ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男 評価と感想/実は同属性だった二人

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男 評価と感想
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北欧らしい抑制が効いた演出に好感 ☆4点

1970年代後半から80年代半ばまで男子プロテニスツアーを牽引したビヨン・ボルグとジョン・マッケンローの実録ドラマ。
「伝説のタイブレーク」と言われる1980年ウィンブルドン選手権男子シングルス決勝戦を両者の過去を振り返りながら描いたスウェーデン・デンマーク・フィンランド合作映画。
監督はヤヌス・メッツ、ボルグ役にスベリル・グドナソン、マッケンロー役にシャイア・ラブーフ

予告編

映画データ

http://cinema.pia.co.jp/title/175779/

本作は2018年8月31日(金)公開で、全国10館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には38館での公開となるようです。

劇場では予告編を目にしなかったんですけど、フリーパスポートが有ったので観た次第です。

監督はヤヌス・メッツ
デンマークの監督なんで知らなかったんですけど、日本では2013年に初長編ドキュメンタリー作となる『アルマジロ』という映画が公開されていたようです。

映画『アルマジロ』公式サイト
2013年1月19日(土)渋谷アップリンク、新宿K's cinema、銀座シネパトスほか、全国順次公開 <これが、戦争だ>アフガン戦争最前線アルマジロ基地、その映像に世界が驚愕したドキュメンタリー

この作品は、国際平和活動(PSO)の名の下に、アフガニスタン南部のアルマジロ基地に派遣されたデンマーク兵士たちを7か月間密着したドキュメンタリーなんですが、実際に弾丸が飛び交う中で撮影されていて、2010年のカンヌ国際映画祭の批評家週間賞でグランプリを受賞したようです。

それ以前にも2本の短編ドキュメンタリー映画を制作してるドキュメンタリー畑の監督のようで、本作が長編ドラマ初作品となるようです。

主演にスベリル・グドナソン
こちらはスウェーデンの俳優さんで初めましてです。
2019年公開予定の北欧ミステリー「ミレニアム三部作」の続編『蜘蛛の巣を払う女』で、スウェーデン版ではミカエル・ニクヴィスト、ハリウッド版ではダニエル・クレイグが演じたミカエルを演じるようです。

主演にシャイア・ラブーフ
名前はよく聞くんですが『トランスフォーマー』シリーズを見たことが無いので、あまり馴染みがありません。

近作は『ニンフォマニアック Vol.1Vol.2』を観てます。

共演にステラン・スカルスガルド
近作は『ニンフォマニアック Vol.1Vol.2』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』を観てます。

他に共演と配役は以下の通りです。

ビヨン・ボルグ: スベリル・グドナソン
ジョン・マッケンロー: シャイア・ラブーフ
レナート・ベルゲリン: ステラン・スカルスガルド
マリアナ・シミオネスク: ツバ・ノボトニー
ビタス・ゲルレイティス:ロバート・エムズ
アーサー・アッシュ: ジェイソン・フォーブス
ベングト・グライヴ: ビヨルン・グラナス
ピーター・フレミング: スコット・アーサー
ジミー・コナーズ: トム・ダトナウ
ケイ・マッケンロー: ジェーン・ペリー
ビヨン・ボルグ(9歳~13歳): レオ・ボルグ
ビヨン・ボルグ(14歳~17歳): マーカス・モスバーグ

あらすじ

どこへ行ってもマスコミとファンに追いかけられ、片時も心が休まらない男がいる。彼の名はビヨン・ボルグ(スベリル・グドナソン)、世界ランク1位のテニスプレイヤーだ。1980年、24歳のボルグは、アスリート人生最大のプレッシャーと向き合っていた。まもなく始まるウィンブルドンに、歴史的記録となる5連覇がかかっているのだ。いつも冷静沈着で、「氷の男」と呼ばれるボルグの真の葛藤を知るのは、コーチのレナート(ステラン・スカルスガルド)と、婚約者のマリアナ(ツヴァ・ノヴォトニー)だけだった。
そんなボルグのライバルとして現れたのが、「アル・カポネ以来、最悪のアメリカの顔」「恥を知れ、悪ガキ」などと、メディアから激しいバッシングを受けているジョン・マッケンロー(シャイア・ラブーフ)だ。世界ランク第2位を誇りながら、納得できない判定に食い下がり、ブーイングを放つ観衆にも容赦ない罵声で反撃する男だ。
モナコの自宅から、マリアナと共にウィンブルドンへと乗り込むボルグ。迎える車、泊まるホテル、その部屋のタオル1枚に至るまで、ボルグの指示で毎年全く同じ物が用意されていた。さらに、レナートがガットを張り直した50本のラケットのテンションと音を1本ずつ丹念にチェックするのが、ボルグの眠る前の日課だった。
レナートとボルグの出会いは、ボルグが少年の頃に遡る。ボルグは故国スウェーデンのクラブで頭角を現していたが、すぐにキレる性格だった。家が貧しかったこともあって、テニス選手にふさわしくないと退会を迫られていた時、国の代表監督のレナートに才能を見込まれたのだ。

1回戦で、格下の相手に苦戦するボルグ。勝利者インタビューで淡々と「彼は強かった」と語るボルグをホテルのロビーのTVで見ていたマッケンローは、「何度もあんなふうになろうとした。だが無理だ」と傍らの選手に語る。マッケンローにとって、3歳年上のボルグはずっと憧れの存在だった。
一方、ボルグもマッケンローの試合をTVで観戦する。審判にうるさい鳩を「何とかしろ」とムチャを言うマッケンローに、ブーイングを飛ばす観衆。そんな傍若無人なマッケンローに、ボルグはかつての自分を見ていた。
3回戦が雨で中断した上で再開し、ボルグのストレスは頂点に達する。試合後、ボルグは唯一感情をぶつけられる二人、すなわちレナートにクビを宣告し、マリアナを部屋から追い出す。コートではいつも冷静でいられるのは、レナートの教えのおかげだった。沸き立つ怒りや恐れを1打1打に叩きこむと誓った結果、ボルグは1974年に全仏オープンで、1976年にはウィンブルドンで、史上最年少での優勝を飾り、熱狂的な人気を獲得したのだ。

自慢の父に褒められたい──それが、マッケンローの幼い頃からのモチベーションだった。マッケンローは、弁護士の仕事で多忙な父が駆け付けてくれた準決勝を勝ち抜くが、試合中の暴言をめぐり記者会見でつるし上げられる。だが、マッケンローには信念があった。審判にも真剣勝負を求めているのだ。「試合には、すべてを賭ける。何もかも出し尽くす。お前らにはわからない」と吐き捨てて席を立つマッケンロー。 同じく準決勝を制したボルグは、シャワー室で倒れるほどのストレスに襲われるが、レナートとの絆を取り戻して立ち直る。「この日のために、すべてを捧げてきた」と、決意を新たにするボルグ。

ついに、世界中が見守るなか、どんな天才脚本家にも書けはしない、人智を超えた決勝戦が始まる─

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

今年のテニス映画では7月に公開された『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』に続き、2本目のテニス映画鑑賞となります。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ 評価と感想/これは男女間のロッキーだ
実録路線的な面白さ ☆5点 1973年に当時29歳で女子テニス世界チャンピオンのビリー・ジーン・キングと55歳で元男子テニス世界チャンピオンのボビー・リッグスによる“The Battle Of The Sexes”(性別間の戦い)と呼ばれた...

バトル・オブ・ザ・セクシーズは1973年を描いてましたので、本作はその7年後になりますね。

バトル・オブ・ザ・セクシーズのビリー・ジーン・キングとボビー・リッグスは知りませんでしたが、ボルグとマッケンローはリアルタイムで知っていて小学校低学年の頃だったと思います。

マッケンローはカローラのCMで

ボルグもマッケンローと一緒にマヨドレのCMに出演していてお茶の間でもお馴染みでした。

本作は1980年のウィンブルドン1回戦から決勝戦までを描く中で、両者の過去を振り返りながら話が進む約2週間の出来事です。

1980年ウィンブルドン選手権 – Wikipedia

観てて面白かったのは、あらすじにもありますが、アイス・マン(氷の男)と呼ばれたボルグが15歳くらいまでは、悪童と呼ばれたマッケンローにそっくりだったことです。

ボルグは在籍するジュニアのクラブで圧倒的強さを誇っていましたが、感情を剥き出しにするプレイスタイルはとんでもなく悪くて、対戦相手の親から「もうボルグとは対戦させないでくれ」と言われるほどでした。

ジュニアのクラブの中で孤立するボルグは、遂にはクラブから退会を迫られますが、そんな時にボルグの試合を見ていたレナート・ベルゲリンに手を差し伸べられます。

レナート・ベルゲリン – Wikipedia

ベルゲリンはちょうど1971年からデビスカップのスウェーデン代表監督を務めていて、まだ15歳のボルグをデビスカップのメンバーに選ぼうとして周囲を驚かせます。

結局、この時には選びませんでしたが、この年からボルグのコーチとなり、翌年の1972年からデビスカップのメンバーに選ぶと、ボルグはこの年からプロツアーデビューを飾ることになります。

ベルゲリンがボルグに課したのは徹底的に感情を抑えることで、抑えた感情はショットで爆発させることでした。

ちょうど今話題の大坂なおみ選手のコーチのサーシャ・バイン氏みたいな感じです。

全米テニス:快進撃・大坂の心を「大人」に ドイツ人の師 | 毎日新聞
【ニューヨーク浅妻博之】精神面で大人に成長した20歳の新鋭が、日本女子テニスの歴史を塗り替えた。6日に当地で行われたテニスの4大大会、全米オープン女子シングルス準決勝で、前回準優勝のマディソン・キーズ(23)=米国=を破った大坂なおみ(20...

ただ感情を抑え過ぎたため、トップ選手となった1980年のボルグは神経質なまでに試合前のルーティーンにこだわり、知らない人が見たら80ポンド以上の硬さでギチギチに張ったラケットがホテルの部屋に50本並ぶ様は異様に感じると思います。

ただ、これも一流選手に共通するストイックさで、イチロー選手なんかもきっちりしたルーティンがありますよね。

イチローがこなす厳密なルーティン 「賞賛せずにいられない」と地元記者 - ライブドアニュース
自らのルーティンを守り続けるイチローを地元記者が褒め称えている。ロッカーに戻るとスパイク磨き、オイルを使ってのグローブの手入れに入る。「イチローの厳密さを賞賛せずにはいられない」と語っている
日々、正確なルーティンを刻むイチローを支える、弓子夫人への“想いの変化”とは - ライブドアニュース
イチローのルーティンを支える弓子夫人について取り上げている。通訳やアシスタントもつけず、慣れない土地でイチローのサポートをしている。ビジネスで全米を飛び回っているとする報道は事実とかけ離れていると筆者

一方、マッケンローの少年時代はいじらしくて泣けてきます。

マッケンローの父親は弁護士で厳しい人で、テニスがいくら強くても「それがどうした」という人で、学校の勉強の方が大事だと言います。
なのでマッケンローは勉強も頑張り、スタンフォード大学にまで進学しています(後に中退してプロ入り)

ある時は父親が自宅に招いた客人の前で、父親の求めに応じ二桁以上の掛け算を暗算で披露しますが、客人から五桁と四桁の掛け算を振られると答えられず、父親の期待に答えることが出来ません。
マッケンローは父親に褒められることを渇望していて、それがプレイスタイルに現れていました。

父親が観戦に来てくれた準決勝の相手はジミー・コナーズで、悪態をつきながらもセットカウント3対1でコナーズを下し、決勝に進出します。

決勝戦は大方の予想に反し、第1セットをマッケンローが6-1で圧倒します。
しかし続く第2セットを7-5、第3セットを6-3でボルグが獲り、セットカウント2-1とウィンブルドン5連覇に王手をかけます。
そしてマッケンローは準決勝までの悪童ぶりが嘘のように試合に集中し、観客も息を吞みます。

続く第4セット、ボルグがゲームカウント5-4とリードし、チャンピオンシップポイントを2度迎えます。
しかし、マッケンローはそれを凌ぐと5-5のタイブレークに持ち込みます。

そしてここから、あらすじにもあるように、どんな天才脚本家にも書けない、「伝説のタイブレーク」が繰り広げられることになります。

マッケンローはここから更にボルグのチャンピオンシップポイントを5回も凌いで16-16にすると、そこから2ポイント連取し20分超にも亘るタイブレークを制して、18-16で第4セット(7-6)を獲るのでした。

ボルグは実に7回ものチャンピオンシップポイントを阻まれて迎えた最終第5セット。
勝負の行方はマッケンローに傾きかけたと思われましたが、お互いサービスゲームをキープする流れが続きます。
ゲームカウント5-5、6-6と表示され、最終的にマッケンローのサーブをボルグがバックハンドのパッシングショットでブレイクするとゲームカウント8-6で大会5連覇を飾るのでした。
表彰式では優勝したボルグ以上に、準優勝のマッケンローにも大きな拍手が送られ胸が熱くなります。

エピローグは帰りの空港で偶然一緒になった2人は「いい試合だった」と言ってお互いの健闘をたたえ合いハグします。
そして来年もウィンブルドンで会おうと言って握手して別れます。
テロップで1981年のウィンブルドン決勝戦は再び2人の対決になりマッケンローが優勝すると、それからはマッケンローがランキング1位に輝いたことが表示されます。
そしてボルグは26歳で現役を引退し、ボルグとマッケンローは親友になったことが表示されると、2人のツーショット写真を映して映画は終わります。

 

ドキュメント畑出身のヤヌス・メッツ監督の演出は、実話ということでドキュメントタッチで描かれ、主演2人も似ているとあって、わりとハマったのではないかと思います。
抑制された演出も好感が持てましたし、ボルグが練習してるシーンではコート半分を真上から映す構図とかあって、孤独感や重圧感が出ていました。

最初に上げた『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』や、今年公開された『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のように、エキストラの髪型や洋服に至るまで、当時の雰囲気もよく出ていたと思います。

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 評価と感想/バカのドミノ倒し
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淡々としてるだけにドラマ性はあまり無いですが、マッケンローに入れ込んだシャイア・ラブーフの演技は見ものですし、スポーツ好きなら見て損は無い作品に仕上がってると思います。

【映画「ボルグ/マッケンロー」】松岡修造さんに聞く(上)現代テニス界を築いたボルグとマッケンロー 「今の僕は『マッケンロー派』です」(1/4ページ)
プロテニス界最高の試合として、いまだ語り草の1980年ウィンブルドン男子単決勝。同大会5連覇がかかる世界ランク1位のビヨン・ボルグ(スウェーデン)に、めきめ…
【映画「ボルグ/マッケンロー」】松岡修造さんに聞く(下)26歳で引退したボルグ…「彼は完全に孤独だった」(1/3ページ)
--マッケンローと実際に対戦したが

鑑賞データ

TOHOシネマズ日比谷 1か月フリーパスポート 0円
2018年 141作品目 累計125100円 1作品単価887円

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