全く劇伴が無いのも逆に辛いものがあるなと ☆3点
2013年に出版され吉川英治文学新人賞候補になった薬丸岳の同名小説の映画化で、かつて世間を震撼させた少年事件の犯人が親友だったら?を描いた作品。
監督は瀬々敬久、W主演に生田斗真と瑛太、共演に夏帆、山本美月、富田靖子、佐藤浩市
予告編
映画データ
本作は2018年5月25日(金)公開で、全国201館での公開です。
配給はギャガで製作はWOWOW FILMSとなってます。
劇場での予告編はわりと目にしましたね。
テーマとしては李相日監督の『怒り』に近い感じなのかな?と思って観に行きました。
原作は未読での鑑賞です。
監督は瀬々敬久さん
近作は『最低。』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』を観てます。
主演に生田斗真さん
近作は『脳男』『予告犯』『グラスホッパー』『彼らが本気で編むときは』を観てます。
主演に瑛太さん
近作は『まほろ駅前狂騒曲』『殿、利息でござる!』『リングサイド・ストーリー』『ミックス。』『光(大森立嗣監督)』を観てます。
共演に夏帆さん
近作は『ピンクとグレー』『22年目の告白-私が殺人犯です-』『伊藤くん A to E』を観てます。
共演に山本美月さん
近作は『貞子vs伽椰子』『ピーチガール』『去年の冬、きみと別れ』を観てます。
共演に富田靖子さん
近作は『超高速!参勤交代 リターンズ』を観てます。
共演に佐藤浩市さん
近作は『GONIN サーガ』『北の桜守』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
益田純一: 生田斗真
鈴木秀人 / 青柳健太郎: 瑛太
藤沢美代子: 夏帆
杉本清美: 山本美月
白石弥生: 富田靖子
清水: 奥野瑛太
内海: 飯田芳
工場長: 小市慢太郎
白石の上司: 矢島健一
白石の娘・唯: 蒔田彩珠
青柳の同級生: 青木崇高
達也: 忍成修吾
智子: 西田尚美
智子の弟: 村上淳
智子の弟の妻: 片岡礼子
正人: 石田法嗣
正人の妻: 北浦愛
益田の親友の母: 坂井真紀
杉本の上司: 古舘寛治
山内の同僚: 宇野祥平
正人の事故の被害者遺族: 大西信満
正人の事故の被害者遺族: 渡辺真起子
正人の事故の被害者遺族: 光石研
山内修司: 佐藤浩市
あらすじ
ジャーナリストの夢に破れた益田(生田斗真)は、部屋を借りる金も使い果たし、寮のある町工場で見習いとして働き始める。同じ日に鈴木(瑛太)という男も入ったが、彼は自分のことは一切語らず、他人との交流を拒んでいた。鈴木のことを不審に思った寮の先輩・清水(奥野瑛太)と内海(飯田芳)は益田を強制的に連れ、鈴木の部屋をガサ入れする。そこで益田は女性の裸婦像が書かれたスケッチブックを見つける。
ある夜、酔っぱらって寮の玄関で倒れていた清水を一緒に介抱する益田と鈴木。益田は、鈴木が自殺した中学時代の同級生に似ていると話しかける。それを聞いた鈴木から、「俺が自殺したら悲しいと思える?」と唐突に尋ねられた益田は、戸惑いながらも「悲しいに決まってるだろ」と答えるのが精一杯だった。
工場からの帰り道、鈴木は男に追いかけられている女をかばう形になり、男から一方的に殴られる。彼女の名は美代子(夏帆)。元恋人の達也(忍成修吾)に唆されAVに出演した過去を持ち、達也と別れて以降も執拗につきまとわれていた。鈴木は美代子のマンションで、けがの手当てを受ける。数日後、慣れない肉体労働に疲れ果てた益田は、めまいを起こして機械で指を切断する重傷を負う。しかし、鈴木の冷静な対処と、病院まで運んでくれたタクシードライバー・山内(佐藤浩市)の応急処置のアドバイスのおかげで、何とか益田の指はつながるのだった。
夜勤明け、妻の智子(西田尚美)の実家へ駆けつける山内。義父が亡くなったのだが、妻と会うのは10年ぶりだった。息子の正人(石田法嗣)が交通事故を起こして人の命を奪った罪を償うために、家族を”解散”したのだ。それなのに、正人が結婚しようとしていると聞いた山内は、怒りと当惑で言葉を失う。
入院中の益田のもとに、元恋人で雑誌記者の清美(山本美月)が見舞いに訪れる。清美は埼玉で起きた児童殺人事件の記事で行き詰っていると打ち明け、17年前の連続殺傷事件の犯人・青柳健太郎の再犯だという噂について意見を求めるが、益田はジャーナリスト時代に自身の記事に因って招いた暗い過去が思い起こされ、拒絶する。数週間後、カラオケパブで清水や内海、そして鈴木が益田の退院祝いをしてくれる。鈴木の傍らには、あれ以来、時々会うようになった美代子もいる。皆の勧めから鈴木もマイクを取り、ぎこちなくもアニメソングを歌う。その楽しげな表情が嬉しく、益田はスマホのカメラを鈴木に向けるのだった。帰り道、益田があらためて鈴木に指の件でお礼を言うと、鈴木は「友達だから」とうれしそうに答えるのだった。
寮に戻りスマホを見ると、清美から再度「17年前の事件について意見を聞かせて」というラインが届いていた。ため息をつきながらもパソコンを開き、事件について検索した益田は、当時14歳だった犯人の青柳健太郎の顔写真を見て、息をのむ。そこには鈴木によく似た少年の姿が写っていた。まさかと更に検索し、医療少年院で青柳の担当だった白石(富田靖子)の写真を見て固まる益田。それは、鈴木のスケッチブックに描かれていた女性だった。時を同じくして、それぞれが抱える問題が露わになる。山内は恋人が妊娠したという息子を訪ね、「お前の為に家族を解散したっていうのに、お前が家族をつくってどうするんだ」と怒りをぶつける。白石は鈴木の再犯の噂に心を痛めていたが、鈴木にばかり心を砕いてきた代償で疎遠になっていた高校生の娘が妊娠したという知らせを聞き、戸惑う。美代子は、かつて出演していたAVを達也によって寮のポストにDVDを投函されてしまい、寮の皆がそれを知ってしまう。
スマホの動画を再生し、カラオケで歌う鈴木の無邪気な笑顔を見つめる益田。翌日、益田は17年前の青柳健太郎の犯行現場へと旅立つ。本当に鈴木が青柳健太郎なのか?なぜ殺したのか?そんな益田を待ち受けていたのは、17年前に犯した自分の罪だった─。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
観終わって率直に思った印象は、加害者側の慟哭を延々垂れ流してどうする?でした。
これを描くことに意味があるのかと。
でもそうした反応があるのは製作者側も織り込み済みらしく、公式サイトのプロダクションノートにちゃんとエクスキューズがありました。
【映画化にあたり】日々報道される少年犯罪。かつての少年、今やその親として感じる心の痛みに、一度大いなる覚悟を以て向き合う深い陰影の映画を作れないか。プロデューサーがそんな思いを抱いていた頃、出会ったのが本原作。2015年の春、映像化権を取得したプロデューサーと瀬々敬久監督によってプロット~脚本開発は進んでいった。原作は「神戸連続児童殺傷事件」から着想を得ているが、本作は実際にあった事件の余波や現在地を、憶測を元に再現するための映画化ではない。脚本開発で最も重視されたのは「業に囚われても生きていく人間の姿、そのもの」である。そのために今回は映画の主たる視点を、あえて加害者側のものに寄せると決めた。すべての人が受け入れられるものではないかもしれないが、人間というものに対するある種の“願い”を、表現者として提示する、その決意に行き着いた。
自分は基本的には少年Aには興味なくて「絶歌」も読んでないです。
ただ劇中で登場する五芒星事件は電波塔のビジュアルを含め、どうしたってタンク山を想起させるんで、実際の少年Aをイメージするなって方が無理です。
ただ本作はあくまでフィクションなんで、「現実の少年Aが更生してるか?してないか?」とは切り離して鑑賞しました。
それでもこの映画はずるいと思います。
まず五芒星事件については詳しく語られません。
観客が持ってる神戸連続児童殺傷事件のイメージを利用するだけです。
そして劇中での医療少年院は青柳健太郎が現在どこにいるのか掴めていない設定です。
それに対して劇中で描かれる鈴木秀人は特に問題はありません。
寡黙で黙々と働き、清水や達也に暴力をふるわれても自分が手を出すことはありません。
だから更生してるように見えるのですが、医療少年院に連絡してないっていう点で引っ掛かります。
鈴木が被害者遺族にどのような補償をしてるかは分からないですし、観客の鈴木に対する判断材料は少ないです。
本作では鈴木の周囲にいる人間の方が悪意に満ちて描かれます。
同じ寮で暮らす清水と内海は鈴木が何を考えてるか分からないからと言って勝手に部屋に入って物色しますし、美代子が出てるAVをわざわざ鈴木に見せようとします。
美代子の元カレの達也は居合わせただけで関係無い鈴木を殴ることの他に、手下を使って美代子をレイプするんで、劇中の登場人物では一番の悪です。
主人公、益田純一の業は正義に憧れて携わったジャーナリズムなのに、自分自身がマスゴミになってしまったことと、中学時代に親友のいじめに加わってしまったことです。
特に親友のいじめに加わってしまったことは誰にも懺悔出来ずにいます。
なのに清美の相談から偶然にも鈴木の過去を知ると、「友達なら何をしたか話せるだろ」と鈴木の告白を迫ります。
自分が観てて「一番これは無いな」と思ったのがスマホの動画を清美に見せるシーンです。
益田はマスゴミになってしまった業に囚われてるのに、元ジャーナリストとしての矜持は無いのか?と思いました。
結果的にこのことにより、清美によって雑誌にスッパ抜かれ、鈴木秀人=青柳健太郎であることが周囲に明らかになります。
鈴木が青柳だと分かると周囲の反応は様々です。
清水と内海は「殺人犯と暮らしてたのか!」と驚くだけです。
美代子は完全に関わりを避けます。
益田は清美に動画を見せたことを後悔し(2度目のマスゴミに加担)、自分の罪と向き合うべく今まで訪れることが出来なかった親友の自殺現場を訪れます。
一方、鈴木は置手紙をして姿を消すと、こちらも自分の罪と向き合うべく殺害現場を訪れます。
益田は親友を突き放してしまった過去を悔やみ、鈴木には生きて欲しいと強く願って映画は終わります。
本作は、自分の親友が少年Aだったら?というのを突き付けてくる作品になってると思うんですが、実際の少年Aと劇中の鈴木とでは乖離があるでしょう。
ただ少年Aが劇中の鈴木であれば、自分は益田や美代子のような態度は取らないと思います。
今まで通りに変わらず接するだけです。
本作では鈴木に関わる者として医療少年院での担当だった白石のエピソードが描かれますが、これは完全に余談でしょう。
犯罪者の更生に夢中になるあまり、自身の娘を蔑ろにしてしまったという話ですがメインストーリーを散漫にさせていただけだと思います。
本作の劇中人物で一番しっくりきたのはタクシー運転手の山内で、メインストーリーには関わってはきませんが、「お前の事故で家族を解散したのに、お前が家族を作ってどうする」は至極真っ当だと思いました。
映画では被害者遺族(大西信満)がタクシー会社にまで押しかけたりして、必要以上に山内に息子の罪を背負わせてる感じがしましたが、逆に身内は事故を起こした正人には甘く、山内には厳しいので物語としてバランスが悪いと思いました。
本作は全般的にバランスが悪く、鈴木の過去も益田の過去も美代子の過去も同列に語るので、扱ってるテーマが重いわりにモヤっとするんですよね。
鈴木の両親である加害者家族は描かないで、全く別の交通事故の加害者家族を描かれてもなぁ、という気もします。
或いは鈴木のキャラと山内のキャラを一つにしてくれれば、物語としてスッキリしたんじゃないかと思いました。
役者陣では捉えどころのないキャラクターである鈴木を演じた瑛太さんが怪演してたと思います。
『光(大森立嗣監督)』での役柄とちょっと似てる気もしましたが。
瀬々監督の演出はテーマと真摯に向き合ってるだけあって、丁寧に撮られ余計な劇伴など付けず、豪華役者陣の演技で魅せる内容となってました。
しかし、前半、話が動き出すまでは長く感じられ、音楽も全く無くて静かなので少し眠くなってしまいました(何とか耐えましたが)。
原作はメインの登場人物が皆工場で働いているという設定だったようですが、瀬々監督の脚本は山内と白石のパートを強化して群像劇感を出したようですが、脚本的には失敗だったように思います。
最近の邦画では『葛城事件』のような、どこまでいっても重くて暗くて救いの無いテーマなので、そういうのに興味ある方は見られるといいんじゃないかと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズ六本木ヒルズ ファーストデイ 1100円
2018年 92作品目 累計84500円 1作品単価918円
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