ヒトラーへの285枚の葉書 評価と感想/両主演の演技が鳥肌モノ

ヒトラーへの285枚の葉書 評価と感想
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淡々と抵抗する ☆5点

実際のハンペル事件を元に1947年に出版されたハンス・ファラダ著「Alone in Berlin(ベルリンに一人死す)」の映画化で監督はヴァンサン・ペレーズ。主演にブレンダン・グリーソン、エマ・トンプソン、ダニエル・ブリュール

予告編

映画データ

ヒトラーへの285枚の葉書 (2016):作品情報|シネマトゥデイ
映画『ヒトラーへの285枚の葉書』のあらすじ・キャスト・評価・動画など作品情報:『天使の肌』で監督も務めた俳優のヴァンサン・ペレーズがメガホンを取り、ハンス・ファラダの小説を映画化。
http://cinema.pia.co.jp/title/172071/

本作は2017年7月8日(土)公開で全国でも7館くらいの公開ですけど、この後順次公開されるようで、最終的に全国で30館くらいでの公開規模になるようです。

東京ではヒューマントラストシネマ有楽町と新宿武蔵野館での公開です。
TCGメンバーズカードを更新した際に貰える次回1000円鑑賞券を利用してHTC有楽町で観てきました。
HTC有楽町でも武蔵野館でも予告編は観たこと無かった気がしますが、ここ数年ヒトラー物よくやるので観てきました。

監督はヴァンサン・ペレーズ
スイス出身の俳優さんで、ジェラール・ドパルデューが主演した『シラノ・ド・ベルジュラック』やイザベル・アジャーニが主演した『王妃マルゴ』に3、4番手で出演しています。
監督は本作で3作目。
前作で東野圭吾氏の原作「秘密」を『秘密 THE SECRET』の名で映画化しています。

日本で1999年に滝田洋二郎監督、広末涼子・小林薫主演によって映画化された「秘密」のリメイクだそうです。

昨年公開された漫画原作の『秘密 THE TOP SECRET』とタイトル似てるので紛らわしい(笑)

主演にブレンダン・グリーソン
ハリーポッターシリーズのマッド・アイ・ムーディ役の方です。
近作はわりと観ていて『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『アサシン クリード』『夜に生きる』など。
今年観た『未来を花束にして』では本作とは対照的な役でした。

未来を花束にして 評価と感想/1913年英ダービーでの事件
自分も男ですけど、男死ねと思いましたね ☆4.5点 予告編 映画データ TOHOシネマズシャンテで度々予告編を目にしていて、行こう行こうと思ってたんですけど、1月27日の週から『ドクター・ストレンジ』とか『スノーデン』とか『マグニフィセント...

主演にエマ・トンプソン
1990年代前半にケネス・ブラナーが席巻してたときに一緒に出ていて女優賞とか総ナメしてました。
近作では『ロング・トレイル!』とか『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』とか観てます。

主演にダニエル・ブリュール
この方もよくお顔を拝見します。
近作では『ラッシュ/プライドと友情』『誰よりも狙われた男』『天使が消えた街』『二ツ星の料理人』とか観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

オットー・クヴァンゲル役:ブレンダン・グリーソン
アンナ・クヴァンゲル役:エマ・トンプソン
エッシャリヒ警部役:ダニエル・ブリュール
プラル親衛隊大佐役:ミカエル・パーシュブラント
フラウ・ローゼンタール役:モニーク・ショーメット

あらすじ

1940年6月、戦勝ムードに沸くベルリンで質素に暮らす労働者階級の夫婦オットー(ブレンダン・グリーソン)とアンナ(エマ・トンプソン)のもとに一通の封書が届く。
それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという残酷な知らせだった。
心のよりどころを失った二人は悲しみのどん底に沈むが、ある日、ペンを握り締めたオットーは「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」と怒りのメッセージをポストカードに記し、それをそっと街中に置いた。
ささやかな活動を繰り返すことで魂が解放されるのを感じる二人。
だが、それを嗅ぎ付けたゲシュタポの猛捜査が夫婦に迫りつつあった―。

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

いやー、本作はですね、非常に面白くて、素晴らしくて、ブレンダン・グリーソンとエマ・トンプソンの演技が鳥肌モノに凄くて、大変な良作でした。

時代は1940年のベルリンです。
ドイツはフランスに勝って、イギリスも攻め落とそうとしてて、イケイケドンドンな時期です。

木材加工工場の職工長であるオットーと戦時中なので相互監視するための婦人隊みたいなのに入ってるアンナは、古い団地みたいなところで慎ましく暮らしています。

ある日、軍事郵便で息子の死が知らされます。
紙切れ1枚だけです。
アンナは悲しみで郵便をビリビリに破りますが、オットーは静かに悲しみます。

オットーが工場に出勤すると朝礼をやっていて、ドイツの更なる快進撃のため、生産性を上げようという話を上司がしてます。
工場にはナチ党員もいれば、そうでない人もいますが、意見は広く募集するというので、オットーが生産性をもっと上げたければ機械を入れてくれと言います。
が、それは無理な話で非国民的な意見だと言われます。
もっと自分を犠牲にして生産性を上げることに励むように言われると、オットーは「自分は息子を国に差し出して死んだ。これ以上、何を差し出せばいいのだ」と言います。

仕事を終えて家に帰ると、オットーはその日からポストカードにヒトラーへの不満を書き始めます。
短い文章でしたが、筆跡がばれないようにして書くので1枚2~3時間かかってました。

アンナは最初それを見てびっくりしますが、夫と協力して街の公共施設などにカードを置いてくようになります。

映画はクヴァンゲル夫妻が色々なところにカードを置いていくのと同時に、この時代のドイツの縮図であるような団地住人の様子も描かれます。

クヴァンゲル夫妻に軍事郵便を持ってきてくれたのは女性の郵便配達員です。
その女性はクヴァンゲル夫妻の上階に住んでいる年老いたユダヤ人女性のローゼンタール婦人に郵便配達のついでに食料品を持ってきてくれる優しい女性なのですが、その夫はギャンブル三昧で働かず、日がな一日団地にいて密告したりして自分の立場を守ってるっていうクズです。

ある日、このクズ夫がローゼンタール婦人が外出してる隙に盗みに入ると、これまた下の階に住んでる親子がやってきて、咎めるのかな?と思いきやクズ夫を追い出して盗んでいくっていうモラルのなさです。
何でかな?と思うのですがこの親子は昔からのナチ党員なんです。

盗みに入ってるときにローゼンタール婦人が帰ってくるんですが、盗みの最中に出くわすと危ないってことでアンナが部屋に匿ってあげます。
盗み終わった親子がいなくなると婦人は部屋に戻るんですが、ユダヤ人に対する差別が激しくなっていて危ないってことで、下の階に住んでる判事が匿ってあげます。

クズ夫は盗みを横取りされた腹いせもあって、ゲシュタポに密告します。
ゲシュタポが婦人に事情を聴きにくるんですが、クズ夫は婦人は部屋にいないと言います。
ゲシュタポは判事のとこにも来て、盗みの件を聴くついでに部屋を調べようとするんで、判事が上司を呼べとやるんですがゲシュタポは耳を貸しません。
判事の方が立場は上なのにナチスに属しているかどうかで立場が逆転しちゃってるんですね。

判事が匿っていた部屋を開けるんですが婦人はいません。
婦人は判事に迷惑がかかるのを恐れて自分の部屋に戻っていました。
ゲシュタポが婦人の部屋を訪れると、ゲシュタポの中の一人の青年は、小さい頃によく遊んであげた子でした。

婦人は事情を聞かれるため連れて行かれそうになりますが、ナチス党員が起こした窃盗では自分が不利になると考え、団地から飛び降り自殺してしまうのでした。

アンナは婦人隊の活動をするため、親衛隊中佐の家に行きます。
そこはお手伝いさん付きの豪華な屋敷で中佐の夫人も着飾ってます。
アンナは、今は女性も工場などに動員されてるのになぜ働かないのですか?とやります。
親衛隊というだけで特権を利用してることを揶揄すると、中佐夫人が婦人隊にクレームをつけクビになりますが、アンナは清々してました。

この間もオットーは黙々とメッセージを書いて市内の至るところに置いていきます。
筆跡だけでなく指紋も残らないように薄い手袋をして書く周到さです。

一方、この事件の捜査にあたっていたゲシュタポのエッシャリヒ警部は犯人に皆目見当がつかないでいました。
最初に置かれたカードから息子を失った人物とは分かりましたが、それ以外は全くです。
書かれている文章は稚拙でしたが、根気よく続けていることや、証拠を残さない周到さから、犯人の覚悟や頭の良さが伺えます。

ただカードが置かれるとすぐに市民から情報が寄せられるので、カードが置かれた場所を丁寧にマッピングしていけば犯人にたどり着くと考えていました。
置かれたカードが100枚を超える頃にようやく目撃情報が現れ、似顔絵が作られます。
するとエッシャリヒ警部の元に犯人逮捕の一報がもたらされます。

アンナはその日、オットーの工場へお弁当を届けにいくと、出勤していないと言われます。
胸騒ぎを覚え警察へ駆けつけると、犯人が逮捕されたと騒いでます。
集まった人々から罵られていた犯人は夫ではなく胸を撫で下ろしていると、オットーが現れます。
オットーはその日、工場を休んで、置いたカードを手にした人がどのような反応をするか見ていたのでした。

エッシャリヒ警部の元に連れてこられた犯人は郵便配達婦の元夫でした。
元夫はカードを拾って持っていたところを誤って逮捕されたのでした。
エッシャリヒ警部の見立てでも息子が二人共生きていて、取り調べ中もずっと怯えてるこの元夫が、この根気強い事件の犯人とは考えられなく釈放します。

一方、プラル親衛隊大佐はいつまでも捕まらない犯人に業を煮やしています。
エッシャリヒ警部を呼びつけ、逮捕した犯人をどうしたか尋ねると、あんな馬鹿な男は犯人ではなく釈放したことを聞かされます。
親衛隊より捜査に長けていると犯人像の講釈を聞かされると大佐はブチ切れます。
エッシャリヒ警部を痛めつけると、釈放した犯人を始末するように言い渡すのでした。

エッシャリヒ警部にしても不本意でしたが、自分の命が危ないのでやるしかありません。
郵便配達婦のところへ行って締め上げて、元夫の居場所を突き止めると、自殺を装って射殺するのでした。

オットーの逮捕は突然やってきます。
オットーはその日、非番でしたが他の休んだ職工長の代わりに工場に出勤します。
作業服に着替えようとすると、コートのポケットに入れておいたカードが見当たりません。
よく見るとポケットが破れていて、歩いてきた工場内にカードが落ちていました。

慌てることなくそのカード見ていると部下が見つけて拾い上げます。
文面を読んで動揺してる部下からカードを受け取り、工場で働いてるナチ党員に渡すと、直ちにエッシャリヒ警部が駆け付けます。

エッシャリヒ警部は出勤簿から、息子を亡くした者、マッピングから犯人が住んでると思われる地域の作業者をリストアップさせますが、該当しません。
責任者に会いたいというと、出勤するはずだった職工長は休みで代わりの職工長が出勤してると聞かされます。
出勤簿に無かったオットーを調べると、息子を亡くしていて、該当地域に住んでいました。
オットーは警察署に連れていかれると、あっさりと自供します。

オットーはあっさり自供し、妻は関係ないと言い、逮捕しないでくれと言います。
オットーは自分のしたことに信念も覚悟もありましたが、前に逮捕された犯人が自殺したことを聞かされると心を痛めるのでした。

裁判の日。妻のアンナも同じ被告人席に入れられると一瞬だけ手を握ります。
判決を言い渡されるとまた別々に引き離されます。

刑務所内。神父に付き添われてオットーが歩いています。
エッシャリヒ警部が何かできることはないかと声を掛けます。
オットーは妻を逮捕したなと怒っています。
そして「紙とペンを」と言い残してギロチン刑に処されるのでした。

警察署内。
クヴァンゲル夫妻の活動は1940年~43年に亘り、置かれたカードは285枚でした。
そのうち警察に届けられたカードは267枚。
その全てのカードの文面に目を通していたのはエッシャリヒ警部だけでした。

エッシャリヒ警部は、その全てのカードを警察署の窓から通りにばら撒くと、拳銃で自殺して映画は終わります。

 

これ、原作は、冒頭に書いたように1947年に出版されたハンス・ファラダ著の「Alone in Berlin」という本なんですが、欧米では長いこと忘れられた作家で、日本語訳が出版されたのも2014年と最近で、これだけの名著が埋もれていたというのにまずビックリです。

占領期を知るための名著 Vol.19 『ベルリンに一人死す』ハンス・ファラダ | GHQ.club
GREAT BOOK占領期を知るための名著 VOL.19 『ベルリンに一人死す』 ハンス・ファラダ ここでは、

映画はですね、すごく淡々としてるんですが、面白いんです。
取り立てて音楽で盛り上げるようなところもないですし、撮影も普通なんで一見すると地味なんですが、ブレンダン・グリーソンとエマ・トンプソンの家庭内での会話やちょっとした表情とか、とにかく素晴らしくて後から思い出してもちょっと鳥肌立っちゃうくらい凄かったです。

そしてその2人に対するダニエル・ブリュールの演技もまたいいんですよね。
エッシャリヒ警部は、捜査の過程で犯人とはいえ一目置いているんですが、上からの圧力に屈して大きな過ちを犯してしまいます。
この辺の理不尽さを感じながら、日々カードの文面に触れ、逮捕した犯人の覚悟を知ったからこそのラストなんですが、批評家の人がこの程度の解釈だと悲しくなるなぁ。

ヒトラーへの285枚の葉書 (2016):映画短評|シネマトゥデイ
『天使の肌』で監督も務めた俳優のヴァンサン・ペレーズがメガホンを取り、ハンス・ファラダの小説を映画化。

もちろん、エッシャリヒ警部のラストのくだりは脚色されてるんだろうと思いますけど、映画的にはよかったです。
少なくともクヴァンゲル夫妻がやったことは意義があって影響を与えた訳ですからね。

本作はヴァンサン・ペレーズ監督の出自も関係してるらしく、大変な力作になっていると思います。

「1人1人の声は小さいが、まとまれば未来を変えられる」 映画『ヒトラーへの285枚の葉書』ペレーズ監督に聞く
第二次大戦下のドイツでナチス政権を糾弾する葉書を街中に置いて回った実在の夫婦を描いた映画「ヒトラーへの285枚の葉書」が公開される。ヴァンサン・ペレーズ監督に聞いた。

ここ最近、世界が右傾化する中でヒトラー関連の映画をよく観ましたが、その中でも出色の出来になってると思います。

アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち
帰ってきたヒトラー
アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

それから夫婦のラブストーリーとしてもよかったです。
今年だと『マリアンヌ』に匹敵するなぁ。

現在の日本を見渡してもブレまくってる世の中で、これだけの信念と覚悟を持って、淡々と粛々に事にあたれる人がどれだけいるのだろうと考えさせられる映画です。

上映館数は決して多くないですが、今後順次公開される所もあるみたいなので、お近くで上映がある場合には是非とも足を運んで頂きたい作品です。

鑑賞データ

ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ クーポン割引 1000円
2017年 115作品目 累計121800円 1作品単価1059円

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