予告編のフジファブリックがマックスでした ☆3.5点
『アズミ・ハルコは行方不明』が映画化された小説家・山内マリコのデビュー作の同名連作小説集を映画化。
ありふれた地方都市で暮らし、2004年に高校3年生だった若者の2013年までの十年を巡る青春群像劇。
監督は廣木隆一、主演は橋本愛、共演に門脇麦、成田凌、渡辺大知
予告編
映画データ
本作は2018年10月19日(金)公開で、全国33館での公開です。
2019年2月頃まで順次公開されて、最終的には43館程度での公開となるようです。
本作の予告編は新宿バルト9で『コーヒーが冷めないうちに』を観に行ったときに見たと思うんですが、フジファブリックの主題歌がよくて面白そうだなと思いました。
原作は例によって未読で、予告編を見ただけの予備知識で鑑賞です。
監督は廣木隆一さん
近作は『さよなら歌舞伎町』『PとJK』『彼女の人生は間違いじゃない』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『伊藤くん A to E』『ママレード・ボーイ』を観てます。
主演は橋本愛さん
近作は『桐島、部活やめるってよ』『渇き。』『シェル・コレクター』『PARKS パークス』『美しい星』を観てます。
共演に門脇麦さん
近作は『愛の渦』『闇金ウシジマくん Part2』『太陽』『二重生活』『彼らが本気で編むときは』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『花筐/HANAGATAMI』『サニー/32』を観てます。
共演に成田凌さん
近作は『君の名は。(声の出演)』『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY ―リミット・オブ・スリーピング ビューティ―』『ニワトリ★スター』を観てます。
共演に渡辺大知さん
近作は『勝手にふるえてろ』『寝ても覚めても』を観てます。
共演に岸井ゆきのさん
近作は『ピンクとグレー』『二重生活』『おじいちゃん、死んじゃったって。』を観てます。
共演に柳ゆり菜さん
近作は『純平、考え直せ』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
私: 橋本愛
あたし: 門脇麦
椎名くん: 成田凌
新保くん: 渡辺大知
山下南: 岸井ゆきの
森繁あかね: 内田理央
サツキ: 柳ゆり菜
まなみ先生: 瀧内公美
遠藤: 亀田侑樹
なっちゃん: 片山友希
椎名朝子: 木崎絹子
皆川光司: マキタスポーツ
須賀さん: 村上淳
あらすじ
2013年
27歳の「私」(橋本愛)は、何者かになりたくて東京へ出たものの、10年が経ち、なんとなく地元に戻ってきた。実家に住みながらフリーライターとしてタウン誌などの仕事をしている「私」は、カメラマンの須賀(村上淳)と組むことが多い。40歳の須賀は東京への未練を頻繁に口にするが、東京から地元に戻った者同士で「私」とはウマが合う。この日は、ラーメン店の取材終わりに、高校時代に仲が良かったサツキ(柳ゆり菜)と合流し、なぜか須賀の車で当時みんなの憧れの的だった椎名(成田凌)に会いに行くことに。道中で懐かしいゲームセンターを見つけて立ち寄ると、たまたま帰省中だという同級生の新保(渡辺大知)と再会する。近況を話しているうちに、現在自動車教習所で教官として働く椎名に、新保がその仕事を紹介したことが発覚する。2008年
22歳の「あたし」(門脇麦)は書店でのアルバイトを終えて、駐車場で待っている同級生の遠藤(亀田侑樹)の車に乗り込む。「あたし」は高校時代に椎名と付き合っていたが、卒業後、椎名は大阪に引っ越して音信不通だ。「あたし」は椎名を忘れられないが、自分に好意を寄せる遠藤と何となく体の関係を続けている。2010年
24歳の南(岸井ゆきの)とあかね(内田理央)はファミレスでガールズトークを繰り広げる。抜群の美貌をもつあかねは10代の頃にアイドルとして活動し、中学を卒業すると東京に引っ越したが、仕事がなくなり、実家に戻ってきた。あかねは早く結婚したいと焦っているが、南は結婚に興味がないという。2004年
18歳の「私」は高校3年生。サツキは、地元も年齢も同じあかねが載っている雑誌を見て盛り上がっている。「あたし」は椎名と交際中だ。新保は同級生にからかわれているところを椎名に助けられ、初めて二人でハンバーガーを食べに行く。同級生のなっちゃん(片山友希)は、禿げ上がった47歳の男・皆川(マキタスポーツ)と(援助)交際中だが、お見合い結婚を理由に関係解消を告げられる。青春を謳歌する兄を醒めた眼で見ている椎名の妹・朝子(木崎絹子)は、東京の大学に通うために、家庭教師のまなみ先生(瀧内公美)の家で勉強を教えてもらっている。ある日の放課後、「私」とサツキは椎名から誘われて、奇跡のように楽しい放課後を過ごす。2013年
須賀から高校時代のことをあれこれ聞かれ、ゲームセンターに足を踏み入れ、そして母校を訪れたことで、「私」の脳裏にあの放課後が蘇る。記憶の中でキラキラと輝いていた椎名と教習所で再会した「私」は、ある衝撃的な言葉を告げられる。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
なんか予告編からイメージした印象とは違ってて、予告編とかポスターですと橋本愛さんと門脇麦さんと成田凌さんがトリプル主演でがっつり絡むのかと思ってたんですけど、そういう感じじゃなかったんですよね。
物語の主軸は上のあらすじにあるように橋本愛さん演じる2013年の「私」で、高校時代憧れだった椎名をサツキがフェイスブックみたいのか何かで見つけて盛り上がって会いに行こうという話になってて、それを聞いた須賀も面白そうってことで一緒に行くとなって、取材終わりに「私」と合流することになってたサツキを拾うと、椎名が勤める教習所に須賀の運転する初代フォード・ブロンコで向かうっていうのがメインの話なんで、出てくるのは橋本愛さんと柳ゆり菜さんと村上淳さんが多くて、この3人が主役って気がしました。
それで教習所に向かう間に突然2008年とか2010年の話が挟み込まれるんで、最初は「オムニバス形式の話なのかな?」と戸惑うんですが、観ているうちにそれぞれの話の登場人物が椎名に緩やかに繋がっているのが分かるという展開です。
(まぁ最初から公式サイトの相関図を見ちゃうとある程度分かるんですが)
最初分かり辛いのは2010年の山下南と森繫あかね、2004年の朝子とまなみ先生、援交してるなっちゃんと皆川の話なんですが、それも最後の方になってくると椎名との関係性が明らかになってきます。
朝子は椎名の妹、山下南は2013年に椎名と結婚、森繫あかねは2010年の時点で皆川と付き合っていて2013年までの間に結婚してるという関係です。
なので話のメインとしては、「それぞれの関係性が分かる」というのが肝なので、それぞれの話の物語性は低い(取り立てて何が起きる訳では無い)のですが、それでも上映時間98分というコンパクトな作品なので退屈すること無く観れました。
ただ個人的に序盤からノレないところがあって、自分は東京50km圏内の生まれ育ちなので、サツキがしきりに東京に行ってた2人を羨ましがるところで、2人が「そうでもない」と言ってるのに、サツキが「またまたぁ」みたいに言うのがウザくて、あそこまでの東京への憧れ自体が理解できなかったのと、あの2人は東京に挫折して戻ってきたのに、「ちょっとは空気読めよ」と思ってしまいまして…。
それとサツキの一連の発言は、アーティストに対する「イベントに行けませんが頑張って下さい」問題と似ているところがあると思うんですよね。
結局、「いいなぁ、行きたい」って言ってるだけで行動を起こさないのは、思いが本物じゃないというか、「東京に憧れてるなら、とっとと行けばいいのに」と思ってしまって、あのシーンはノレませんでしたね。
でも、この映画、憧れれば憧れるほど、追いかければ追いかけるほど、手に入らないってことを描いてたようにも思います。
それは山下南のエピソードで思ったんですけど、2010年の時点で婚活を焦るあかねに対し、南は結婚に興味無いと言ってのけてるんですが、2013年では椎名とちゃっかり結婚してます。
しかしここでもあかねから「どんな人なの?」と聞かれると、南は「つまらない男よ」と言ってのけるんですが、実はこれが椎名の本質を突いてる気がしました。
「私」とサツキは10年経っても憧れの的だった椎名に対してときめいていますが、懐かしさから途中立ち寄ったゲーセンで、偶然、大阪から帰省していると言う新保に会うと、椎名という人物が見えてきます。
新保によると、一時期、新保が紹介して椎名はそのゲーセンの店長を務めてたと言います。
そしてその後、椎名は大阪に出ましたが、何年かすると戻ってきて、仕事の無かった椎名に教習所の仕事も紹介したと言います。
新保は高校時代、椎名のイケてるグループとは対照的にイケてないグループに属してて、その苗字から「チンポ」と呼ばれ椎名にもからかわれていましたが、ある日の下校時、校庭で練習するサッカー部員に同じようにからかわれてた新保を見た椎名が「ハンバーガー食べに行こうぜ」と誘うと2人の間に交流が生まれます。
ただこのハンバーガーも金を払ったのは新保で、椎名は当然のように食べるだけでした。
そのようなヒエラルキーだった高校時代なわけですが、卒業後の椎名は新保の話を聞く限りうだつの上がらない男で、大阪に出ても何者にも成れず地元に戻ってきた男です。
新保は、2人とも気持ちが荒んでいた時にしばらくつるんでいたと話しますが、「私」とサツキが椎名が働いてる教習所に行くと言うと、新保は「そうか、まだ仕事続いてるんだ」とボソッと言い、一緒に行くかと誘うと「自分はいい」と言って新保は断ります。
この時点で新保と南の椎名に対する評価は同じなんだと思います。
椎名に対する過度な憧れは無く淡々としていますが、「私」とサツキにはまだそれがありませんでした。
「私」とサツキは新保と別れ際、ゲームのハイスコアに「YUKO」と入力した新保を見て、「YUKO」って誰?と聞くと、新保は「俺がYUKOだから」と笑顔で言います。
高校時代は黒髪だった新保は、今は髪を赤く染めて少しなよなよしていることからトランスジェンダーだと推察できますが、「私」とサツキに笑顔でカミングアウトしてたので、すでに何者かに成れてたように思えました。
門脇麦さん演じる「あたし」の話は2008年で完結していて、自分に好意を寄せてくる遠藤を見ているうちに、椎名にとっての自分は遠藤みたいな存在だったんじゃないかとハッと気づくという話です。
また、高校卒業後に椎名とデートしてるときは椎名の運転で、2008年には遠藤にアッシーさせてましたが、上記のことに気づくと「遠藤お金頂戴、あたし免許取る」と言って、地方だと車が無いと自分では何も出来ないことに気づいて、自立しようとする話でした。
「私」の話のオチは、教習所で椎名と会って昔話に花を咲かせますが、椎名が結婚してることが分かり、自分の名前も忘れられてた(笑)というもので、『勝手にふるえてろ』と同じ展開でした。
ラストは、登場人物の中で椎名の妹の朝子だけが東京に住んでいて、スカイツリーが見えるマンションの屋上で「超楽しい」と呟いて終わるんですが、個人的には朝子が原作者の山内マリコさんな気がして、朝子という名前も柚木麻子さんから来てるのかなぁとか思ったりしました。
1980前後に生まれた者にとって特別なドラマ『その時、ハートは盗まれた』。なんと柚木麻子さんの『終点のあの子』も、『その時〜』を下敷きにしてました! いま本人が言ってました!!!
— 山内マリコ (@maricofff) 2010年12月6日
(柚木麻子さんによる「ここは退屈迎えに来て」の書評)
映画のロケ地は山内マリコさんの出身地の富山だそうですが、原作でも映画でも富山とは限定されておらず、その風景は2000年の大店法廃止により(まぁ、それより前からですが)駅前はシャッター通り商店街と化し、幹線道路沿いにはチェーン店やショッピングモールが並ぶ、日本全国画一化された地方の風景を映してたと思います。
テーマ的にはそんな2000年代の地方に暮らす若者の鬱屈した思いを描いてたと思うのですが、最初に書いたようにサツキみたいな東京への過度な憧れを持ってなかった自分にはそれほど刺さりませんでしたが、フジファブリックによる主題歌の「Water Lily Flower」に映像を載せたエンドクレジット(テレビドラマであるパターンのやつ)は鑑賞後感がよく、自分的にはそこがクライマックスでした。
それにしても、鑑賞前から思ってたのですが、柚木麻子さんの『伊藤くん A to E』を廣木監督が撮り、山内マリコさんのも廣木監督が撮るのかぁと思いまして。
廣木監督は好きな監督ですが、女性支持が高そうな女性作家の原作を立て続けに同じ男性監督が撮るというのが、果たして邦画界にとっていいのか微妙な気がして、ここは原作者たちと同じ年代(1980年頃)の女性監督に撮っていただきたかったなぁと思いました。
鑑賞データ
新宿バルト9 夕方割 1300円
2018年 165作品目 累計146800円 1作品単価890円
コメント