オール・アイ・ニード・ナズナ ☆4点
1993年にフジテレビで放送された岩井俊二監督のテレビドラマで、1995年に劇場公開にまで至った作品のアニメ映画化。
制作は「まどマギ」や「物語」シリーズの新房昭之を総監督するシャフト。
声の出演で広瀬すずと菅田将暉
予告編
映画データ
本作の予告編は、昨年の『君の名は。』のヒットアゲインとばかりに、東宝がこの夏のアニメ映画として猛プッシュしていたので劇場でよく目にしていました。
思えば昨年『君の名は。』公開時は、シネマロサでスティーブン・セガール主演『沈黙の粛清』の一週間限定レイトショー公開の最終日で、セガールを観に行ったらまさかの長蛇の列でセガール見れない!と焦ったんですが、その列は『君の名は。』のもので、前評判高いの知らなかったので、なんで行列してるか分からなかったんですが、蓋を開けてみれば初週から大ヒットスタートで伝説の幕開けでもありました。
そんな2匹目のどじょうを狙いたい本作は公開されるや否や酷評の嵐ですが、オープニング3日間の興収が4億6千万円なので、まずまずのスタートなんじゃないかと思います。
監督は武内宣之さんで総監督は新房昭之さん
シャフト制作の劇場版アニメは『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』を観たことがあります。
そこから遡ってテレビ版の「まどマギ」全12話と、「3月のライオン」第1期全22話を見てます。
声の出演で主演に広瀬すずさん
声優は『バケモノの子』に続いて2作目なんですね。
近作は『怒り』と『チア☆ダン』を観てます。
主演に菅田将暉さん
声優は初挑戦でいいんですかね?
6週目に入っても300館以上で上映されスマッシュヒット中の『銀魂』に出演されてます。
他に共演と配役は以下の通りです。
(声の出演)
及川なずな:広瀬すず
島田典道:菅田将暉
安曇祐介:宮野真守
純一:浅沼晋太郎
和弘:豊永利行
稔:梶裕貴
なずな母再婚相手:三木眞一郎
三浦先生:花澤香菜
光石先生:櫻井孝宏
典道の母:根谷美智子
典道の父:飛田展男
祐介の父:宮本充
花火師:立木文彦
なずなの母:松たか子
あらすじ
「もしも、あのとき・・・」
夏休み、とある海辺の町。
花火大会をまえに、「打ち上げ花火は横からみたら丸いのか? 平べったいのか?」で盛り上がるクラスメイト。
そんななか、典道が想いを寄せるなずなは母親の再婚が決まり転校することになった。
「かけおち、しよ」
なずなは典道を誘い、町から逃げ出そうとするのだが、母親に連れ戻されてしまう。
それを見ているだけで助けられなかった典道。
「もしも、あのとき俺が…」
なずなを救えなかった典道は、もどかしさからなずなが海で拾った不思議な玉を投げつける。
すると、いつのまにか、連れ戻される前まで時間が巻き戻されていた…。
何度も繰り返される一日の果てに、なずなと典道がたどり着く運命は?繰り返す、夏のある一日。
花火が上がるとき、恋の奇跡が起きる―(公式サイトhttp://www.uchiagehanabi.jp/about.htmlより引用)
ネタバレ感想
岩井俊二監督のオリジナルは、タイトルは聞いたことありましたが見たこと無かったので、ちょうど本作の公開にあわせてHuluで配信されてましたので7月下旬に見ておきました。
オリジナルについては何も知らなかったので50分という尺に驚いたんですが、ウィキペディア情報によると元々がフジテレビで1993年の4月~10月までの2クールで放送されていたオムニバス形式のドラマ「if もしも」の一編だということだそうです。
この「if もしも」は木曜20時台に放送されていた「世にも奇妙な物語」の後番組でストーリーテラーがタモリさんであるなど「世にも奇妙」のスピンオフ的な番組で、物語の途中に分岐点を用意し主人公の選択によって2通りの結末をみせるドラマだったようです。
そのことを踏まえてオリジナルを視聴した感想ですが、確かに評判になったのは分かります。
まず映像がインスタグラムのようで、当時のテレビドラマでは別次元では無いかと思います。
「if もしも」では全18編が制作され、その殆どが大人の主人公の話が多い中で、少年少女たちを主人公にした「スタンド・バイ・ミー」のようなジュブナイル感は異色の出来だったと思います。
ただストーリーとしては、この「if もしも」という番組のルールに則っていないところがあり、ドラマ的・論理的では無いんですが、そのことが却ってこの作品のオリジナル性を高める結果にもなっていて、当時のドラマでは規格外だったのではないかと思います。
女優を美しく撮ることに定評がある岩井監督が少女とも大人ともつかないような14歳の奥菜恵さんの煌きを見事にフィルム(正確にはフィルムで無いが)に焼き付けていて、ラスト近くのプールシーン、あれは凄いと思います。
ただ20数年経って初めてこの作品を見た自分としては、当然のように思い入れがなく、その後の岩井作品や他の様々な映像表現を目にしてしまっているので、異様に評価が高くないか?という気はします。
特にストーリー的な部分でそれを感じてしまって、路線バスの旅蛭子さんが平気で嘘教えるところとか、炎色反応の授業をしていた麻木久仁子先生が花火は平べったいとか、大人ちゃんとしろよと思ってしまいました。
オムニバスのテレビドラマという枠からは、はみ出しているけど、じゃあこれを1本の映画として捉えるとどうなんだ?という気はしますし、これをそのまま90分の商業映画にするのは難しそうと思いました。
話は全くそれますが、オリジナル見て思ったのは、その後、奥菜さんと石井苗子さんは流出して、麻木さんはAPF通信して、女優陣大変だったなと思うのと、光石研さんと田口トモロヲさんはバイプレイヤーズなのと、反田孝幸さんはその頃他のドラマでもめちゃめちゃ演技上手かったよな、ってことです。
あと最後に花火師役で出てきた酒井敏也さん。
若くて痩せててヘルメット被ってるので今とはイメージ違うんですけど、動き方とか喋り方が酒井敏也さんだなぁって思いました。
話それました、元に戻ります。
そんなわけで本作の感想ですが「まあ、こんなもんだろう」と思いました。
オリジナルからしてそうですが、物語として凄い感動する作品でもないので、そんな酷評するほどかなぁ?とは思いました。
中盤まではほぼオリジナルの完コピですよね。
大きく変わってるのは小6の設定が中1になってるのと、水泳の50m競争になずなも参加しちゃう展開で水着も着てることです。
小6の設定を中1にしたことで、高学年女子の圧倒的おませ感は無くなりましたが、本作では後に典道の主体的な行動に繋がってきます。
プールのシーンはオリジナルでは、なずな、典道、祐介が掃除当番で典道、祐介が掃除さぼって遊んでるんですが、本作ではちゃんと掃除してて、なずなは水泳部員のようです。
ここで水着を着せてるのはオリジナルのラスト付近のプールのシーンが無いためでしょう。
オリジナルでは黒のタンクトップに赤い水玉のスカートっていう出で立ちでプールに入ってると上半身はスクール水着みたいに見えましたから。
オリジナルでは特に明示されること無く突然起きる分岐点の「もしも」は、本作ではもしも玉と呼ばれるビー玉のようなものを典道が投げることによってもたらされます。
オリジナルでは1回しか、もしもは起きないので、本作ではそのタイミングで偶然、典道が投げてもしも玉の効果を知るっていう展開です。
オリジナルと物語が大きく変わるのは、なずなが駅で切符を買うシーン。
オリジナルではなずなが切符を買わなきゃと言ってフレームアウトして、すぐに戻ってくると、切符って何のこと?となる謎のシーンなんですが、あそこはどう解釈したらいいんだろう?
気が変わりやすい乙女心なのか、駆け落ちという精一杯背伸びした行為を打ち消そうとするものなのかは分かりませんが、本作ではなずなの母親が登場して、連れ戻される展開になります。
1回目に偶然もしも玉を投げて、その効果を知った典道が、その後主体的にもしも玉を投げることによって、オリジナル50分の話が90分の話として推進していきます。
「生きる!死ぬ!繰り返す」みたいな『オール・ユー・ニード・イズ・キル』的な展開になっていくのです。
ただ典道が起こした「もしもの世界」は花火が平べったかったり、花柄だったりする所謂パラレルワールドで現実の世界をやり直してる訳ではありません。
ここがオリジナルの世界観と決定的に違うところで、シャフト制作の世界観だと思うのですが、シャフト作品に触れたことがないと分かり辛いところだと思います。
オリジナルと違って学校が丸かったり、風力発電のプロペラが回っていたり、もしも玉が丸かったり、「まどマギ」でいうところの「円環の理」みたいなものだと思うのですが、そのまどマギにしたってハッキリとした解釈は無いので何とも難しいのですが…。
まぁなので典道が何回ももしも玉を投げても、平行世界の中でなずなと水族館行ったり、レインボーブリッジ見たりするだけで、現実世界でのなずなの転校は不可避な訳です。
本作では花火師がもしも玉を拾って打ち上げたことによって、もしも玉がバラバラになり、そのバラバラになった一片一片に典道となずなのもしもが描かれますが、割れたことによって現実世界に引き戻されてしまいますので、まさに真夏の夜の夢となるわけです。
ラストの解釈ですが、2学期が始まって出欠をとるわけですが、オリジナルにはありません。
なずなは転校してるので、当然のように名前を呼ばれません。
というかクラスメートはなずなが転校してるのもまだ知らないはずです。
このあとのホームルームで先生から話があるでしょうから。
典道は名前を呼ばれますがいません。
これは色々考えられますが、ただ遅刻してるだけでしょう。
オリジナルでも本作でも、物語の始まる夏休みの登校日に母親から遅刻するわよと言われてますから。
典道がどこまでの記憶を保持しているかは分かりません。
もしもの世界の経験となずなの転校を理解しているかどうかですが、オリジナルでもなずなが転校するのは知らないので、たぶん皆と同じように知らないんだと思います。
オリジナルではラスト前のプールのシーンでなずなが「今度会えるの2学期だね、楽しみだね」と言いますが、2学期になずながいないのは自分が一番よく分かっているわけで、だから切ないのです。
オリジナルのもしもは、水泳に勝っていれば、なずなに花火大会に誘われるかどうかであり、転校が阻止できるかどうかではありません。
本作はパラレルワールドの中で転校を阻止しようとしますが、現実世界での転校は避けられないので大筋で違わないわけです。
オリジナルでは典道はなずなの行動にただ巻き込まれるだけですが、本作では典道が主体的な行動をとります。
この辺は最近の長井龍雪監督の「あの花」や「ここさけ」のテーマ「想いは声にして口にしないと伝わらない」に近くて、主体性を持とうと訴えかけるものになっていると思います。
「叶わない恋もある」ということも共通してますね。
あの花やここさけのように典道の恋心も叶わないですが、最近は一方的に思いを募らせ凶行に至るという事件も多いですから、こういうことが描かれるのかな?と思います。
本作を観る前はあまりに酷評されていたので、シャフトお得意の主人公の内面の葛藤をドロドロしたダークな描写で描いてるシーンでもあるのかな?と思ったんですが、基本的にはどこまで行っても美しくて、儚いお話だったと思います。
なずなのキャラクタービジュアルも普通に可愛いと思いましたよ。
『メアリと魔女の花』のときは、俳優の声優起用をやめましょうよと言った自分ですが、本作の広瀬すずさんと菅田将暉さんに関しては気になりませんでした。
たぶん、ほぼ2人でお話が進んでいるからだと思います。
なずなの母の声が松たか子さんなのも気がつきませんでした。
なずなが電車内で「瑠璃色の地球」を歌うのもいいと思いますよ。
もしも玉と同じで全体的な円に繫がりますし、広瀬すずさんの声もいいと思います。
思うにこれだけ酷評出るのって、元々、岩井俊二監督の作品が300館規模の公開というのがイメージに合わなくて、シャフト制作の劇場アニメでも120館程度でしたので、公開規模がちょっと大きいのかなぁとは思います。
新房総監督と脚本の大根仁さんのおじさんコンビがオリジナルを台無しにしたって声もありますけど、公式のスペシャルトークなんかを見ますと岩井監督もかなり噛んでる感じですし、その指摘は当てはまらないのかなぁと思います。
もしも玉のアイデアも岩井監督から出たようですし。
酷評が出てる割に自分がよかったなと思うのはTOHOシネマズ六本木ヒルズで観たんですが、エンドロール終わるまで誰も席を立たなかったのと、カップルで観に来てる人が多くていい感じになってたのがよかったなと思いました。
鑑賞データ
TOHOシネマズ六本木ヒルズ シネマイレージデイ 1400円
2017年 139作品目 累計146900円 1作品単価1057円
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