すると、入っていたのは札束に偽装されたただの紙切れでした。
不審に思った3人は、すぐさま加藤の店舗に戻ると、加藤が部下を帰し不審な動きをしてるのを目撃します。
3人は加藤が別の車で出掛けるのを尾けると、着いた先は空港の駐車場で、金が入ってると思われるスーツケースを引いて、どこかに電話しながら加藤が出てくるのでした。
真相は、3人のタタキの被害に遭った店舗を統括していた加藤は、安達からの締め付けが厳しくなり、安達の金がタタかれたと見せかけて、自分の補佐であり恋人でもあるアゲハと海外に高飛びしようとしていました。
そこに電話してたと思われるアゲハが現れますが、その背後には安達がいて、加藤たちの裏切りに気付いていました。
安達はアゲハと加藤を殴ると、部下たちに連れていかせリンチを食らわせます。
その様子を見ていた3人は、その隙にケースを奪って逃げようとしますが、部下たちに見つかってしまいます。
乱闘を演じた3人は何とか部下を倒すと、いよいよ安達との対決になりますが、安達の強さの前に万事休すとなります。
しかしそこに、川合が乗った車が突っ込んできて安達を倒すと、後は任せろと言ってケースを持たせて3人を逃がします。
そして拘束された安達は、川合が呼んだ警察により逮捕されるのでした。
安達を倒して金も手に入れた3人は逃げる車の中ではしゃぎますが、走る車のトランクからは大量のお札が舞っていました。
後日、平穏な日常を取り戻した3人は牛丼屋にいます。
3人にとって御馳走である牛丼を食べていると、テレビのニュースでは六龍天の事件が報じられ、安達の生い立ちについても語られていました。
安達もまた3人と同じように虐待を受けた悲惨な境遇でしたが、それを見ていたサラリーマンが「悲惨な境遇だからって甘ったれるな。俺たちだってブラック企業で頑張ってるんだ」と悪態を付いていました。
それを聞いてキレそうになるサイケを変顔でカズキがなだめます。
「言いたいやつには言わせておけばいい」とカズキが再び変顔すると、3人は笑い合って映画は終わります。
うーん、個人的には劇中、かなりヤバめに描かれていた安達も、主人公たちと同じ境遇だったみたいなラストはやや物足りなかったですかね。
アゲハを捕まえたときなんかも「樹海でミンチにしてやる」って言ってたんで、どれだけ凄惨なリンチを加えるのだろうと思って観てたんですが、大したこと無くて拍子抜けしちゃいました。
アゲハを演じたマリコ様も『ビジランテ』ではカーセックスまでしてたので、本作でも凄いことしてくれるのだろうと期待したんですけど、前作より存在が薄くなっちゃいました。
『RE:BORN リボーン』『ビジランテ』と頑張ってたと思うんですけど、結婚して映画俳優としてのモチベーション下がっちゃったのかしら?
主人公たちのヘタレぶりにはノレなかったんですけど、中盤までの六龍天のヤバさとか、ある意味真を突く加藤の訓示とか、面白い所があっただけにやや残念だったなという『ギャングース』の感想でした。
鑑賞データ
TOHOシネマズ日比谷 映画の日 1000円
2018年 188作品目 累計169600円 1作品単価902円
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