興味深い人物を知れてよかった ☆3.5点
昭和52年に97歳で亡くなるまで晩年の30年間をほとんど家から出ず自宅の敷地内を描き続けた画家・熊谷守一のある1日をフィクションにしたオリジナル脚本作品。
脚本・監督は沖田修一、熊谷守一役に山崎努、妻秀子役に樹木希林
予告編
映画データ
本作は2018年5月19日(土)公開で、全国75館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には91館での公開となるようです。
劇場では全然予告編を見たことなくて、今年、沖田修一監督の新作が公開されることも知らなかったんですけど、ヤフー映画の公開カレンダーを眺めてたら「監督 沖田修一 出演 山崎努」の文字が目に入ってきたので、どんな映画かも全く分からずに観に行きました。
監督は沖田修一さん
近作は『モヒカン故郷に帰る』を観てます。
主演に山崎努さん
山崎努さんといえば伊丹十三監督の『タンポポ』の食通のタンクローリー運転手ゴローと『マルサの女』のラブホテル経営者権藤の印象が強いです。
この2作はホントに面白かった。
近作は『日本のいちばん長い日』『殿、利息でござる!』『無限の住人』『忍びの国(ナレーター)』『祈りの幕が下りる時』を観てます。
主演に樹木希林さん
近作は『海よりもまだ深く』『光(河瀬直美監督)』を観てます。
しかしこのお2人が初共演とは意外でした。
他に共演と配役は以下の通りです。
熊谷守一: 山崎努
熊谷秀子: 樹木希林
カメラマン藤田武: 加瀬亮
カメラマンアシスタント鹿島公平: 吉村界人
雲水館の主人朝比奈: 光石研
工事現場監督の岩谷:青木崇高
マンションオーナー水島: 吹越満
モリの姪 美恵: 池谷のぶえ
画商荒木: きたろう
昭和天皇: 林与一
知らない男: 三上博史
文部大臣: 嶋田久作
あらすじ
昭和49年の東京。
30年間自宅のちっちゃな庭を探検し、生きものたちを飽きもせずに観察し、時に絵に描く画家モリ(94歳)と、その妻秀子(76歳)。
時を経て味わいを増した生活道具に囲まれて暮らすふたりの日課は、ルール無視の碁。
暮らし上手な夫婦の毎日は、呼んでもいないのになぜか人がひっきりなしにやってきて大忙し。
そんな二人の生活にマンション建設の危機が忍び寄る。
陽がささなくなれば生き物たちは行き場を失う。
慈しんできた大切な庭を守るため、モリと秀子が選択したこととは—。
画商や近所の人でにぎわう茶の間、大勢でたべる夕ご飯。
ちゃぶ台、縁側、黒電話。
人と人との距離が今よりも近く感じられる昭和の暮らしと、50年以上をともに過ごしてきた老夫婦の絆、心豊かに充足した人生のある夏の1日を描く。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
冒頭は美術館みたいなところで「伸餅」とタイトルが付いた絵を見るおじいちゃんが「これは何歳の子が描いた絵ですか?」と言うシーンから始まります。
次に山崎努さん演じるおじいちゃんが森みたいなところで、昆虫を観察するシーンが延々続きます。
体感時間10分くらいあった気がして、実際は99分の映画なんで5分くらいなんでしょうけど、そこでもう眠くなっちゃいました。
でもこれが森じゃなくて庭だということが段々分かります。
で、次に光石研さん演じる中年男性が、樹木希林さん演じる奥さんらしき人に「先生に看板を書いてもらえないでしょうか?」と言ってるので、このおじいちゃんは書家の大家なのかな?と思ったんです。
で奥さんは庭の池をじっと観察しているおじいちゃんのところへ行って、書いてくれるか聞いてくれるんですけど、書かないと言われます。
光石研さん演じる中年男性は雲水館という長野の蓼科にある旅館の主人で、そのことが奥さんを通じて、みんなからモリと呼ばれてるそのおじいちゃんの耳に入ると、「それは大変遠いところから来て下さった」と言って書いてくれることになります。
奥さんが硯を用意して墨をすって準備をします。
旅館の主人は「雲・水・館」って言うんですけど、モリは「無一物」って書きます。
書かれた文字を見て最初に思ったのは、あんまり上手くないなと。
奥さんは旅館の主人に「モリは気に入った言葉しか書かない」と言ってたんですけど、この言葉がどうやら座右の銘らしいことが分かります。
それでこのシーンではキタローさん演じる近所の人或いは友人っぽい人や、池谷のぶえさん演じるお手伝いさんのようだけど家族っぽい人が、モリが書いてるところを見てるんですが、ここで突然三上博史さんが出てきます。
三上博史さん演じる知らない男は「モリが書いてくれるなんて凄いじゃないか」と言うんですけど、みんなが一斉に「あんた誰?」と言うといなくなります。
三上博史さん、映画出演久しぶりだと思うんですけど、一瞬でいなくなったので、随分と出演者が豪華な映画だなぁと思いました。
それでこのあとは池谷のぶえさん演じる家族っぽい人が、郵便屋さんに「また表札が盗まれた」っていう話をしていて、郵便屋さんが「先生が書いたものは高く売れますからね」と言うんで、やっぱり書家の大家なのかな?と思う訳です。
家族っぽい人がモリに表札書いてって言うと、雲水館の主人が手土産で持ってきたまんじゅうの木箱の蓋にモリが書いてくれます。
今度は表札が盗まれないように門の壁に釘で打ちつけると「豊島区千早 熊谷守一」と書かれてたので、「何か見たことある名前だなぁ」と記憶をたどると思い出しました。
池袋に住んでたときに散歩してたら熊谷守一美術館というのがあったのを思い出しました。
ここで初めて、熊谷守一だからモリと呼ばれてて、実際の人物の話なんだと認識しました。
そして、「だからシネ・リーブル池袋で公開されているんだな」とも思いました。
ただ熊谷守一って人が具体的に何をした人かは知らなかったんですが、ここら辺までを観て、最初のシーンのおじいちゃんが「昭和天皇だったのか!」と気づいた次第です。
雲水館の主人が帰ると、新たな人がやって来ます。
次に出てくるのはモリに密着取材してるカメラマンで加瀬亮さんが演じてるんですけど、またまた俳優陣豪華だなぁと思います。
そして新人アシスタントは吉村界人さんです。
この2人が出てきても特に何をするわけでもなくて、モリが昆虫観察してるのを一緒に付き合い写真を撮ります。
モリはずっと蟻を見てて、「蟻は左の第2足から歩き出す」って言うんで、2人はずっと蟻を見るんですが、もちろんどの足から歩き出すかは分かりませんでした。
これ調べたら実際に熊谷守一が言ってるんですね。
ただスローで見てみると違うみたいですけど。
でこのあとはテレビでモリが特集されたのをみんなで見てるんですけど、モリはあんまり興味なさそうです。
テレビのドキュメント番組では、モリが30年間庭から一歩も出ない生活を送ってることが語られるんですが、モリは庭から出て下校中の小学生に見つかって、慌てて家に戻ったりします。
それから文部大臣(だと思う)から文化勲章授与の電話が掛かってくるんですが、モリは辞退します。
これも実話みたいで、こういう実際のエピソードをちょいちょい挟んできます。
カメラマンの2人が帰っていくと、今度はモリの家の前に建てる予定のマンションのオーナーと現場監督がやってきます。
2人はモリの家の周囲にある建設反対の立て看板をどうにかしてくれと言いにきます。
モリはトイレに隠れて応対せず、奥さんが応対しますが、モリを慕ってる若手芸術家がやってることなんで、どうにもできないと奥さんは言います。
現場監督がトイレを借りようとすると、隠れていたモリと出くわします。
テレビを見て顔を知っていた現場監督は、なぜか息子が描いた絵を持っていて、モリに才能があるかどうか見てもらいます。
幼稚園児が書いた台風の絵を見て、モリは下手と言います。
ただ、下手も絵のうちとも言います。
モリは現場監督に見せたいものがあると言って、庭に30年かけて掘った穴を見せます。
現場監督はモリが1人で掘ったことに驚きますが、マンションが建つと日が差すのがここだけになるから、埋めようと思うと言い、どれくらいの土の量が必要か見積もってもらいます。
日が暮れるとオーナーと現場監督は帰っていきます。
池谷のぶえさん演じる家族っぽい人はモリの姪みたいなんですけど、しょっちゅう足がつるんでそれで笑いをとってます。
夕方はプールに通っていて、そこでも足がつって若い男性のコーチに助けてもらうとアプローチ掛けるんですけど、軽く往なされます。
それで夕飯用にお肉を買って帰ってくるんですが、安かったからと言って買い過ぎて3人じゃ食べきれないってなります。
秀子(奥さん)は「ちょうどいい人たちがいる」と言うと、次のシーンではマンション建設の作業員たちがヘッドライト照らしながら続々とやってきて、秀子と姪で夕食を振舞います。
作業員たちがモリモリ食べて夕飯はお開きになるんですが、モリが庭先を見てるとヘッドライトを照らした作業員が1人やって来ます。
モリが庭に出ると作業員じゃなくて、午前中、雲水館の看板を書いてたときにいた知らない男でした。
ヘッドライトと思われたのも、知らない男の額からチョウチンアンコウみたいに伸びてる物で、知らない男はモリに「宇宙に行かないか?」と言います。
しかしモリは自宅の庭で十分と言うと、知らない男は帰っていきます。
夜になってやっと夫婦二人きりの静かな時間となります。
また次の朝が来て、庭を上空から俯瞰する映像で映画は終わります。
ラストだけ三上博史さん演じる知らない男が宇宙人というオチで、阪本順治監督の『団地』みたいな現実離れしたSFになってましたけど、基本的には熊谷守一のある1日を実際に有った印象的なエピソードを散りばめ切り取った作品なんだと思います。
こうやって都会でも仙人みたいな暮らしをしてた人がいたんですね。
ちょっとこないだ観たモード・ルイスみたいな感じだと思いました。
予備知識が全くない状態で観たので、時代設定がいつか分からなかったんですが、モリが雲水館の看板を書くことにしたのは、長野の蓼科から来るのに新幹線が通ってるのを知らなくて何十時間もかけて来たと思ってるからだと画商の荒木が言うんで、長野新幹線のことかな?と思ったんですが、それだと開通したのが1997年(平成9年)なんですが、雰囲気的にはそれよりもっと前、『孤狼の血』と同じ昭和63年くらいかな?と思って観てました。
でも実際は昭和49年とのことで、東海道新幹線のことだったんですね。
東海道新幹線が昭和39年開通なのでモリは10年も新幹線開通を知らなかったことになります。
沖田修一監督らしい笑わせる演出は随所にあって、姪が頻繁に足がつるのを筆頭に、朝食時にはモリがソーセージをペンチで潰して食べたり、昼食時は秀子がうどんを用意してたところ、お隣がカレーを作り過ぎたと持ってきたためカレーうどんになって、モリが箸が滑って全然食べられなかったり、極めつけはドリフターズの話(荒井注が脱退し志村けんが加入)をしてたら、タライが落ちてくる演出までして、映画のセオリーを無視してました。
あと気になったのはカメラマンの2人が持っていたカメラです。
アシスタントの鹿島はNikonのカメラだったんですけど、藤田の方は「Nikomat」と書かれていて、そんなカメラあるのかと思ったんですけど、あったんですね。
文春写真館の熊谷守一の写真が昭和49年撮影と書かれてるんで、藤田の撮影なのかなぁ。
30年間、自宅の敷地内で暮らし、わざわざ外に出かけて行って人と会うことはしないけれど、来る者は拒まずなので、いつも人が集まり、隣にマンションが建とうともあまり気にせず変化を受け入れる。
ケセラセラ、なるようになるさ、みたいな生き方。
それより半径数メートルの観察で忙しく、日常での僅かな変化と発見が愛おしくて嬉しい。
声高に世界平和なんか訴えなくても、自分の半径数メートルを愛せれば、それは地続きに繋がっていくんだなぁと、そんなことを考えさせてくれる作品でありました。
鑑賞データ
シネ・リーブル池袋 TCGメンバーズ ハッピーチューズデー 1000円
2018年 86作品目 累計77300円 1作品単価899円
コメント