面白いけど無駄に長い気が ☆3点
『64-ロクヨン』の瀬々敬久監督による『ヘヴンズ ストーリー』以来8年ぶりとなるオリジナル作品で構想30年のアナーキー青春群像劇。
関東大震災後の大正末期を舞台に当時実在した女相撲興行の一座とアナキスト集団ギロチン社の交流をフィクションで描いた作品。
主演に木竜麻生、東出昌大、寛一郎、韓英恵
予告編
映画データ
本作は2018年7月7日(土)公開で、全国9館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には48館での公開となるようです。
東京ではテアトル新宿だけの上映で、予告編は見なかった気がします。
ポスターは目にしていて『菊とギロチン』って「タイトルだけだと内容が想像つかないな」と思ったのと、「瀬々監督の作品、またやるんだ」と思いました(2017年11月25日公開の『最低。』から8ヶ月で4本目なので)
監督は瀬々敬久さん
近作は『最低。』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『友罪』を観てます。
主演に木竜麻生さん
初めましての女優さんですが、『まほろ駅前狂騒曲』や『グッドモーニングショー』に出演されていたようです。
主演に韓英恵さん
近作は『獣道』を観てます。
主演に東出昌大さん
近作は『GONIN サーガ』『ヒーローマニア -生活-』『クリーピー 偽りの隣人』『聖の青春』『関ヶ原』『散歩する侵略者』『OVER DRIVE』『パンク侍、斬られて候』を観てます。
主演に寛 一 郎さん
近作は『(実写版)心が叫びたがってるんだ。』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を観てます。
今まで全然気にしてなかったんですけど、「寛一郎」と「寛 一 郎」の表記があって、何か誤植なのかな?と思ったら、文字と文字の間に半角スペースを入れるのが正式な表記みたいです。
めんどくさっ(笑)
他に共演と配役は以下の通りです。
花菊ともよ: 木竜麻生
十勝川たまえ: 韓英恵
中濱鐵: 東出昌大
古田大次郎: 寛 一 郎
女相撲 玉岩興行
小天龍よし: 持田加奈子
与那国うし: 播田美保
小桜はる: 山田真歩
勝虎かつ: 大西礼芳
玉椿みつ: 嘉門洋子
梅の里つね: 前原亜希
若錦まき: 仁科あい
羽黒桜まつ: 田代友紀
日照山きよ: 和田光沙
最上川せん: 背乃じゅん
2代目小桜: 原田夏帆
三治: 嶺豪一
岩木玉三郎: 渋川清彦
ギロチン社
田中雄之進: 小林竜樹
小西次郎: 小水たいが
内田源太郎: 伊島空
茂野栄吉: 東龍之介
倉地啓司: 荒巻全紀
河合康左右: 池田良
仲喜一: 木村知貴
小川義雄: 飯田芳
在郷軍人分会
飯岡大五郎: 大西信満
佐吉: 川本三吉
キチジ: 髙野春樹
栄太: 中西謙吾
労働運動社
村木源次郎: 井浦新
和田久太郎: 山中崇
大杉栄: 小木戸利光
その他の人々
田中半兵衛(地主): 嶋田久作
水島(次の警察署長): 渡辺謙作
森本一雄(実業同志会の理事: 宇野祥平
魚売の音弥: 鈴木卓爾
正力松太郎: 大森立嗣
定生(花菊の夫): 篠原篤
丸万(警察署長): 菅田俊
坂田勘太郎(歩方): 川瀬陽太
ナレーション: 永瀬正敏
あらすじ
大正末期、関東大震災直後の日本には、不穏な空気が漂っていた。軍部が権力を強めるなか、これまでの自由で華やかな雰囲気は徐々に失われ、人々は貧困と出口の見えない閉塞感にあえいでいた。
ある日、東京近郊に女相撲一座「玉岩興行」がやって来る。力自慢の女力士たちの他にも、元遊女の十勝川(韓英恵)や、家出娘など、ワケあり娘ばかりが集まったこの一座には、新人力士の花菊(木竜麻生)の姿もあった。彼女は貧しい農家の嫁であったが、夫の暴力に耐えかねて家出し、女相撲に加わっていたのだ。「強くなりたい。自分の力で生きてみたい」と願う花菊は、周囲の人々から奇異の目で見られながらも、厳しい稽古を重ねていく。いよいよ興行の日。観戦席には、妙な若者たちの顔ぶれがあった。彼らは「格差のない平等な社会」を標榜するアナキスト・グループ「ギロチン社」の面々で、思想家の大杉栄が殺されたことに憤慨し、復讐を画策すべく、この土地に流れ着いていた。「ギロチン社」中心メンバーの中濱鐵(東出昌大)と古田大次郎(寛 一 郎)は、女力士たちの戦いぶりに魅せられて、彼女たちと行動を共にするようになる。
「差別のない世界で自由に生きたい」――その純粋な願いは、性別や年齢を越えて、彼らを強く結びつけていく。次第に中濱と十勝川、古田と花菊は惹かれあっていくが、厳しい現実が容赦なく彼らの前に立ちはだかる。
(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
テアトル新宿なんで、TCGメンバーズのハッピーチューズデーかハッピーフライデーで見ようと思ったんですけど、オンラインでチケットを買おうとしたら1000円の選択がない。
なんでかな?と思ったら本作は上映時間189分の長尺で、一般料金2000円の作品でした。
テアトル新宿でこの形式は『バンコクナイツ』みたいだな、と思ったら脚本が空族の相澤虎之助さんでなるほどと思いました。
上映時間3時間超えだと、ちょっと身構えちゃうんですけど、TCG会員はいつでも1500円とのことで、日曜朝一の回で観てきました。
殆ど年配の方ばっかりでしたけど、結構入ってましたね。
上映中もトイレに行く人、1人ぐらいで、さすがテアトル新宿のお客さんと思いました。
これがシネコンですと、トイレ行く人多いですからね。
最近だと、131分の『パンク侍、斬られて候』でちょこちょこいて、150分の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』だとめちゃめちゃいました(笑)
ちなみに、本頁のタイトルは「自由を求めて共鳴した女相撲とアナーキスト」って付けたんですけど、当初は『菊とギロチン -女相撲とアナキスト-』だったんですね。
因みに、この機会に映画『菊とギロチン』から「女相撲とアナキスト」という副題を抜きました。
映画『菊とギロチン』は、実在したアナキストたちと女相撲の力士たちとの交流を描いた事実に基づいたフィクションです。— 瀬々敬久 (@japansuke) 2018年3月8日
なんで取っちゃったんですかね。
内容はというと、女相撲とアナーキスト、というまんまです。
女相撲の方は、昭和30年代くらいまで続いてたみたいなんですけど、このことは知りませんでした。
観てる最中は、「女子プロレスみたいだな」と思ったんですが、系統としては近いみたいですね。
劇中に出てくる玉岩興行はフィクションのようです。
女子プロレスの最初の頃と同じで当初はエロ目的だったみたいですけど、すぐに真剣なものに変わっていったようです。
ただ、やっぱりエロ目線で見られることが多く、劇中でも東出さん演じるギロチン社の中濱鐡が、女相撲と聞いて「おっぱい見れるかな、おっぱい」とはしゃぐんですが、観戦に行ったら土俵際にいた女力士たちが肉襦袢を着ていてがっかりするんですが、対戦が始まるとその真剣な取組に夢中になる様子が描かれてます。
何でこういったものが出来たかについては、当時の強烈な男尊女卑社会の中で、男性に虐げられた女性たちの受け皿になっていた部分もあると思います。
ただ大相撲の方では未だに女人禁制とか言って、男尊女卑が続いてるのは何とも皮肉なところですが、かつて女相撲で大関だった人が引退後、大相撲の地方巡業で土俵に上がったことがあるみたいで、これはいいエピソードだと思いました。
女子プロレスの歴史を見ても力道山から圧力がかかったりして、大相撲にしても力道山にしても権威を持つと体制側に回るのだなと思いました。
アナーキストの方は大正末期に実在したギロチン社を描いてます。
自分はこの時代のアナーキストとかに疎くて、大杉栄も深作欣二監督の『華の乱』の風間杜夫さんでしか知りません。
ギロチン社も、もちろん知らなかったのですが、2014年に『シュトルム・ウント・ドランクッ』という映画になってたんですね。
本作は189分の上映時間なんで、細かいエピソードはちょこちょこあります。
特にギロチン社と労働運動社で誰が誰を襲った(しかも殆ど失敗)とかは史実通りに描かれてるので、公式サイトの年表をご覧下さい。
メインは玉岩興行の花菊と十勝川、ギロチン社の中濱と古田の関わりになります。
まず中濱は企業を脅して金を巻き上げる(リャク)には長けてるんですけど、革命は口ばっかりで、巻き上げた金で娼婦買って飲んだくれて梅毒になったりしてます。
一方、古田の方はストイックで女性にも奥手なんですが、活動資金を得るため銀行を襲った際に誤って人を殺してしまっていて、良心の呵責に苛まれています。
花菊はDV夫から逃れ、十勝川は元遊女で在日という背景があります。
また十勝川は美人で巡業では人気があり、各地に(体を使って)贔屓筋がいたため、ベテラン女力士のやっかみの対象になってます。
花菊はただ強くなりたいという思いで相撲に取り組み、十勝川にとっては女相撲は金を得る手段です。
中濱は前述したように近くで女相撲が興行されるのを知り、エロ目線で興行を観に行きますが、取組にすっかり魅了されると、力士たちが興行主と食事してる料亭の席に乗り込み、雑誌で取材したいと嘘を言って行動を共にするようになります。
ストイックな古田はストイックな花菊に惹かれますが、奥手なこともあって自分の気持ちを告げられず2人の仲は遅々として進みません。
中濱は十勝川の過酷な生い立ちを知り惹かれると、こちらは女慣れしてることもあってすぐにお互いが惹かれ合います。
しかし、ここで事件が起こります。
女相撲を不敬なものとして敵視する在郷軍人分会の飯岡が、十勝川が在日朝鮮人だと分かると、「主義者と何か企んでるだろう、尋問するから連れて行く!」と言って暴走します。
さしずめ2013年頃に行われてた新大久保のヘイトスピーチみたいな感じです。
中濱と古川は花菊から十勝川が連れて行かれたことを知らされると、拷問されている十勝川の救出に向かいます。
ここでは中濱は飯岡の返り討ちにも遭いますが、シベリア出兵経験のある飯岡の悲哀も描かれます。
結局、飯岡の暴走は、在郷軍人分会のこともはね上がりとして認識していた地元警察によって逮捕されるのでした。
十勝川は一座を離れ、またどこかの街で遊女として暮らします。
中濱と古川は料亭の席に乗り込んだときに、最初に部屋を間違えたのですが、そこに正力松太郎がいたのを思い出すと暗殺を企てます。
正力松太郎は昭和10年に右翼の襲撃に遭い重傷を負いますが、ここはフィクションのようです。
ここでも当然のように暗殺に失敗すると2人は姿を消します。
玉岩興行も別の興行主の元へ向かいます。
花菊の前から姿を消した中濱と古川は韓国に現れます。
義烈団に接触し、銃と爆弾を手に入れようとしますが、ここでも騙されてお金だけ取られて手に入らないのでした。
結局、中濱はいつもリャクをしている実業同志会を訪れ金を手に入れると、事務所を出たところで恐喝の現行犯で逮捕されるのでした。
一方、古田はギロチン社の倉地啓司と爆弾を完成させると、再び花菊の前に姿を現します。
しかし花菊は行方を捜していた夫に見つかり、連れ戻されようとしていました。
夫婦のことに立ち入れない古田は黙って見ているだけでしたが、暫くすると意を決して2人を追いかけます。
古田は夫に、花菊を女相撲に戻すよう食い下がりますが、逆にボコボコにされて気絶してしまいます。
花菊は古田が気絶してる間に夫にレイプされるのでした。
古田は目覚めると、再び2人を追いかけます。
花菊がレイプされたのを感じ取った古田は、「花菊に何をしたんだ」と夫に迫ります。
夫が「夫婦だから当然のことをしたまでだ」と開き直ると、怒った古田は爆弾を見せます。
驚いた夫が田んぼに逃げると、古田は夫に爆弾を投げつけます。
夫は死にませんでしたが重傷を負っていて、古田は病院に連れていく代わりに花菊を自由にしろと迫ります。
命に代えられない夫は条件をのむと、晴れて花菊は自由の身となるのでした。
といった感じのお話なんですが、瀬々監督と相澤さんの脚本は他のキャラクターにも満遍なく光を当てるんで、どうしても長くなってしまいます。
玉岩興行では小桜の同性愛だったり、三治と勝虎の恋模様だったりも描かれて盛りだくさんなんですが、正直言って189分は長く感じました。
決してつまらなかったり、眠かったりしたわけではないのですが、長く感じました。
例えば最近だとマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』が179分、クエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』が167分とかあったりしたのですが、そこまで長く感じなかったんですよね。
『ヘイトフル・エイト』のときは章立てになってたのであれなんですが、何と言うか全体にメリハリが無いというかダラダラと続く感じです。
民放のドラマだと1話45分くらいになると思うんで4話分(45分×4=180分)くらいになると思うんですが、起承転結みたいな感じで転がれば見やすかったのかなぁ?とも思いますが、群像劇なので致し方ないところなんでしょうかね。
また、題字が『ゆきゆきて、神軍』や『HANA―BI』などを手掛けた映画タイトルデザインの巨匠・赤松陽構造さんによるものらしく、力が入っているので映画タイトルもオープニングとエンディングの2回出てくるんですが、エンディングの時なんかはタイトルが出てきても、そのあと10分くらい続くんです。
終わったと思ったら終わらなくて、肩透かし(相撲技)を食らうんで、それも長く感じた要因だと思うのですが、相撲に引っ掛けた監督の遊び心なんですかね。
昔の探偵ナイトスクープのCM入り前かと思いました(笑)
内容としては、女相撲とアナーキストを組み合わせたアイデアはいいと思うんです。
特に女相撲に関しては知らなかったので興味深く観ることが出来ましたが、題材としては90分くらいのドキュメンタリーでもいい感じです。
ギロチン社に関しても、こうした人たちがいたことを知ることができたのはよかったですが、基本的に口ばっかりで遊び惚けているので、なんだかなぁという感じです。
暗殺とかもことごとく失敗しますし、崇高な理念の割には準備不足と言いますか。
映画ではあえて男たちの方を滑稽に見せてると思うのですが、日本では歴史的に見てもこういう運動は根付かないよなぁと思います。
大正時代のアナキストもそうですし、安保闘争後の連合赤軍、現在だったら反原発・反差別・反戦界隈の人たち。
結局、こういう人たちって攻撃的じゃないですか。
怒ってるのは分かりますけど、恐怖しか感じないんですよね。
そして、だいたい内ゲバみたいな暴力事件を起こしたりして、一般の人は離れていきます。
なので映画を観ててもギロチン社の方には感情移入出来ないですし、「あの時代を熱く生きた男たち」みたいにも思えません。
今の時代がこの時代に似ているというのも分かります。
大正デモクラシーを受けて誕生した鳩ちゃんの民主党政権。
関東大震災に東日本大震災。
関東大震災後の戒厳令と安倍政権の特定秘密保護法と共謀罪の成立。
時代を覆う閉塞感(大正時代の閉塞感は体験してないから分からないですけど)
映画監督として、こういう題材を撮りたいのも分かりますし、俳優陣なんかが力が入るのも分かるんですが、どっちかというと過去を描いて現在を描くというよりは、ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』や、是枝裕和監督の『万引き家族』のスタンスで撮って頂きたかったなぁと思いました。
あと本作はR15+作品なんですが、せっかくのテーマなんだからG区分に収まるようにすればよかったのになぁと思います。
序盤に中濱鐡と遊女との、東出さんのお尻が見えちゃう(もちろん遊女のおっぱいも)くらい激しいセックスシーンがあるからなんですが、ここは見えないようして撮っても全然問題なかったと思います。
ヒロインの木竜さんと韓さんのセックスシーンがある訳じゃないので、R15+のレイティングが付いちゃうのもったいないと思います。
120分くらいにテンポよく収めてくれれば☆3.5~4点くらいだったんですけど、如何せん長過ぎました。
鑑賞データ
テアトル新宿 TCG会員料金 1500円
2018年 119作品目 累計114700円 1作品単価964円
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