性差を超えて青春の甘酸っぱさを喚起させる ☆5点
エジプト生まれのアメリカの作家でニューヨーク市立大学大学院の教授であるアンドレ・アシマンが、2007年ラムダ文学賞ゲイ・フィクション部門を受賞した小説「Call Me by Your Name」の映画化で監督はルカ・グァダニーノ、主演にティモシー・シャラメとアーミー・ハマー
予告編
映画データ
本作は2018年4月27日(金)公開で、全国55館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には75館での公開となるようです。
シャンテとか行ってたんですけど、劇場では予告編を目にしなかった気がします。
アカデミー賞にノミネートされてたもの知らなかった(なんか今年は『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』ばかり注視してました)んですが、ゴールデンウィーク中にツイッターを見てると、新宿武蔵野館とかで頻繁に完売してたみたいなので、気になって観に行ってきました。
監督はルカ・グァダニーノ
イタリアの監督さんで初めましてです。
作品も知らなくて、ティルダ・スウィントン主演の『ミラノ、愛に生きる』が有名なようです。
主演にティモシー・シャラメ
近作は『インターステラー』『クーパー家の晩餐会』を観てます。
主演にアーミー・ハマー
近作は『コードネーム U.N.C.L.E.』『フリー・ファイヤー』『ノクターナル・アニマルズ』『ジャコメッティ 最後の肖像』を観てます。
共演にマイケル・スタールバーグ
近作は『ヒッチコック』『完全なるチェックメイト』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』『ドクター・ストレンジ』『メッセージ』『女神の見えざる手』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
エリオ: ティモシー・シャラメ
オリヴァー: アーミー・ハマー
パールマン教授(エリオの父): マイケル・スタールバーグ
アネラ(エリオの母): アミラ・カサール
マルシア: エステール・ガレル
キアラ: ヴィクトワール・デュボワ
あらすじ
1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく……。
(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
そういえば昨年、2017年のアカデミー作品賞は『ムーンライト』が受賞してましたが、鑑賞中は忘れてました。
というのも、舞台が北イタリアの豊かな自然ということもあって、『ブロークバック・マウンテン』の方を思い浮かべてました。
両作とも美しい自然と夏の期間という点で似てますよね。
映画は主人公エリオと恋人のマルシアが2階の部屋にいて、オリヴァーの到着を眺めているところから始まるので、エリオはてっきり北イタリアに住んでるのかと思ったんですが、色々なサイトのあらすじを見るとエリオ一家も夏の間の避暑に訪れてて別荘なんですね。
父親のパールマン教授はアメリカの名門大学の教授みたいなので、普段はアメリカで暮らしてるのでしょう。
母親のアネラは美人で、料理などの家事はお手伝いさんがやってくれます。
家族同士では英語で話し、お手伝いさんなんかとはイタリア語で話すインテリ家族です。
これ、日本を舞台に設定したら、成城辺りに住んでる大学教授一家の高校2年生の少年が、軽井沢でひと夏を過ごす話で、この設定だけで面白そうじゃないですか。
同性愛というのを抜きにすれば、80年代にTBSのドラマでやってた「青が散る」とか「夏・体験物語」を思い出して、青春の甘酸っぱさというか、そういうのを喚起させられました。
本作でもエリオは恋人(未満といった方がいいのかな?)のマルシアと初体験するんですが、その前に父とオリヴァーに「やれたかも委員会」みたいな報告するじゃないですか。
あそこ凄いなと思って、何てオープンな親子なんだと思いました(笑)
それで、この映画は、同性愛に至るまでの背景がすでにいいんですよね。
家にいれば、お手伝いさんが庭で母と採った果物を絞ったフレッシュジュースを用意してくれてて、読書したり、ピアノ弾いたり、ギター弾いたり。
友達とはビーチバレーしたり、川遊びしたり、ディスコ行ったり。
オリヴァーとは村?街?の色んなところを自転車で案内してあげたりして親交を深めていく。
「ヨーロッパの夏休み最高かよ!」と思うんですけど、実際そうなんですよね。
自分は高校生の夏休みに3週間ほどドイツにホームステイしたことがあるのですが、街並みなんかはあんな感じなんですよね。
辺鄙な田舎でも市街地は古い建物が残ってて石畳になってて、バーとかカフェにはそれなりに人がいて。
ランチの時間は2時間くらいとってあっておしゃべりしてます。
池やプールで水遊びして、日差しは強いんですけど、日本と違って湿度も低いので海パンもすぐに乾いちゃって、映画では上半身裸が多かったですけど、基本短パンにTシャツです。
どんな小さな町でもディスコは1軒くらいあって、若い人も年配の人も踊ってます。
夏は21時頃まで明るいので夕食後もまた街に出かけたりして、とにかくヨーロッパの夏休み最高なんです。
その上に、7歳年上のオリヴァーとの恋でしょう。
エリオもオリヴァーもゲイでもバイセクシャルでもないと思うんですが、何となくあの両面性分かる気がします。
17歳、あの年の夏の性差を超えた愛、青春の通過儀礼といいますか。
エリオが大人になってからも男性を愛することになるかというと、そうではない気がします。
劇中、頻繁にギリシャ彫刻が登場しますが、「Greek Love」という言葉があるそうで、同性愛のことを指すんだそうです。
古代ギリシャの哲学者プラトンも著書「国家」の中で、性愛には男×女、男×男、女×女の3種類があると説いてるそうで、著書「饗宴」にも同性愛のことが出てくるらしいんですが、古代ギリシャでの同性愛は熟年カップルというのは稀で、成人男性と少年の組み合わせが多いんだそうです。
少年が成人男性から求愛を受けるのは名誉なことであって、成人になるための通過儀礼的要素もあったようです。
そしてそれは古代オリンピックが発達したのにも関係があるようで、トレーニングのために1日の大半をジムで過ごす中、マッサージや入浴する間にそういった愛が育まれていったようです。
そしてこの関係は、劇中のエリオとオリヴァーにぴったりと当てはまります。
また、ラスト近くで父親であるパールマン教授が息子エリオにかける言葉は、2人の関係に対する理解や寛容さに溢れていて、ギリシャ哲学的思考や設定を持ち込んだとも言えると思います。
なので2人を見る周囲のまなざしが優しいんですよね。
母親はエリオがオリヴァーと同じダビデの星のネックレスをするようになると「オリヴァーのことが好きなのね」と声をかけますし、エリオも理解がある母だからこそ、オリヴァーを駅で見送ったあと母親に電話して、泣きながら「迎えに来て」と言えます。
エリオをオリヴァーに取られた形になるマルシアも、オリヴァーと別れて悲しんでるエリオに対し、「私たちの友情は永遠よね」と優しい言葉をかけてて、みんな人間が出来てて気持ちいいんです。
そして、あのラストです。
いやー、震えましたね。
『キャロル』のラストシーンに匹敵するんじゃないでしょうか!
嗚咽漏らして泣きそうになったんですけど、ノーカットであの演技をしたティモシー・シャラメにノミネートされたアカデミー主演男優賞をあげてもよかったかな、と思いますね。
こちらも映画史に残るラストシーンだと思います。
いや、ホント予備知識なく観たんで、ビックリするほどよかったんですが、製作と脚本がジェームズ・アイヴォリー(本作でアカデミー脚色賞受賞)なんですね。
ジェームズ・アイヴォリーと言えば『モーリス』なんですけど、現在ちょうど4Kで上映してます。
ヒュー・グラントですよ。
ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞した作品なんですけど、いや若いですね。
いやー、これ、ホントいい作品なんでロングラン上映するんじゃないですかね。
地方でもこれから上映するところがまだかなりあるので、お近くで上映されたら是非観ていただきたい作品です。
鑑賞データ
TOHOシネマズシャンテ シネマイレージデイ 1400円
2018年 78作品目 累計70500円 1作品単価904円
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