傷つきたくない症候群の権化 ☆4.5点
柚木麻子による2013年第150回直木賞候補作で2017年に廣木隆一総監督、木村文乃主演でテレビドラマ化された作品の映画化で監督は引き続き廣木隆一。主演はW主演で岡田将生と木村文乃、共演に佐々木希、志田未来、池田エライザ、夏帆
予告編
映画データ
本作は2018年1月12日(金)公開で全国165館での公開です。
配給はショウゲート
TBSの深夜ドラマ枠「ドラマイズム」でやってたドラマ版は見てまして、1話終了後のCMで映画化を知りました。
ドラマ版はネットフリックスでも配信されてます。
原作本は未読です。
監督は廣木隆一さん
近作は『さよなら歌舞伎町』『PとJK』『彼女の人生は間違いじゃない』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を観てます。
主演に岡田将生さん
近作は『偉大なる、しゅららぼん』『何者』『銀魂』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』を観てます。
主演に木村文乃さん
近作は『ニシノユキヒコの恋と冒険』『イニシエーション・ラブ』『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』『RANMARU 神の舌を持つ男』『追憶』『火花』を観てます。
共演に佐々木希さん
近作は『ラストコップ THE MOVIE』『東京喰種 トーキョーグール』を観てます。
共演に志田未来さん
近作は『グッドモーニングショー』を観てます。
共演に夏帆さん
近作は『ピンクとグレー』『22年目の告白-私が殺人犯です-』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
伊藤誠二郎: 岡田将生
矢崎莉桜(E): 木村文乃
島原智美(A): 佐々木希
野瀬修子(B): 志田未来
相田聡子(C): 池田エライザ
神保実希(D): 夏帆
宮田真樹: 山下リオ
塾長/伊藤のおじ: 田口トモロヲ
クズケン/久住健太郎: 中村倫也
田村伸也: 田中圭
あらすじ
20代半ばで手掛けた大ヒットTVドラマ「東京ドールハウス」で一躍有名になったものの、ある出来事がきっかけで新作を書けずにいる落ち目のアラサー脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)。ドラマプロデューサー田村(田中 圭)からも勧められ、自身の講演会に参加した【A】~【D】4人の女性たちの切実な恋愛相談を、再起をかけた新作脚本のネタにしようと企んでいる。そんな彼女たちを悩ませ、振り回している男の名前が偶然にもすべて“伊藤”。莉桜は心の中で「こんな男のどこがいいのか?」と毒づきながら、脚本のネタのために「もっと無様に」なるよう巧みに女たちを誘導する。そして、莉桜は彼女たちの取材を重ねるうちに、【A】~【D】の女たちが語る【痛い男】=“伊藤”が同一人物ではないかと考えはじめる。
そんなある日、莉桜が講師を務めるシナリオスクールの生徒のひとり、容姿端麗、自意識過剰、口先ばかりでこれまで1度も脚本を書き上げたことのない28歳フリーターの“伊藤誠二郎”(岡田将生)が、4人の女【A】~【D】たちを題材にしたドラマの企画を持ち込んできたと、田村に聞かされる。なんと、これまで4人の女たちを振り回してきた【痛男】の正体は、莉桜が最も見下していた自分の生徒、“伊藤”だったのだ。しかも莉桜が再起をかけて取り組んできた渾身のネタを彼に奪われるかもしれない……。さらにそこには、莉桜のネタにはない5人目【E】の女が存在し…。二重の衝撃の事実にショックを受ける莉桜。実は“伊藤”の中では莉桜が5人目【E】の女になっていた。“伊藤”の狙いは一体何なのか―。莉桜は、徐々に追い詰められていく。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
映画のストーリーは基本的にはドラマ版と一緒でダイジェストみたいな感じになっています。
しかし、映像面と演出面ではかなり違っていて、ドラマ版では明るい画面にポップな感じの劇伴に、2話ごとに変わるスピッツのエンディングテーマと、ポップでありつつも切ない恋愛青春ドラマの様相を呈していましたが、映画では暗めの画面に劇伴もほぼつかず演者の演技もシリアスでホラー映画のようなキリキリと胸を締め付けられる作品に仕上がっていました。
セリフなどもほぼ同じながら、大きく違うのは、ドラマ版では矢崎がABCDからヒアリングした話を矢崎の頭の中で変換して、ABCDそれぞれに登場する伊藤に矢崎の身近な人(Aでは田村、Bでは久住ことクズケン、Cでは東京ドールハウスの主役、Dでは誠二郎)を当てはめて見せていた(なのでドラマではABCDそれぞれの話に矢崎が入り込んでくる)のに対し、映画ではABCDそれぞれの実体験が直接描かれているので伊藤は誠二郎、一人になります。
ドラマ版がポップで明るいのは、矢崎の脳内脚本がそうなってるからなんですよね。
4人の女性から恋愛相談を受けても、どこか見下してる矢崎は彼女たちの悩みの深刻さと同じ目線に立つことが出来ません。
ドラマの脚本的にいかに面白くできるかしか考えてない。
一方、映画版では実際の彼女たちを描いてるので、悩みはもっと深刻です。
なので映画ではゆっくりとしたカメラワークで暗いトーンになったんだと思います。
原作が直木賞候補であるのは、ABCDそれぞれの伊藤が同一人物かつEの矢崎の身近な人物であったというミステリー的なエンタメ性があったからだと思いますが、その展開はドラマ版でやっているため、映画ではそういったエンタメ性は排除されてると思います。
映画では最初から伊藤誠二郎というモンスターを登場させ、謎解き的な要素がないのでどちらかと言えば地味な芥川賞的な雰囲気になるんだと思います。
ドラマ版では誠二郎役の岡田将生さんは最終話の第8話だけの登場だったのですが、モンスター痛男・伊藤を演じる岡田将生さんのラスボス感たるや凄いなと思ったのですが、映画では最初から「矢崎女史~」と言って登場するのでその演技は圧巻でしたね。
映画鑑賞後、ネットフリックスでドラマ版を見返してみたんですが、同じセリフを言ってるのに岡田さんの方が圧倒的モンスター感があるんですよね。
たぶん演出もそうなってるんでしょうけど、2016年のドラマ「ゆとりですがなにか」とか映画『何者』あたりから覚醒してる気がします。
ドラマ版より映画の方が、脚本家・矢崎莉桜の生みの苦しみによりシフトしていて、ドラマ版では途中と最後にさらっと出てくるシナリオスクール(ドラマ研究会)が、映画では冒頭から登場し、伊藤も脚本家志望として大口を叩くことから、映画『ばしゃ馬さんとビッグマウス』の雰囲気もありました。
また、本作は映画『何者』にも非常に近いと思います。
モンスター痛男・伊藤の闇は、映画『何者』で岡田さんが演じた宮本隆良と佐藤健さんが演じた二宮拓人を併せた感じですし、二宮の冷めた視点はBの野瀬修子に通じるものがありました。
ドラマ版の1,2話の脚本は喜安浩平さんが書いてるんですけど、この方は朝井リョウさん原作の『桐島、部活やめるってよ』でも脚本を書かれてて、『何者』も朝井リョウさん原作であることから、柚木さんも朝井さんも描きたいことはわりと近いのではないかと思いました。
本作は前述したように同じシーンや同じセリフでも、ドラマと映画ではカメラワークが全く違いますし、セットも変えています。
Aの島原智美と伊藤はドラマでも映画でもラーメン屋に行きますが違う店でしたし、島原が野瀬に売るカバンもドラマでは黄色いバーキンみたいなバッグでしたが、映画では茶色い肩掛けカバンでした。
野瀬は友人のスタイリスト宮田真樹とルームシェアして住んでるのですが、ドラマと映画では部屋の配置も左右逆転してました。
ドラマ版に比べると4人の女性のエピソードの分量が減ったので印象は薄くなりましたが、その分、各人が伊藤と決別して前進する様ははっきりと描かれていたように思います。
その代わり映画では矢崎と田村の関係が、ドラマより掘り下げられて描かれていました。
駆け出しの新人脚本家だった矢崎を田村が育てるうちに付き合うようになり「東京ドールハウス」という大ヒットドラマを生み出しますが、ホテルでの行為が終わったあと田村から唐突に別の女性と結婚すると告げられると矢崎はスランプに陥ります。
矢崎が脚本のネタのために、見下すように選んだ女性たちは、かつての矢崎の姿であり、ドラマ版よりも強烈にブーメランとして返ってきます。
恋に悩んで無様な醜態を晒しながらも、もがき苦しんで前に進む4人の女性の姿は、新人の頃に持っていた矢崎が失ってしまったものであり、それに気づいた矢崎が一歩を踏み出せる話でもあります。
ドラマ版では描かれなかった、ラストでの矢崎と伊藤との対峙は結構な長回しのシーンで、ほぼワンシーンで撮っていました。
伊藤の行動原理の全ては「自分が傷つきたくないから」であり、「フラれて傷つきたくないから人を好きにならない」とか「勝ち負けで傷つきたくないから、同じリングや土俵には上がらない」というものでした。
伊藤は世に蔓延する傷つきたくない症候群の権化であり、彼のモンスター性が変わることはありません。
自分が傷つきたくないばかりに他人の痛みに無関心な人が増えてる現代を象徴してるんだと思います。
正直、ドラマ版では各人のエピソードで切なさなどは感じましたが、全体として刺さってくるものが無かったんですが、映画の方が全体を通して刺さってくるものがあって、個人的には映画版の方が好きですね。
『何者』が刺さった人には刺さってくる映画だと思うんですけど、『何者』もそんなに評価高くなかったからなぁ…。
鑑賞データ
TOHOシネマズ渋谷 1か月フリーパスポート 0円
2018年 10作品目 累計4400円 1作品単価440円
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