セールスマン 評価と感想/振り上げた拳の下ろし方

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男は怒り、女は耐える、この構図はいつまで続くのか ☆4点

予告編

映画データ

(シネマトゥデイ)

映画『セールスマン』の作品情報:『別離』『ある過去の行方』などのアスガー・ファルハディ監督がメガホンを取ったサスペンスドラマ。不幸な事件をきっかけに、平穏な日々を送っていた夫婦の人生が少しずつ狂い始める様子を丁寧に描写する。
(ぴあ映画生活)
『セールスマン』は2016年の映画。『セールスマン』に対するみんなの評価やクチコミ情報、映画館の上映スケジュール、フォトギャラリーや動画クリップなどを紹介しています。
2016年のイラン・フランス映画で第69回(2016年)カンヌ映画祭で脚本賞と男優賞、第89回(2017年)アカデミー賞で外国語映画賞受賞のサスペンス作品。監督はベルリン映画祭で監督賞を受賞したこともあるアスガー・ファルハディ

アカデミー賞の外国語映画賞受賞作ということで観て参りました。
イランの映画でサスペンスってどんなものだろう?と興味湧いた次第です。

監督はアスガー・ファルハディという方。
イランの映画って見たこと無いので存じ上げなかったんですが、45歳で既に名匠と言われてるそうで。
2009年の『彼女が消えた浜辺』という作品でベルリン映画祭の監督賞、2011年の『別離』で同金熊賞と男優賞・女優賞を受賞という方です。

主演は『別離』で男優賞を受賞しているシャハブ・ホセイニとタラネ・アリドゥスティ

あらすじ

教師のエマッド(シャハブ・ホセイニ)は妻ラナ(タラネ・アリドゥスティ)とともに小さな劇団に所属し、上演を間近に控えたアーサー・ミラー原作の舞台「セールスマンの死」の稽古に忙しい。
思いがけないことで住む家を失った夫婦は、劇団仲間が紹介してくれたアパートに移り住むことにする。
慌ただしく引っ越し作業を終え、「セールスマンの死」の初日を迎えた夜、事件が起こった。
ひと足早く劇場から帰宅したラナが侵入者に襲われたのだ。
この事件以来、夫婦の生活は一変した。
包帯を巻いた痛々しい姿で帰宅したラナは精神的にもダメージを負い、めっきり口数が少なくなった。
一方、エマッドは犯人を捕まえるために「警察に行こう」とラナを説得するが、表沙汰にしたくない彼女は頑なに拒み続ける。
立ち直れないラナと、やり場のない苛立ちを募らせるエマッドの感情はすれ違い、夫婦仲は険悪になっていった。
そして犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だと確証をつかんだエマッドは、自力で捜し出すことを決意するのだが・・・

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

冒頭、主人公の夫婦がマンションを出て行かなきゃならなくなるんですが、パニック映画みたいにマンションの住人が一斉に退避します。
少し揺れてるように見えて地震なのかな?と思いますが分からず。
壁が崩れるとか言ってるんで欠陥マンションなのかな?とも思うんですが違くて、マンションの隣の土地でショベルカーが地面に穴掘ってる様子が映し出されます。
強引な地上げなんですかね?
イランの制度が分からないんですが、とにかく主人公たちは住むところを失います。

2人は劇団員なので当座は稽古場で寝泊まりしようとしますが、劇団員仲間のババク(ババク・カリミ)がマンションを紹介してくれます。
すぐに引っ越しするんですが、部屋の一室に鍵が掛かってて開きません。
ババクに聞くと前の住人が住むところが決まってなくて、荷物があるとのことでした。

引っ越しの最中、マンションの住人とババクが会話してる様子が描かれるんですが、前の住人はあまり評判がよくなかったようでした。

ババクは前の住人と連絡して荷物を引き取る日を決めましたが、前の住人は現れず荷物も勝手に触るなとのことでした。
前の住人の言い草に呆れて夫のエマッドが部屋の中に入ると、女性ものの靴や洋服が大量にあり、壁には子供が書いたようないたずら書きがありました。
ババクに聞くと前の住人は女性とのことでした。

ババクと夫妻は数日間、荷物をそのままにしてましたが、前の住人と連絡がとれなくなったババクが業を煮やし、部屋の外に荷物を出します。
しばらく外に置いておいた荷物ですが、前の住人がまだ部屋が決まらないらしく、荷物についても動かしたら容赦しないとババクに連絡があり、結局、元に戻します。

「セールスマンの死」の公演初日を終え、先にマンションに帰った妻のラナがシャワーに入ろうと準備してると、玄関のブザーが鳴ります。
夫のエマッドが帰宅したと思ったラナはオートロックを解除し、玄関のドアを開けておきますが人が入って来る様子はありませんでした。

エマッドが帰宅してブザーを鳴らしても応答がありません。
下の住人に開けてもらって階段を上がってると、わずかに血の跡があり、部屋に入ると玄関は開いていてラナがいる様子もなく、床には血が付いていました。

場面変わって病院。
エマッドが病院に着くとラナが頭を怪我していて治療を受けています。
隣人たちが運んできてくれたのでした。
隣人たちは当初、夫婦喧嘩と思ったそうですが、かなり大きな音がしたので部屋に入るとラナが倒れていたとのことでした。
マンションの階段を下りていく男性らしき姿を見たとの声もありました。

幸いラナの怪我自体は大したことはありませんでしたが、精神的ダメージが大きく事件のことも詳しく覚えていませんでした。
盗まれたものは無いので物取りの線は消え、2人も恨みを買うような心当たりがないことから、トラブルメーカーだったような前の住人に関係することではないかとエマッドは考えます。

エマッドは事件を警察に届け出ようとしますが、ラナは拒否します。

この辺は日本人には理解し辛いんですが、イスラム圏には姦通罪があるからで、被害者であっても女性の立場が弱いからなんですが、ラナには事件があったときシャワーを浴びてた最中、裸を見られたかも知れないという負い目がありました。

日本だと、少し前のレイプ被害を届けたがらないのに似ているかなと思いました。
まぁ今でもあると思いますが。

犯人を見つけて懲らしめてやりたい夫と、事を大きくしたくないけれども心の傷は消えない妻とで、心がすれ違う様子がキリキリとした緊張感で描かれていきます。

ババクは前の住人のことをハッキリ言わなかったのですが、隣人たちに聞くと、どうやらいかがわしい商売をしてたみたいで、男性の出入りがあったことが分かります。

ある日エマッドは家に見覚えのない鍵束があるのを見つけます。
その鍵束は犯人の物と思われ調べると、近所に放置されていた車の鍵だと分かります。
当初は警察に届けることも考え、車を保全するためにマンションの駐車場に入れたり、階段の血の跡をそのままにしていたエマッドでしたが、自力で犯人を見つけることに切り替えます。

学校の生徒の中に交通局に勤めてる親がいたので、車のナンバーから持ち主を割り出してもらうと一軒のパン屋が浮かび上がります。
パン屋を訪れ、それとなく様子を伺うと、車の持ち主はそこで配達をしている青年だと分かります。

エマッドは自分の荷物を運ぶのにちょうどいい大きさの幌が付いたトラックなので、運送のバイトを個人的に頼めないかとその青年に打診しますが、青年は乗り気ではありません。
青年の同僚が後押ししてくれて、了解を取り付けるとお互いの携帯電話番号を交換します。

バイトの日。
エマッドが前に住んでいたマンションで待っていると、現れたのは青年では無くおじいさんでした。
青年が来られなくなったので頼まれて代わりに来たというおじいさんは、青年の婚約者のお父さんでした。

青年を問い詰める予定だったエマッドは青年を呼んでもらうために事情を話します。
義理の息子になる予定の青年は、こんな酷い奴だという事を聞かせて、呼んでもらおうとしますが、おじいさんは青年の携帯番号を知らないと言います。

不審に思って、車を使ってるのは誰かと聞くと、昼は配達で青年が使ってますが、夜はおじいさんが衣服の販売で使ってるとのことでした。
完全におじいさんが怪しいと踏んで靴と靴下を脱がせると、階段に付いた血の跡、逃げたときに出来たと思われる傷がありました。

事件のあらましはこうでした。
おじいさんは、前の住人の女のいかがわしい商売の客でした。
女とはしばらく連絡を取っていませんでしたが、その日は近くに来たので寄ったとのことでした。

おじいさんは女が引っ越してたことは知りませんでしたが、ブザーを押したら開いたので入ったとのことでした。
エマッドは玄関に入ったら家の様子が以前とは違うことに気付いただろう?と聞きますが、おじいさんが女の子供に買ってあげた自転車が玄関にあったので、あまり気に留めなかったと言いますが、それ以上に部屋に入るとシャワーの音が聞こえてきてムラムラしてしまったと言います。

怒ったエマッドはおじいさんをマンションの部屋に閉じ込めると、舞台に出るために出かけて行きます。
公演を終えてマンションに戻ると、あとからラナも訪れます。

エマッドはラナに、おじいさんには家族の前で懺悔させると息巻きます。
おじいさんはそれだけは勘弁してくれと言います。
ラナも許してやってと言います。

そうこうしてるうちに心臓に持病のあるおじいさんが倒れてしまいます。
おじいさんが持ってる薬を飲ませ、急いで家族を呼びます。

駆けつけた家族はおじいさんの妻と娘と婚約者の青年で、おじいさんの体を心配する普通の家族でした。
家族から感謝されるエマッドは結局何も言えませんでした。

少し体調が戻ったおじいさんを帰す前に、エマッドはおじいさんと2人きりになり、おじいさんが部屋に置いてったものを返します。
その中にはおじいさんが置いてったお金もありました。

返されたものを手にし、家族と部屋を出て階段を降りていると、おじいさんの体調がみるみる悪くなり再び倒れてしまいます。
家族が救急車に電話し、心臓マッサージの指示を仰ぐもおじいさんは亡くなってしまうのでした。

エピローグは劇中しばしば上演されるアーサー・ミラーの「セールスマンの死」が上演されて映画は終わります。

映画は最後まで観てても、実際、事件がどうであったのか詳しいことは分からなくて、そこはぼかして描かれてます。
物語のキーになる前の住人の女も一切登場しなくて、いわゆるマクガフィンになっています。
マンションを紹介してくれたババクも彼女の客でした。

アーサー・ミラーの「セールスマンの死」がどういう物語か知らなかったので、作品の意図するところが分からなかったのですが、元々は第二次世界大戦後の拡大する資本主義によるアメリカ社会の陰の部分を扱ってる作品のようですので、変化するイランを同じように捉えて社会の陰の部分を描き出してるのかな?と思います。

観てる最中は同じ第69回のカンヌに出品されたダルデンヌ兄弟の『午後8時の訪問者』に近いなと思いました。

自分に厳しく他人に優しく ☆4点 コーエン兄弟やウォシャウスキー姉妹なら知ってるんですが、ダルデンヌ兄弟は初めて聞きました。カンヌ方面疎いもので。 ベルギーの監督さんだそうで、初めましての監督さんでしたが、ヒューマントラストシネマで予告編を観たとき、面白そうだなぁと思い鑑賞しました。
事件のミステリー部分で話を引っ張るんですが、これは警察なり何なりに任せれば解決すると思うんですが、そう出来ない事情や思い、割り切れなさが丁寧に描かれています。

インターホンのブザーも共通してますね。
ダルデンヌの作品ではあの時応答して扉を開けていればですし、本作では夫かどうか確認してから扉を開けていればですし、両作品の主人公の女性には共通した後悔の念があります。

娼婦が絡んだ事件でそれがマクガフィンになってるのも同じですし、背景にはまだ圧倒的な男尊女卑があるのを痛感させられます。

イランの映画を映画館で観るのは初めての体験でしたので上映時間124分のわりにはやや長く感じましたが、決してつまらないことは無く集中して観れました。

猫と子供が可愛いのは万国共通で、そこはほっこりして観れましたね。

ミステリーの部分はネタバレしてしまうと何だ、となってしまいますが、事件をきっかけにして変化していく夫婦の重厚なドラマで見応えのある作品に仕上がってると思います。

鑑賞データ

ル・シネマ 火曜日サービスデー 1100円
2017年 100作品目 累計106900円 1作品単価1069円

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