笑えるシーンもあって面白い ☆5点
2007年に当時女性では最年少で中原中也賞を受賞した最果タヒによる2016年に出版された第四詩集を『舟を編む』で第37回(2014年)日本アカデミー賞作品賞をはじめ6冠に輝いた石井裕也監督が映画化した作品で主演に石橋静河と池松壮亮
予告編
映画データ
本作は、今年の早い時期からテアトル新宿で予告編を目にしてました。
凝ったタイトルと、タイトルだけでは分からなそうな内容と、詩集の映画化と、東京テアトル配給ってことで観たいなと思ったんですけど、てっきりテアトル新宿で公開されると思ったら新宿ピカデリーでの公開になりまして、なかなか時間が合わず公開から2週間経ってからの鑑賞となりましたが、全国公開は5月27日(土)からで新宿ピカデリーとユーロスペースは先行公開でした。
監督は石井裕也さん
監督作は『舟を編む』しか観てないですが、大阪芸大から日大の大学院に進み、ぴあフィルムフェスティバルではグランプリを受賞し、いわゆる映画撮影所の助監督などを経ないで監督になった方で、日本アカデミー賞の監督賞も31歳で獲ってますし天才なんじゃないかと思います。
離婚しちゃいましたけど満島ひかりさんと結婚してましたし、イケメンですし日本のグザヴィエ・ドランて感じがします。
主演は池松壮亮さん
ここ最近の邦画は、菅田将暉さんか池松壮亮さんかっていうくらいよく見る方で、去年だけでも劇場で5作観てました。
去年は『セトウツミ』が面白かったかな。
W主演で新人の石橋静河さん
ARBの石橋凌さんと女優の原田美枝子さんの次女で先日観た『PARKS パークス』にも出てたみたいなんですけど気付かなかったかな。
宮崎あおいさんと二階堂ふみさん
蒼井優さんと黒木華さん
みたいな感じで、門脇麦さんと雰囲気似てるなと思いました。
池松壮亮さんと門脇麦さんは『愛の渦』で共演してるのでデジャヴ感ありました。
共演に松田龍平さん。
去年は『モヒカン故郷に帰る』がよかったです。
このキャスティング胸熱なのは、龍平さんのお父さんは言わずと知れた松田優作さんな訳ですけど、ARBのバンド活動をしていた石橋凌さんが俳優の道に進むきっかけになったのが優作さんが監督した『ア・ホーマンス』への出演で、それから31年経ってお子さん同士が共演するというんだから痺れます。
他に共演は田中哲司さんとポール・マグサリンさん
市川実日子さんは写真だけの出演(回想シーンで少し出番あったかも)で公式サイトのキャスト欄にはクレジットされてないですけど、主人公たちが働く建設現場の監督役で正名僕蔵さんが結構出てます。
あらすじ
看護師として病院に勤務する美香(石橋静河)は女子寮で一人暮らし。
日々患者の死に囲まれる仕事と折り合いをつけながら、夜、街を自転車で駆け抜け向かうのはガールズバーのアルバイト。
作り笑いとため息。美香の孤独と虚しさは簡単に埋まるものではない。
建設現場で日雇いとして働く慎二(池松壮亮)は古いアパートで一人暮らし。
左目がほとんど見えない。
年上の同僚・智之(松田龍平)や中年の岩下(田中哲司)、出稼ぎフィリピン人のアンドレス(ポール・マグサリン)と、何となくいつも一緒にいるが、漠然とした不安が慎二の胸から消えることはない。
ある日、慎二は智之たちと入ったガールズバーで、美香と出会った。
美香から電話番号を聞き出そうとする智之。
無意味な言葉を喋り続ける慎二。
作り笑いの美香。
店を出た美香は、深夜の渋谷の雑踏の中で、歩いて帰る慎二を見つける。
「東京には1000万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だね」
路地裏のビルの隙間から見える青白い月。
「嫌な予感がするよ」「わかる」
二人の顔を照らす青く暗い光。
建設現場。突然智之が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
葬儀場で二人は再会する。
言葉にできない感情に黙る慎二と、沈黙に耐えられず喋り続ける美香。
「俺にできることがあれば何でも言ってくれ」と慎二が言うと、美香は「死ねばいいのに」と悲しそうな顔をした。
過酷な労働を続ける慎二は、ある日建設現場で怪我をする。
治療で病院に行くと、看護師として働く美香がいた。
「また会えないか」と慎二が言うと、美香は「まぁ、メールアドレスだけなら教えてもいいけど」と答える。
夜、慎二は空を見上げる。
「携帯9700円。ガス代3261円。電気2386円。家賃65000円、シリア、テロリズム、食費 25000円、ガールズバー18000円、震災、トモユキが死んだ、イラクで56人死んだ、薬害エイズ訴訟、制汗スプレー750円、安保法案、少子高齢化……、会いたい」
新宿。二人は歩く。
「ねぇ、なんであの時、私達笑ったんだろう、お通夜の後」「分からない」
「ねぇ、 放射能ってどれぐらい漏れてると思う」「知らない」
「ねぇ、恋愛すると人間が凡庸になるって本当かな」「知らない」
不器用でぶっきらぼうな二人は、近づいては離れていく。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
最果タヒさんの詩集はもちろん読んだことが無いのですが、詩集を映画化するってどういう風にするのだろう?最近、映像詩の道を突き進んでるテレンス・マリック監督作みたいになっちゃうのかな?と思いましたけど、普通にストーリーあって面白かったです。
前半は美香の心の声みたいな感じで、印象的なフレーズが結構語られ、揺らめくようなカメラワークと相俟って詩的な雰囲気が強いですが、だからといって分かり辛いということはありません。
後半は前半より詩的な雰囲気は弱まり、慎二と美香の背景が明らかになります。
慎二は高校時代は進学校で成績優秀だったのに今は日雇い労働者になっていること、美香は母親の自殺がずっとトラウマになっていることと、過去に牧田(三浦貴大)との恋愛があったことなどが分かります。
ストーリーや設定やテーマ的には、昨年公開された同じ大阪芸大出身の山下敦弘監督の『オーバーフェンス』に非常に近い感じがしました。
それから都会での生き辛さや時代への閉塞感は橋口亮輔監督の『恋人たち』
最初、主人公の美香は看護師なのにいい部屋に住んでるなぁ?と思ったんですけど、ガールズバーでバイトしてたのでなるほど!と思ったんですけど、あとから女子寮(しかも渋谷から自転車で帰れる)に住んでるってことで、あれれ?となりましてちょっとリアリティなかったかも。
それから、いい映画であることは間違いないのですが、このテーマっていうかこのクラス(東宝とか松竹のメジャー映画ではない)の映画が絶対に描かないことがあって、震災以降、放射能のことはちょろちょろ出てくるのに喫煙のことは全然触れてこないんですよね。
低所得者ほど喫煙率は高くて、これらの映画が社会の底辺を描いているからかもしれませんが、ちょっと異様に喫煙率が高い。
本作では美香も吸ってましたし、しかも病院の敷地内でって、いまどき都内の病院の敷地内で喫煙できるトコってあるんですかね?
まあメジャー配給の邦画でも喫煙シーン多い映画はホント多くて、喫煙シーンが全く出てこない映画は全く出てこない感じで両極端なんですけど、たぶん日本の映画界の現場が喫煙率高いんだと思います。
よく、あの清楚系女優さんが実は喫煙者だった、みたいのありますけど、たぶん現場でコミュニケーションとってるうちにそうなっちゃうんでしょうね。
一服休憩のコミュニケーション力は侮れないものがありますから。
映画のシーン的にも便利だと思うんですよ。
主人公たちにタバコ吸わせてちょっとそこで喋らせてって、物語的に動かしやすい気がしますし。
ただ、やっぱり現実社会との乖離が大きい気がします。
本作では慎二が、「電話代高えよなー、貧乏人からも金持ちからも等しく1万くらいとる」って言うんですが、この台詞があるなら、「でも貧乏なのにタバコ買っちゃうんだよなぁ」という台詞があってもよかった気がしますね。
慎二は左目がほとんど見えないので、慎二の視点になるときは、画面半分真っ暗になるんですけど、この視野が狭くなる感じはグザヴィエ・ドラン監督の『Mommy/マミー』みたいだなと思いました。
石井裕也監督自身が作詞して、映画の随所に出てくる野嵜好美さんが歌う「ワキ汗の歌」の中毒性とか、照明とか映像のカメラワークですとか、音楽や編集はホント天才だなと感じまして、カンヌとかに持ってった方がいいんじゃないかな?と思いました。
渋谷や新宿でゲリラ撮影した映像や、いち早くバスタ新宿を撮影場所に入れるなど、東京の今を切り取った映像は必見だと思います。
鑑賞データ
新宿ピカデリー SMTメンバーズ次回割引料金 1200円
2017年 84作品目 累計89000円 1作品単価1060円
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