寝ても覚めても 評価と感想/カンヌの裏パルム・ドールといってもいい作品

寝ても覚めても 評価と感想
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余白と余韻に浸らせてくれる濱口監督の力量 ☆5点

芥川賞作家・柴崎友香による2010年の第32回野間文芸新人賞を受賞した同名長編恋愛小説の映画化で、監督はこれが商業映画デビュー作となる濱口竜介
W主演に東出昌大と唐田えりか、共演に瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知
2018年第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品

(単行本版)

(増補新版)

予告編

映画データ

http://cinema.pia.co.jp/title/173545/

本作は2018年9月1日(土)公開で、全国41館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には111館での公開となるようです。

劇場での予告編はヒューマントラストシネマ有楽町やテアトル新宿に行った時に何回か見てまして、濱口監督が描くラブストーリーということで興味惹かれました。

原作小説の存在は知らず、未読での鑑賞です。

監督は濱口竜介さん
2015年に「即興演技ワークショップ in Kobe」から誕生した長編映画『ハッピーアワー』で、ワークショップに参加して主演を務めた素人女性4人がロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したことで話題になりました。

濱口竜介 即興演技ワークショップ in Kobe 参加者募集! | SCHEDULE | KIITO
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日本での公開は2015年12月12日(土)で、そのときは東京での上映も渋谷のシアター・イメージフォーラムのみで、上映時間も5時間近くあり、1日1回か2回かの上映なので観るのにハードル高かったんですけど、なんとか年明けの正月休みを利用して観に行ったら、ワークショップから派生したとは思えないほど面白かったんです。

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監督は元々、東京大学文学部で映画研究会に所属してて、卒業後は映画の助監督やテレビ番組のADを経て、27歳で東京芸大の大学院映像研究科に入学してるんですけど、経歴を見るとエリートだけど変わり種という気がするんですが、いきなり素人に賞を獲らせちゃうあたり、独特の演技メソッドがあるんじゃないかと思います。

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そして本作が初めて有名俳優を起用した商業映画デビュー作品との事です。

主演に東出昌大さん
近作は『GONIN サーガ』『ヒーローマニア -生活-』『クリーピー 偽りの隣人』『聖の青春』『関ヶ原』『散歩する侵略者』『OVER DRIVE』『パンク侍、斬られて候』『菊とギロチン』を観てます。

主演に唐田えりかさん
初めましての女優さんです。
2018年6月27日~7月24日かけて全5回で放送されたTBSの深夜ドラマ・ドラマイズム枠で放送された「覚悟はいいかそこの女子。」は、ながら見してたんですが、どこに出てたか気付かなかったです。
調べたら第1話に劇場版ゲストとして出演していたようですが、劇場版の予告編にある壁ドンシーンがそのまま使われてただけでした。

共演に瀬戸康史さん
近作は『ナラタージュ』『ミックス。』を観てます。

共演に山下リオさん
近作は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『伊藤くん A to E』を観てます。

共演に伊藤沙莉さん
近作は『ラストコップ THE MOVIE』『獣道』『blank13』を観てます。

共演に渡辺大知さん
近作は『渇き。』『勝手にふるえてろ』を観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

丸子亮平/鳥居麦: 東出昌大
泉谷朝子: 唐田えりか
串橋耕介: 瀬戸康史
鈴木マヤ: 山下リオ
島春代: 伊藤沙莉
岡崎伸行: 渡辺大知
平川: 仲本工事
岡崎栄子: 田中美佐子

あらすじ

東京。
丸子亮平は勤務先の会議室へコーヒーを届けに来た泉谷朝子と出会う。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、2年前に朝子が大阪に住んでいた時、運命的な恋に落ちた恋人・鳥居麦に顔がそっくりだったのだ――。

5年後。
亮平と朝子は共に暮らし、亮平の会社の同僚・串橋や、朝子とルームシェアをしていたマヤと時々食事を4人で摂るなど、平穏だけど満たされた日々を過ごしていた。ある日、亮平と朝子は出掛けた先で大阪時代の朝子の友人・春代と出会う。7年ぶりの再会。2年前に別れも告げずに麦の行方が分からなくなって以来、大阪で親しかった春代も、麦の遠縁だった岡崎とも疎遠になっていた。その麦が、現在はモデルとなって注目されていることを朝子は知る。亮平との穏やかな生活を過ごしていた朝子に、麦の行方を知ることは小さなショックを与えた。

一緒にいるといつも不安で、でも好きにならずにいられなかった麦との時間。
ささやかだけれど、いつも温かく包み、安心を与えてくれる亮平との時間。
朝子の中で気持ちの整理はついていたはずだった……。

(公式サイトhttp://netemosametemo.jp/#aboutより引用)

ネタバレ感想

いやー、昨年の『勝手にふるえてろ』や『南瓜とマヨネーズ』に並ぶか、またはそれ以上の素晴らしい恋愛映画でした。

ちょっと観終わった後は、黒沢清監督が正しく恋愛映画を撮ったような気もしたんですが、このお2人が師弟だとは知らなかったです(脚本の田中幸子さんも黒沢監督の師弟)

http://cinefil.tokyo/_ct/17197543

上映時間119分の作品で体感時間はやや長くも感じたんですが、鑑賞後はなんとなくヨーロッパ映画、フランス映画を観た雰囲気で「これぞ映画、いい映画観たー!」と思いました。

本作の舞台はまず大阪から始まります。

主人公の朝子は大阪の国立国際美術館で牛腸茂雄の写真展を見てます。

牛腸茂雄を見つめる目。- ほぼ日刊イトイ新聞
レンズの向こうの双子の少女は、 不安そうな目で、こっちを見ている。 素晴らしい作品を残しながら、 ほとんど無名のまま、 36歳で亡くなった写真家がいます。 牛腸(ごちょう)茂雄さん。 幼いころの病気によって、 身体にハンディキャップがありま...

朝子が写真を見てると、ボサボサ頭のスラっとした男が鼻歌混じりに写真を見ているのが目に留まります。
朝子の行く先行く先で目に留まるその男とは、結局、美術館を出る時間も同じになり、美術館を出た男は右に、朝子は左に歩きます。

するとその道路で遊んでいた子供たちが爆竹を鳴らします。
驚いて音のする方を振り返る2人は、そこで初めて目が合います。

スローモーションで切り取られたこのシーンは、初期の北野映画も思わせます。

君の名は。』の階段シーンのように名前を聞く男に、朝子は「泉谷朝子」と答えます。
男は「朝はモーニングの朝?」と聞くと、「俺の名前はバク、鳥居バク」と言います。
今度は逆に朝子がバクの字を聞こうとすると、それに蓋をするようにバクがキスしてきて、2人は一瞬で恋に落ちます。

男の名前は鳥居麦。
父親は北海道で穀物の研究をしていて、妹の名前は米(まい)という、穀物しばりの名前にウケる朝子。
外見のワイルドさとは対照的に柔らかい語り口調に惹かれていきます。
何回かデートしてるとバクがDJをしているクラブに連れていかれますが、バクが朝子のそばを離れた隙に、別の男がしつこくナンパしてきます。
朝子が断り切れずに困っていると「俺の女に手出すんじゃねー」と言ってバクはその男をボコボコにします。

朝子はそんな話を大学の親友の島春代に居酒屋でのろけますが、危険な男の匂いを感じ取った春代は「朝ちゃん、その男はやめときー」とアドバイスします。
するとその居酒屋にバクがやってきますが、朝子がバクを春代に紹介するためで、バクも友人を連れてくる予定で2対2で飲む予定でした。

春代とバクが初めましてと挨拶してると、バクの友人が遅れてやって来ますが、やって来たのは春代の幼馴染の岡崎伸行でした。
春代が伸行にバクとの関係を聞くと、バクは伸行の遠縁にあたり、伸行の実家に下宿しているとのことでした。
バクは「こんな偶然ってあるん」と喜ぶと4人の距離は一気に縮まり、4人は母子家庭の伸行の家に頻繁に集まるようになります。

伸行の母・栄子は気さくな人で、朝子とバクの熱々ぶりを羨ましがり、「私も若い頃は、好きな人と朝ご飯食べるためだけに始発の新幹線に乗って東京に行ったの思い出すわ~」と逆にのろけたりします。
岡崎の家ではスイカを食べたり花火をしたりして、朝子は楽しい時間を過ごします。

ある日朝子はバクの運転でバイクデートに出かけますが、事故を起こし2人して道路に投げ出されます。
しかし世界は2人を中心に回ってるようで、2人共怪我一つ負わずに済むと笑い合いキスをします。
その様子を車から降りてきた事故相手は戸惑って見てますが、さしずめ『ワイルド・アット・ハート』や『トゥルー・ロマンス』の過激な愛の雰囲気でした。

その話を岡崎家ですると栄子からは身体が無事でよかったとホッとされ、またその奇跡に驚かれますが、伸行は「そもそも、2人の出会いからしてあり得ないからな」とツッコみを入れます。

ある日、岡崎家で夕食を終えると、バクが「コンビニにパンを買いに行ってくる」と言って出かけようとします。
朝子は「今、ご飯食べたばかりじゃん。意味わからん」と言うと、バクは「明日の朝ご飯」と言って出かけて行きます。

しかし小一時間経ってもバクは帰ってきません。
心配になった朝子が伸行に聞くと、「バクはふらっと出ていって、戻らないことがよくある」と平然と言います。
バクが帰ってくるのを待ち疲れて眠ってしまった朝子が目を覚ますと、伸行が縁側で花に水やりをしてます。
朝子が伸行に時間を聞くと朝6時と言われ、まだ戻って来ないバクを心配して表に飛び出すと、ようやくふらっとバクは戻ってきます。

バクの胸に飛び込んだ朝子は「どこ行ってたの?」と心配すると、「銭湯の前で具合の悪いおじいさんを見かけて送っていったら意気投合しちゃって」と言い、コンビニで買ってきたパンを見せます。
そんなところも憎めない朝子は「私を1人にしないで、必ず戻って来て」と言うと、バクも「必ず朝ちゃんのところに戻ってくるから」と言って抱きしめます。
しかし、それから暫くすると、バクは「靴を買いに行く」と言ったまま戻って来ないのでした。

2年後。
大阪の日本酒メーカー・紅錦に勤める丸子亮平は転勤で東京にやってきます。
転勤したばかりで雑用を買って出た亮平は、会議の終わった会議室を片付けてます。
するとそれに気付いた女性社員から「一人でやらせてすみません」と声を掛けられます。
「いえいえ新参者なんでこれくらいは、皆さんお仕事あるんで任せて下さい」と言うと、「ではお願いします。あとで隣の喫茶店がコーヒーのポットを回収に来るんで渡してあげて下さい。あとよろしかったらポットに残ってるコーヒー飲んで下さい、美味しいですよ」と言って去っていきます。

亮平が試しにコーヒーを飲んでみると確かに美味しく満足してると、会議室のドアが開いて1人の女性が入ってきます。
会議室に入って来た女性は朝子で、亮平の顔を見ると絶句します。
亮平は2年前に出ていったまま戻らないバクに瓜二つでした。

朝子は完全にバクだと思いますが、亮平が朝子を見る目は、完全に朝子を知らない目で、朝子はバクにとぼけられてるように感じます。
朝子は小さく「バクなの」と口にしますが、何のことか分からない亮平は戸惑い「どちらさん?」と聞きます。

朝子は固まりながら今度は小さく「ポット」と呟くと、ようやく亮平は隣の喫茶店の店員がポットの回収に来たことを理解します。
朝子は亮平を質問攻めにして、姫路出身、一人っ子、大阪の大学を出て関西弁を話すことを知ると、バクとは別人であると認識しますが、亮平からポットを受け取ると逃げるように帰っていきます。
しかし、亮平はそのことで逆に朝子が気になり、出退勤時に喫茶店の前を通ると、朝子の姿を探すようになります。

ある日、朝子は喫茶店近くのギャラリーで開かれてる牛腸茂雄の写真展に仕事帰りに友人と待ち合わせて出かけます。
しかし友人が少し遅れて来たため、最終入場時刻の19時に間に合わず、19時10分になっていました。
開場時間は19時30分までのため、20分でいいから入れてくれるように入口で頼む朝子と友人でしたが、受付の人は最終入場時刻を過ぎてるの一点張りでした。

そこへ退勤した亮平が偶然通りかかり事情を察知すると、「すんませーん。うちらこの写真展のために京都から来たんですけど、高速バスが遅れてこんな時間になってしまいまして、時間まででいいんで見せてもらえないでしょうか?」と機転を利かすと、入場することが出来ます。

時間まで写真展を見た3人は近くの喫茶店に移動し、朝子は亮平を隣の会社の人だと友人に紹介し、朝子の友人は朝子とルームシェアしてる鈴木マヤだと自己紹介します。
マヤは舞台活動を中心とする劇団員で、売れないながらも再現ドラマなどに出てることを亮平に話すと、それは凄いと言って亮平は感心しますが、盛り上がる2人をよそに朝子は先に帰ってしまいます。

朝子が先に帰ってしまうとマヤは朝子の非礼を詫びて、亮平が気を遣ってくれたことに感謝しますが、「朝子にもきちんとさせる」と言うと、「自宅でお好み焼パーティーするから来てください」と亮平を誘い、「朝子はお好み焼き得意なんです」とフォローを入れます。

亮平は同僚の耕介に「テレビに出てる女優さんとの合コン」と釣って連れ出すと、2人で朝子とマヤの家に向かいます。
朝子がお好み焼きを準備してる間に、マヤが出演したチェーホフの舞台「三人姉妹」のDVDを見てると、耕介が突然「俺、帰るわ」と言い出します。

亮平がどうした?と聞くと、耕介は腹が痛くなったと言いますが、マヤは「あなたが作品を見たいと言ったのよ。言いたいことがあるならハッキリ言ってよ」と言います。

すると耕介は思いっきりダメ出しして、チェーホフの舞台の台詞を叫ぶと、マヤのやってることは自己満足で誰にも届いてないと言います。
耕介はかつて役者を目指して諦めた経験からマヤに嫉妬して発した言葉でしたが、それまで黙っていた朝子は「マヤの努力は私には届いているし、尊敬している」と言います。

亮平も耕介の心の内を察知すると、「今帰ったら、この先ずっと恥ずかしいままやで」と水を向けます。
すると耕介は正直に心の内を明かし、自分が叶わなかった夢を必死に追っているマヤに嫉妬して、酷い事を言ってしまったと謝ります。
するとマヤも「批判してくれるのが一番ありがたいの」と言い、その後は和やかなムードでお好み焼きパーティーを楽しむのでした。

数日後、亮平の会社にポットを取りに来た朝子は亮平の姿を見かけると慌てて逃げます。
亮平は外階段を降りる朝子を追いかけると、「なんで逃げるん?」と言い、「ずっと君のことが気になってる。君のことが好きなんやと思う」と告白してキスすると2人は付き合う流れとなります。

それからしばらくは耕介とマヤを含めてグループ交際のようになり、今度マヤが舞台に立つことになります。
マヤはイプセン原作の「野鴨」の舞台に立つことになり、亮平は朝子と一緒に観ようと思いますが、それぞれの仕事の都合で朝子が初日のマチネ、亮平が初日のソワレを観ることにします。

しかし舞台の日程も近づいたある日、亮平に朝子から電話がかかって来て「私のことはもう忘れて」と突然言われてしまいます。
事態が飲み込めない亮平が喫茶店に行くと、店長からは朝子が突然辞めてしまったと言われます。

朝子にどうしても会いたい亮平は、急遽午後の仕事を休んで朝子が来る予定の初日のマチネを観に行きます。
しかし、開演前のマヤに会うことが出来ると、朝子は翌日のマチネに変更したと言われます。
どうする?と聞くマヤに対し、亮平はせっかくだから観ていくと言うと、劇場に入り開演を待ちます。
すると突然大きな地震・東日本大震災が起こり、舞台は中止になります。
亮平は舞台袖から出てきたマヤにとりあえず会社に戻ることを告げると劇場を後にします。

劇場を出た亮平は帰宅難民で溢れる道を黙々と歩いていると、人混みの中に朝子の姿を見つけます。
朝子の方も亮平の姿に気づくと、駆けてきて亮平の胸に飛び込むのでした。

5年後。
朝子と亮平は同棲していてジンタンという猫と一緒に穏やかに暮らしています。

最初の出会いは最悪だった耕介とマヤは、朝子たちより先に結婚していてマヤのお腹には新しい命が宿っていました。

朝子と亮平は、耕介たちの家にジンタンを預けると、亮平の運転で仙台に向かいます。

朝子は東日本大震災以降、仙台の仮設住宅で月に一度ボランティア活動を続けていました。
被災地の人ともすっかり仲良くなってなっていて、炊き出しなどに精を出します。
特に被災者の一人の平川からは娘のように可愛がられ、帰りの際には豊富な海の幸を持たせてくれます。

亮平は帰りの車の中で、朝子の行動力を感心して褒めると、朝子も亮平に毎月の往復の運転を感謝しますが、亮平は「炊き出しで美味しい物が食べられてお土産までもらって、朝子にこそ感謝したいよ」と言うのでした。

2人は耕介たちの家にジンタンを迎えに行くと、海の幸をお裾分けして自宅に帰ります。

ある日朝子は、亮平と買い物をしていると、大阪時代の親友・島春代にばったり会います。
春代は亮平を見て驚きますが、朝子が「丸子亮平さん」と紹介するので、直ちに事態を飲み込みます。

春代は大阪で結婚した後、夫がシンガポール転勤になり、最近、東京に転勤してきたと言います。
3人はとりあえず近くのカフェでお茶をして再会を喜ぶと、所用のあった亮平は先に帰ります。

すると春代は「亮平さんは知ってるの?」と聞いてきます。
朝子は「言えてない…」と言います。

春代は話題を変えて「それにしても最近、バクはすごいなー」と言います。
朝子は「バクが見つかったの?」と聞きます。
春代は驚いて、「朝ちゃん、テレビとか見ないの?」と言うと、カフェの窓から見える広告看板を指差します。
そこにはモデルとして活動しているバクの姿がありました。
春代によると2年前くらいからモデルとして活動していて、最近は映画にも出るようになってかなり有名になっているとの事でした。
それからは、東京に来たばかりで、まだ友達のいない春代をマヤにも紹介して3人で会うようになります。

そんなある日、亮平に大阪本社への転勤の話が出ます。
亮平はそれをいい機会と捉え、朝子にプロポーズし「大阪に一緒についてきてくれないか?」と言います。
朝子は亮平のプロポーズに喜びますが、亮平に話せてないことがあると言うと、バクとのことを話します。

すると亮平は「なんや、そのことか」と言って気にも留めてませんでした。
亮平によると、2年くらい前に人から似ていると言われて、その時に、朝子に初めて会った日の全ての事の合点がいったとの事でした。
「似てるから付き合えるようになったんやろ、めちゃめちゃラッキーやったと思うようになってん」と笑う亮平の言葉に救われる朝子でした。

別の日、春代と公園で会った朝子は、亮平のプロポーズを受けて大阪に転勤になることを話します。
バクのことも話せたと報告してると、公園にいる女子高生たちが鳥居麦が撮影に来ていると騒いでました。
春代は「朝ちゃん、バクに会いに行くよ」と言って朝子の腕を取るとロケ車に向かい、スタッフに「鳥居麦の友人なんですけど呼んでもらえませんか?」と言います。
スタッフは「友達なら直接本人に連絡してください」と言い車両に乗り込むと、ロケ車は発車してしまいます。
朝子と春代は発車するロケ車の後ろから「バイバイ、バク~」と手を振って見送るのでした。

朝子は亮平と大阪で住む物件を探しに行くと、淀川近くの中古の一軒家を紹介され、一目で気に入ります。
朝子は2階の部屋の窓から淀川を眺めると、亮平と暮らす未来を語ります。

東京に戻った朝子は引越しの準備をします。
亮平は耕介たちに手伝ってもらうために迎えに行くと、家のチャイムがなります。
朝子が玄関を開けると、現れたのはバクでした。
「朝ちゃん、迎えに来たよ」と言うバクに、気が動転した朝子は玄関を閉めて座り込むと「何で今なん」と呟きます。

暫くすると、亮平が耕介たちを連れて戻ってきて引越しの準備が始まります。

引越し前日。
耕介とマヤと春代が2人の送別会をレストランで開いてくれます。
するとそこにバクがフラッと現れます。
「朝ちゃんと約束したから、必ず戻ってくるって」と言うバクに、呆れた春代は「どうして朝ちゃんの居場所が分かったの?」と聞くと、「2人がロケ車に手を振ったのに気づいたから、岡崎の家に電話してお母さんから聞いた」と言います。

そしてバクは朝子に手を差し出しすと、朝子は躊躇することなくバクの手を握り、2人はバクが運転してきた車に乗り込みます。
バクが持っていたスマホがずっと鳴っていましたが、バクは出ません。
朝子は出ないの?と聞くと、バクは自分の代わりは幾らでもいると言い、モデルを辞めたことを示唆します。
朝子はこれからどこに行くのか聞くと、バクは北海道と答えます。

しばらく車を走らせると春代からメールが届きます。
「朝ちゃん、やってもうたな(笑)でも朝ちゃんならやると思ったで」と、大阪時代の朝子を知っている春代らしい文面でした。

マヤからは電話がかかってきます。
「朝子、あんな亮平さん見てられない。お願いだから戻って」
「ごめんマヤ、でも私戻らないから。私の荷物は全部捨ててと亮平に伝えて」
「わかった…(怒)もう二度と私たちの前に現れないで。連絡もしないで」
朝子は車の窓からスマホを捨てると、バクは「朝ちゃん、眠りな」と優しく声をかけます。

朝子が目を覚ますと一般道で車は停まっています。
「高速降りたの?ここはどこ?」
「まだ仙台、腹減ったし、海も見たくて。でも見えない」
朝子が辺りを見回すと、そこは震災以降に作られた防波堤でした。

防波堤を見た朝子は「ごめんバク、私やっぱり一緒に行けない。帰らなきゃ」と言います。
「どこへ帰るの?」「亮平のところへ」「分かった」
「朝ちゃん、車置いてこうか?」「ううん、私免許無いからここでいい」「分かった、じゃあ行くね」
バクは朝子を置いて旅立って行きます。

朝子は防波堤に上がって海を眺めると、平川が住む仮設住宅に現れ呼び鈴を鳴らします。
早朝6時。
「こんな朝早くから誰かと思ったら、朝子でないかい。一体どうした?」と平川は言います。
「ごめんなさい平川さん、お金貸して下さい」
事情を聴いた平川は「馬鹿だなぁ、お前のやったことは許されねぇど」と言ってお金を渡し、最寄りの駅まで送ってくれます。
同じ頃、傷心の亮平は耕介とマヤに見送られて大阪に引っ越します。

朝子は亮平と住むはずだった一軒家の前に現れます。
近所の子供たちがボール遊びをしていて、転がってきたボールを拾って投げ返すと、その後ろに亮平が立っていました。
亮平は朝子の顔を見るなり「帰れ!」と怒鳴ります。
「お前は最悪なことをしたんや。いつかこうなるかもしれないとずっと怖かったんや」と言うと、玄関のドアを開けて家に入ろうとします。
「猫は捨てたで、お前が最初に捨てたんやからな。こんな酷い目に遭って猫の面倒なんか見られるかい」と言ってドアを閉めます。
朝子はその日から淀川の河川敷でジンタンを探し始めます。

朝子は岡崎の家にも現れます。
伸行は数年前にALSを患い寝たきりになっていました。
栄子とは年賀状のやり取りが続いていて、その住所をバクに教えたのでした。
栄子は「喋れないけど、話してることは分かるから、何か話してあげて」と言います。

朝子は東京に行ったまま不義理してたことを詫びながら色々話してると涙が溢れ出てきます。
栄子は「伸行、こんなべっぴんさんがあんたのために涙流してくれてよかったな」と言いますが、朝子は「違うんです。こんなときでも私、自分のことばっかり…」と言います。

察した栄子は「ごめんな、ウチが教えたばっかり…」と言い、「それで会えたん?」と聞きます。
「はい、でも一番大事な人を傷つけてしまって」と言ってボロボロ泣く朝子でした。

「そっかー、でもホンマは羨ましい。大事な人やったらこの先もずっと大事にしたらいい。どうせそれしか出来ないんやから」と栄子は言います。
そして「私もな、若い頃は好きな人と朝ご飯食べるためだけに始発の新幹線に乗って~」と以前に何度もした話をするのでした。

すると急に雨が降ってきたのに朝子が気付いて、栄子と一緒に洗濯物を取り込みます。
「ありがとう朝ちゃん。あとそれから、さっきの話、旦那とは別の人やで」といたずらっぽく言う栄子の笑顔に救われる朝子でした。

カメラは風に揺れる淀川の河川敷の草むらをドローンで映すと、「ジンターン、ジンターン」と猫を探す朝子を映します。
そこに亮平が通りかかると「無駄なことをするな」と言って、足早に立ち去ろうとします。

朝子は亮平を追いかけると「私は許されないことをした。亮平に謝りたい。でもどんなに謝っても謝りきれない。それくらいのことをした。だから私はもう謝らない。そして許されたいとも思わない。ただ亮平と一緒にいたい。亮平の顔が見たい、声が聞きたい」と言います。

しかし、朝子の言葉を聞いても亮平の足は止まらず、そのまま足早に家の中に入ってしまいます。
それでも朝子はドアの前で立っていると、ドアが僅かに開き亮平がジンタンを渡してきます。
ジンタンを渡した亮平は、またすぐにドアを閉めてしまいますが、鍵をかける音はしませんでした。

朝子はそっとドアを開けると家の中に入り、2階に上がっていきます。
2階の部屋では窓から淀川を眺める亮平がいます。
朝子も亮平の横に並ぶと淀川を眺めます。
亮平は「きっと俺は一生、お前のこと信じへんで」と言い、朝子も「うん」と頷きます。

そして亮平は川を見つめながら「水かさが増してるなぁ。それにしてもきったない川やで」と言います。
朝子は「うん。…でも綺麗」と言って映画は終わります。

 

原作が刊行されたのは2010年で、小説の中の話は映画と違い1999年から2008年までの10年間の話となってるようです。
バクと朝子の出会いも小説ではビルの27階の展望台で、小説で登場する地震も2004年の新潟県中越地震が一瞬登場するようですが、それを映画では双子の写真が印象的な牛腸茂雄展にしたのと、東日本大震災にしたのは上手い改変だと思いました。

小説が持つドッペルゲンガー的要素に双子の写真展を取り入れ、映画『ドッペルゲンガー』の黒沢清監督の師弟が撮るというのが、ピタリとハマった気がします。

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東日本大震災に関しても、朝子は一旦は亮平と付き合いますが、亮平の中にどうしてもバクの幻影を見てしまい、亮平を深く傷つけてしまう前に別れます。
しかし、震災で価値観が変わり、劇中では一気に5年後に飛びますが、絆婚まではいかないものの、朝子は亮平と同棲しています。

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しかも朝子と亮平は猫まで飼っていますが、この辺は絆婚から離婚までを描いたフジテレビのドラマ「最高の離婚」と共通しています。

しかし絆婚が増えた一方で、現実では震災後の離婚も増えてます。

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2011年3月11日に起きた東日本大震災を経て、日本人の心象風景は大きく変わった。 震災後には、会話のなかった家族にふれあいが戻り、顔も知らなかった隣人同士が助け合うようになった。高視…

朝子の場合は、震災離婚の理由とは違いますが、震災後5年も経つと絆を忘れ、安定を捨て、7年ぶりに現れた思い出の男に心を奪われてしまいます。

本作の感想などを読むと、亮平を捨てバクに走った朝子の選択に共感出来ないという声が多いですが、ホストにハマる女性と同じで理窟じゃないですよね。

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恋愛感情に持ち込み、被害意識が芽生えにくいとされるホストクラブ。ぼったくり被害の絶えないガールズバーなどと比べ、実態はみえてこないといわれている。底なし沼の…

自分も朝子の選択には共感出来ませんが、こういう女性はいるなぁと思いましたし、朝子の選択が物語を面白くします。

朝子が何度もボランティアに行った仙台の防波堤を見て、思いとどまるのも上手いと思いましたし、もしバクが高速を降りずに北海道まで突っ走っていったら物語も変わっただろうなと思います。

それこそ最初の方に上げた『ワイルド・アット・ハート』や『トゥルー・ロマンス』まではいかない(犯罪を犯すので)までも、邦画だったら『失楽園』とかの刹那的な話になってくるんだと思います。

映画では、結果的には亮平と元のさやに収まり、ハッピーエンド?っぽくなっています。

でもこのあとの2人は亮平が言うように、朝子を一生信じられず、一生許さなかったら、1990年の第43回カンヌ国際映画祭で審査員グランプリを受賞した小栗康平監督の『死の棘』の逆バージョンになるんだと思います。

因みに同じ年のパルム・ドールは前述の『ワイルド・アット・ハート』でした。

現実にも先日亡くなった樹木希林さんと内田裕也さんのようなご夫婦もいますし、そこが人間の面白い所だと思います。

樹木希林、内田裕也と「あの世では同居」 45年間の不思議な結婚生活
「俺も彼女も普通の人とは結婚できない。その2人が出会えたことを神様に感謝したい」――女優・樹木希林さんとの結婚にあたって、歌手・内田裕也さんが吐いた「名言」だ。樹木さんと内田さんが結婚したのは、1973年のことである。内田さんの友人だった故...

それにしても、拙ブログでは役者の演技の良し悪しを引き出すのは監督の腕次第と何回も言ってますが、濱口監督によるワークショップを元にする演出は、ここに極まってるんじゃないかと思います。

仲本工事さんをキャスティングするセンスを含めて、出演者全員の演技が素晴らしいんですが、特筆すべきはやっぱり、まだそれほど演技経験が無かった唐田えりかさんです。

ソニー損保のCMのときは、初めて決まった大きな仕事で演技もほぼ初めてなので酷い大根ですが(笑)、本作ではこのCMの面影は全くなく透明感だけが抽出されています。

思えば朝子の役って、他の役と比較してもとりわけ背景が描かれない不思議な存在でもあるんですよね。
家族構成とか出身地とか何に興味があるかとかが全く描かれず、その唯一が牛腸茂雄の写真展とボランティアだけで、ある意味バクよりも不思議な存在といえると思うんですが、それが唐田さんの透明感にピタリとハマっていて、濱口監督の演出は上手いなと思います。

田中幸子さんとの共同脚本も、登場人物による説明過多に陥らず、「これどういうことだろう?」と思っても後からちゃんと分かるようになってます。

語り過ぎず説明しない、余白や余韻がある脚本で、ひょっとしたら師匠の黒沢清監督も超えちゃったんじゃないかと思える演出で、カンヌで賞は逃したものの高評価だったのも納得で、本当に素晴らしい映画になってると思います。
傑作です。

もうひとつのカンヌ作品「寝ても覚めても」が照らす邦画の未来 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
今年のカンヌ国際映画祭では、最高賞のパルム・ドールを受賞した「万引き家族」と並んで、コンペティション部門に出品された日本映画があった。濱口竜介監督の商業映画デビュー作にあたる「寝ても覚めても」だ。今回のコンペティション部門には、地元フランス...

鑑賞データ

ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ ハッピーチューズデー 1000円
2018年 146作品目 累計126100円 1作品単価864円

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