現代劇で剣術モノをどう描くか ☆4点
1998年の『ブエノスアイレス午前零時』で芥川賞を受賞した藤沢周の2012年に発表された同名小説の映画化。
監督と主演は『夏の終り』でタッグを組んでいる熊切和嘉監督と綾野剛。W主演で村上虹郎
予告編
映画データ
本作は2017年6月3日(土)の公開で、映画館等で予告編を見たことは無かったですが、今年の邦画の賞レースに掛かってきそうな気がして、観よう観ようと思ってたんですが後回しになって、公開後1か月以上経ってからの鑑賞となりました。
監督は熊切和嘉さん
『海炭市叙景』とか『私の男』は観に行こうかなと思いつつもスルーしてしまったので、まだ作品を見たことがないと思ってましたが、『私の男』公開時にニコニコ動画で『鬼畜大宴会』やってたのを見てました。
主演に綾野剛さん
昨年は『リップヴァンウィンクルの花嫁』『日本で一番悪い奴ら』『怒り』を観てます。
W主演で村上虹郎さん
昨年の『ディストラクション・ベイビーズ』で観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
矢田部研吾:綾野剛
羽田融:村上虹郎
カズノ:前田敦子
大野三津子:風吹ジュン
矢田部将造:小林薫
光邑雪峯:柄本明
羽田希美:片岡礼子
矢田部静子:神野三鈴
田所:康すおん
あらすじ
「殺す気で突いてみろ!」
矢田部研吾(綾野剛)は、まだ小学生だった自分に、日本刀を突き付けて剣を教えるような警察官の父・将造(小林薫)に育てられた。
おかげで剣の道で一目置かれる存在となったが、父とのある一件から、進むべき道を見失い、剣も棄ててしまった。
そんな中、研吾のもう一人の師匠である光邑師範(柄本明)が、研吾を立ち直らせようと、一人の少年を研吾のもとへと送り込む。
彼の名は羽田融(村上虹郎)、ラップのリリック作りに夢中で、どこから見ても今どきの高校生だが、台風の洪水で死にかけたというトラウマを抱えていた。
そんな彼こそ、本人も知らない恐るべき剣の才能の持ち主だった。
研吾と融、共通点はなかった。
互いに死を覗きながら闘うこと以外は──そして、その唯一の断ち斬り難い絆が、二人を台風の夜の決闘へと導いていく──。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
原作は未読です。
映画サイトなどであらすじはざっと読んでいましたが、いわゆる単純なスポ根剣道モノでは無くて、現代劇で剣術モノってどうやるんだろう?と思って観ました。
お話の筋は単純で、剣道の指導なんですけど、虐待じゃないか?っていうくらい異様に厳しい父に育てられた研吾は、高校生くらいのときに父と行った木刀を使った稽古で、父の頭をかち割って植物状態にしてしまいます。
それ以降は剣道をやめてしまい、自暴自棄になって警備員のバイトをしながらアルコールに溺れる毎日です。
融は学校の裏を歩いてたときに、たむろしていた剣道部員の竹刀を足に当ててしまい因縁をつけられ道場に連れて行かれます。
部員に剣道でかわいがられるんですけど、ちょうどそのときに顧問の光邑師範が入ってくると、融の下段の構えに目を留めます。
融は剣道未経験者でしたが、光邑師範は融の才能に非凡なものを感じ、師範が住職をしている寺の薪割りのバイトを頼みます(この辺はベスト・キッドみたい)。
融はラップするためのスタジオ代やライブ会場代を稼ぐために、二つ返事でバイトをしますが、バイト代は剣道用具一式でした。
融は剣道をやる気は無かったですが、師範から聞かされる禅の精神が、彼のリリック作りの根底にあるトラウマや死生観を捉え、なんとなく師範の手伝いをしてるうちに剣の道に引き込まれます。
ある日、師範のお使いで手紙を持って行くように頼まれ、荒れ果てた家を訪ねると出てきたのは狂犬のような研吾でした。
アルコールで酩酊状態だった研吾は、融が携えていた木刀を目にすると、融の中に父の幻影を見て自分を討ちに来たものと思い込み攻撃してきます。
融は手紙を玄関前に置き、木刀も忘れて帰るのでした。
別の日、高校の道場に研吾が現れます。
融が忘れていった木刀を返すためでしたが、その木刀は師範が選んだ人にしか渡されないもので、以前は研吾が持ってました。
研吾を立ち直らせたいと考えている師範は「今のお前では融に勝てない」と研吾を焚きつけて試合させます。
融は師範の目論見通り、研吾から面を取りますが、キレた研吾はケンカ殺法で融や止めにきた部員たちを返り討ちにするのでした。
融は剣道にどんどんのめり込むも、部活の練習では物足りなさを感じ始めます。
研吾に剣道以上の何かを感じた融は、嵐の夜に決闘を申し込みます。
研吾は最初、竹刀で応戦しますが、融の攻撃に本気になると木刀で応戦し一進一退の攻防が続きます。
攻防が続くうち、融が完全に父に見えると、突きで父を倒すのでした。
研吾は再び父を倒したと思い込み、茫然自失で街を彷徨ってると師範に寺に連れて行かれます。
そこには融がいて、師範が「お前が突いたのは父ではないぞ、よく見ろ」と言って、融の喉元に巻かれていた包帯を解かせ、赤く腫れた傷口を見せると、融は声にならない声で謝るのでした。
それからの研吾はアルコールを断ち、真人間になります。
融は剣道部の練習に顔を見せなくなります。
それで、そのあと忘れましたが、ラストは研吾と融が道場できちんと剣道着一式着けて戦います。
融が下段の構え、研吾が上段の構えで飛び掛かるところで映画は終わります。
嵐での決闘がクライマックスかな?と思ったら、まだ続いたのでちょっと集中力途切れてたり眠くなったりして、最後の方ちゃんと覚えてないんですけど、テーマは面白いかなと思ったんですよね。
剣道・武士道・禅・お経・リリック・ラップが繋がる感じで、それは光邑師範によるところが大きいんですが、何で2人が戦うのかがイマイチよく分からなかったです。
ていうか、そもそものお父さんが厳しすぎましたね。
あれは息子といえども児童虐待で社会福祉事務所に通報するレベルなんですけど、誰もそれをしなかったところに問題があるんですが、それだと物語が成立しないか…
お父さんが警察官である描写は無かったんですが、分かるのは剣道着に「神奈川 矢田部」って書いてあるところかな。
ただですね、光邑師範から物凄い達筆(警察官、調書書くのに達筆な人多い)な手紙渡されて研吾が読むシーンがあって、感動するシーンみたくなってるんですが、研吾が思い出してる思い出って、父と父の愛人の大野三津子と海に行ってる場面でして、お母さん浮かばれないじゃんと思ったんですけど、あれお母さん死ぬ前ですよね。
お父さんは子供虐待するわ、浮気するわで、酷い人間にしか見えないから全然感動できないんですよね。
融が師範のお使いで初めて研吾の家を訪れるシーンは芸が細かいなと思ったのですが、研吾の家に上がる坂の砂利道に自転車が3台くらい捨てられてるんですが、あれ研吾が酒飲んだ帰りに酔っぱらって盗んで乗って帰ってきた自転車だと思うんですけど、盗まれた人のことを考えたら研吾に無性に腹立ちますね。
それで研吾の家から、コトを致していた最中かのように、ロングTシャツにパンツ1丁の彼女・カズノ(前田敦子)が出てきて、研吾がまさぐってパンツを融に見せるんですが、あそこはやっぱりロングTシャツを捲り上げて、おっぱい揉みしだいて研吾の更なるヤバさを見せて欲しかったですね。
前田敦子さん、いい女優さんになってると思うんですけど『さよなら歌舞伎町』同様、あと一歩が足りない気がします。
主演の綾野剛さんの演技は凄かったですね。
ホント、クズ野郎にしか見えなかったですもの。
肉体的にも、後半に見せるあの筋肉はもの凄くて、役作りが凄まじいなと思いました。
一応エンドロールに制作協力にライザップの文字がありまして、シックスパックや背中の筋肉は結果にコミットしてたんだなと思います。
W主演の村上虹郎さんも、綾野剛さんに負けず劣らず、怪しげな色気を放ってました。
最初のライブシーンとかも本物かと思うくらい上手かったです。
さすがUAさんの息子さんと思いました。
融が下段の構えということで、やっぱり「シグルイ」の伊良子清玄を思い浮かべながら観てたりしました。
鑑賞データ
新宿武蔵野館 水曜サービスデー 1000円
2017年 111作品目 累計119800円 1作品単価1079円
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