なぜ強くなったのかが分からなかった ☆3.5点
日本将棋連盟の奨励会を年齢制限により退会後、大学進学、サラリーマン生活をしながらアマ名人と成り、プロ棋士相手に高い勝率を上げたことから周囲がプロ入りさせようと動き、制度になかったプロ編入試験を実現させ、2005年に35歳でプロ入りした瀬川晶司五段による同名書籍の自伝の映画化。
監督は豊田利晃、主演は松田龍平、共演に野田洋次郎
予告編
映画データ
本作は2018年9月7日(金)公開で、全国144館での公開です。
10月と11月に入ってから公開されるところもあるようで最終的には161館での公開となるようですが、半分以上は9月27日(木)で上映終了しているようです。
WOWOW FILMS製作の東京テアトル配給作品です。
劇場での予告編はシャンテに行く度に目にしてました。
将棋映画は、2016年に『聖の青春』、2017年に『3月のライオン 前編/後編』を観てるので観に行った次第です。
監督は豊田利晃さん
9歳から17歳まで関西奨励会会員だったそうで、同時期に学年としては1つ下になる村山聖九段などの才能を目の当たりにして、自らの才能を悟って退会したそうです。
21歳で助監督として映画界に入り、その3か月後に書いた『王手』の脚本が阪本順治監督に採用されて映画界でのキャリアを積んでいったようです。
監督作は10本目になるようですが作品は見たことありません。
昨年観た『火花』でも脚本を務めていたようです。
主演は松田龍平さん
近作は『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』『麦子さんと』『まほろ駅前狂騒曲』『モヒカン故郷に帰る』『殿、利息でござる!』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『散歩する侵略者』『探偵はBARにいる3』『羊の木』を観てます。
共演にRADWIMPSの野田洋次郎さん
近作は『トイレのピエタ』を観てます。
共演に永山絢斗さん
近作は『みなさん、さようなら』『海辺の生と死』『エルネスト もう一人のゲバラ』を観てます。
共演に染谷将太さん
近作は『さよなら歌舞伎町』『バクマン。』『ディアーディアー』『聖の青春』『PARKS パークス』『3月のライオン 前編・後編』『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』『パンク侍、斬られて候』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
瀬川晶司: 松田龍平
鈴木悠野: 野田洋次郎
新藤和正: 永山絢斗
村田康平: 染谷将太
山川孝: 渋川清彦
畑中良一: 駒木根隆介
清又勝: 新井浩文
加東大介: 早乙女太一
冬野渡: 妻夫木聡
真理子: 上白石萌音
南咲子: 石橋静河
山口: 板尾創路
見知らぬ男性: 藤原竜也
瀬川靖司: 大西信満
池田学: 奥野瑛太
山中徹: 遠藤雄弥
中堅棋士: 山本亨
関西棋士: 桂三度
新條: 三浦誠己
安田師匠: 渡辺哲
神吉六段: 神吉宏充
大徳健二: 久保利明王将
河野秀行五段: 屋敷伸之九段
久島八段: 豊川孝弘七段
佐山三段: 青嶋未来五段
中本女流六段: 谷口由紀女流二段
鹿島澤佳子: 松たか子
瀬川千香子: 美保純
工藤一男: イッセー尾形
藤田守: 小林薫
瀬川敏雄: 國村隼
中学時代の晶司: 窪塚愛流
中学時代の悠野: 後藤奏祐人
あらすじ
生まれてから小学5年生までの10年間、何かに熱を入れることもなく日々を過ごしていた“しょったん”こと瀬川晶司。
中学生でプロ棋士になった谷川浩司棋士のニュースを見て、初めて“プロ棋士”という職業を知る。
時を同じくして、隣家に住む鈴木悠野も将棋が好きなことを知り、二人で将棋を指すようになる。やがてしょったんの父・敏雄の勧めで将棋道場へ通うことに。
週末ごとにめきめきと上達していったしょったんは、中学3年生で奨励会の試験を受け合格した。奨励会には年齢制限という鉄の掟がある。26歳の誕生日までに四段になれなければ退会となってしまう。
22歳の夏に三段に昇段したしょったんだったが、残されたチャンスも徐々に減っていく…。様々な理由で先に奨励会を退会していくライバルたちを見て、将棋を指す意味を自問自答するしょったん。現実から目を背けるように棋士仲間たちと遊びまわっているうちに、悠野がアマ名人になったことを知る。
そして、最後の三段リーグでそのチャンスはあっけなく潰えてしまう――。奨励会退会後、大学を卒業し会社員となったしょったんは、将棋盤に向かうこともなくなり、平凡な生活を送っていた。そんなある日、しょったんの夢をずっと応援してくれていた父・敏雄が事故に遭い突然他界してしまう。傷心の中、居場所を求めるように訪れた悠野の家でふとしたきっかけから久しぶりに将棋を指すことに。その対局でしょったんは改めて将棋の面白さに気づく。
将棋を再開したしょったんは、アマチュアの大会でめきめきと頭角を現し、ついにアマ名人に。その活躍を目の当たりにしたアマチュア強豪の藤田と新聞記者の新條は、しょったんにプロ編入試験の話を持ちかけた。
しょったんの人生を賭けた<夢>への再挑戦が、今、始まる――。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
まず出演者の豪華さに圧倒されたんですが(笑)染谷将太さんは『聖の青春』では聖の弟弟子を演じて、『3月のライオン』では聖をモデルにした二海堂を演じ本作でも棋士役。
奥野瑛太さんも『3月のライオン』では新人王を争う山崎順慶を演じ本作でも棋士役と、将棋映画のキャストが被ってるのが面白いなぁと思いました。
藤原竜也さんに至っては役名も無いようなカメオ的出演だったんですけど、豊田監督の人望が厚いってことなんでしょうかね。
因みに藤原竜也さんはTBSドラマ版の「聖の青春」で村山聖を演じてます。
Huluでも見れるようです。
自分は奨励会に年齢制限があるのは知ってましたが、その制度を変えてプロになった人がいた、このニュースは知りませんでした。
物語の方は、実話なので非常にオーソドックスといいますか、特に劇的なことが起こる訳でもなく淡々と進みます。
『聖の青春』はネフローゼ症候群という難病を抱えながら、後の羽生善治永世七冠と互角の戦いを繰り広げ怪童と呼ばれた村山聖九段の実話ですし、『3月のライオン』はフィクションですが、主人公が昨年将棋界に颯爽と現れた藤井聡太七段みたいな天才で、両者とも奨励会をあっという間に通過した天才を描いてるので、それに比べると本作のスケール感は小さいです。
対局シーンなんかも上記両作がかなり凝ったカメラワークとキリキリとした緊迫感のある演出だったのに対し、本作はわりとあっさりしてます。
なので映画的な見応えという点では見劣りしたんですが、その分凡人である自分には主人公への共感ポイントは多かったです。
特にしょったんが三段に昇段してからの四年間は、何者にもなれなかった自分に刺さりまくりでした。
22歳で三段に昇段したしょったんは26歳の年齢制限まで4年有り、リーグ戦が年2回あるので計8回チャンスがあります。
当初のしょったんは、「まだ8回もチャンスがある」と考え、漠然とプロになれると思ってます。
それが半年毎のリーグ戦を終えると1回ずつチャンスが減っていきます。
プロ入り間違いなしと言われた冬野渡(妻夫木聡)が年齢制限で退会するのを目の当たりにしても、しょったん自身はそうなる姿をリアルに想像できません。
漠然とした不安はありますが、どこか楽観視してる部分もあって、盟友と呼べる棋士仲間たちと遊んでしまう部分は、若い頃に周囲に流されてしまった自分と重なる部分が多々ありました。
結局、しょったんの仲良しグループからは、ちょっと生意気でわりと自分を持ってる村田康平(染谷将太)がプロになれただけでした。
しょったんは26歳で年齢制限を迎えると、「どうしてあの時、もっと頑張らなかったのだろう」と悔やむことになります。
これはもう、子供の頃の夏休みの宿題の頃から心当たりが有り過ぎて胸に刺さります。
夏休みも終わり頃になると、絵日記や自由研究、読書感想文に追われ、「どうして夏休みの間、コツコツやらなかったのだろう」と半ベソかきながら8月31日を迎えたのを思い出します。
しょったんは奨励会を退会するとショックで軽い引きこもり状態になり、お兄さん(大西信満)からは「何か(仕事とか)しろ」と言われるんですが、お父さん(國村隼)はしょったんがプロになることを楽しみにしてたこともあって、「しばらくゆっくりするといい」と言ってくれます。
結局、しょったんは大学を受験し、卒業した後は会社員になるのでした。
そんなある日、お父さんがジョギング中に交通事故に遭い突然亡くなってしまいます。
しょったんは傷心の中、隣に住んでる悠野の家を久しぶりに訪れると、将棋をする流れになります。
2人で将棋を指していると、子供の頃の記憶が蘇ってきて、お父さんに連れられて悠野と2人で将棋道場に通ったのを思い出すのでした。
それからのしょったんは中学生の頃のように頻繁に道場に通うと、道場の中で成績上位者となっていきます。
将棋道場の店主はしょったんが奨励会出身とは知らなかったので、あっという間に上位者になったしょったんを不思議な目で見ますが、同じ道場に通う成績上位者の藤田は奨励会出身だと知っていて、道場の大会の決勝でしょったんと対戦します。
藤田は負けますが、奨励会出身らしからぬ優しい打ち筋をするしょったんに興味を覚え、飲みに誘うと2人は友人となります。
そしてしょったんがアマ名人となり、プロ棋士との対戦が増えてくると、その勝率の高さから藤田はプロ入りを勧めます。
藤田は知り合いの新聞記者の新條と2人で粘り強く将棋連盟に掛け合うと、戦前に1度しか無かったアマチュアからのプロ入りの道を開きます。
しょったんはプロ棋士と6戦中3勝すると合格となるプロ編入試験に合格すると35歳でプロ棋士となります。
そしてこのことがきっかけとなり、翌年からプロ編入試験が制度化されるようになるのでした。
劇中では奨励会を突破できなかったしょったんが、どうして強くなったのかが一番気になったのですが、そのことは特に描かれてませんでした。
御本人によると、やはり年齢制限が相当なプレッシャーだったようですが、将棋しかない人生だったのが挫折を味わい、他の人生を知れたのがよかったようですね。
幸いにしてIT企業のエンジニアとして就職し、安定した生活が得られて、プログラミングの仕事自体が楽しかったのも功を奏したんだと思います。
「将棋しかない」から「将棋もある」と視野が広がったことで余裕が生まれ、趣味として純粋に将棋を楽しめたことが、結果的に強くなることに繋がっていったんだと思います。
ことわざの「急がば回れ」ではないですが、遠回りが功を奏した例なんだと思いました。
ただプロの世界は大変ですよね。
昨年は「神武以来の天才」と呼ばれ、最近ではひふみんの愛称で知られる、加藤一二三九段の引退が話題になりました。
森内九段のフリークラス転出にも衝撃が走りました。
今後、瀬川五段が同じことになる可能性もある訳です。
ただ今期は昇級出来そうなので、サラリーマンの定年くらいまではプロ棋士人生を送れるのではないかなぁと思います。
それにプロになる夢を叶えた訳ですし、遠回りした経験が糧となり、今後ますます将棋の普及に尽力されるんだと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズシャンテ 1か月フリーパスポート 0円
2018年 143作品目 累計125100円 1作品単価875円
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