乗り越えられない痛みだってある ☆5点
2017年のアカデミー主演男優賞と脚本賞をはじめ数々の映画祭で受賞した人間ドラマ。
監督はケネス・ロナーガン、主演はケイシー・アフレック、プロデューサーにマット・デイモン
予告編
映画データ
全国で50館以下の公開規模なので、映画館で予告編を見たことはなかったんですけど、アカデミー受賞作ということで観て参りました。
5月13日の公開ですが、なかなかいいタイミングが無く上映から4週経っての鑑賞となりました。
監督はケネス・ロナーガン
本作でアカデミー脚本賞を受賞。
長編監督作は本作で3作目のようですが、前2作が日本では劇場未公開なので馴染みのない監督です。
マーティン・スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』でアカデミー脚本賞のノミネートがありますが、このときは3人での共同脚本でした。
主演はケイシー・アフレック
ベン・アフレックの弟さんで本作でアカデミー主演男優賞を受賞。
顎の感じがお兄さんに似てますかね。
結果的にお兄さんや親友のマット・デイモンより先に主演男優賞獲得となりました。
昨年『トリプル9 裏切りのコード』を観てます。
本作での雰囲気はレオナルド・ディカプリオに似てたんですけど、レオ様が主演したら男優賞獲れたのかな?とか思いました。
まぁ昨年獲ってるからいいんですけどね。
日本人でこの役やるとしたら草彅くんだなぁとか思って観てました。
共演にルーカス・ヘッジズ
『ムーンライズ・キングダム』と『グランド・ブダペスト・ホテル』とウェス・アンダーソン監督作に続けて出演してます。
共演にカイル・チャンドラー
本編観てる最中は、ずっとアレック・ボールドウィンと思って見てて、いつも間違えます。
去年は『キャロル』での夫役で観てます。
共演にミシェル・ウィリアムズ
『ブロークバック・マウンテン』も『ブルーバレンタイン』も見てないんですよね。
なんか顔は見たことある感じなんですけど、初めましての女優さんなのかな。
あと、ジョーの離婚した妻、パトリックの母の再婚相手役でマシュー・ブロデリック出てました。
今年は『エイミー、エイミー、エイミー』に続いて2本目です。
あらすじ
アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)のもとに、ある日一本の電話が入る。
故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョー(カイル・チャンドラー)が倒れたという知らせだった。
リーは車を飛ばして病院に到着するが、兄ジョーは1時間前に息を引き取っていた。
リーは、冷たくなった兄の遺体を抱きしめお別れをすると、医師や友人ジョージ(C.J. ウィルソン)と共に今後の相談をした。
兄の息子で、リーにとっては甥にあたるパトリック(ルーカス・ヘッジズ)にも父の死を知らせねばならない。
ホッケーの練習試合をしているパトリックを迎えに行くため、リーは町へ向かう。
見知った町並みを横目に車を走らせるリーの脳裏に、過去の記憶が浮かんでは消える。
仲間や家族と笑い合って過ごした日々、美しい思い出の数々——。
兄の遺言を聞くためパトリックと共に弁護士の元へ向かったリーは、遺言を知って絶句する。
「俺が後見人だと?」
兄ジョーは、パトリックの後見人にリーを指名していた。
弁護士は、遺言内容をリーが知らなかったことに驚きながらも、この町に移り住んでほしいことを告げる。
「この町に何年も住んでいたんだろう?」
弁護士の言葉で、この町で過ごした記憶がリーのなかで鮮烈によみがえり、リーは過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。
なぜリーは、心も涙も思い出もすべてこの町に残して出て行ったのか。
なぜ誰にも心を開かず孤独に生きるのか。
リーは、父を失ったパトリックと共に、この町で新たな一歩を踏み出すことができるのだろうか?(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
ボストンからマンチェスター・バイ・ザ・シーまでは映画内でも車で1時間半くらいって言ってましたけど、マサチューセッツ湾を北東に向かって、距離にしても50kmちょっとなんで近いんですよね。
リーのお兄さんのジョーは10年くらい前に心臓の病気が見つかって50~60歳くらいまでしか生きられないだろうと言われていて、わりと入退院を繰り返してたんですけど、ある日ジョージ(C.J. ウィルソン)ってジョーの友達になるのかな?から、船で倒れて病院に搬送されたって電話が来て、急いで戻るんですけど間に合いませんでした。
遺体を見るために霊安室へ降りるエレベーターの中で、ジョーの病気が発覚したときの回想が挟まれるんですが、その後もこの映画はリーがお葬式などの後処理のため街に滞在している間に、過去の回想が挟まれてリーの過去が明らかになる形で話が進みます。
回想は突然挟まれるんですが、最初のエレベーターのシーンこそ戸惑いますが、その後は不思議と分かり辛くなることは無かったです。
リーの過去が明らかになるまで-
パトリックを迎えに行ってお父さんの死を知らせて、病院で遺体を見るか迷って、お葬式の手続きはどうしたらいいか分からなくて、っていう辺りまでは、伊丹十三監督の『お葬式』みたいだなと思って、わりと重い人間ドラマでありつつも結構笑えるコメディだと思いました。
それから2年前に観た『ディアーディアー』っていう邦画で、父危篤の知らせで3兄妹が地元に帰るっていう映画があったんですけど、それにも似てるなと思いました。
話が進んでいくとリーが街を出た理由が明らかになります。
リーはランディ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚していて女の子2人と赤ちゃん1人いたんですけど、自らの失火で自宅を全焼させ子供たちを亡くしていました。
リーは普段から、まだ子供が小さいのに、兄ジョーと甥パトリックと兄の船で出かけたり、男友達と自宅でどんちゃん騒ぎしてて、妻のことを顧みないところがありました。
そのくせ、妻が具合悪くて寝てようが、イチャイチャだけは迫りますから、子供3人も出来ちゃったのかな?と。
火事の原因を警察で事情聴取され問題ないとされますが、署内で警察官の隙をつき銃を奪い自殺を図るも失敗します。
妻からも当然の如くなじられ離婚し、街を出てボストンで寡黙に暮らしてたのでした。
これで、なるほど、リーが無愛想で心を開かないキャラクターだと分かるんですけども、喧嘩っ早いのがどうにもいただけません。
昔のリーはお調子者で、大麻を吸い、深酒し、思慮の浅い人間で、その結果、火事を引き起こしたんですけど、悲しみにくれるばかりで、真っ当な人間になろうという気概が見えないんですよね。
相変わらず酒は飲みますし、車の運転中も携帯使う(ハンズフリーじゃない)し、車の運転も荒くて、性格を表してます。
劇中、いつ交通事故でどんがらがっしゃーんっていくか、ヒヤヒヤして観てました。
リーはジョーに相談されることなく、パトリックの後見人に指定されて戸惑います。
ジョーはリーに立ち直って欲しいという思いがあって後見人に指定したんでしょうけど、頑なに街には住みたくないんですよね。
パトリックは高校生でアイスホッケーとバンド活動して、彼女も2人いるっていうリア充なので、街から出たくないんですが、ボストンから距離的に行ったら通えなくもない。
ていうか、自分が高校生のとき、あれくらい離れてました。
なので話は平行線で、どうする?っていう話ですが、リーは結局、過去の傷を乗り越えらなくて、パトリックをジョージに預けてボストンに帰るっていう話です。
お話的には、この乗り越えられないってところをメインに描いたのが新しいのかなと思います。
主人公は救われず、物語の前後で変わりもしない。
観客は主人公の過去の辛い出来事を見せられるだけなんですが、パトリックのエピソードが面白いので暗い悲しいばかりでは無いんですね。
パトリックのエピソードは『永い言い訳』とか『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』に似てると思います。
父ちゃんが死んだのに泣けないっていう。
パトリックは遺体をちょっとしか見ないし、父ちゃんが死んだそばから、友達と約束してるからって家に呼んだり、アイスホッケーの練習に出ようとしたり、バンドの練習したり、彼女とはセックスしようとしたりしてるんですが、あれ、父親の死を受け入れられないので、普段通りのことをして気を紛らわせようとしてるんですよね。
お墓が雪で埋まっちゃって埋葬できないから、リーが遺体は冷凍するって言い出して、パトリックは反対するんですけど、お葬式終わって自宅に帰って、冷凍庫開けたら食材が落ちてきてパニックになって、あそこで初めて泣きます。
そこをまた、リーがよく分かってないところも面白くて、あー、僕のダメな叔父さんだなぁと思いました。
終盤はなじられたランディにも謝罪され心配されますが、リーの心の傷が癒えることはありません。
リー以外の人たちは、みな前向きにそれぞれの道を進みますが、リーの場合は時間が解決してくれるのを見守るしかないのかなぁと思いました。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ渋谷 ハッピーフライデー 1000円
2017年 93作品目 累計98500円 1作品単価1059円
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