海を駆ける 評価と感想/ほとりの朔子を進化させたファンタジー

海を駆ける 評価と感想
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バンダ・アチェの自然が美しい ☆4点

前作『淵に立つ』で2016年第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した深田晃司監督の新作。
インドネシアを舞台にした謎の男を巡るファンタジーでオリジナル脚本作品。
主演はディーン・フジオカ、共演に太賀、阿部純子、鶴田真由

予告編

映画データ

海を駆ける : 作品情報 - 映画.com
海を駆けるの作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」の深田晃司監督が、ディーン・フジオカを主演にイ...

本作は2018年5月26日(土)公開で、全国24館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には65館での公開となるようです。

予告編はテアトル新宿で鑑賞時に何度か目にしました。
予告編ではそんなにそそられなかったんですけど、深田晃司監督作ということで観に行ってきました。

監督は深田晃司さん
作品は前作の『淵に立つ』を劇場で、『ほとりの朔子』をWOWOWで放送してたのを見ました。

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『淵に立つ』は面白かったんですけどテーマとしては観客に委ねる部分が多くて難しかったんですが、WOWOWで『淵に立つ』が初放送された流れで放送してた『ほとりの朔子』が面白かったんですよね。


いわゆる十代最後のひと夏モノなんですが、それまでに観た二階堂ふみさんの中で一番瑞々しくて魅力的でした。
他の登場人物も普通のようでいて、ちょっと変わってるという設定で深田監督によるオリジナル脚本だったんですが、この作品で気になる監督さんになりました。

主演はディーン・フジオカさん
近作は『結婚』『鋼の錬金術師』『坂道のアポロン』を観てます。

共演に太賀さん
近作は『淵に立つ』『追憶』『南瓜とマヨネーズ』を観てます。

共演に阿部純子さん
近作は『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY ―リミット・オブ・スリーピング ビューティ―』『孤狼の血』を観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

ラウ: ディーン・フジオカ
タカシ: 太賀
サチコ: 阿部純子
貴子: 鶴田真由
クリス: アディパティ・ドルケン
イルマ: セカール・サリ

あらすじ

インドネシア、バンダアチェの海岸で謎の男(ディーン・フジオカ)が倒れている。
日本からアチェに移住し、NPO法人で災害復興の仕事をしながら息子タカシ(太賀)と暮らす貴子(鶴田真由)。タカシの同級生のクリス(アディパティ・ドルケン)、その幼馴染でジャーナリスト志望のイルマ(セカール・サリ)が、貴子の家で取材をしている最中、その正体不明の日本人らしき男が発見されたとの連絡が入る。まもなく日本からやって来る親戚のサチコ(阿部純子)の出迎えをタカシに任せ、貴子は男の身元確認に急ぐ。
記憶喪失ではないかと診断された男は、結局しばらく貴子が預かることになり、海で発見されたことから、インドネシア語で「海」を意味するラウと名付けられる。ほかには確かな手掛かりもなく、貴子とイルマをはじめ、タカシやクリス、サチコも、ラウの身元捜しに奔走することになる。片言の日本語やインドネシア語は話せるようだが、いつもただ静かに微笑んでいるだけのラウ。その周りでは少しずつ不可思議な現象が起こり始めていた…。

(公式サイトhttp://umikake.jp/story.htmlより引用)

ネタバレ感想

作品の印象としては公式サイトのプロダクションノートhttp://umikake.jp/prono.htmlにもありますが『ほとりの朔子』を発展させた感じで、謎の男ラウは『淵に立つ』の八坂といった感じでしょうか。
八坂よりはもっと神っぽい存在でしたが。

物語は謎の男を巡るファンタジーなんですが、タカシ、サチコ、クリス、イルマの若者4人の話でもありました。

まず大学生であるタカシは生まれも育ちもインドネシアで母の貴子は日本人、父親はインドネシア人だと思われますが作中では登場せず言及もされません。
友人たちとはインドネシア語で話し、母親とは日本語で話しますが、18歳のときに選んだ国籍はインドネシアで自分はインドネシア人だと思っています。

サチコは日本からやってきた大学生で貴子の姪、タカシのいとこで、『ほとりの朔子』だと朔子に相当する人物です。
朔子のときも叔母にあたる人物は鶴田真由さんが演じていて、滞在先で交流を深めるのが太賀さんなんで設定としては似ています。
サチコがインドネシアにやってきたのは理由があって、亡くなった父親に遺灰をインドネシアに撒いて欲しいと託されていたためでした。
父親から希望場所として写真も託されていましたが、肝心の場所が分からずクリスが手伝ってくれることになります。
物語の途中でサチコが大学を辞めていることが貴子の口から語られます。

クリスはタカシの親友で大学の同級生です。
タカシと同じくカメラを趣味としていますが、タカシより腕は劣るようです。
幼馴染でジャーナリスト志望であるイルマのカメラマンとして手伝っています。

イルマは2004年のスマトラ島沖地震による津波で生活が一変した人物です。
会社を経営して裕福な家で育ったイルマですが、父以外の家族は亡くなり、父は足を悪くして会社も倒産し仮設住宅で貧しい暮らしをしています。
ジャーナリスト志望ですが学費が無いため大学に行くことが出来ず、雑貨店でバイトしながら地元のローカルなニュースを自分で取材してます。

物語はこの4人が貴子と一緒にラウの身元探しをしながら、このことを取材するイルマに協力し、サチコのことを好きになったクリスが写真の場所探しも手伝うというのが同時並行で描かれます。

ラウの身元探しはホテルから行方不明になった日本人の話などが出ますが、中国人や韓国人と区別の付かない現地の人の話もあって有力な手掛かりは得られません。
しかしラウと行動を共にする中で不思議なことが起こります。
ラウがホーミーのような声を出すと、漁師が釣った魚が生き返ったり、津波で家族を亡くした人にその姿が見えたりします。

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また、サチコが貴子の家でお風呂を勧められると、インドネシアなのでシャワーしかなく、サチコが「お湯が出ない」と言うと貴子は「水だけ」と言いますが、ラウが水道管に触るとなぜかお湯が出ます。
極めつけは熱中症で倒れてる少女を見つけたときに、ラウが手をかざすと空気中の水分を集めて水の玉を作り少女に飲ませたことでした。
またイルマはそのシーンをバッチリ録画出来ました。

イルマは記憶を失った身元不明の謎の男で特殊能力を持つラウの記事を書いて地元新聞社に持っていきますが、映像はCGだろうと言って取り合ってくれませんでした。
貴子の家でサチコの歓迎パーティーが開かれたときに、貴子の友人でジャカルタの新聞社に勤めるレニを紹介されると、イルマは映像を見せます。
レニは映像に興味を持ち、調査をするので貸して欲しいと言います。
断る理由の無いイルマはレニに映像を貸します。

貴子はその日、ジャカルタでもラウの身元探しをしてみると言って出かけていきましたが、なぜかレニがラウを伴って記者会見していました。
目的はもちろんラウの身元捜索のためでしたが、イルマが撮った映像を自分が撮った映像だと言って報道陣に見せていました。
報道陣はラウに実際に見せて欲しいと言うと、ラウは目の前でやってみせるのでした。

会見の様子を自宅のテレビで見ていたタカシとサチコはまずラウが記者会見を開いてることにビックリしますが、レニがイルマの手柄を横取りしてることにも驚きます。

会見で疲れたラウが「もう帰る」と会見場を出ていくと、そのタイミングでタカシとサチコの前に現れるんで、更にビックリします。
タカシは思わず「どこでもドア」ではないかと部屋のドアを確認するのでした。

ラウはテレビに出て顔を知られたことから貴子は「これからはあまり出歩かない方がいい」とアドバイスすると、ラウの身元探しのお話は小休止となります。

サチコのことが好きになったクリスはタカシに「日本人は何と言ったら喜ぶのかな?」と相談すると「月が綺麗ですね」と言うといいとアドバイスされます。
実は日本で育ったことのないタカシは日本のことを知りませんでしたが、母親である貴子が日本のことをもっと知っておいた方がいいと近代文学を勧めていて、その中で夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したことをタカシに話していたのでした。
クリスはサチコの歓迎パーティの際、意を決して「月が綺麗ですね」と言いますが、サチコは当然それが告白だとは分からず、月も出ていなかったので、「何を言ってるか分からない」と答えるのでした。
クリスはサチコにフラれたと思い込みます。

サチコの写真の場所探しも進展しませんでしたが、サチコが高熱を出して寝込んでいると、夢の中に現れたラウが一瞬にしてサチコを海に引き込みます。
海原に投げ出されたサチコが岸を見ると、トーチカから海の写真を撮る父親の姿を確認できました。
その場所が写真の場所だと確信したサチコは特徴を覚えます。
目覚めると熱が下がっていましたが、熱を出したと聞いて心配したクリスがお見舞いにやってきます。
サチコは写真の場所にトーチカがあったことを伝えると、クリスはおそらく北の方の島で戦時中にトーチカがあった場所だろうと言い、サチコを連れて行くと約束します。

一方、レニの件で落ち込んでいたイルマですが、新たな取材をするべくクリスに手伝って欲しいと言います。
取材場所はトーチカのある北の島で、それを聞いたクリスはサチコの写真の場所探しも兼ねることにします。

サチコが北の島へ向かう日、貴子は仕事とのことでタカシとラウはサチコに付き合うことにします。
しかしフェリー乗り場に向かう途中、植林作業をしている貴子を見かけるとラウは車を降りて貴子の元へ向かいます。
サチコとタカシはラウを残してフェリー乗り場に向かいます。
フェリー乗り場に着いた2人でしたが暫く待ってもクリスが現れません。
タカシが「クリスは来ない気がする」と言うとフェリーに乗り込みます。

サチコが乗り込んだ後、フェリー乗り場にクリスが現れます。
暫くするとイルマも現れ、「随分早くから居るね」とクリスに声を掛けます。
クリスはサチコを迎えるため少し前から来てましたがサチコは現れませんでした。
クリスはもうすく出発するフェリーにイルマと乗船します。

フェリーが出発するとサチコはイルマと楽しそうに談笑するクリスを見つけ、「一緒に行くって約束したのにどういうこと?」と言ってクリスをひっぱたきます。
ひっぱたかれた方のクリスは「君の方こそ来なかったし、だいいちサチコにフラれてるし」とぼやくとサチコは「私フッてない」と言います。
クリスが告白の顛末を説明し、それを聞いたタカシが補足すると、サチコは事の顛末を理解し2人に意味を説明してあげると一同爆笑で仲直りするのでした。
サチコとクリスが会えなかったのは、クリスがこの前に携帯を水没させて新しい携帯にしたため連絡先を紛失しており、会った人には連絡先を聞いて紙に書いてメモしていましたが、サチコに電話を掛けるのに間違えてタカシに掛けていて正しい待ち合わせの時間が伝わって無かったのでした。

一同は北の島に到着して写真の場所を探してると、なぜかラウも来ていてタカシとサチコは顔を見合わせます。
トーチカ付近まで来るとサチコは写真を確認し、父親が見た景色はこの場所だと確信します。
イルマのことが気になってるタカシは浜辺を歩きながらインドネシア語で「月が綺麗ですね」とイルマに言ってみますが、意味が伝わらずテレを隠すようにTシャツを脱ぐと泳いでくると言って海に入ってきます。
サチコは遺灰をトーチカから撒き、その様子をイルマは撮影します。
クリスはトーチカの上から島の景色を撮影します。
ラウは島の子供たちと川で遊んでいますが、川が逆流するイメージが挿入されます。

各々がやることを終えて浜辺で海を眺めていると、島の人たちの葬儀の列が通ります。
タカシが何があったのかを尋ねると、ラウが子供4人を川に引き込んで亡くなったと言われます。
ラウと一緒だった4人は不思議な顔をしていると、ラウは「もう帰らなきゃ」と言って海に入っていきます。
海の上を駆けていくラウに驚いた4人が後を追うと、4人も海の上を駆けていくことが出来ます。
島の人たちも4人の後を追って海に入りますが、海の上を駆けることは出来ませんでした。

沖に出たラウが急に振り向いて4人を見るとそのまま海の中に沈んでいって消えてしまいます。
ラウが消えると4人も海の中に投げ出されてしまいますが、4人が浮かび上がってくると浜を目指して泳ぎ始めて映画は終わります。

 

最初に触れた公式サイトのプロダクションノートには

津波で家族が死んだのも神様が望んだこととあっけらかんと言ってのける運転手。すべてが日本における津波の受容の仕方とは異質に思え、強烈に価値観を揺さぶられました。

という監督の言葉もあるんですが、ラウのイメージはこの価値観なんじゃないかと思います。

中盤までは人を救う奇跡を見せていたラウですが、終盤は植林作業をしてる貴子に触れた途端に貴子が倒れたり、川で子供が亡くなったりするシーンが描かれていて、善だけのイメージでは無くなります。

ラウの存在は”水”そのものと言いますか、それこそ名前の通り”海”そのものと言いますか、ローマ神話やギリシャ神話ならネプチューンやポセイドンになると思うんですが、自然の恵みであり脅威でもあるんだと思います。

そういう意味で存在としては『淵に立つ』の八坂を更に超越した感じになっていて、『ほとりの朔子』と『淵に立つ』の集大成的な作品になってる気がします。

本作はファンタジーなのでラウの存在を理詰めで考えてしまうとつまらなく感じてしまうと思います。
ラウは主人公のわりには出番も台詞も少ないので、ラウという存在とそれを演じるディーン・フジオカさんに注視してしまうと物足りなく感じるかもしれません。

しかし自分としては『ほとりの朔子』を健全に発展させたような、4人の若者の群像劇の方に注視してたので、とても楽しめましたね。

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インドネシアという自分にはあまり馴染みの無い場所での青春群像劇というだけで面白く、彼らの姿を通して描かれるインドネシアの美しい自然も魅力的で、特に映像面、カメラワークがよかったです。

撮影を担当されたのが芦澤明子さんていう今年の春に紫綬褒章も受賞してるベテランの方で、今まで知らなかったんですが、担当してる作品を見たら『叫』とか『岸辺の旅』とか『モヒカン故郷に帰る』とか自分の好きな作品を撮ってて、そういうところも面白さに繋がってたんだなと思います。

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出演者では、予告編の雰囲気ではディーンさんと鶴田さんがメインの映画のような気がしますが、この2人はわりと出番が少なくて、阿部純子さんと太賀さんの映画となっています。
阿部純子さんは『孤狼の血』で初めて知った女優さんですが、孤狼の血に引き続きよかったです。
太賀さんは『南瓜とマヨネーズ』でもそうでしたけど、独特の間だったり台詞が無い場面でも画が持ちますね。
インドネシア語も鶴田さんと違ってインドネシア生まれの設定なのでネイティブレベルにしなければならなかったそうで、役作り含めて凄いなと思います。

タイトルとラストの落ちもいいと思います。
『スイス・アーミー・マン』なんかもそうですけど、子供の頃って単純に水の上歩けたらいいなと思うじゃないですか。

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水もはじくような若者たちのファンタジックな映画で、世界共通語であるTSUNAMIで日本とインドネシアを繋ぎ、人間は自然とどう向き合えばいいのかを考えさせられる深い映画だったと思います。

鑑賞データ

テアトル新宿 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
2018年 96作品目 累計89300円 1作品単価930円

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