吉野の森に癒された ☆3点
『殯の森』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞している河瀬直美監督が、世界三大映画祭の全てで女優賞を受賞しているフランスの女優ジュリエット・ビノシュを主演に迎え、監督の故郷である奈良を舞台にオールロケを敢行したヒューマンファンタジーでW主演に永瀬正敏
予告編
映画データ
本作は2018年6月8日(金)公開で、全国147館での公開です。
ほぼ全国一斉公開みたいですが、あとから公開されるところも6~7館あるみたいです。
劇場での予告編は目にしませんでしたが、劇場に貼ってあったポスターで公開を知りました。
監督は河瀨直美さん
昨年の2017年第70回カンヌ国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞した前作『光』は劇場で観ました。
『あん』はWOWOWで放送されてたのを見て、作品はこの2作した見たことありません。
主演にジュリエット・ビノシュさん
世界三大映画祭の全てで女優賞を受賞している女優さんで、同じように全部受賞してるのはジュリアン・ムーアだけかな?
1993年の『トリコロール/青の愛』でヴェネツィア国際映画祭女優賞
1996年の『イングリッシュ・ペイシェント』でベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)
2010年の『トスカーナの贋作』でカンヌ国際映画祭女優賞
を受賞してますが作品は未見です。
今ではすっかり名前を聞かなくなったレオス・カラックス監督のアレックス三部作の第二作目『汚れた血』(日本では1988年公開)で日本でも名を知られるようになった女優さんで、『汚れた血』と『ポンヌフの恋人』は当時ビデオで見ました。
近作は『ゴースト・イン・ザ・シェル』を観てます。
W主演に永瀬正敏さん
近作は『まほろ駅前狂騒曲』『後妻業の女』『光』『パターソン』を観てます。
共演に岩田剛典さん
近作は『去年の冬、きみと別れ』を観てます。
共演に夏木マリさん
近作は『星くず兄弟の新たな伝説』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
ジャンヌ: ジュリエット・ビノシュ
智: 永瀬正敏
鈴: 岩田剛典
花: 美波
岳: 森山未來
源: 田中泯
アキ: 夏木マリ
老夫婦: ジジ・ぶぅ
老夫婦: 白川和子
コウ: 紀州犬
あらすじ
木々が青々と茂る夏。紀行文を執筆しているフランスの女性エッセイスト・ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は、奈良・吉野にある山深い神秘的な森に通訳兼アシスタントの花(美波)とやってきた。
その森で、猟犬のコウと静かに暮らす智(永瀬正敏)は、木々を切り、森の自然を守っている山守だ。智はある日、鋭い感覚を持つ女・アキ(夏木マリ)から、明日は森の守り神である春日神社へお参りに行くように、と告げられる。
翌朝、ジャンヌと花は春日神社で智と出会い、花は「この村に昔から伝わる薬狩りの話を聞いて、やってきました。“ビジョン”と呼ばれる薬草を探しています」と話す。ジャンヌは「人類のあらゆる精神的な苦痛を取り去ることができる」と説明するが、智は「聞いたことがない」と言う。
ジャンヌは智の家の離れに泊めてもらえることになり、ほどなく出会ったアキからは「あんただったんだね」と言われる。アキは、この森に誰かがやってくることを前もって知っていたのだ。さらに「最近、森がおかしい。1000年に1度の時が迫っている」と言う。アキは“ビジョン”についても、何か知っているという口ぶりだった。数日過ごすうちに言葉や文化の壁を越えて、心を通わせるジャンヌと智。身も心も距離を近づける二人の前から、突如としてアキは姿を消した。ほどなくして、ジャンヌも仕事のために帰国することに。別れ際、智に言う。「まもなく、“ビジョン”は現れる」。
季節は流れ、山が茜色に染まる秋。ジャンヌは智の家に戻ってくると、智は、山で出会った謎の青年・鈴(岩田剛典)と仲睦まじく生活をしていた。ジャンヌは、智や鈴に昔、知っていた男の姿を重ねるようになる。猟師だった岳(森山未來)だ。その岳と、老猟師・源(田中泯)には悲しい過去があった……。そんな中、“ビジョン”は生まれようとしていた。
ジャンヌがこの地を訪れた本当の理由は何か? 山とともに生きる智が見た未来(ビジョン)とは?
(公式サイトhttp://vision-movie.jp/about/index.htmlより引用)
ネタバレ感想
河瀬直美監督がLDH資本で主演にジュリエット・ビノシュを迎え、っていう謎映画なんですが、制作の経緯が公式サイトのイントロダクションhttp://vision-movie.jp/about/index.htmlに書いてありました。
3人の映画人の出会いは、やはり、世界最高峰の映画祭だった。河瀨監督は2017年5月、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に『光』を出品。公式上映では約10分にも及ぶスタンディングオベーションが監督、キャストに贈られ、エキュメニカル審査員賞に輝いた。そんな映画祭の期間中、“映画の神様”はもう一つのプレゼントをくれた。河瀨監督、永瀬が公式ディナーで、本作のプロデューサーであるマリアン・スロットと同席となり、ビノシュを引き合わせてくれたのだ。やがて、国籍や言語の違いを越え、意気投合。ビノシュが河瀨監督の次回作の出演を熱望したことから、翌6月に制作が決定。河瀨監督はすぐさま、ビノシュと永瀬を当て書きし、オリジナル脚本を執筆した。
ということのようで、昨年のカンヌ以降にバタバタと決まった企画なんですね。
LDH資本になったのはちょうどその前後にショートショートフィルムフェスティバルの企画でEXILE TRIBEとコラボして『パラレルワールド』という短編を撮ったからでしょう。
『HiGH&LOW(ハイロー)』で映画制作に進出したLDHは海外進出もしてますから、カンヌ受賞経験もある河瀬監督との思惑が一致したんだと思います。
物語は冒頭、猟師役の田中泯さんが鹿狩りをしてるところから始まります。
鉄砲で逃げる鹿を狙ってるのですが、そこで何かが起こります。
しかしこのシーンでは何が起こったか明かされず、終盤になって明かされます。
フランス人女性のエッセイスト・ジャンヌは通訳兼アシスタントの花を伴って近鉄特急で吉野に向かってます。
山守である智はひと仕事を終えると、隣(といっても車でないと行けない)のアキのとこへお茶をしにというかご飯を食べに行きます。
仙人みたいなアキは智に「自分の年齢はいくつだと思う?」と聞き、智が答えられないでいると千年くらい生きてることを仄めかし、今日はもう山に入ってはいけないということと、明日の朝は春日神社にお詣りに行くように言います。
智は「毎日お詣り行ってるし」と言います。
このシーンではアキを演じる夏木マリさんが目の見えないような芝居(前作の『光』では永瀬さんが)をしてるので視覚障害者だと思うんですが、後のシーンでジャンヌが指摘して明らかになります。
翌朝、智がお詣りしてるとジャンヌと花がやってきて声をかけられます。
永瀬さん演じる智は、前作の『光』で永瀬さんが演じた雅哉みたいに愛想がなくてちょっと心を閉ざしてる感じです。
ここでは智が吉野に来て20年になること(都会で疲れたとか何かあったんでしょう、地元民では無い)とジャンヌが幻の薬草ビジョンを探してることが語られます。
ジャンヌと花はちょっと心を閉ざし気味の智に無理くりお願いしてしばらく泊めてもらえることになります(結構、強引な展開)。
智の家の離れに荷物を下ろしたジャンヌと花は景色がいいと言ってはしゃぎます。
それからは暫く、山に入る智と同行したり、自分たちで森に入って吉野の山を勉強します。
ある日、智がアキを乗せて軽トラを運転してると、森から出てきたジャンヌと花と出会います。
智がアキに「泊ってる人たち」と紹介すると、そのままアキの家に誘われます。
智がアキは薬草に詳しいと言うとジャンヌはビジョンについて尋ねます。
アキは呆れ気味に智に「何にも知らないのかい」と言うと、千年に1度現れる幻の薬草でそのときは近づいてると言います。
またジャンヌに対しては「あんただったんだね」と以前から知ってる口ぶりで、吉野の森を訪れることも予見してたように言います。
またその際にジャンヌは「目が見えないんですね」とアキに言います。
ここまで、ジャンヌがフランス語で話すときは花が日本語に通訳するのですが、ジャンヌが英語で話すと智も英語を話せるので、花は用済みってことで、「祖母の所に行かなくちゃいけない」と言って、ピューっといなくなります。
家には智とジャンヌの二人っきりになります(家の外に犬のコウはいますが)。
智が山守から帰ってくると、ジャンヌが台所で粗く切った玉ねぎを炒めてて料理を作ってます。
ジャンヌが「パスタ作ったから食べない?」と言うと、智と二人で食事を摂ります。
しかしパスタに手を付けない智。
トマトとキュウリが嫌いだと言います。
キュウリは入ってないと言うジャンヌ。
20年吉野の森で暮らしててトマトとキュウリ嫌いってどういうことだ?と単純に思いました。
そして粗く切った玉ねぎはどこへ。
夜になるとジャンヌは素数ゼミの話をします。
ジャンヌはフランスにいる時からビジョンについて調べてて、その出現は素数である997年毎だと言い、次の出現は今秋~今冬だと言います。
と、まぁ、そんな話をロウソク灯りの下、顔を突き合わせてしてたらジャンヌが智にキスをし、2人は結ばれる流れになるんですが、『光』のときと同様に相変わらずキスは唐突で、本作ではSEXまでしちゃうんでSEXへのハードルが低いんですけど、そこをツッコんでもキリが無いのでまぁいいです。
それで2人は「俺たち付き合うことになりました」って報告しに行こうとした訳じゃないと思うんですが、アキの家を訪ねるとしっかりと鍵がかかってて応答がなく、アキは忽然と姿を消してしまいます。
観客にはアキが森に入ったことが明かされていて、森の中で前衛的なダンスを踊るとやがて倒れて死んだものと思われます。
ジャンヌは一旦フランスに戻らねばならないと言ってフランスに帰って行きます。
そしてガンちゃんは中々出てきません。
あと、ここまででジジ・ぶぅさん演じる老人が森の中で仲間と喋ってるシーンが数回挿し込まれるんですけど、これも終盤に明らかになります。
季節が秋(アキ)くらい(空撮で山の森の色の変化を映してます)になったのかな、智が森を歩いてると倒れてる青年を見つけます。
やっとガンちゃんの登場です。
5~60分経ってるのかな?
倒れてたトコはアキがいなくなった場所と同じような気がするのですが、違うかもしれません。
とにかく智はその青年を連れて帰ると離れに住まわせます。
青年の名前は鈴と言って、山守の仕事もセンス良くこなすので智は重宝してます。
モンベルの黒いインナーを着て料理する鈴に、ノースフェイスの黒いアウターを着た智が「焦げてる」とか言って手伝うなど仲睦まじい様子が描かれます。
しかし暫くするとジャンヌがフランスから戻ってきます。
ジャンヌはまた離れに荷物を置きに行きますが、既に別の人の荷物があるんで「あれれ?」という顔をします。
智と鈴が山守から戻ってくると鈴を紹介されるんで、ジャンヌはちょっと嫉妬します。
この頃になるとジャンヌの若い頃のイメージが挿し込まれ、ロン毛でひげを生やしてる男と一緒にいるシーンが描かれます。
かろうじてその男を演じてるのが、森山未來さんであることが分かる感じではっきりとは映しません。
そうこうしてるうちに、ある日の朝、鈴とコウがいなくなってしまいます。
智は森の中を探しますが鈴もコウも見つかりません。
またジャンヌと2人っきりになります。
2人っきりになるとやることはセックスなんですが、この頃になると永瀬さん演じる智は無精ひげを生やして髪も伸びてるので、森山さんの雰囲気に似てくるんですね。
森山さんの役は劇中では名前が明かされないと思うんですけど、岳という名前で、岳と智のイメージがダブってきます。
すると、また暫くしたら鈴が死んだコウを抱きかかえて突然帰ってきます。
智はコウが死んだのを深く悲しみます。
それでここからはよく分からなかったんですが、森の木や地面から胞子のようなものが舞い始めるんですけど、それがたぶんビジョンなんだと思います。
そして鈴が森に入って行ってアキのように踊ると、鈴の周囲が燃えていきます。
鈴を探してジャンヌがやってくると、回想シーンになり色々なことが分かってきます。
まず冒頭のシーンで鹿狩りの源さん(田中泯)に起きたことは、誤って人を撃ってしまったことで、それが同じく鹿狩りをしていた岳だったんです。
それでジャンヌは昔、吉野に来ていて(たぶん)岳と付き合ってて(たぶん)青姦して赤ちゃんが出来ます。
岳は源さんに撃たれて死んじゃったので、ジャンヌは1人で赤ちゃんを産むんですが、これもなぜか外(森の中)で産みます。
すると産んだそばからアキが現れて(だから初めにジャンヌに会ったとき「あんただったんだね」と言う)赤ちゃんをどこかに連れて行きます。
アキが赤ちゃんを連れてった先は、劇中に時々登場してた老人(ジジ・ぶぅ)とその妻(白川和子)の家で、縁側に赤ちゃんを置いていきます。
老夫婦はその赤ちゃんを見て「おや、まあ」と喜んで育てます。
仏壇には岳の遺影が飾られてるので、岳の両親だということが分かり、老夫婦は知ってか知らでか孫を育てることになります。
で、その赤ちゃんというのが鈴です。
鈴はLDH資本でガンちゃんがキャスティングされたと思うんですが、茶髪でハーフっぽい感じもするので岳(森山未來)とジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)の子っていうのは、何気に説得力あると思いました。
年齢的にもジュリエット・ビノシュ54歳、がんちゃん29歳ってバランス取れてると思いますし。
それでラストは、焼け跡で倒れてる鈴をジャンヌが抱き起こすと鈴が意識を取り戻します。
ジャンヌが「やっと会えたのね」と鈴が息子であることを認識したのが描かれて終わる感じだったと思います。
智が岳のイメージに見えたのも、これから智とジャンヌと鈴の3人で暮らしていく事を暗示してるんだと思います。
本来ならば岳とジャンヌと鈴で家族として暮らすはずだった訳ですが、岳が不慮の事故で亡くなってしまい叶わなかった未来(ビジョン)が、アキの導きもあって智と出会い、叶う話なのかな?と思いました。
というかVisionって森山「未來」さんの名前にかかってくるところまで意識してキャスティングしたんですかね?
ティーチインがあったら監督に聞いてみたいところであります。
まぁ正直テーマみたいなものはよく分からなかったんですけど、大まかなところで言えば先日観た『海を駆ける』に似たものがあるのかなぁ?と思いました。
両作ともファンタジックな題材で、海に対して本作は山や森です。
『海を駆ける』では謎の存在ラウに対し、本作ではアキという具合です。
それから鑑賞直後は思い浮かばなかったのですが、こうやって感想を書いてみる段になると、素数ゼミの数学チックなところとかドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』と近いのかな?と思いました。
『メッセージ』もビジョンの話ですよね。
あと思い浮かんだのは最近のだと『ワンダーストラック』です。
過去と現在の二つの時代を巡り、主人公である少年のルーツを探る話ですが、少年と鈴の境遇が似てると思いました。
奇しくもこの作品にも三大映画祭全て受賞しているジュリアン・ムーアが出演してます。
本作は上映時間が110分あるんですが脚本のボリュームは少なめで、その分映像で見せる感じです。
智とコウが山に入っていく様子や伐採する様子を長々と映してるんですが、自分は不思議と眠くなることはありませんでした。
智が森を直線的に登るのに対し、コウがつづら折りに登っていくところとか可愛かったんで、コウが死んじゃったときは可哀想でしたね。
吉野の森には単純に癒されて、映像を通して森林浴をした気分になれました。
ツッコミどころは多々ありつつも『光』よりは気にならない作品で、さっぱり分からないことだらけでしたけど、近鉄特急で吉野に行ってみたいと思えた作品でした。
鑑賞データ
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2018年 97作品目 累計90500円 1作品単価933円
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