オリジナル脚本でやるべき ☆2.5点
映画化もされた『犯人に告ぐ』の原作者・雫井脩介が2013年に刊行し、「週刊文春ミステリーベスト10」の4位や「このミステリーがすごい! 」の8位となった、検察を主人公にしたミステリー小説を原田眞人監督・脚本によって映画化。
主演はW主演で元SMAPの木村拓哉と嵐の二宮和也、共演に吉高由里子、平岳大、松重豊
予告
映画データ
本作は2018年8月24日(金)公開で、全国334館での公開です。
ここ3作ほど、原田眞人監督による夏の大作が定番化してきてるんですけど、2015年の『日本のいちばん長い日』は松竹とアスミックエースの配給で興収13.2億円、2017年の『関ヶ原』が東宝とアスミックエースの配給で興収24億円となっていて、本作は東宝の単独配給となっています。
本作の特報的な予告編は半年以上前から目にしてて、当初のは木村さんと二宮さんが出てるだけでセリフも無く内容も分からないもので「ジャニーズ事務所の2大看板が共演する話題作」くらいにしか思ってませんでしたが、こちらの特報が流れると面白そうと思いました。
そして次にこの特報が流れると、松倉の風貌と山崎努さんの舌出しで、俄然観たいと思うようになりました。
音楽がかなり重厚で、『HERO』の久利生公平とは180度真逆な感じの重厚な検事にも興味を惹かれました。
例によって原作小説は未読での鑑賞です。
監督は原田眞人さん
近作は『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』を観てます。
主演に木村拓哉さん
近作は『無限の住人』を観てます。
主演に二宮和也さん
近作は『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』を観てます。
共演に吉高由里子さん
近作は『ユリゴコロ』を観てます。
共演に松重豊さん
近作は『アウトレイジ ビヨンド』『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』『リアル~完全なる首長竜の日~』『さよなら歌舞伎町』『グッドモーニングショー』『ミュージアム』『アウトレイジ 最終章』『探偵はBARにいる3』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『のみとり侍』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
最上毅: 木村拓哉
沖野啓一郎: 二宮和也
橘沙穂: 吉高由里子
丹野和樹: 平岳大
弓岡嗣郎: 大倉孝二
小田島誠司: 八嶋智人
千鳥: 音尾琢真
前川直之: 大場泰正
青戸公成: 谷田歩
松倉重生: 酒向芳
高島進: 矢島健一
桜子: キムラ緑子
運び屋の女: 芦名星
最上奈々子: 山崎紘菜
諏訪部利成: 松重豊
白川雄馬: 山崎努
船木賢介: 三浦誠己
田名部刑事: 阿南健治
小池孝昭: 田中美央
小田島の妻: 赤間麻里子
久住由季: 長田侑子
藤尾検事: 黒澤はるか
丹野の妻: 東風万智子
最上の妻: 土屋玲子
あらすじ
都内で発生した殺人事件。犯人は不明。事件を担当する検察官は、東京地検刑事部のエリート検事・最上と、刑事部に配属されてきた駆け出しの検事・沖野。最上は複数いる被疑者の中から、一人の男に狙いを定め、執拗に追い詰めていく。その男・松倉は、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の重要参考人であった人物だ。最上を師と仰ぐ沖野は、被疑者に自白させるべく取り調べに力を入れるのだが、松倉は犯行を否認し続け、一向に手応えが得られない。やがて沖野は、最上の捜査方針に疑問を持ち始める。「最上さんは、松倉を、犯人に仕立て上げようとしているのではないか?」・・・。互いの正義を賭けて対立する二人の検事。彼らの戦いに、待ち受けていた決着とは——。
(公式サイトhttp://kensatsugawa-movie.jp/about/story.htmlより引用)
ネタバレ感想
予告編の感じではかなり面白そうと期待したんですけど、結果的には梯子を外された感じがしました。
つまらなくは無かったんですが、重厚なミステリーを期待したら、想像の斜め上をいく展開で口があんぐりしてしまいました(笑)
メインになるストーリーは単純です。
まず、大田区蒲田で老夫婦刺殺事件が発生します。
殺害状況から警察は怨恨の線を疑うと、老夫婦が金貸しをしていたことが分かり、被害者から金を借りていた人物として複数の名前が上がります。
その中から容疑者の可能性がある者が数名に絞られると、事件を担当する最上検事は容疑者の中に忘れられない名前を見つけます。
その男の名前は松倉重生で、23年前の荒川少女殺害事件の重要参考人でした。
現場で捜査をする警察官の中で「松倉重生」の名前を聞いて、すぐにピンと来る者はいませんでしたが、23年前に学生だった最上がピンときたのは被害者が同じ学生寮に暮らしてた仲の良い後輩だったからでした。
松倉は重要参考人となったものの、事件は迷宮入りし荒川少女殺害事件は時効を迎えてしまいます。
事件当時、学生だった最上は松倉について詳しいことを知る術がありませんでしたが、検事になると松倉が少年時代に一家惨殺事件(3人だか4人だかを殺害)を起こしていて、少年法によって死刑などを免れていたことが分かります。
蒲田の事件が松倉によるものならば、これまでに6人~7人を殺害してることになり、最上は怒りに震えます。
そして何よりも、時効を過ぎてしまった後輩の無念を晴らしたいと考え、松倉を死刑台に送ることに取りつかれます。
最上は、蒲田の事件で松倉を逮捕するには物証・状況証拠共に乏しいことから、まず別件で逮捕しようと考えます。
最上は自身の情報屋である諏訪部を使って、松倉が勤務先のリサイクルショップから商品を横流ししていたことを掴むと、経営者に告発してもらって横領の罪で逮捕し、後輩の沖野検事に取り調べを担当させます。
最上を尊敬してる沖野は、最上の筋書き通りの取り調べをし、横領のことではなく蒲田の事件のことに終始します。
しかし松倉は沖野をおちょくるように「パッ」と口を開くばかりで、蒲田の事件を自供しません。
沖野は雑談として時効が過ぎた荒川の事件に水を向けると、調子に乗った松倉は犯行の詳細を語り始めます。
それを別室で聞いていた最上は、何が何でも蒲田の事件で松倉を起訴し、死刑判決に持っていくことを決意します。
警察の捜査本部でも松倉が荒川の事件の重要参考人だったことや少年時代の一家惨殺事件の犯人だったことが共有され、松倉が最有力容疑者として捜査が進んでいましたが、やはり容疑者として名前が挙がっていた弓岡嗣郎という男が、蒲田の駅前の居酒屋で事件を起こしたことを吹聴してたことが分かります。
警察は居酒屋の店主に話を聞きに行くと、酔っぱらった弓岡が隣の客に絡んで犯行の詳細を語っていたことが分かります。
特に妻の方を殺した際に、背中に刺した包丁が途中で折れたことを語っており、そのことは報道発表されておらず秘密の暴露にあたりました。
警察としても任意で弓岡から事情を聞かねばならず、松倉を最有力容疑者と見做すことは難しくなってきます。
最上は弓岡が有力容疑者として名前が上がると諏訪部に依頼し、拳銃と車を用意させます。
最上は警察による任意同行の前日に、弓岡が清掃員として働いているラブホテルに向かいます。
最上は弓岡に接触すると、警察が翌日に任意同行に来ることとヤクザに狙われてることを伝え、匿うと言って連れ出します。
弓岡がヤクザに狙われてるのは刺殺された老夫婦の息子の千鳥がヤクザだからで、千鳥は独自で仕入れた情報により弓岡を疑っていて、松倉を有力視している警察の捜査に腹を立てていました。
最上は弓岡に支度金を握らせ、知人が持っている使われてない別荘に案内すると言って車を走らせます。
そして移動中に松倉に罪を着せるべく、弓岡に犯行の詳細や凶器の在り処を語らせます。
車が人気のない別荘に着くと、最上は弓岡を射殺するのでした。
ちなみにこのシーンは『ミラーズ・クロッシング』を意識してるようです。
最上は明け方までかかって弓岡を埋めると捜査会議に遅れて顔を出します。
その捜査会議では、任意同行するはずだった弓岡の消息が掴めなくなったことが分かります。
それを聞いた沖野の検察事務官である橘沙穂は最上の行動に疑問を感じます。
橘は松倉に固執する最上に以前から疑問を抱いており、前日に最上が諏訪部に電話してるのを目撃したことから、沖野に連絡し一緒に弓岡の元に向かった矢先のことで、その捜査会議で最上が諏訪部に電話してたことを暴露します。
しかし最上は娘の奈々子のことで相談に乗ってもらおうと電話しただけだと冷静に言います。
そして最上は逆に、橘が検察不正を暴こうと潜入取材している作家であることをバラすと、橘は窮地に立たされ退職を余儀なくされるのでした。
橘という邪魔者を排除した最上は弓岡の供述通りに凶器をでっちあげ、警察に発見させます。
最上は凶器を証拠として松倉を起訴するように沖野に指示を出しますが、どう考えても弓岡が犯人で松倉を起訴するのは無理があると考えた沖野は反発します(特報で出てくる、凶器の包丁を洗ったのに書き込みのある競馬新聞で包んだのはやってることチグハグ、のくだり)
沖野は最上に「検事でいる意味が無い」と言われると、検事をあっさりと辞めるのでした(今どきの若者か)
検事を辞めた沖野は橘と行動を共にし、松倉の国選弁護人となった小田島誠司(何で倉庫みたいな事務所なの?)に情報を提供します(検事を辞めた沖野も弁護士のはず?ですよね)
強引に松倉を起訴して公判を維持していた最上でしたが、別の窃盗事件で逮捕された男が弓岡と一緒に老夫婦の家の前まで行き、犯行直後も弓岡と一緒に居たことを証言したことから、松倉は無罪釈放となるのでした。
諏訪部は松倉が釈放されると、最上の祖父と諏訪部の父がインパール作戦に従軍していたという一点のみの絆から、指示をくれれば松倉を始末すると言いますが、最上は拒否します。
松倉は小田島弁護士を後援する死刑廃止論者の大物人権派弁護士の白川雄馬が開いた無罪を祝うパーティーで、厳しい取り調べをした沖野から謝罪されますが、激昂するとそのままパーティーを抜け出します。
松倉は商店街をスキップするようにして歩いていると、アクセルとブレーキを踏み間違えた老人が運転する車に轢き殺されるのでした。
しかし、商店街には諏訪部の部下の謎の女の姿がありました。
松倉は死亡し、弓岡は行方不明のまま事件は終結します。
後日、沖野は最上の別荘に呼ばれると、最上の同窓で政権不正を暴こうとして、逆に追い詰められて自殺した衆議院議員の丹野から託された資料を見せられます。
そして沖野は最上から一緒に不正を暴こうと誘われますが、沖野はこれを拒否すると慟哭にも似た叫びを上げて別荘を去り映画は終わります。
(慟哭にも似た叫びを上げて←上手いこと言ったつもり)
うーん、まずメインのストーリーからいくと、予告編にあるような「対立する正義」というのは描かれて無くて、最上と沖野の検事としての対立が見ものになるかと思ったんですけど、最上は復讐に取りつかれてるだけで正義には程遠く、最上を見てて思ったのは「無理を通せば(無理が通れば)道理が引っ込む」だよなぁ、です。
蒲田の殺人事件に関してはミステリーでもなんでもなくて、普通に捜査すれば簡単に弓岡に行きついちゃう(実際に劇中でもそうですけど)ものなので、骨太なミステリーを期待していくと拍子抜けしちゃうんですよね。
容疑者になる松倉に関しては、登場時のインパクトはあり、表面的にも、いかにもステレオタイプ的なサイコパスなんですが、話が進んでも松倉の背景とか深みが描かれる訳ではないので、出オチで終わってしまってるんですよね。
結果的にも蒲田の事件の犯人ではない訳ですし。
松倉に関しては観てる最中は気付かなかったのですが、感想書いてる途中で誰かに似てるな?と思ったんですが、この事件に似てるんですね。
最上は松倉を死刑台に送ろうと固執するあまり、殺人と冤罪という二つの罪を犯す訳ですが、正直言って「馬鹿なのかな?」と思います。
仮に松倉を死刑判決に出来たとしても、劇中で出てくるみたいに死刑廃止論者の弁護士(山崎努さんの舌出すシーンで見たいと思ったのに、あれだけしか出てこないとは…)や団体が出てきて、世論を二分して事件とは関係無いところで対立を生む訳じゃないですか。
しかも、この場合は冤罪なので、バレたら検察の信用も失墜します。
弓岡を殺して「無理を通して道理が引っ込む」のであれば、そんな七面倒臭いことしないで、松倉を自分の手で殺せばいいじゃないですか。
これならば、罪も殺人という一つだけですし、松倉も確実に死にます。
自分は原作を読んでないので勘違いしてたんですけど、最上と丹野と荒川で殺された少女(久住由季)は、児童養護施設みたいな所で育ったと思ったんですよね。
なので、最上と丹野の絆の強さを理解出来たし、由季に関しても最上と丹野にとってドリカム状態みたいな感じだと思ったので、復讐することには説得力があると思ったんです。
原作によると「北豊寮」という北海道出身者向けの学生寮みたいで、少女はその管理人の娘のようですが、劇中、後輩って言ってなかったかな?
まぁ、とにかく復讐することには説得力があると思ったんですけど、その復讐が全然グダグダだったので何だかなぁと思ってしまった訳です。
最上は諏訪部に「松倉を殺りましょうか?」と聞かれて拒否しますが、結果的には殺される訳ですが、これは諏訪部が「忖度」したんだと思います。
殺し方も、近年問題になっている「アクセルとブレーキの踏み間違い」、のフリをするというものでした。
それから、橘が潜入取材してるのは、国家公務員試験の2種または3種を突破してまでする奴がいるのか?っていうのは置いといて、文春のユニクロ潜入取材を元にしてるんだろうなぁと思います。
メインとなる話はこんなところですかね。
骨太なミステリーで、双方の正義が激しく火花散らして対立する話かと思ったら、単なる復讐譚でしかも最後は殺し屋が解決してくれるっていうエンターテインメント作品で『グラスホッパー』みたいになっちゃったな、と思いました。
そして問題はここからです。
物語の本筋には全く絡んでこない、丹野の背景です(笑)
「あ、あれ、アパホテルのことだな」「日本会議のことだな」と遠巻きに政権批判してるのは分かるんですが、それが最上の正義とどう繋がるのかが全く分からない(笑)
監督が言いたいことやりたいことは分かるのですが、それをただぶっこんだだけのごった煮に過ぎず、映画の体をなして無いと思うのです。
(女性検事が上司に訴えてたシーンが某山口氏の件だとは気づかず…)
この遠巻きな政権批判の部分は鑑賞中から、「原作には無いんだろうな」と思って観てましたが、感想書くにあたり調べたら、やっぱり全然無いようです。
原作モノの映画化にあたっては、自分は何が何でも原作至上主義ではありませんが、ここまで自分のやりたいことを詰め込むのは、違うんじゃないか?と思ったんです。
サブタイトルにも書きましたが、このテーマでやりたいならオリジナル脚本(企画として通り辛いのは分かります)で、しっかりしたものを書いて、それこそ『万引き家族』のように海外の映画祭を狙うべきじゃないか?と思うんです。
本作のような作りではただの「パヨクごった煮映画」になってしまってると思います。
しかも『万引き家族』の方は全くお門違いな批判に晒されましたが、本作の方では全くそうした声が上がっていないのも、何だかなぁと思います。
丹野の葬儀シーンでの大駱駝艦による舞踊とかもよく分からなかったんですが、昨年、大駱駝艦による舞踊シーンがあった『あゝ、荒野』が様々な映画賞を受賞したからかなぁ?と穿って見てしまいます。
木村さんや二宮さんをはじめ、俳優陣の演技は熱を帯びてていいと思うんです。
ただ、どうにも脚本がチグハグで、本作と同じように劇中に体制批判や社会批判を盛り込みながら、ただの仇討ちで終結した『パンク侍、斬られて候』と並んで、2018年の邦画の2大トンデモ映画になってしまったと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズ上野 1か月フリーパスポート 0円
2018年 136作品目 累計125100円 1作品単価920円
コメント