人は自分の思い通りにはならないということ ☆4点
『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』の原作者フィリップ・ディジャンが2012年に上梓した小説「Oh…」の映画化。
ゲーム会社のCEOを務める主人公が、ある日突然、自宅に侵入してきた覆面レイプ魔に襲われたことにより巻き起こるエロティックサスペンス。
監督はポール・バーホーベン、主演はイザベル・ユペール、共演にヴィルジニー・エフィラ
予告編
映画データ
本作はTOHOシネマズシャンテでかなり前から予告編を目にしていて楽しみにしてたんですが、まだ全国で13館ほどの公開なんですね。
今後順次、全国公開していくみたいで最終的には60館ほどでの公開となるようです。
監督はポール・バーホーベン
久しぶりに監督として名前を見ますね。
『トータル・リコール』と『氷の微笑』は劇場に観に行った記憶があります。
『ロボコップ』と『インビジブル』は日曜洋画劇場で見てます。
『ターミネーター2 3D』のときの感想にも書いたんですが、カロルコ・ピクチャーズ倒産のきっかけとなった『ショーガール』は未見なんですが、その辺のことは去年観たドキュメンタリー『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』で出てくるので面白いです。
バーホーベン監督もインタビューで出てきます。
主演はイザベル・ユペール
昨年と今年のフランス映画祭で来日していて、昨年は団長、今年はカトリーヌ・ドヌーヴが来たので2番手に回る感じでしたが、フランスの至宝と呼ばれてる方でございます。
予告編見たときは50代かと思ったんですが64歳ということでビックリ!
若い!美しい!
作品は『ヴィオレッタ』を観たことがあります。
共演にヴィルジニー・エフィラ
6月に公開された『おとなの恋の測り方』で主演されてました。
他に共演と配役は以下の通りです。
ミシェル役: イザベル・ユペール
パトリック役: ロラン・ラフィット
アンナ役: アンヌ・コンシニ
リシャール役: シャルル・ベルリング
レベッカ役: ヴィルジニー・エフィラ
ヴァンサン役: ジョナ・ブロケ
イレーヌ役: ジュディット・マーレ
ロベール役: クリスチャン・ベルケル
ジョシー役: アリス・イザーズ
エレン役: ビマーラ・ポンス
ラルフ役: ラファエル・ラングレ
あらすじ
新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった──。
(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
お話の筋としては、レイプ犯は誰だ?というので話をひっぱりつつ、主人公ミシェルを取り巻く人々のちょっと変わった状況を描き、事件も解決し、ミシェルが引きずっていた過去も清算し、新たな一歩を踏み出す、っていう話なんですが人間関係がかなり複雑です。
キャラクター相関図必須なんですが、公式サイト見ても載ってないので、ちょっと自分なりにまとめてみます。
ミシェル
本作の主人公でゲーム開発会社の社長でお金持ちです。予告編に出てくる触手系のエロ・グロテスクなゲームを新作として準備してますが、本人はコンピューターに詳しいわけではないようで、全体的なプロデューサーですかね。
39年前、10歳のときに父親が起こした近隣住民惨殺事件がトラウマになってます。
演じるイザベル・ユペールは1953年生まれで現在64歳ですが、劇中では49歳の設定になるんだと思います。
父親が起こした事件は「津山30人殺し」に匹敵するような事件で27人(だと思う)殺してます。
予告編で下着姿で写ってる少女がミシェルで、家で宿題をやってたら惨殺事件を起こした父親が帰ってきて、興奮した父親が家の中の家具を燃やし始めてミシェルもそれを手伝わされていたところ、事件が騒ぎになって警察やマスコミが駆け付けて、その際に撮られた映像がニュースに流れた形になってます。
父親は逮捕され服役中でフランスは死刑が無いので終身刑ですが、10年ごとに仮釈放の申請があるようで今その申請をしていて少しニュースになってるという状況です。
ミシェルは当然のごとく父親を嫌っていて、事件以降会っていません。
リシャール
ミシェルの元夫で売れない小説家です。
ミシェルにDV振るって別れてますが、ミシェルとは友人関係のようになってます。
エレンっていうヨガのインストラクターをやってる若い彼女が最近出来ましたが、ミシェルはよく思ってません。
ヴァンサン
ミシェルとリシャールの息子です。
仕事が続かないダメ息子で、ミシェルがダメにしてる部分もあります。
恋人のジョシーに子供が生まれるというので、マクドナルドでバイト始めたところです。
イレーヌ
ミシェルの母親です。
ミシェル名義の高級アパートに一人で住んでますが、若い男を買ってます。
最近入れあげているラルフという若い男と結婚しようとしてますが、当然のごとくミシェルはいい顔しません。
アンナ
ミシェルの親友で会社でも共同経営者のような立場です。
元々はヴァンサンを身籠ったときに病院で知り合った妊婦友達でしたが、アンナは流産してしまいます。
そのためヴァンサンを非常に可愛がってくれ、ミシェルも羨むほど仲がいいです。
ロベール
アンナの夫です。
ミシェルとは数か月前から不倫してます。
ミシェル、リシャール、アンナと定期的に催してるディナーでレイプの件を打ち明けられますが、それでもすぐにミシェルに体を求めるデリカシーの無い男です。
会社の社長室まで来て、手コキしてもらったりしてます。
パトリック
ミシェルの家の向かいに住む、顔なじみの若夫婦の夫の方。
銀行とかの金融機関で働いてます。
レベッカ
パトリックの妻。
敬虔なクリスチャンで仕事は美術関係だったかな?
エレン
リシャールの彼女
ジョシー
ヴァンサンの彼女で子供が生まれるのを機に結婚する予定。
胸とかにタトゥーが入っててビッチっぽいのでミシェルはいい顔しません。
生まれてきた赤ちゃんがどう見ても黒人との間に出来た子供ですが、ヴァンサンは気にしてない様子。
ヴァンサンには黒人の友人がいました。
ラルフ
イレーヌと結婚しますが、ほぼ金目当てでしょう。
イレーヌの死後、別の女を引っ張りこんでいます。
映画はオープニングクレジットの暗転中からミシェルがレイプされている様子が聞こえます。
オープニングクレジットが終わるとミシェルが床に倒れていて覆面姿の犯人がズボンを上げて帰るところなんですが、倒れているミシェルのブラはずらされていて初っ端からフランスの至宝イザベル・ユペールのおっぱいが出ててスゲーです。
予告編にある覆面姿の犯人が窓から入ってくる様子は、あとで回想で描かれます。
犯人が出ていくと警察に連絡するでもなく、お風呂で体を清めて寿司の出前をとったりして淡々としてます。
さすがに翌日、病院には行っていて性病検査とかもしてもらってました。
アンナたちに打ち明けるのは三日後くらいで、心配する友人をよそに淡々としてます。
友人たちは警察に届けたのかと聞くと、ミシェルは警察には届けないと言います。
レイプされて警察に届けないプロットは6月に観たイラン映画『セールスマン』と同じなんですが、そちらは虐げられる女性を描いていて、本作とはちょっと違うんですが、話の進め方が似ていると思いました。
ミシェルが警察に届けないのは父親の事件で警察を信用してないからで、犯人の子とはいえ被害者なのにマスコミなどから奇異な目で見られたからで、この辺は犯罪被害者の苦悩を描いた『ダーク・プレイス』に似てるかなと思います。
ミシェルは会社の部下にも厳しく接していたので、レイプは恨まれた末の犯行かと、社内の人間も疑うんですが結果的には違いました。
予告編にある、開発中のゲームにミシェルの顔をコラージュしたものが社内に一斉送信されるのは、ミシェルが犯人を突き止めるために比較的信用できそうな部下のケヴィンに社内のネットワークを調べさせていたんですが、実はケヴィンがふざけて作ったコラが社内の別の友人によって一斉送信されてしまったものでした。
ミシェルはレイプ犯かどうかを確認するために、ケヴィンにズボンとパンツを下ろさせます。
レイプ犯は割礼した男で、ケヴィンは割礼していませんでした。
ミシェルはレイプ被害にあってから、アンナに後ろめたい気持ちもあってロベールとの関係を終わらせたくなりますが、ロベールは執拗に体を求めてきます。
そんなとき近所で不審者騒ぎがあって、ちょうどミシェルが帰ってきたときに顔なじみのパトリックとレベッカの夫妻に出くわします。
パトリックが気を利かせてミシェルを部屋まで送ると、ミシェルはパトリックにときめいてしまいます。
パトリックが出かける姿を窓ガラス越しに見て、ミシェルはオナニーしたりします。
相変わらずレイプ犯が分からないままクリスマスを迎えますが、ミシェルは自宅に皆を呼んでクリスマスパーティーをします。
パーティーの最中、ミシェルはテーブル下で足を使ってパトリックにちょっかい出したりして誘惑します。
パーティが落ち着いたときに、パトリックと話すとミシェルは40年前の事件のことを話してパトリックの反応を窺うのでした。
クリスマスパーティーでは母イレーヌがラルフと結婚したことを報告します。
呆れたミシェルがラルフは金目当てだと注意するとイレーヌは脳溢血で倒れてしまいます。
そのままイレーヌは病院に入院し帰らぬ人となってしまうのですが、生前、父親に会ってほしいとしきりに言ってました。
窓ガラスが割れそうなくらい雨風が強いある嵐の夜、心配したパトリックがミシェルの家を訪ねてくれます。
雨戸を閉めた方がいいということで閉めてると2人はいい雰囲気になります。
ミシェルは誘惑しますが、パトリックはためらって帰ってしまいます。
レイプ犯はひょんなことから判明します。
それは再び、ミシェルを襲ってきたからでした。
最初と同じように自宅で襲われますが、近くにあったハサミを犯人の手に突き刺して覆面を剥ぐと犯人はパトリックでした。
パトリックは暴行しないと燃えない変態野郎でした。
ミシェルはパトリックが犯人だと分かっても淡々としてて警察に突き出すこともしません。
父の仮釈放の申請が却下されたのをニュースで知ると、ミシェルは過去の自分と向き合うべく父親と会うことを決心します。
刑務所に面会に行くと、父親が死んだことを知らされます。
父親は娘が面会にくることを前日に知ると自殺したのでした。
刑務所からの帰り、林道で車を走らせていると鹿が飛び出してきて事故を起こしてしまいます。
木に激突して車がめり込み動けなくなってしまいます。
ミシェルはここでも警察を呼ばずに、呼んだのはパトリックでした。
家に連れ帰ってもらって足の傷の手当てをしてもらいますがここでは何も起きません。
ある日、ヴァンサンがジョシーと喧嘩したと言って戻ってきます。
何でもヴァンサンが仕事を辞めたことを罵られたらしく、ミシェルが辞めた理由を聞くと車が壊れて仕事場まで通えなくなったからで、地下鉄で1時間かけていくには空気が悪いってことでした。
ミシェルはさすがに呆れますがヴァンサンが赤ちゃんを連れ帰ってきたので、それは誘拐にあたると指摘します。
するとジョシーが子供を取り戻しにやってきて、子供を渡すと暫く別居するのでした。
また別の日、ミシェルとヴァンサンがスーパーで買い物してるとパトリックと会います。
レベッカはカトリックの行事で出かけてて不在とのことで夕食に招待されます。
ミシェルは気が乗りませんでしたがヴァンサンが行きたいというので出かけます。
ヴァンサンはパトリックのことを尊敬してるようで、お酒もすすみ早々に酔いつぶれてしまいます。
パトリックの家は床暖房で自分で施設したという話になり、地下にボイラー室があり見に行くことになります。
ミシェルと地下に降りると、ここは音が聞こえないと、パトリックが突然ギラついてレイプする流れになります。
しかし、ミシェルがドンとこーいと大の字に寝そべると、それは違うと言われてしまいます。
パトリックは女性が嫌がってないと萎えてしまうのです。
ミシェルが嫌がりながらヨガるとパトリックはあっという間に果てるのでした。
別の日、アンナからロベールが浮気してることを聞かされますが、相手が自分だと言えないミシェルでした。
別の日、開発していた新作ゲームの完成御披露目パーティーをします。
その席では元夫のリシャールからエレンと別れたことを聞かされます。
何でもエレンはリシャールを同姓同名の他の作家と勘違いしてたのでした。
またミシェルは、アンナとロベールがイチャついてるのを見かけると、アンナが一人になったときに浮気してたのは自分だと伝えます。
怒ったアンナがロベールに詰め寄るのを横目で見ながら、パーティーの手伝いをしてるヴァンサンにパトリックに送ってもらって先に帰ると伝えます。
パトリックに送ってもらう帰りの車中、ミシェルはパトリックに今まで何人の女性にこういうことをしたのかと聞いて、最初から警察に届け出るべきだったと言い、事件のことを警察に話すと言います。
ミシェルが家に入ると、また覆面男が襲ってきます。
覆面男はもちろんパトリックで2人の間ではプレイのようなものでしたが、その襲われてる最中にヴァンサンが帰ってきます。
母が襲われてると判断したヴァンサンが棍棒のようなものを振り上げるのをパトリックの肩越しに見つめると、パトリックの頭が陥没して血が流れるのでした。
パトリックは死に、事件は正当防衛として処理されます。
向かいのレベッカは引っ越すようで、気落ちしてるかと思いミシェルが声を掛けますが、レベッカにパトリックに付き合ってくれてありがとうと礼を言われると、自分には信仰があるから大丈夫と言って力強く旅立っていきます。
ヴァンサンはジョシーとヨリを戻してます。
ミシェルは母と父の墓参りに訪れます。
父の墓にはいたずら書きがたくさんされてます。
そこへアンナがやってきてロベールと離婚したことを告げます。
アンナはミシェルの家で2人で暮らしていくことになり、2人が並んで歩いて映画は終わります。
予告編を見たときはフランス版『氷の微笑』みたいなやつかと思いましたが、全体的にブラックユーモアが効いてて笑えるところが多かったです。
『氷の微笑』はだいぶ前に見たんで忘れましたが、あらすじを見たら「精液を撒き散らしたベッド上でアイスピックで刺されて」とあって、本作でも精液をベッドに撒かれてたんで同じだ(笑)と思いました。
出てくる人物がみんなヘンで、まともなのがアンナとレベッカくらい。
4月に観たイタリアのアカデミー賞作品『おとなの事情』みたいなゲスNo.1決定戦の趣もありました。
イタリアとかフランスは、こんなんばっかりなのかな?と思いますが、日本でも週刊誌を賑わせてるゲス不倫の実態はこんなんですよね。
でも映画になると『昼顔』みたいに綺麗になっちゃう。
日本でももう少しゲスエロく描いてもいいと思いますけどね。
ミシェルの背景とか現在起きていることに対しての行動、父親が起こした事件の大きさ、母親の行動を含めてリアリティが無いので寓話的なお話なのかなと思います。
基本的には変態映画で、ラース・フォン・トリアー監督(デンマーク)の『ニンフォマニアック』なんかにも近い感じのものがあると思いました(バーホーベン監督はオランダ)。
テーマはハッキリとは分かりませんでした。
父親が事件を起こした背景として、近所の子供にも額に十字を切ってあげるような敬虔なクリスチャンだったが、親たちからクレームがきて凶行に及んだ、と嘘かホントか分からない理由がミシェルから語られますが、レベッカも敬虔なクリスチャンでしたので、キリスト教的な何かもあるのかな?と思いましたが、ハッキリとは分かりません。
観てて思ったのは、例えば劇中ではミシェルの元夫であるリシャールはどちらかというと頼りない男として、ミシェルにも車壊されたり護身スプレーかけられたりしてますが、離婚の原因になったのはリシャールのDVなわけで、リシャールからすると思い通りにならないミシェルに苛立つところがあったのでしょう。
また反対にミシェルは、元夫リシャールに若いエレナという彼女が出来たことを不快に思ったり、母に対しても、息子に対しても苛立ちますが、所詮は家族といえども、他人なんて自分の思い通りにはならないわけで、そこに腹立ててもいい結果は生まないと思うんですよね。
物語的にもそうなってて、実はヴァンサンはダメ息子ではあるが、生まれてくる子が自分の子ではないのを覚悟して結婚してて、ミシェルはそのことにあとから気づくんですが、事件前はそういったヴァンサンのいい部分は気づかなかった訳です。
ミシェルは身内の行動には苛立ちますが、外の世界にはある意味寛容なんですよね。
レイプ犯もそうですが、喫茶店でランチをとってるとき、通りすがりのおばちゃん客に嫌がらせされるじゃないですか。
あそここそ理不尽極まりなくて腹立たせるとこだと思うのですが、そういうところには苛立たないで淡々としている。
父親の事件のせいもあって、そういったものは甘んじて受け入れてしまっている、どこかで自分が罰せられても仕方ないと思ってることが、レイプ事件へのあの対応だったんじゃないかと思いました。
そういう意味で言うと、劇中アンナに「39年前も被害者よ」と言いますが、ミシェルは39年経って初めて外の世界に「私は被害者よ」と言えたんじゃないかと思いました。
それにしても、『ワンダーウーマン』や本作にしても、主人公が男性器を凝視しても物怖じしない描写がこうも続くとは(笑)
鑑賞データ
TOHOシネマズシャンテ シネマイレージデイ 1400円
2017年 142作品目 累計150700円 1作品単価1061円
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