勝手にふるえてろ 評価と感想/こじらせの深淵に引きずり込まれる

勝手にふるえてろ 評価と感想
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ザッツ・ザ・松岡茉優ショー ☆5点

芥川賞作家・綿矢りさが2010年に発表した同名小説の映画化で第30回(2017年)東京国際映画祭コンペティション部門観客賞受賞作。
十年来の脳内彼氏とリアル恋愛のはざまでパニクる姿を描く。
監督は大九明子、主演は松岡茉優、共演に石橋杏奈、渡辺大知、北村匠海

予告編

映画データ

勝手にふるえてろ (2017):作品情報|シネマトゥデイ
映画『勝手にふるえてろ』のあらすじ・キャスト・評価・動画など作品情報:19歳で芥川賞作家となった綿矢りさの恋愛小説を実写映画化。
勝手にふるえてろ : 作品情報 - 映画.com
勝手にふるえてろの作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化で、恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様を、松岡茉優の映...

本作は2017年12月23日(土)公開で全国28館での公開です。
今後も順次公開され最終的に59館での公開となるようです。

本作の予告編は劇場で度々目にしました。
松岡茉優さん映画初主演て意外な感じしましたがそうだったんですね。

監督は大九明子さん
映画美学校第1期出身の監督さんでお名前は存じ上げなかったのですが、監督作は『モンスター』を観てました。

主演は松岡茉優さん
劇場では『桐島、部活やめるってよ』しか観てないですね。

共演に渡辺大知さん
出演作は『渇き。』を観てます。

共演に石橋杏奈さん
近作は『22年目の告白-私が殺人犯です-』『泥棒役者』を観てます。

共演に北村匠海さん
近作は『セーラー服と機関銃 -卒業-』『あやしい彼女』『ディストラクション・ベイビーズ』『君の膵臓をたべたい』を観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

江藤良香(ヨシカ): 松岡茉優
霧島(ニ): 渡辺大知
月島来留美: 石橋杏奈
一宮(イチ): 北村匠海
金髪店員: 趣里
最寄りの駅員: 前野朋哉
釣りおじさん: 古舘寛治
岡里奈(オカリナ): 片桐はいり
マッサージ店店員: 池田鉄洋

あらすじ

24歳のOLヨシカは中学の同級生“イチ”へ10年間片思い中!過去のイチとの思い出を召喚したり、趣味である絶滅した動物について夜通し調べたり、博物館からアンモナイトを払い下げてもらったりと、1人忙しい毎日。そんなヨシカの前へ会社の同期で熱烈に愛してくれる“リアル恋愛”の彼氏“二”が突如現れた!!「人生初告られた!」とテンションがあがるも、いまいち二との関係に乗り切れないヨシカ。まったくタイプではない二への態度は冷たい。ある出来事をきっかけに「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思い立ち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再開の日が訪れるのだが・・・。

早朝のハンバーガーショップにて。金髪店員に向かって語りかける江藤良香(ヨシカ/松岡茉優)、24歳。趣味は絶滅した動物をネットで調べること。購入したアンモナイトの化石を愛でる毎日。

「本能のままにイチと結婚しても絶対幸せになれない。結婚式当日もイチが心変わりしないようにって、野蛮に監視役続けてなくちゃならない、そんなんで幸せなんて味わえるかよ。その点ニならまるでひと事みたいにお式堪能できちゃう。ドレスのままチャペルから何だか知らんが丘駆け下りてわがままにニのこと放ったらかして、波と戯れたりデコルテあらわなドレスで肩上下させてハーハーしたりして花嫁タイムをエンジョイできちゃう」

そう、ヨシカには彼氏が2人いる――― 1人は中学時代からの片思い相手 イチ(北村匠海)
同級生からマスコット扱いされ、いじられているのを教室の片隅から見つめることしかできなかった相手。好きだから見たい、見たいけど気づかれちゃダメという屈折した感情から、視野の端でイチを見る”視野見”という攻略法を編み出し、イチをモチーフに漫画を描くほど恋心はこじれていた。10年前の運動会で言われた一言が、今も胸に残っている。「こっち見て、俺を見て」

もう1人は同じ会社の営業として働く同期 二(渡辺大知)
経理と営業として出会い、同期会という名の飲み会で連絡先を交換した。正確には少々強引に交換させられた。テクノの流れるクラブでのデートの後、酔っ払ったニから「俺と付き合ってください」と本気の告白をされる。「人生初、告られた!」とテンションが急上昇するも、正直タイプではない。

ある夜、電気ストーブが布団に引火するというボヤ騒ぎを起こし、死ぬ前にせめてもう一度イチに会いたいと覚悟が固まる。「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」そこからヨシカは、アメリカに転校した同級生の名を騙って同窓会を計画。ニとのデートも上の空。そして、ついに待ちに待ったイチとの再会の日が訪れるが、会話に全然入っていけないヨシカ。イチを含む上京組のグループになんとか加わり、ニが使った強引すぎる方法で無理やり連絡先を交換、東京で再び会う約束をとりつける。

2度目の再会。夜明けのベランダでアンモナイトの生態で盛り上がるヨシカとイチ。「あの頃に君と友達になりたかったな」しかし、次にイチの口から発せられたのは、衝撃の一言だった・・・

(公式サイトhttp://furuetero-movie.com/intro_story/より引用)

ネタバレ感想

松岡さんの存在を知ったのは桐島からで、おはガールだったのは知りませんでした。
桐島はもちろん、「あまちゃん」や「問題のあるレストラン」で上手い役者さんだなと思いましたが、偶然見たフジテレビ深夜の「うつけもん」というバラエティの司会もそつなくこなしてて、できる方だなと思いました。

昨年2016年、『獣道』の伊藤沙莉さんとのテレ東深夜のフェイクドキュメンタリー『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』ではモーニング娘。’16に加入してダンスを完コピしててスゲーなと思いました。

そんな松岡さんの初主演作は、まさに独壇場でザッツ・ザ・松岡茉優ショーになってました。

映画の方も、年末にきてベストテンが固まりつつあったのに、そこに入り込んでくる出来栄えの素晴らしいものでした。
コメディベースではありながらも、「こじらせの深淵を覗く者は、深淵もまた等しくお前を見つめ返すのだ」と言わんばかりに胸と胃をキリキリと締め付けられましたよ。

「深淵をのぞく時、深淵もまたお前をのぞいているのだ」を分かりやすく言い換えたシリーズが面白い
まとめました

二が実践した、飲み会で写メを撮ってLINEで送るという名目で連絡先を聞き出す方法で、年末年始の地元帰省時に企画した同窓会でイチの連絡先を聞き出したヨシカは、後日、上京組でウォーターフロントのタワーマンションに住んでる同級生の家で鍋パーティーを開くことになります。

そこで十年越しの脳内片思い彼氏のイチと初めて2ショット状態になります。
意外にも絶滅動物の話題で盛り上がるヨシカとイチ。
みんなからいじられキャラでマスコット的存在だと思ってたイチは、実はいじめられていて中学時代は苦痛だったと告白を受け、「あの頃に君と友達になりたかったな」と言うイチは、ヨシカと同類で更に親近感が湧くのでした。

急速に接近したヨシカとイチと思われましたが、会話の端々で発せられる「キミ」が気になります。
ヨシカは思い切って「イチは相手のことをいつもキミと呼ぶの?」と聞くと、イチはバツが悪そうに「名前なんだっけ?」と聞いてきます。
中学時代から十年来認知されてなかったと知ったヨシカは、消えて無くなりたいと思うのでした。

それまで行きつけのカフェの金髪店員や最寄りの駅員、いつも釣りしてるおじさん、眉毛の繋がったコンビニ店員、同じアパートに住むオカリナ、通勤バスで隣になる老女とのマシンガンなトークが描かれますが、実はそれはヨシカの妄想(街で見かける気になる人と話せれば楽しいだろうなぁという妄想)で、イチがヨシカの名前を知らなかったように、ヨシカはその人たちの名前を知りませんし、その人たちもヨシカのことなんて気にも留めてなかったことに気づくと、途端に孤独が襲ってきます。

ただ、二だけは「江藤さん」と呼んできます。
二との動物園デートで、二と付き合うことに決めますが、二に「まだ結婚までは考えてないからね」と言われるとパニクるヨシカでした。

それというのも二はヨシカに告白するにあたり、ヨシカの親友で同僚の来留美にアドバイスを受けており、ヨシカが今まで誰とも付き合ったことが無いことや結婚願望がありそうなことを聞いており、それを踏まえての発言でしたが、ヨシカにしてみれば自分が知らないところで自分のことが話されているのが嫌でデートを放り出して帰ってしまいます。

翌日会社で二の謝罪を受けますが、「まだ誰とも付き合ったことが無い江藤さんというのも可愛くて」と言われると、ヨシカの頭の中で「江藤さん、処女だから可愛い」と脳内変換され、二をシャットアウトして再びイチだけを思って生きていくと決めます。

怒りの矛先は来留美にも向かいます。
誰とも付き合ったことが無い=処女である、ということが会社中にバラされたという被害妄想に陥るとトイレに籠って泣きます。
心配してトイレに来た来留美には平気を装って妊娠したと告げるのでした。

産休届をフレディ・マーキュリー似の係長に出し、早過ぎると却下されると会社を辞めますと言うヨシカ。

係長はとりあえずしばらく有給休暇を取れというと、ヨシカは完全に自宅引きこもりになります。

同窓会を企画するために成りすました同級生のSNSアカウントに死にたいと呟くと続々と心配の声が集まりますが、リアルのヨシカには誰一人として連絡はありませんでした。
唯一電話かけてくるのは来留美でしたがシカトしてしまいます。

それでもしつこく電話してきた来留美は留守録を残します。
来留美のメッセージは「もしかして私のこと避けてる?」という天然の物でしたが、自分の気づかないところで傷付けてたら申し訳なかったということと、赤ちゃんおめでとうというものでした。

留守録を最後まで聞くと、「メッセージを消去するのは1、保存するのは2」「消去するのは1、保存するのは2」「消去するのはイチ、保存するのは二」と繰り返し聞こえてきます。
コンピューターの声にハッとしたヨシカはニの携帯に電話しますが着信拒否されていました。

翌日、取引先を装って会社にいる二に電話して、自宅に呼び出します。
雨の中、ずぶ濡れになってヨシカのアパートに来た二と、玄関先で再び言い合いになると、隣の部屋のオカリナが見てます。
オカリナは眉毛の繋がったコンビニ店員と付き合ってて2人で見てます。
視線に気づいた二が家の中に入ると再び口論になります。
二はヨシカへの思いを正直にぶつけると、ヨシカも、皮肉屋で暴言吐きで面倒臭い自分を丸ごと愛してと言い、「霧島くん」と初めて二の名前を呼ぶと、二がヨシカにキスして映画は終わります。

 

本作の主人公ヨシカは、今年公開された『スウィート17モンスター』の主人公ネイディーンに非常に似てると思いました。

スウィート17モンスター 評価と感想/真性かまってちゃんからの脱皮
ネガティブにさようなら ☆5点 監督であるケリー・フレモン・クレイグによるオリジナル脚本で初監督作品。17歳こじらせ女子の恋と青春を描く。 主演はヘイリー・スタインフェルド、共演にウディ・ハレルソン、ヘイリー・ルー・リチャードソン

皮肉屋で下ネタ絡めた毒舌吐くところとかそっくりだと思いましたよ。

ヨシカにしてもネイディーンにしても、ぶっちゃけ共感ポイントはありません。
よくもまぁ、これだけヒネくれて考えられるなぁと思います(笑)

普通に考えればタワマンでのヨシカとイチはいい雰囲気で、名前を覚えられて無かったことを抜きにすれば、話は合いますしこれからいい関係を築けていけそうだと思うのですが、ナチュラル・ボーン・ネガティブなヨシカはそうは考えられません。
「イチくん、ヤダなぁ、江藤良香だよ」と言えば済むのに、全世界から否定されたように感じ自分の殻に閉じこもってしまいます。
イチがいじめられてたのには気付かなかったくらい鈍感なのに。

そこからあの、一人で喋ってたのが分かるシーン(ミュージカル風)はちょっとヤバくて、統合失調症の一歩手前かと思いましたよ。
そこからはもう胸とか胃がキリキリ締め付けられる思いで切なかったですね。

映像も全編、昭和のフィルムのような感じで、色調もひんやりと冷たい寂寥感があってヨシカの内面をよく表してると思いました。
劇伴も『南瓜とマヨネーズ』みたいに極限まで抑えられていて好感が持てました。

松岡茉優さんの膨大な台詞量や電卓捌きは圧巻ですし、共演の渡辺大知さんは初めて知りましたが大泉洋さんを彷彿させる飄々とした演技でよかったです。

(松岡茉優さんは一種の天才。『桐島、部活やめるってよ』のオーディション裏話(ゲスト:吉田大八さん)【後編】)

それから『桐島、部活やめるってよ』との共通点も胸熱ですよね。
桐島では「おまた~」でおなじみの映画オタク役の前野朋哉さんが本作では駅員役で、桐島ではイケてる女子グループだった松岡さんが、本作ではスクールカースト最下層のような役回りです。
ラストで明らかになる二の苗字が霧島なのは狙ったのかと思いましたが原作でも霧島で、原作は桐島より前ですから偶然なんですけど凄いです。

なぜか経理部の女子社員が更衣室で昼寝の時間があるというシュールなシーンとか、家族ゲームとかの80年代の映画っぽいなと思ったんですけど、なかなかにクセがあってヘンテコでありながらも胸にグサグサくる素敵な映画でした。

鑑賞データ

ヒューマントラストシネマ渋谷 TCGメンバーズ会員料金 1300円
2017年 211作品目 累計225700円 1作品単価1070円

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