犬猿 評価と感想/原作モノを撮って進化した吉田恵輔監督オリジナル作品

犬猿
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脚本良し、演出良し、役者良しの傑作 ☆5点

『銀の匙 Silver Spoon』や『ヒメアノ〜ル』の吉田恵輔監督による『麦子さんと』以来4年ぶりとなるオリジナル脚本作品で2組の兄弟姉妹の確執を描く。
主演に窪田正孝、新井浩文、お笑いコンビのニッチェの江上敬子、筧美和子

予告編

映画データ

(シネマトゥデイ)

映画『犬猿』の作品情報:『麦子さんと』『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔監督が窪田正孝らを迎え、兄弟と姉妹をテーマに描いたドラマ。刑務所から出所したばかりの凶暴な兄と真面目な弟、家業を切り盛りする姉とおバカな妹の対立がエスカレートしていくさまを映す。
(ぴあ映画生活)
『犬猿』は2017年の映画。『犬猿』に対するみんなの評価やクチコミ情報、映画館の上映スケジュール、フォトギャラリーや動画クリップなどを紹介しています。
本作は2018年2月10日(土)公開で、全国36館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には57館での公開となるようです。

予告編はテアトル新宿で幾度か目にしていて、『麦子さんと』以来になる吉田恵輔監督オリジナル脚本ということで楽しみにしていました。

監督は吉田恵輔さん
作品は『ばしゃ馬さんとビッグマウス(2013年マイベストテン1位)』『麦子さんと』『銀の匙 Silver Spoon』『ヒメアノ~ル(2016年マイベストテン邦画4位)』を観てます。

主演に窪田正孝さん
近作は『予告犯』『ヒーローマニア -生活-』『ラストコップ THE MOVIE』『東京喰種 トーキョーグール』を観てます。

主演に新井浩文さん
近作は『闇金ウシジマくん』『アウトレイジ ビヨンド』『さよなら渓谷』『愛の渦』『まほろ駅前狂騒曲』『百円の恋』『バクマン。』『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』『葛城事件』『銀魂』『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』『斉木楠雄のΨ難』を観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

金山和成: 窪田正孝
金山卓司: 新井浩文
幾野由利亜: 江上敬子
幾野真子: 筧美和子
チンピラ: 阿部亮平
キャバクラ店長: 木村知貴
キャバクラ店員: 後藤剛範
金山家母: 土屋美穂子
劇中映画主人公: 健太郎
劇中映画主人公: 竹内愛紗
幾野家父: 小林勝也
幾野家母: 角替和枝

あらすじ

金山和成(窪田正孝)は地方都市の印刷会社で働く営業マン。イケメンだが、真面目で堅実な彼は、父親が友人の連帯保証人になって作ってしまった借金をコツコツと返済しながら、老後のために毎月わずかな貯金をする地味な生活を送っていた。そんなある日、彼のアパートに、強盗の罪で服役していた兄の卓司(新井浩文)が刑期を終えて転がり込んでくる。卓司は和成とは対照的に、金遣いが荒く、凶暴な性格でトラブルメーカー。娑婆に出てきて早々にキャバクラで暴れたり、弟の留守中に部屋にデリヘルを呼んだりとやりたい放題。和成はそんな卓司に頭を抱えるが、気性の激しい兄には文句のひとつも言えない。しかし、和成はそんな卓司のことを密かに天敵だと思っていた。

一方で、そんな和成に仄かに恋心を抱いている女性がいた。和成が頻繁に仕事を依頼する、小さな印刷所を営む幾野由利亜(江上敬子)である。親から引き継いだ会社を切り盛りする彼女は勤勉で頭の回転も速く、寝たきりの父親の介護もしながら仕事をテキパキとこなす“できる”女だが、太っていて見た目がよくない。その彼女にも実は天敵がいた。妹の真子(筧美和子)だ。由利亜の下で印刷所の手伝いをしている彼女は、姉と違って仕事の要領が悪く、頭も決してよくないが、顔やスタイルの良さから、時々グラビア撮影やイメージビデオに出演するなど芸能活動もしていて、取引先の男性にも人気がある。由利亜は仕事もできないくせにチャラチャラして、チヤホヤされているそんな妹にいらつき、真子もまた節制できずにぶくぶくと太っている姉のことを小バカにしていた。

しかしある時、金山兄弟、幾野姉妹に変化が訪れる。卓司が始めた胡散臭い輸入業の仕事が成功したことで和成の心に複雑な気持ちが芽生え出す。また、由利亜の仄かな恋心をよそに、和成と真子がつき合い出したことから、嫉妬に燃えた由利亜がストーカー化。一方の真子は、エロまがいのグラビアを一向に卒業できない焦りから枕営業へと走り、ラブホテルで卓司と鉢合わせしてしまったために事態は急変するのだが……。

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

吉田恵輔監督のオリジナル作品『机のなかみ』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』で共同脚本をされていた仁志原了さん。

ベルリン国際映画祭など、世界の映画祭を震撼させている心理サスペンス『FORMA フォルマ』。今作が初監督となる女性監督とともに、6年の歳月を費やし、繊細な心理描写や張り巡らされた伏線などを描いた、新進気鋭の脚本家・仁志原了が自身の創作活動について語る。
2016年8月26日に大動脈解離でお亡くなりになり、吉田監督は『麦子さん』の後、『銀の匙』『ヒメアノ~ル』と漫画原作が2本続いた訳ですが、盟友ともいうべき存在を失ってどうなるのだろう?と思いましたが、本作も素晴らしい作品でした。


本作では脚本協力で仁志原さんの名前がクレジットされていて、吉田・仁志原が紡ぎ出す絶妙な台詞回しは健在で、大変面白い脚本に仕上がっていました。

それと同時に吉田監督の前作『ヒメアノ~ル』から発揮された容赦ないバイオレンス描写からくる不穏さが、これまでの吉田作品の面白可笑しくてホロリと泣ける作風にプラスされていて、緊張感がありながらも笑える物語となっていて作品により深みを与えていました。

日常のあるあるを丁寧に掬い上げた話が、毎日どこかで起きてる家族間の事件にも繋がりそうな広がりを見せるのは、確実に『ヒメアノ~ル』を撮ったことがいい方に作用していて、お話自体は従来通りこじまりしたものながらスケール感がとても出ていると思いました。

兵庫県三田市で今年1月、大阪大の男子学生が同居する兄を包丁で切りつけ殺害した事件で、神戸地検は13日、殺人の疑いで送検された阪大基礎工学部4年、細谷早志(そうし…
本作の冒頭の入り方は『ヒメアノ~ル』の予告編で培った方法が使われていて、観客を欺く感じになっているんですが、これもまた上手いんですよねー。

本作は製作委員会方式で東映ビデオが入ってるんですが東映のオープニング(最近、荒磯に波のやつ見ないんですが?)が終わると、いきなりスイーツ映画の予告編から始まります。
ボーっとしてると上映前予告と勘違いするんですが(笑)、その劇中予告編は観客の感想コメントが入るタイプのやつで、筧美和子さん演じる幾野真子が感想コメントを喋っています。
(↓こういうやつ)

するとそれは和成が仕事で移動中のカーテレビで見ているCMだと分かります。

和成が取引先の幾野印刷に着いて由利亜と打ち合わせを終えると、妹の真子が出てきてます。
和成が「あー、あの映画のやつ見たよ」と言うと、真子が「やだぁ、わざわざ見なくても!私、太って映ってません?」という流れになるんですが、ここまでで既にキャラクターの性格や関係性、状況説明がまとめられていて非常に上手いんですよね。

そしてあの映画の感想コメントが、エキストラや売れない役者で仕込まれていることに、ニヤッとできて、こういうところも皮肉が効いてるなぁと思います。

インターネットが発達したお陰でTV局の不正が明るみに出つつある。これまで、いいシーンやいいコメントを取りたいT…
和成は兄の卓司が出所していたのは分かっていましたが、兄からの電話をシカトしてます。
しかし仕事を終えてアパートに帰ってくると卓司が待っています。
「何でここが分かったの?」「ババアに住所聞いた」
母親のことをババアと呼び、首筋に見えるタトゥーからは卓司のヤバさが伝わってきますが、そんな兄に「電話くれてたでしょ。ちょうどこれから電話しようと思ってたんだよ」と平気で嘘を言う和成とのやり取りは、ラストの兄弟喧嘩に掛かってきます。

物語は兄弟姉妹喧嘩を描いてるので取り立てて何か大きなことが起こる訳ではありませんが、台詞回しが抜群に面白いんですよね。
そして何か大きなことが起こりそうと思ったときに、見事に外してきます。

和成が幾野姉妹とステーキを食べるシーンがありますが、鍵が無くてアパートに入れなかった卓司がステーキ店に来て合流することになるんですが、あの時、真子のこと取られると思ったんですけど、そっちには行かないんですよね。

卓司は胸を揉んでたキャバクラ嬢にしても、真子と出くわしたホテルに呼んだデリヘル嬢にしてもブスなんですが、由利亜と話した際「彼氏いたことあるの?」「じゃ、処女なの?」「じゃ、俺がやってあげようか?」という流れから「いや大丈夫、俺、デリヘルではノーチェンジの卓司って呼ばれてるから」という名言が飛び出すんですが、そこの伏線回収するのかと(笑)
いや、映画館では一番そこで爆笑が起きてましたけどね(笑)

でも何気にこういうのも卓司の人柄を表していて、登場したときはどんな恐ろしい奴なんだと思ってましたが、卓司はヤクザでもチンピラでも無くてガキ大将がそのまま大きくなったような人物でした。

ダイエット薬の輸入業で瞬く間に儲けるとBMWを買い高級マンションに住みますが、ジジイと呼んでいた父親の借金を完済し、高級マッサージチェアをプレゼントします。
和成には高級車は受け取らないだろうからということでエコカーをチョイスする優しさも見せます。

誰もいない現場事務所からユンボ使って金庫を盗む簡単なヤマと聞けばそれを信じ、ダイエット薬の輸入業が儲かると聞けばそれを信じますが、結局、違法ドラッグ販売の罪で指名手配されることになります。

金山兄弟の関係性は『ヒメアノ~ル』の岡田と森田の関係性に似ています。
高校時代仲のよかった岡田と森田ですが、森田がいじめられるようになると、自分もいじめられたくないばかりにいじめっ子に森田を売ります。

本作では、幼いころは「兄ちゃん、兄ちゃん」と慕って兄によって守られていた和成が、金庫の盗難計画を警察にチクり兄が逮捕されることになります。
信じていた弟に裏切られる兄。
一方、弟は、自分の嘘のせいで卓司の舎弟分のキャバクラ店長が土下座させられても見てみないふり。
営業先のゴルフ練習場で卓司の後輩のチンピラに因縁を付けられると、口止めされたにも関わらず兄に告げ口します。
卓司は和成に「俺に話せばどうなるか分かってたよな」と言いますが、和成は自らの手を汚さず兄を利用するタイプです。
結果的に卓司が刺されたのは和成の嘘や告げ口のせいで、卓司と和成の悪のどちらが大きいかと言えば和成の悪の方がより大きいです。

幾野姉妹の対立は『桐島、部活やめるってよ』や『ばしゃ馬さんとビッグマウス』でも描かれていた持つ者と持たざる者の話ですよね。

頭もよくて出来る女だけど容姿が伴わない姉と、バカだけどカワイイというだけでチヤホヤされる妹。
どちらもないものねだりなんですけど、努力で解決出来る部分もあります。

姉は髪型や洋服や鞄などに気を使えば他人に外見的な好印象を与えられますし、妹は聞き流すだけで英語が身につくという安易な教材に頼らないで地道に勉強すれば英語が話せると思うのですが、2人ともなりたい自分になる為の正しい方向の努力をしてないんですよね。

姉は妹に任せないで全部自分で抱え込むからストレスが溜まり深夜のお菓子に手が伸びますし、妹は任せてもらえないからいつまでも出来ないという悪循環に陥っていますが、この姉妹の場合はお互いの良いところを認め合えればスムーズにいくのになと思いました。

親や兄弟姉妹は血こそ繋がっていますが、友人や知人と同じであくまで他人であり自分ではありません。
自分では無いので思い通りにならないのは当然で、「他人は自分の思い通りにはならない」と思っていれば、それほど腹が立ちません。

「何を当たり前のことを」と、見出しを見て思った方は少なく無いでしょう。しかし、この事実を分かっていない(知らな…
自分は日頃からこのスタンスなので、正直このテーマはそれほど刺さらなかったのですが、それでもこの映画が面白くて傑作であるのは確かだと思います。

キャスティングも見事ですよね。
主演4人以外で名前を知ってる役者さんといえば角替和江さんくらいしかいないんですが、ほぼ4人に絞ってこれだけのお話を展開させられるのも凄いと思いました。

窪田正孝さんは常々、演技力の高い方だとは思っていたんですが、いまいち映画作品には恵まれてない気がしていましたが、本作では演技力の高さと作品の質が合致していてとてもよかったと思いました。

新井浩文さんは、新井浩文さんらしい(笑)役なんですが、知人に「~~だわー」って、ああいう喋り方をする性格的にも似てる人がいたので、めちゃめちゃツボでしたね。
その人も身内にはめちゃめちゃ優しいんですが、他者に見せる顔は凶悪で裏切りは絶対に許さないという人なので卓司の心情はよく分かりました。

 お笑いコンビ「ニッチェ」の江上(えのうえ)敬子(33)とタレントの筧美和子(23)が映画「犬猿」(10日公開、吉田恵輔監督)で中身も外見も正反対な姉妹を演じている。江上は、勤勉に印刷会社を営むが、自分の見た目にコンプレ【芸能】
男性陣には演技経験豊富な人を起用して、女性陣はその反対というのもキャスティングの妙です。

藤山直美さんで映画を撮りたい吉田監督が、現在は叶わぬことから、ニッチェの江上敬子さんの中に若い頃の藤山直美さんを見て起用したというのも凄いなぁと思います。

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でも泉ピン子さんも今でこそ大女優ですが、元はコメディエンヌで橋田壽賀子さんに見出された訳ですし、江上さんは元々は役者志望のようですから、これからも俳優業が続くといいですね。
何らかの映画賞で新人賞は獲ると思います。

筧美和子さんをこの役にキャスティングした吉田監督は、現実を見つめる厳しい目と優しさを持ち合わせていますよね。

グラビアアイドルの10年後、20年後を想像してオファーかけるなんて中々出来ないと思いますし、筧さんも等身大の役とはいえ自分自身の心を傷つける役をよく引き受けられたと思います。

本作は東京テアトル配給でさすがだと思ったんですが、いかんせん上映館数が少ないですよね。
前作の『ヒメアノ~ル』が130館前後の公開館数で2億円超しか興収がいかなかったのは驚きなんですが、前々作の『銀の匙 Silver Spoon』が東宝配給で285館スタートで興収7.8億円と10億円届かなかったのが響いてる感じでしょうか。

2作連続でジャニーズタレントを起用したものの興収に結びつかなかったのは痛いんですが、作品は良いのに興収に結びつかない感じは歯痒い気がします。

映画ファンには評価の高い吉田恵輔監督作品が一般の方にも認知されてヒットして欲しいですし、何らかの映画賞を受賞して欲しいんですが、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』を総スルーする大手マスコミの日本の映画賞には期待できないのかなぁなんてことも思った『犬猿』の鑑賞でした。

鑑賞データ

テアトル新宿 TCGメンバーズ会員料金 1300円
2018年 28作品目 累計17800円 1作品単価636円

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