テーマは老いなのか?何となく寂しくもあり ☆3.5点
2010年の『アウトレイジ』と2012年の『アウトレイジ ビヨンド』で暴力団同士の抗争を描いた同名シリーズの最終作で監督は北野武
主演は3作共通してビートたけし、共演は前作に引き続き西田敏行と塩見三省
予告編
映画データ
本作は2017年10月7日(土)公開で全国290館弱での公開です。
前作『アウトレイジ ビヨンド』が2012年10月6日(土)公開なのでちょうど5年ぶりとなります。
映画館での予告編(特報)はよく見ましたが、でっかい金色の弾丸が回転するだけなので、どんな内容かは分からず期待に胸を膨らませての鑑賞です。
監督は北野武さん
北野映画は映画館でよく見ており、デビュー作となった『その男、凶暴につき』を高校生のとき映画館で観た衝撃は今でも忘れられません。
それまでの邦画のバイオレンス描写を一変させる作品で、鈍器で後頭部を殴られたような衝撃がありました。
その後は『BROTHER』までは映画館でコンスタントに観て、『アキレスと亀』まではDVDやテレビで観て、『アウトレイジ』からまた劇場鑑賞復活という感じです。
『アウトレイジ』は鈴木慶一さんによるテーマが痺れました。
北野映画の楽曲のよさは異常ですね。
主演はビートたけしさん
監督と一緒なんで割愛します。
共演に西田敏行さん
現在公開中の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は先月末観てきました。
共演に大森南朋さん
近作は『さよなら渓谷』『R100』『まほろ駅前狂騒曲』『さよなら歌舞伎町』『ミュージアム』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
大友: ビートたけし
西野: 西田敏行
市川: 大森南朋
花田: ピエール瀧
繁田: 松重豊
野村: 大杉漣
中田: 塩見三省
李: 白竜
白山: 名高達男
五味: 光石研
丸山: 原田泰造
吉岡: 池内博之
崔: 津田寛治
張: 金田時男
平山: 中村育二
森島: 岸部一徳
あらすじ
《【山王会】vs.関西【花菱会】》の巨大抗争後、大友(ビートたけし)は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー張会長(金田時男)の下にいた。
そんな折、取引のため韓国出張中の【花菱会】幹部・花田(ピエール瀧)がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。
これをきっかけに、《国際的フィクサー【張グループ】vs.巨大暴力団組織【花菱会】》が一触即発の状態に。
激怒した大友は、全ての因縁に決着をつけるべく日本に戻ってくる。時を同じくして、その【花菱会】では内紛が勃発していた……。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
まず前作『アウトレイジ ビヨンド』のときの感想はこちらです。
ブラックレインで高倉健さん演じる松本正博大阪府警刑事の上司で大阪府警刑事部長役だった神山繁さんが今年(2017年1月3日)に亡くなり、前作『アウトレイジ ビヨンド』の花菱会会長布施役を継続出来なくなった本作。
布施会長の娘婿で元証券マンの野村を花菱会会長に据えることで設定を回避させ、そこから生じる跡目争いと、前作で韓国フィクサー張会長の庇護の元、済州島に渡った大友が、大友のことを知らない花菱会幹部にコケにされ、復讐のため日本に戻ったことによって起こる抗争を本作では描いてます。
本作を観た印象は、まず前2作を観てる前提で話が進んでるなぁと思いました。
今年のヴェネツィア映画祭のクロージング作品だったようですが、外国の観客はちんぷんかんぷんだったんじゃないかな?と。
唐突に出てくる前作までの加藤(三浦友和)、片岡(小日向文世)、木村(中野英雄)の名前は、日本人なら演じている俳優さんの印象もあり覚えていますが、過去作のシーンの挿入とかは無いんで分かり辛かったんじゃないかと思いました。
『アウトレイジ ビヨンド』の感想でも書きましたが、1作目は「こんな殺し方考えた」から結果的にヤクザ映画になって、暴対法以降あまり作られなくなり需要も無かったと思われたヤクザ映画が、意外にもスマッシュヒットとなり続編が作られることになります。
続編の『アウトレイジ ビヨンド』は北野武監督初のシリーズ物ということで、『アウトレイジ』から「大友が生きていた!」というどんでん返し的な設定はありつつも、前作の設定を踏まえ物語が作られていくことになります。
関東vs関西の新機軸を打ち出し怒号による応酬は人気を博し、パロディ動画なんかも作られ盛り上がり、ビヨンドを見てから1作目を見た人も多いんじゃないかと思います。
そんな本作ですが、どうも西野と中田の迫力が足りません。
西野役の西田敏行さんが昨年から体調を崩されて入退院して瘦せられたのは知ってましたので、致し方ないかなと思いました。
そして前作では恐ろしいほどの迫力だった中田もなんか迫力がない。
中田役の塩見三省さんも痩せられてて、何かご病気したのかな?と思いましたが、すっかり忘れてました、琥珀の勉さん。
そういえばそうでした。
塩見さんは2012年のアウトレイジビヨンドと2013年のあまちゃんというキャリア絶頂のあとに倒れられていたのを思い出しました。
神山繁さんも亡くなり、西田さんと塩見さんも体調を崩されて、たけしさんの年々聞き取り辛くなる滑舌と共に、映画内では今年の大友の手下には芸能人最強の呼び声も高い本宮泰風さんが加入したことにより、「今回の大友たち楽勝だろ」と思ったところ、まさか手元が狂って大友が撃ち殺しちゃうという、老人の高速道路逆走みたいな展開で、老いというものを痛烈に感じさせられ寂しくもありました。
北野監督の前作が老いを逆手に取ったジジイ無双炸裂映画『龍三と七人の子分たち』だったことも余計にそう感じさせます。
晩年になって再ブレイクしてる藤竜也さんと近藤正臣さんをキャスティングすることによってジジイ映画ながらも元気のあった前作に対し、本作はリハビリみたいな映画だったので、次作もそれを自虐にしたギャグ映画の方がいいのかもと思いました。
もちろん面白いことは面白いんです。
ただ、これまでのシリーズの中では一番コメディ寄りで、今までの北野バイオレンス映画にあった死の重みとか痛みとかが感じられないんです。
それは大友と市川がパーティー会場で銃を乱射したシーンからも明らかで、先日のラスベガスの銃乱射事件を彷彿させる展開で、公開延期にならなくてよかったとさえ思いました。
野村の生き埋め、花田の爆弾も以前なら描いて見せたと思うのですが今作では端折ります。
深作欣二監督の『北陸代理戦争』の声もありますが、あの作品でも最後は描いて見せてました。
ピエール瀧さんのヤクザ役も想像の上を上回ることなく、出オチ感が否めなかったです。
今回の花菱の花田―中田―西野の立ち回り方は、張会長に忖度したような形になっており、そういう意味では現在感がありました。
実際、張グループは何もしてないですよね。
持ってきた3000万円に3000万を付けて返したのは金額が少ないってことを花田―中田が理解出来なかったという話ですし、野村が本部で張会長の手下の茶髪の青年に襲われたのは青年が暴走しただけでした。
そんな訳でビヨンドではバッチリ睨みを効かせていた花菱会の幹部連中が今作ではすっかりピエロになってしまったことによって、寂しい最終章になってしまった気もしますが、このシリーズ、特に1作目の『アウトレイジ』のフロンティアスピリッツには敬意を表したいと思います。
山一抗争の終結や暴対法の施行でヤクザ映画を描くことのリアリティが無くなる中、ヤクザ組織においても一般社会と同じような上からの締め付けや理不尽さを描いていた『アウトレイジ』ですが、その後本当に菱が割れました。
しかもその理由も上納金によるものということで、ドンピシャです。
映画の方が現実の先を行ってて、そこは先見の明があったと思います。
1作目のような椎名桔平さん、三浦友和さん、加瀬亮さんといったおよそヤクザ役には似つかわしくない人をキャスティングする北野映画ならではの妙というものは無くなりましたが、代わりに北野映画常連だった大杉漣さん、津田寛治さん、桐生コウジさんなんかの登場は嬉しいものがありました。
前作から引き続きの白竜さんと『その男、凶暴につき』の岸部一徳さんは一緒の画面には映りませんでしたが胸熱ですし、『ソナチネ』をエンタメに特化させたセルフリメイクのような北野映画集大成になってたのはよかったと思います。
鑑賞データ
丸の内ピカデリー SMTメンバーズ割引料金 1200円
2017年 166作品目 累計177000円 1作品単価1066円
コメント
今日見てきました。
「全員暴走」といっても「実際、張グループは何もしてないですよね。」のとおり、
張は李と一枚岩、花菱の方も肝心の西野中田は一枚岩。
警察と山王会は辻妻合わせのみで出てきた印象。
何をするにしても一緒、みたいでたばこポイ捨てしてた水野なんかが恋しいですね。
野村なんて殺されても何とも思わない!(笑)前作でいいとこばかりだった花菱組の、
特に西野が中田や花田に裏切られて、追い込まれてみじめに死んでほしかったのに…
大友も会長への義理でかっこつけて死ぬくらいなら「outrage=憤怒」「拳銃を使った人間は幸せになれない」の言葉を体現させるために
会長にすら裏切られて壮絶に果てて欲しかったですね。
予告編で五味が白山を撃ってさらっと「大友に撃たれました」なんて責任転嫁したシーンの
ような、一作目のような利己と保身が積み重なって憎しみあう血と血の応酬がみたかった!(笑)
あああさん
コメントありがとうございます。
大友には西野も殺して花菱会壊滅させてから逝って欲しかったです。
武は幼い頃にヤクザに優しくされた思い出が、あるんだと思います。自分も任侠ヤクザ、強く優しい人間になりたかったが気が小さくて未だに成れなかった。兎に角、白人コンプレックスの塊。是枝監督が麺類をすするシーンを多用するのは、もしかしたら北野へのアンチテーゼだと思う。わざとらしく、迫力無くセリフが子供、役者は追い込まれていないから学芸会。ケンカした事ない奴だと武は言うけど、きっとお前は怖くて見ていたり逃げた奴なんじゃないかよ。白人に媚び売って賞貰って、恥ずかしい。恥を知れ、もっと日本を深く観てくれ。そういった作品なら永遠に語り接がれるモノが出来るのに。今の北野武は子供に還った老害。浅い作品だった、と回顧して日本人にすまない…俺は大した作品を造れなかった、とあの世で言えたら次もある…。