りりィさんの遺作です ☆3点
予告編
映画データ
『かもめ食堂』の荻上直子監督作品でジャニーズの生田斗真さんがトランスジェンダー役を演じられた作品です。
かもめ食堂は観てるような観てないような感じなんですけど、たぶん観てないな。
パスコのイメージが強いんだと思います。
本作は丸の内ピカデリーで観たんですけど、予告編は以前、他の作品を丸の内ピカデリーで観たときに2回くらい観てて、面白そうだなと思ったので鑑賞しました。
荻上監督は5年ぶりの新作だそうで、前作は『レンタネコ』でしたか。
レンタネコはテアトル新宿の予告編でよく観ていて、行こう行こうと思って行かずだったのですが、あれからもう5年って早過ぎる(絶句)。
あらすじ
本作のあらすじは、娘のトモ(子役:柿原りんか)より男を優先するネグレクトなシングルマザーの母(ミムラ)が家を出て行ってしまったので、三省堂書店員である母の弟のマキオ(桐谷健太)が、姉が帰ってくるまで姪であるトモを預かるんですが、以前にも同じようなことがあって、そのときはwiiのゲームをしたりして2人楽しく暮らしていました。
今回、以前と違うのは、マキオは性同一性障害の彼女リンコ(生田斗真)と同棲していて3人で暮らすことになったので、トモは偏見もあって戸惑うんですが、徐々に偏見も取れて心を通わせていくってお話です。
ネタバレ感想
最初観てたときは思わなかったのですが、リンコとトモが仲良くなって、リンコがトモを養子に欲しがる辺りから『チョコレートドーナツ』っぽいなと思いました。
それでそう思って観てたら、江口のりこさん演じる児童相談所の人が、「子供を育てるのにふさわしくない環境ではないかと通報があった」と言って来たので、やっぱり『チョコレートドーナツ』だと思いました。
作品の印象は基本的には、トランスジェンダーというテーマに真面目に向き合って作られている作品だと思うんですけど、全体的なエピソードが弱いというか、脚本が弱いといいますか。
と、いいますのも偏見の描き方がステレオタイプ過ぎるんですね。
『チョコレートドーナツ』の場合は1970年代の舞台設定なので偏見の描かれ方も分かるんですが、それでも外見的な差別というのは無くて、どちらかというと法律的なものが追い付いてないジレンマだったのですが、本作ではトモの幼馴染のカイ君の母(小池栄子)の偏見の描かれ方がステレオタイプ過ぎて、「いまどきあんな人いるかなぁ?」って感じでした。
しかも、その幼馴染のカイ君自身がゲイで小学校の先輩に書こうとしたラブレターを母親に見つかって破り捨てられてるという地獄です。
カイ君は睡眠薬で自殺未遂を引き起こしちゃいますが、あの母親の偏見が改まったかは分かりません。
それからカイ君の母親にスーパーで会ったことによって、翌日学校の黒板に変態家族と書かれますが、あれって母親同士で話が回ったってことだと思うんですけど、あの辺もその母親たちや子供たちの偏見が改まったかは謎です。
それと、リンコさんが毛糸買いに行ったら頭打っちゃって1日入院(このエピソードも唐突でしたが)するんですが、そこでも男性部屋に入れられてマキオが看護師さんに抗議するんですが、看護師さんも「40万円の個室になさいますか?」なんて嫌味ったらしいこと言って、あんなこと言わないよなぁと思ったり。
極めつけは、ラスト、トモの母が戻ってきて、弟にちょっと預けてた的なことを言って当然のようにトモを連れ戻そうとするんですが、リンコさんにありがとうを言うどころか、「あんたに子供育てられんの?」と言い放つ始末で、それにトモが怒るって話なんですが、「生みの親より育ての親」とはならず、ネグレクトな生みの親の元に帰るって展開です。
一応、トモが帰った家は整理整頓されていて、母は変わったようではありますが、あの母がそんな簡単に変わるかなぁと思ったり。
次に気になったのが偏見とは関係ないですが、リンコさんの母親フミコ(田中美佐子)です。
フミコは自分の息子がそうだったせいもあるでしょうがトランスジェンダーに偏見はなく、リンコを傷付けるやつは子供でも許さないと言い放つほどで、それはいいと思うのですが、自分が再婚した若い男(柏原収史)の前で、トモの胸が膨らみ始めたかを聞いてて、「ちょっとデリカシーなくない?」と思ったんですけど、女性の皆さんはどう思ったんでしょ?
でも女性監督が描写してるからアリなのか。
この映画、予告編を観たときは、もっと編み物にフィーチャーした映画なのかな?と思ったんですが、編み物は、日々さらされる偏見によるストレス解消でやってる部分が大きくて、手術して取った男性器を供養する意味もあって靴下みたいな男根を編んでるんですが、このときのやりとりでトモがチンコ言うんですが、「小学生くらいの子役に言わせて大丈夫か?」と思ったんですけど、このシーン自体はマキオとリンコとトモの関係性からいってアリかなとは思いました。
それでタイトルの『彼らが本気で編むときは』ですが、リンコは肉体的な改造は全部済んでいて、あとは戸籍の性別を変えるだけなんですが、毛糸の男根を108個(煩悩の数)編んだら手続きしようと思っていて現在90個弱なんですが、トモとの出会いもあって、早く女性になってマキオと結婚しトモも養子に引き取る、という目標が出来たので、急いでその夢を叶えようとみんなで編み出す、というところからきています。
彼らが本気で編むときは、マキオとリンコとトモが家族になろうと決めたときです。
でも、結果的には夢が叶わなかったのでアンハッピーエンドな気がしますが、トモ目線で見ればハッピーエンドとも取れる感じでしょうか。
マキオはどちらかというとノンケで、リンコに惹かれたのはマキオの母(りりィ)を介護士としてよく世話をしてくれ、その性差を超えた優しさや美しさに触れたからなんですが、リンコの職場が老人ホームということもあって、介護の問題、痴呆の問題(品川徹さん演じた斉藤さん)、それにネグレクトとトランスジェンダーとテーマを盛り込み過ぎたため、肝心のテーマが薄くなってしまった気もします。
なので、ふつうにいい話だなぁと思いましたが、特に感動もありませんでした。
生田さんのたおやかな演技と桐谷さんの抑えた演技はよかったと思います。
りりィさんは先月観た『はるねこ』と似たような役でした。
本作が遺作になりますかね。
謹んで哀悼の意を表します。
鑑賞データ
丸の内ピカデリー 次回割引クーポン 1200円
2017年 29作品目 累計25500円 1作品単価879円
コメント
りんこの母親が「胸大きくなった?」と夫の前で聞くシーン、私もデリカシーがないと思いました。
自分の娘には配慮しろと子供相手にすごむくせに、そこはいいんだなと。
ほかの感想にも一言一句うなずきました。