Wの悲劇+ガラスの仮面、そしてフェイス/オフ ☆5点
2013年から2018年まで漫画雑誌イブニングに連載されていた松浦だるま作の同名漫画の実写映画化。
伝説の女優の娘で卓越した演技力を持ちながらも顔が醜い主人公が、母が残したキスした相手と顔が入れ替わる能力がある口紅を使い、女優として成功していく様を描いたサスペンス。
監督は佐藤祐市、W主演に土屋太鳳と芳根京子、共演に浅野忠信、関ジャニ∞の横山裕
予告編
映画データ
本作は2018年9月7日(金)公開で、全国296館での公開です。
東宝配給のフジテレビムービーですね。
劇場での予告編はあまり目にしなかった気がするんですけど、『キサラギ』の佐藤祐市監督ということと、若手演技派の土屋太鳳さんと芳根京子さんのW主演ということで観に行って参りました。
原作漫画の存在は知らず、未読での鑑賞です。
監督は佐藤祐市さん
リアルタイムでは知らず後から評判がいいのを知って、レンタルで借りて見た『キサラギ』がめちゃめちゃ面白かったのが印象に残っています。
古沢良太脚本だったんですね。
監督作は『ストロベリーナイト』『脳内ポイズンベリー』を観てます。
主演に土屋太鳳さん
近作は『PとJK』『8年越しの花嫁 奇跡の実話『となりの怪物くん』を観てます。
主演に芳根京子さん
近作は『(実写版)心が叫びたがってるんだ。』を観てます。
共演に横山裕さん
近作は『破門 ふたりのヤクビョーガミ』を観てます。
共演に筒井真理子さん
近作は『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』『淵に立つ』『アンチポルノ』『めがみさま』『身体を売ったらサヨウナラ』を観てます。
共演に檀れいさん
近作は『ママレード・ボーイ』『ラプラスの魔女』を観てます。
共演に浅野忠信さん
近作は『岸辺の旅』『グラスホッパー』『淵に立つ』『新宿スワンⅡ』『星くず兄弟の新たな伝説』『パンク侍、斬られて候』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
丹沢ニナ: 土屋太鳳
淵累: 芳根京子
烏合零太: 横山裕
淵峰世: 筒井真理子
丹沢紡美: 生田智子
富士原佳雄: 村井國夫
淵透世: 檀れい
羽生田釿互: 浅野忠信
あらすじ
幼い頃より自分の醜い容姿に劣等感を抱いてきた女・累。
今は亡き伝説の女優・淵透世を母に持ち、母親ゆずりの天才的な演技力を持ちながらも、母とは似ても似つかない容姿に周囲からも孤立して生きてきた。そんな彼女に母が唯一遺した1本の口紅。
それは、キスした相手の<顔>を奪い取ることができる不思議な力を秘めていたー。
ある日、累の前に、母を知る一人の男・元舞台演出家の羽生田が現れる。累は羽生田の紹介で、圧倒的な“美”を持つ女・ニナと出会う。ニナはその美しい容姿に恵まれながらも、ある秘密を抱え、舞台女優として花開かずにいた。母ゆずりの“天才的な演技力”を持つ累と、“恵まれた美しさ”を持つニナ。運命に導かれるように出会い、“美貌”と“才能”という、お互いの欲望が一致した二人は、口紅の力を使って顔を入れ替える決断をする。
累の“演技力”とニナの“美しさ”。どちらも兼ね備えた“完璧な女優”丹沢ニナは、一躍脚光を浴び始め、二人の欲求は満たされていく。しかし、累とニナ、二人がともに恋に落ちた新進気鋭の演出家・烏合が手掛ける大作舞台への主演が決まり、それぞれの欲望と嫉妬心が抑えられなくなっていく―。
(公式サイトhttp://kasane-movie.jp/#storyAreaより引用)
ネタバレ感想
口紅を塗ってキスしたら12時間だけ顔が入れ替わるっていう突拍子もない設定だったんですけど、いやー、これが凄く面白かったです。
累は役を与えられれば抜群の演技力で光輝くんですが、子供の頃からいじめられてたために、普段はおどおどしています。
対照的に、ニナの方は美人でちやほやされてるので、性格は高飛車で傲慢です。
それをそれぞれ芳根京子さんと土屋太鳳さんが演じてる訳ですが、キスして顔が入れ替わっても人格はそのままなので、ニナの顔をして性格は累の土屋太鳳さんと、累の顔をして性格がニナの芳根京子さんの、それぞれ入れ替わった演技がそれは見事なんです。
ニナと累の対称さは、いわばジキルとハイドだと思うんですけど、それを2人で演じる感じです。
ジキルとハイドの物語は何回も映画やドラマやミュージカルになってますけど、直近の映画だとジョン・マルコヴィッチが演じていて演技派が必須という役だと思います。
なので、お2人の演技対決が見もので、設定の突拍子のなさも気にならなく、リアリティをもって観ることが出来ました。
そして顔が入れ替わるってことでいえば、ジキルとハイドよりもっと直接的なのは1997年公開のジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』ですよね。
これは確か映画館で観た記憶があって、めちゃめちゃ面白かったんですけど、ちょっとそれを思い出しまして、土屋さんと芳根さんは、ニコラス・ケイジとジョン・トラボルタに匹敵すると思いましたよ。
物語の方も、当初は傲慢なニナが累を利用する感じだったのが、段々と累がニナを乗っ取っていく形となり、アイデンティティが失われる怖さも描いてたと思うんですけど、この辺の感じは『テイキング・ライブス』なんかを思い浮かべました。
あらすじにあるニナの秘密は眠り姫症候群といわれるクライン・レビン症候群を患っていて、何週間や何か月間も眠ってしまうため女優として花開かないのですが、映画内ではターリア病と言ってたと思います。
眠り姫はディズニーでは『眠れる森の美女』でお馴染みで、グリム童話では「茨姫」といわれますが、その原型となる物語に「太陽と月とターリア」という話があるようで、そこからきてるんだと思います。
「太陽と月とターリア」は本作と同じようにちょっと怖い話になってるので、気になる人はググってみて下さい。
オーディションによって烏合演出によるチェーホフの戯曲「かもめ」への出演が決まると、設定が舞台ということもあり「ガラスの仮面」や『Wの悲劇』を思い浮かべました。
特に『Wの悲劇』は、本作と同じように劇中劇が入れ子構造になっているので、21世紀版『Wの悲劇』と言ってもいいかと思います。
『Wの悲劇』の主演は薬師丸ひろ子さんでライバル役は高木美保さんでした。
ニナがターリア病によって頻繁に眠るようになると、累がニナの介護をしながらアイデンティティを奪っていく形になるんですが、母親の淵透世のことも段々と分かってきます。
累の母親も口紅を使って淵透世の顔を手に入れ、自宅地下室に淵透世を監禁していたのが分かります。
演じてるのは檀れいさんですが、『ラプラスの魔女』なんかで無駄に使われてたのとは段違いで、本作では伝説の女優という役どころがバッチリ嵌っていたと思います。
宝塚出身で舞台が映えるというのもあると思います。
「口紅を塗るとなぜ顔が変わるのか?」は考えても仕方ないので、この要素が魔女的なものと考えると、檀れいさんの魔女感は素晴らしかったです。
また、この口紅を使って顔を変える契約を悪魔的契約と捉えると、『エンゼル・ハート』なんかも思い浮かべたりしました。
そして何と言っても圧巻なのがラストを飾る劇中劇の舞台「サロメ」で、土屋太鳳さんの熱演はそのまま舞台で上演できるクオリティの高さで、度肝を抜かれました。
今年の邦画では『北の桜守』と『猫は抱くもの』で劇中に舞台シーンがありましたが、両作とも舞台風の演出にしたこと自体に疑問符が付くのに対し、本作ではその必然性もクオリティの高さも段違いでした。
元々ダンスが得意な土屋さんですが、『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンにも匹敵するんではないかと思います。
カメラワークもよかったと思います。
ただ残念なのは、劣悪な漫画原作の実写映画が作られ過ぎたせいで、観客も食傷気味になってるんだと思いますが、本作の初週週末動員ランキングが9位スタートで2週目以降は11位以下だったことです。
特に両主演の熱心なファンという訳ではありませんが、これほどの演技が日の目を見ないのは残念に思います。
自分はバラエティ番組を見ないので、映画公開に合わせて出演者が番宣するのはあまり目にしないのですが、ネットニュースなどを読む限り、映画に関係無いことばかり取り上げられ、バラエティタレントとして消費され過ぎてる気がして、視聴者もテレビで満足してしまって逆に劇場に足を運ばない結果になってる気がするんですよね。
何と言いますか、もっと「作品を観る」という土壌が作られればいいなぁと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズ日比谷(旧スカラ座) 1か月フリーパスポート 0円
2018年 142作品目 累計125100円 1作品単価881円
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