原作をベースに丁寧に撮られてる ☆4点
2013年に発売された湊かなえによる6篇からなる短編集『望郷』から「夢の国」と「光の航路」を映画化。
監督は菊地健雄、主演は貫地谷しほりと大東駿介
予告編
映画データ
『ディアーディアー』の菊地監督ということで観に行ってきました。
映画館で予告編は見たこと無く、原作も未読です。
本作は2017年9月16日(土)公開ですが、まだ上映は新宿武蔵野館1館のみで今後順次全国公開されていく形で最終的に25館くらいでの上映になるようです。
2016年9月28日(水)にテレビ東京で六本木三丁目移転プロジェクトのドラマスペシャルとして「みかんの花」「海の星」「雲の糸」がドラマ化されています。
(「海の星」はチラッと見た気がします)
6編のうち5編が映像化されていて、映像化されてないのは「石の十字架」というのになりますが、本作の中にも石の十字架という単語は出てきます。
監督は菊地健雄さん
長編は3作目です。
『ディアーディアー』と『ハローグッバイ』を観てます。
たぶん黒沢清監督の作品を完コピ出来る方なんじゃないかと思います。
主演は貫地谷しほりさん
近作は『偉大なる、しゅららぼん』『白ゆき姫殺人事件』『結婚』を観てます。
主演は大東駿介さん
近作は『白ゆき姫殺人事件』『TOKYO TRIBE』『グッドモーニングショー』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
田山夢都子: 貫地谷しほり
大崎航: 大東駿介
夢都子の母: 木村多江
航の父: 緒形直人
平川聡: 森岡龍
畑野忠彦: 浜野謙太
田山夢都子(幼少期): 伊東蒼
深田碧: 川島鈴遥
大崎航(幼少期): 荒木飛羽
大崎洋子: 片岡礼子
田山高雄: 相島一之
田山セツ: 白川和子
あらすじ
家に縛られた娘。亡き父に後悔をもつ息子。
ある島で起こる、ふたつの親子の物語。古いしきたりを重んじる家庭に育った夢都子(貫地谷しほり)は、故郷に縛られ生活をしていた。彼女にとって幼いころから本土にある“ドリームランド”が自由の象徴だったが、それは祖母や母(木村多江)のもとで暮らす彼女には決して叶わない“自由”であった。月日は流れ結婚をし、幸せな家庭を築く中、ドリームランドが今年で閉園になるという話を耳にする。憧れの場所がなくなる前に、彼女はずっと抱えてきた想いを語り始める――。
一方、転任の為9年ぶりに本土から故郷に戻った航(大東駿介)のもとには、ある日、亡き父(緒形直人)の教え子と名乗る畑野が訪問してくる。彼は、航が知らなかった教師としての父の姿を語り出し、父親のことを誤解していたと知るが――。
(公式サイトhttp://bokyo.jp/より引用)
ネタバレ感想
物語は夢都子と航が同じ島で育った同級生で、夢都子の夫と航が同じ職場というので結び付けてるだけで、それぞれ独立したお話となります。
物語は内地の学校の教師だった航が島に戻ってくるところから始まり、偶然、夢都子と出会うところから始まります。
買い物帰りの夢都子を航が車で送りながら近況報告をします。
夢都子は航が夫の聡と同じ中学校に赴任してきたことを知り、航は夢都子が地元の人にお屋敷と言われる実家を出て結婚したのを知ると、夢都子の回想に入ります。
[夢の国]
夢都子の家は厳しい祖母のセツ、セツの息子で父親の高雄、田山の家に嫁いできた母との4人暮らしです。
ある日、小学校の友達がドリームランドに行って、皆羨ましがりますが、お屋敷と言われる夢都子の家なら行けるんじゃないかと言われます。
夢都子の家は裏山と畑を持ってる地主で、父親は畑仕事をしてました。
父の高雄は持病を抱えた厳しい祖母には頭が上がらなく何でも言いなりで夕飯の晩酌だけを楽しみにしてるような父親です。
その日の夕食時、ドリームランドの話をすると酔っぱらった父は皆で行こうじゃないかと言い喜ぶ夢都子でした。
翌朝、夢都子が母親にドリームランドにいつ行くか尋ねたところ、あんなのいつものお父さんの安請け合いで、おばあちゃんが許すわけないでしょと言われると、どうしておばあちゃんの言う通りにしなければならないの?と言って駄々をこねますが、祖母から朝からうるさいと叱られ、母親の躾がなって無いとなじられます。
祖母のセツは田山の跡取りを産めなかった嫁に、普段から厳しく接していました。
ある日、夢都子が母と買い物に出かけると商店街の福引で1等ドリームランド招待券を当てます。
喜ぶ夢都子でしたが、母は行けるわけ無いでしょといい、1等を返してしまいます。
福引を引き直し5等の箱ティッシュを持って帰りますが、夢都子の心はこのことをきっかけに母親から離れてしまいます。
夢都子は大学になっても家からバスで通える大学に行かされてます。
教職課程を取るようになると地元の学校で教育実習となりますが、夫の聡とはそこで出会いました。
聡から食事などを誘われるようになりますが、祖母の目やそれを気にしてる母の目もあり、毎日家まで車で送ってもらうのが精一杯でした。
ある日、いつものように聡に送ってもらうと、母親が家とは反対の方向に歩いているのを見かけます。
夢都子は家に着いて門をくぐると祖母のセツが庭の井戸端で倒れてるのを見つけます。
セツは井戸水で持病の薬を飲むのが習慣でしたが、母は井戸水をときどき汲み忘れることがありました。
夢都子は祖母をそのままにすると、帰るためにUターンしてきた聡の車に乗り込むのでした。
祖母が亡くなり、田山の家の呪縛は解けたかと思われましたが、今度は母親がセツのようになってきます。
一人娘の夢都子は田山の家を継ぐために婿を取らなければならないというのです。
結局、夢都子は勘当するように家を出て聡と結婚します。
夢都子は姑(聡の母)との同居に四苦八苦しながらも、一人娘を育て幸せに暮らしてますが、実家の母とは相変わらず疎遠でした。
そんな折、夫の聡がドリームランド閉園の記事を見つけ、皆で行かないかと言います。
聡と夢都子は学生時代デートで行こうとしましたが、叶わなかった思い出がありました。
夢都子は全ての発端となったドリームランドへ、意を決して母を誘うと一緒に行くことになります。
ドリームランドで楽しい時間を過ごし、母と2人きりになると「もっと早く来ればよかった」と母親が呟きます。
そして祖母が死んだ日のときのことを話し始めます。
母は祖母は私が殺したと言って、わざと薬用の水を用意しなかったと言います。
夢都子も、倒れていた祖母をそのままにして私が殺したというと泣きながら母に謝ります。
ようやく2人は田山の家の呪縛から解放され、母娘の縁を取り戻すのでした。
[光の航路]
航が担任したクラスでいじめがあります。
航は被害者の家に謝罪に行きますが、ことを大きくしないで欲しいと言われます。
加害者の目星はついていて、島の有力者である歯科医の娘で、目撃証言も多数ありました。
航は加害者生徒に謝罪するよう詰め寄ると、逆ギレした母親が訴訟も辞さないと言って学校に乗り込んできます。
母親の夫は教師だった航の父の生徒で体罰を受けたことがあり、父親が父親なら子も子ねと言って航をなじります。
航には父親が体罰をふるうような教師のイメージが無かったのですが、一度だけビンタされたことを思い出すと小学生時代の回想に入ります。
航や夢都子が住んでる島は造船の街で、近々進水式がありました。
父親が連れて行ってくれることになり喜んでいましたが、進水式の日が近づくと仕事で行けなくなったと言われ落胆します。
学校へ行くと友達が「航もお父さんに進水式連れてってもらうんやろ」と言われ、思わず突き飛ばしてしまいます。
それを知った父親にビンタされたのでした。
進水式は母親に連れられて行きますが、そこで少年を連れた父を見かけるとショックで航は帰ってしまいます。
それ以来、航は父に心を開けませんでしたが、早くして父は亡くなってしまいます。
航は母に、父はどんな教師だったかを聞くと、お父さんは仕事の話をあまり家でしなかったので分からないと言いますが、今でも内地に就職した生徒さんがお墓参りに来てくれてると言います。
そんな折、被害者の生徒が衝動的に飛び降り自殺をしてしまいますが、幸い軽傷で済み入院していました。
お彼岸のある日、航が父の墓参りに行くと、墓参りを終えた人とすれ違います。
その人物から「航くん?」と声をかけられると、その人物は畑野と名乗り父親の生徒だったと話します。
畑野によると航の父は大恩人で航のことも聞かされていたと言います。
畑野は中学時代にいじめられていて、それを対処してくれたのが航の父でした。
畑野が壮絶ないじめに遭い、大便を漏らしてしまったところに遭遇すると着替えを取ってきてくれ介抱してくれます。
航の父が家まで送っていきますが、家族に知られたくない畑野はコインランドリーに寄りたいと言います。
洗濯物が乾くのを待つ中、航の父が缶コーヒーをおごってくれると、畑野はいじめの辛さから死にたいと漏らします。
航の父は進水式を引き合いに出し、新しい船と同じように、みんなの命も祝福されて生まれてきたことを説きます。
人生を船の航海になぞらえて説明し、自分の息子に「航」と命名した意味も明かし、航の父は畑野を進水式に誘ったのでした。
航は進水式の日に見た少年が畑野だったと分かると、自分が父親に対してとんでもない思い違いをしてたのに気づくのでした。
航は退院した生徒を海に誘います。
この島ではかつて造船業が盛んで進水式があったことを説明します。
航の父の思いを胸に、被害者生徒にも加害者生徒にも寄り添い続けることを誓う航でした。
原作が文庫本で300ページ弱、6編あるので1編50ページ、だいぶゆったり丁寧に撮られてたので原作通りかと思いましたが、小説の方のあらすじを読むと、結構、改変されてますね。
「夢の国」の方はほぼ原作通りな感じですが、「光の航路」の方は放火が無かったり、いじめの原因や具体的な解決策は描かれてませんでした。
菊地健雄監督は黒沢清監督の助監督をやられていて、監督した長編3作とも黒沢監督っぽい演出があるんですが、本作が一番、湊かなえさんのイヤミス部分とシンクロしてホラーっぽい雰囲気が出てました。
「夢の国」では古いお屋敷や白川和子さん演じる祖母の怖い感じはかなりホラーな感じがしましたし、祖母がなじる言葉、母と娘の亀裂と胃がキリキリしましたね。
「光の航路」の方は、いじめの描写でイヤ~な感じになります。
『告白』でも描かれてように、湊さんの十八番って感じがしますから尚更です。
ロケ地は因島のようで、自然が綺麗に撮れてるのと、今はもう使われてない大型のクレーンの廃墟感ですとか、面白い画が撮れてたと思います。
ドリームランドも昭和の懐かしい感じの遊園地でロケ地はどこだ?と探したら、広島県福山市にある「みろくの里」というところみたいです。
原作の部分でノレない部分、「夢の国」では田山家の閉塞性、「光の航路」では父親が説明してれば解ける誤解、というのはストーリー的に引っ掛かりますが、映像や演出面はなかなか素晴らしかったと思います。
ゲイリー芦屋さんの劇伴も『愚行録』のようなヨーロッパ映画な雰囲気を醸し出していて、こちらもなかなかよかったと思いました。
鑑賞データ
新宿武蔵野館 特別割引券 1500円
2017年 156作品目 累計166400円 1作品単価1067円
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