四十にして人に感謝される喜びを知る ☆4点
2016年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリアのアカデミー賞)で新人監督賞をはじめ、主演男・女優賞、助演男・女優賞の演技部門を総ナメし7冠に輝いた、日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたダークヒーロー誕生映画。
予告編
映画データ
「鋼鉄ジーグ」はアニメの内容は憶えてないですけど、超合金のおもちゃで遊んだ記憶はありまして、ウルトラマンの塩化ビニールのフィギアとかと違って、関節が磁石になってまして頭と腕と脚が外れるようになってるんですけども、頭を腕のトコに付けたり、腕を脚のトコに付けたりして遊んで、子供心にかなり楽しかった記憶があります。
結構、長く遊んだのでお気に入りのおもちゃじゃないかな。
劇中、鋼鉄ジーグの主題歌もかかるんですけど、覚えてましたね(笑)
本作は2016年のイタリア映画祭で上映されて、少し話題になりまして観たいなと思ったのですが見逃しまして、もうやらないのかな?と思ったところ1年経って公開と相成りました。
監督はガブリエーレ・マイネッティという方で長編初監督作品のようです。
主演のエンツォ役にクラウディオ・サンタマリアという方。
クリスチャン・ベール版のバットマンのイタリア語吹替とかしてるみたいです。
もう一人の主演のアレッシア役にイレニア・パストレッリという方。
リアリティ番組で人気が出て映画初主演みたいです。
共演のジンガロ役にルカ・マリネッリ
パオロ・ソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー/追憶のローマ』に出てるみたいです。
共演のヌンツィア役にアントニア・トルッポ
えっと、イタリアの色んな映画に出てるみたいです。
あらすじ
舞台は、テロの脅威に晒される現代のローマ郊外。
裏街道を歩く孤独なチンピラ エンツォはふとしたきっかけで超人的なパワーを得てしまう。
始めは私利私欲のためにその力を使っていたエンツォだったが、世話になっていた“オヤジ”を闇取引の最中に殺され、遺された娘アレッシアの面倒を見る羽目になったことから、彼女を守るために正義に目覚めていくことになる。
アレッシアはアニメ「鋼鉄ジーグ」のDVDを片時も離さない熱狂的なファン。
怪力を得たエンツォを、アニメの主人公 司馬宙(シバヒロシ)と同一視して慕う。
そんな二人の前に、悪の組織のリーダー ジンガロが立ち塞がる…。(公式サイトから引用)
ネタバレ感想
舞台になるのはローマの中心部から東に15kmくらいのところにあるトール・ベッラ・モナカって所でローマの中でも治安の悪い所みたいです。
主人公のエンツォは公団ていうか団地みたいなとこに住んでて定職には就かずコソ泥して生計を立ててます。
友達もいなくて、それは昔はいたんですけど、もう子供の頃から万引きとか悪さをずっとしてて、周りの友達は捕まったり死んだりして誰もいなくなっちゃったんですね。
あー、これ最近、日本の映画監督でも50歳前後の監督が団地をテーマにした映画を撮りますけど、それに近い面もあるかもしれない。
それで、楽しみっていったら家でアダルトビデオ見ながら、黄色い容器に入ったダノンヨーグルトみたいの食べるくらいで、お金が入ったら大量に買いだめして冷蔵庫に入れてます。
エンツォはある時、ローマ市内でブランド物の金メッキされた腕時計を盗んで警察に追われます。
川沿いに倉庫があって鍵がかかってたんですけど、コソ泥なんで鍵は開けられるので、鍵開けて隠れてたんですが、警察に挟み撃ちにされるんですね。
隠れるとこが無くなったエンツォは川の中に入って警察が過ぎるのを待ちます。
警察がいなくなったので川から出ようとして川の中に沈んでいたドラム缶に足をかけたら、ドラム缶の蓋が腐っていて中に落ちます。
タールみたいので真っ黒に汚れるんですけど、ドラム缶には放射能のマークが付いてました。
エンツォはバスを乗り継いで帰るんですけど、体調が悪く、家に着くと便器に吐き通しで、布団に入ってもガタガタ震え通しでしたが、朝になると治っていました。
エンツォの下の階に住んでるセルジョ(ステファノ・アンブロジ)っていうおっちゃんが、盗品を買ってくれるんで持ってくと娘のアレッシアがもう出かけてると言います。
おっちゃんはジンガロをリーダーとするチンピラ組織に属していて、だいたいいつもそこで集まってるんで持ってくと100ユーロにしかなりませんでしたが、おっちゃんを手伝う仕事を頼まれます。
エンツォは100ユーロ入ると、エロDVD1枚買ってダノンヨーグルトみたいのを大量に買ってだいたいそれに消えます。
おっちゃんの手伝いのため、部屋に行くと娘のアレッシアを紹介されます。
アレッシアは見たところ二十歳は越えてそうでしたが、いわゆる白痴で、精神年齢は幼い頃のままで止まっており、「鋼鉄ジーグ」のDVDを見るのが大好きで、現実の世界も鋼鉄ジーグの世界もごっちゃになっていました。
翌日、おっちゃんの運転する車で空港へいくと黒人2人乗せて、建設中のマンション現場に連れていきます。
おっちゃんの手伝いっていうのは、密輸された麻薬を取り出すことで、それは黒人たちのお腹の中にありました。
下剤とか飲まして腹下して取り出すんですね。
うんこ仕事です。
うんこ仕事だからエンツォは頼まれたんですね。
ただ、いざ取り出そうしたら片方の黒人の青年の腹の中で破れて泡吹いて死んじゃいます。
仕方ないので死んじゃった方は腹割いて取り出すことにして、もう片方に下剤飲ませようとしたら、ビビった黒人に拳銃を奪われて撃たれます。
2発撃たれておっちゃんが死ぬと、エンツォも肩口を撃たれ、衝撃で9階の建築現場から落ちるんですけど、鉛の塊が落ちたみたいに助かります。
自分の体に何が起きてるのか分からないエンツォは家へ帰ると、自分の体がとんでもない怪力を得たことに気付きます。
怪力を得たらやる事は一つ、街中にあるATMを壊して現金を盗むことでした。
大量の現金を盗むと、複数枚のエロDVDと大量のダノンヨーグルト、あとローションも買って奮発しちゃいます。
ただATMのお金はこじ開けるとインクが出る仕組みになっていたので、お札を洗って乾かさなくちゃならないのでした。
一方、下の階のアレッシアはエンツォと出かけた父ちゃんが戻ってこないので、知らないかと聞きにきます。
子供ようなアレッシアにおっちゃんが死んだのを伝えるのは忍びないと思ったエンツォが知らないというと、アレッシアは父ちゃんがアマソ(鋼鉄ジーグの敵の三大幹部)に連れ去られたと思うようになります。
ナポリの女ボス・ヌンツィアの組織からヤクを仕入れていたジンガロは、セルジョが戻ってこないので焦ります。
仕入れたヤクを捌いてから支払いに充てていたからで、セルジョの行方を聞きにアレッシアの元にもやってきました。
エンツォが階下に降りるふりをして様子を伺ってるとジンガロに見てるんじゃねぇと追い払われます。
そのまま階下に降りるエンツォでしたが、リュック・ベッソン監督の『レオン』みたいに、隣のよしみもあって助けることになります。
フードを被って顔を隠してベランダから侵入すると、あっという間にジンガロたちをやっつけますが、ナイフで足の小指を切断されてしまいました。
でも、安心してください、治りますよ。
銃で撃たれた肩口の傷はガムテープを貼っといたら治りました。
なのでちぎれた足の小指をくっつけてガムテープでぐるぐる巻きにしたら…
くっつきませんでした。
離れちゃうとダメなのかもしれない。
エンツォの圧倒的パワーを目の当たりにしたアレッシアは、彼を鋼鉄ジーグ(司馬宙)と思うようになり、アマソに連れ去られた父ちゃんを助けて、と言うようになります。
とりあえずアレッシアを一人にしておけないエンツォは家に泊めますが、心は子供でも体は大人。
寝てる最中はおっぱいはだけてて気になって眠れないですし、朝方やっと寝れたと思ったら、起きたアレッシアがアダルトビデオ見てますし、女性の扱いに慣れてないエンツォは気が気じゃありません。
結局、福祉施設に預けるのでした。
その頃、エンツォが壊したATMの窃盗事件は、防犯カメラの映像がYouTubeにアップされると大変な反響を呼び、事件も大きなニュースとなっていました。
尋常じゃないそのパワーによる犯罪は、スーパークリミナルと呼ばれ、世間の関心を集めてました。
ATMで盗んだお金はインクで汚れて使えなかったので、エンツォは再び計画を立てます。
アレッシアの持ち物の中にセルジョが残したとみられるメモがあって、それには現金輸送車のルートと襲撃ポイントが書いてありました。
一方、ナポリの組織から支払いをせっつかれていたジンガロも現金輸送車を襲うことにします。
ジンガロたちは普段、現金輸送車を襲うときは、輸送車側にも仲間を手引きしていましたが、今回は急な金策のため、行き当たりばったりでした。
ジンガロたちが襲撃ポイントでライフルを構えて待っていると、歩道橋の上から石を投げて現金輸送車を止めようするアナログな奴が。
車を止めると運転手を引きずり出し、後の扉を破壊してお金を持って行きます。
YouTubeで話題になっている男の圧倒的パワーの前に、傍観するしかないジンガロでした。
今度こそ現金がたんまり入ったエンツォは、プロジェクターを購入し、鋼鉄ジーグのDVDをボックス買いし、AVライフを満喫します。
すると翌日、警察がやってきます。
ATMの件がバレたかと思いきや、アレッシアが施設から逃げたので保護されてきたのでした。
結局、再び、一緒に行動することになります。
アレッシアはエンツォが鋼鉄ジーグのDVDをボックス買いしたのを喜んで、2人で見るうちに心を通わせるようになります。
エンツォの力も悪を倒すために、正しいことに使わないといけないと、ことあるごとに言うのでした。
一方、ジンガロたちは金策の目途が付かず仲間割れを起こしていました。
ジンガロの右腕だったリッカ(マウリツィオ・テゼイ)になじられると、犬を襲わせて殺してしまいます。
また自己顕示欲の強いジンガロは、話題の男の能力を手に入れたいと考え、狂気の道を突き進みます。
エンツォとウインドウショッピングしていたアレッシアは1着のドレスの前で足を止めます。
お姫様願望のあるアレッシアには完璧なドレスだったので買ってもらいます。
試着室で着替えエンツォを手招きして全身を見てもらうアレッシア。
ドレスを買ってくれたことに感謝を述べキスしてると、エンツォは興奮を抑えられなくなり、そのまま試着室でことをいたしてしまいます。
試着室を出てドレスを着たままウィンドウショッピングを続ける2人でしたが、気まずい空気が流れます。
実はアレッシアには幼少の頃にお父ちゃんから性的虐待を受けてた可能性がありました。
不安になったアレッシアはアマソから父ちゃんを助け出そうとしきりに言いますが、耐えられなくなったエンツォは父ちゃんは死んだと本当のことを言ってケンカ別れしてしまいます。
一人で路面電車に乗るアレッシア。
思い直したエンツォが路面電車を追いかけて止めます。
出力をアップしても動ない路面電車に何事かと思って乗客たちが見ると、話題の男が止めてました。
スマホで一斉に動画を撮る乗客たちには脇目もふらずアレッシアの元へ行くエンツォ。
アレッシアに謝るとお姫様抱っこで電車から降ります。
狂気の道をひた走るジンガロは、知りあいのオカマにお金を融通してもらう算段をつけると、その駐車場に止めた車の中でセックスします。
するとヌンツィアたちがやってきてオカマを撃ちます。
ジンガロはテープで手足をぐるぐる巻きにされると灯油をかけられます。
ヌンツィアが火をつけようとすると、ジンガロが泣きます。
泣いたジンガロをからかって嘘だよーんってやってると、オカマが息を吹き返してピストルで応酬します。
ジンガロもピストルを奪ってヌンツィアの手下を皆殺しにすると、ヌンツィアは命からがら逃げます。
オカマが死ななかったのは豊胸してるからでしょうが、助けてもらったのに、傷ついて弱ってるオカマをジンガロは撃って殺します。
ジンガロも命からがらアジトに戻ると手下が皆殺しにされていました。
テレビのニュースでは路面電車を止めた男をやっていましたが、今回はフードで顔が隠れていません。
ジンガロが画面を凝視すると、アレッシアの部屋の前で会った男だと気づくのでした。
全滅したと思われた手下でしたがタッツィーナ(ダニエーレ・トロンベッティ)だけ生きていました。
ジンガロは能力を手に入れるべく思案します。
タッツィーナにアレッシアを誘拐させ人質にとって、ジンガロがエンツォに能力を手に入れた方法を吐かせます。
ジンガロは、エンツォを脅して能力を手に入れた川まで来ますが、不審に思い川の中までは入らず、エンツォが入ってドラム缶を持ち上げてこいと言います。
アレッシアが一瞬の隙をついてタッツィーナの喉をペンで刺し車の外に出ると、エンツォはすぐ近くにいました。
ちょうどそのタイミングで復讐に燃えるヌンツィアがやってくると、銃撃戦に巻き込まれたアレッシアは「世界を救って」という言葉を残して亡くなってしまいます。
悲しみに打ちひしがれるエンツォでした。
銃撃戦を制しヌンツィアが持ってきた火炎放射器で焼かれたジンガロはそのまま川に落ちてしまいます。
焼けただれた頭部にウィッグを付け、ジギー・スターダストのようなメイクを施す男は、お約束通りジンガロでエンツォと同じ能力を手に入れました。
ジンガロもユーチューバーになるべく、まず手始めにヌンツィアに復讐します。
ナポリのヌンツィアの自宅に押しかけると、スマホをセットして皆殺しにし動画をアップします。
ヌンツィアの家を調べると大量の武器が隠されていて、一連のテロはヌンツィアの仕業でした。
大量の武器を手に入れたジンガロはさらに大きなテロを起こす計画を立てます。
一方、その頃、アレッシアを亡くして茫然自失で街をさまよっていたエンツォの目の前で交通事故が起こります。
燃えさかる車内から母親は助け出されましたが、まだ挟まれた少女が残っていました。
少女を無事助け出すと、母親に抱きしめられ感謝されるのでした。
ニュースではジンガロの残忍な犯行が話題となっていて、新たなテロの予告がされます。
ジンガロが以前、サッカー場を爆破すると言っていたのを思い出したエンツォが向かうと今まさにジンガロが爆弾をセットしようとしてるところでした。
サッカースタジアムの外で繰り広げられる能力者同士の戦い。
ここは完全にマーベルヒーロー物になります。
観客席に逃げ込むジンガロ。
ローマ・ダービーが行われてるようで、凄い人数の観客席はスーパーボウルを舞台にしたブラック・サンデーのよう。
ジンガロがセットした爆弾を見つけだすと残り時間15分。
爆弾を外したエンツォは安全なところで爆発させるべく走り出します。
ワゴン車を盗んでスタジアムから離れるも警察が道路を封鎖しています。
ワゴン車の裏手に回り、車を押し出してパトカーの群れに突っ込ませると、再び爆弾を持って走り出します。
帰り始めた観客の間を縫い、川にかかる橋の辺りまで来ると、再びジンガロが現れ爆弾を奪って、時間をセットし直します。
残り15秒、もう猶予が無いエンツォは爆弾とジンガロもろとも橋から飛び降ります。
川に落ちると爆弾が爆発して上がる水柱。
橋の上にはジンガロの首が。
ローマの夜景を見渡すビルの屋上。
屋上にはエンツォが立っていて、手にはアレッシアが編んでくれた鋼鉄ジーグのマスク。
マスクを被るとビルから飛び降りてローマの街にヒーローが誕生するのでした。
昨年も日本のアニメをモチーフにしたスペイン映画『マジカル・ガール』というのがありましたけど、70年代後半から80年代前半のアニメはヨーロッパで結構影響を与えてるんですなぁ。
まあ、ダフト・パンクとかも松本零士さんですものね。
本作がよかったのは、やっぱり背景にイタリアの社会問題というか、今の世界に共通する閉塞感みたいなものがあるからなんですよね。
エンツォは能力を手に入れても、地に足がついてるというか、もちろん自分の欲望のために使うんですけど、高級車を買う訳でもないですし、もの凄い贅沢をする訳でもない。
普段の生活よりちょっといい生活。
実際、世界にはそんな大それた欲は無くて人並みに生活出来ればいいと考えてる人は多いと思うんですけど、そういう人たちがこぼれ落ちちゃってる。
一部の人が使い切れないくらいの富を抱えて、いったい世界はどこに行くのだろうと思います。
この映画には主人公の生い立ちや周囲を取り巻く背景にそういう重みがありました。
だからこそ後半、孤独だった主人公が助けた少女の母親に抱きしめられるだけで胸熱ですし、能力を人の為に使うっていう風に変わってくるとこがいいなと思いました。
映像も綺麗ですし、アレッシア役は難しかったと思うんですが見事に演じてましたし、ジンガロの怪演ぶりも光りますし、イタリアならではのヒーロー映画になっていたと思います。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
2017年 83作品目 累計87800円 1作品単価1058円
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