わたしたちに許された特別な時間の終わり 評価と感想/死との向き合い方

わたしたちに許された特別な時間の終わり 評価と感想
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今年観た邦画の中でも1,2を争う面白さ  ☆5点

予告編

映画データ

http://cinema.pia.co.jp/title/165403/

あらすじ

2010年の12月、27歳で自らの命を断った増田壮太の後半生がこの映画で描かれる。かつて17歳の時に10代のバンドマンたちのコンテストで優勝した彼にとって、「音楽で食う」ことはただの夢ではなかったはずだった。彼は「音楽の才能」にあふれていたはずだったのだ。

高校の後輩として、ステージの上で輝く壮太の過去を知っている監督の太田が、カメラを通して壮太と再開を果たす。しかし、壮太がリーダーを務めメジャーデビュー間近だったはずのバンドは壮太以外のメンバーの大学進学を機に解散していた。一人上京しプロデビューを目指した壮太は、現実の厳しさから薬に頼ってしまう。カメラが映し出すのは、かつてのように友達も多く、来場者を魅了していた壮太ではなかった。やがて彼はオーバードーズで死の淵を彷徨い、当日付き合っていた彼女や家族との相談の上、地元の埼玉に帰ることになる。

太田同様、壮太に憧れを抱き、音楽活動をしていた蔵人に誘われ、やがて壮太は地元で彼とともに音楽活動を再開させることになる。だが、蔵人はあくまでも音楽活動を趣味として楽しみたいと思っていた。一方で壮太はプロとして、クオリティの高い音楽で客を魅了したいという信念があった。二人の溝はゆっくりと広がり、破綻する。壮太はかつてのバンドメンバーに連絡を取り、地元埼玉でライブを行うが、8月14日というお盆の時期に重なったためか、壮太が望んだほどには来場者の数は多くはなかった。

蔵人は長野の旅館に就職し、温泉で働きながら音楽活動をしていた。ひょんなことから撮影者の太田信吾と壮太は蔵人の働く旅館に遊びにいく。そこで壮太が目にしたのは、村の文化祭で多くの村民の拍手を受ける、蔵人のピアノの演奏であった…

それから約1ヶ月後、壮太は自殺を決行する。自身の思い出と愛情に満ちあふれた、地元の公園で。
映画は、既に死者となった壮太を想像した死後の世界のフィクショナルな映像とともに進展する。それは、死者の声をなんとか代弁しようとする監督自身の思いでもあり、傍にいながらも救えなかったという後悔や懺悔の念が、書かれたテキストの力強さと対照的に、発話される声の微細な震えから、伝わってくる。

(公式サイトより引用)

ネタバレ感想

山形国際ドキュメンタリー映画祭2013で上映され反響を呼び、その後クラウドファンディングによって劇場公開まで漕ぎ着けた作品です。

高校時代からセミプロのような音楽活動をしていて、眩しい輝きを放っていた憧れの先輩・増田壮太のライブ映像を撮ることになった太田監督は惹かれるものを感じ、目的もないままその後も増田先輩を撮り続けます。

しかし、そこに映るのは、高校時代、直接面識は無く憧れだった先輩と違って、音楽で飯を食っていくことが叶わず苦悩する先輩の姿でした。
そこへ太田と同じように高校時代から増田に憧れていた同級生の冨永蔵人が増田のバンドに加わり、二人を撮影するようになります。
ミュージシャン(増田・冨永)と、役者や映像表現者(太田)としての活動を目指す三人は時にぶつかりながらも、それぞれの夢を叶えるべく奔走しますが、憧れの先輩・増田の突然の自殺という現実に直面してしまいます。

確たる目的もなく撮り続けていた映像でしたが、増田の遺書にあった「映画を完成させてね。できればハッピーエンドで」という気持ちに応えるべく、映画に取り組み始めます。
そして、残された者の自責の念や葛藤をドキュメントとフィクションを織り交ぜながら完成させたのが本作となります。

この映画はフィクション部分では「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のようなモキュメンタリー表現を使っていて、緊張感のある映像と演出になっています。
そして、その表現方法が、自己啓発セミナーや劇団での演技の追い込み方に似ているので、人によっては嫌悪感を抱くかもしれないですが、これはあくまで映像表現の一つということで、ドキュメンタリー部分との橋渡しが上手く出来てると思いました。

ドキュメンタリー部分は圧倒的に出演者の二人(増田・冨永)の魅力が光っています。このお二人がとても面白くて、しかも二人共ハンサムなので画面によく映えるんです。増田さんは錦織圭に似てるなーなどと思い、冨永さんは荒川良々に似た感じで愛嬌があるなぁと思いながら観ていました。

増田さんを見て感じたのはゴッホに似てるなーと。才能はあったと思うんです。でもそれが必ずしもその時の評価に繋がらないジレンマ。音楽で食べていくという夢が叶わないもどかしさと、生来のストイックさから自分を追い込んでしまう感じが。

自殺という重たいテーマですが、監督のインタビューなど読みますと、それを腫れ物に触るように扱うのではなくて正面から受け止めて死というものを考え、またそれをどうやって生に活かすのかを考えることが大事なのではないか、という点に共感しました。

長い短いの差はあれ、人は必ず死に向かっていきます。
ガンでは突然亡くならないかもしれませんが、心疾患や脳卒中で明日死ぬかもしれないし、交通事故で死ぬかもしれない。自殺で死ぬかもしれない。

自分の死と他人の死、死というものにどう向き合っていくか考えさせてくれるとてもいい映画でした。

鑑賞データ

ポレポレ東中野 当日一般料金 1700円

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