意識高い系の滑稽さを描く ☆4点
スウェーデンの映画監督リューベン・オストルンドによる現代美術館のチーフキュレーターを主人公にした風刺ドラマで2017年の第70回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。
主演はクレス・バング、共演にエリザベス・モス
予告編
映画データ
本作は2018年4月28日(土)公開で、全国16館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には51館での公開となるようです。
テアトルシネマ系列の映画館に行くと、上映前にマナー広告がよく流れていました。
予告編も面白くて、パルムドールということで期待して観に行きました。
監督はリューベン・オストルンド
スウェーデンの監督でドキュメンタリーを除くと本作が長編5本目です。
2014年の第67回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した、前作の『フレンチアルプスで起きたこと』を観てます。
主演はクレス・バング
デンマークの俳優さんだそうで初めましてです。
2006年の第56回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した『A Soap』という作品に出てるみたいなんですが、日本未公開でソフト化もされてなさそうです。
共演にエリザベス・モス
近作は『ニュースの真相』『ハイ・ライズ』を観てます。
共演にドミニク・ウェスト
近作は『トゥームレイダー ファースト・ミッション』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
クリスティアン: クレス・バング
アン: エリザベス・モス
ジュリアン: ドミニク・ウェスト
オレグ: テリー・ノタリー
マイケル: クストファー・レス
あらすじ
クリスティアンは現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えた。彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品を展示すると発表する。その中では「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートで、現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがあった。ある日、携帯と財布を盗まれてしまったクリスティアンは、GPS機能を使って犯人の住むマンションを突き止めると、全戸に脅迫めいたビラを配って犯人を炙り出そうとする。その甲斐あって、数日経つと無事に盗まれた物は手元に戻ってきた。彼は深く安堵する。一方、やり手のPR会社は、お披露目間近の「ザ・スクエア」について、画期的なプロモーションを持ちかける。それは、作品のコンセプトと真逆のメッセージを流し、わざと炎上させて、情報を拡散させるという手法だった。その目論見は見事に成功するが、世間の怒りはクリスティアンの予想をはるかに超え、皮肉な事に「ザ・スクエア」は彼の社会的地位を脅かす存在となっていく……。
(公式サイトhttp://www.transformer.co.jp/m/thesquare/より引用)
ネタバレ感想
上映時間151分あるんですけど、やや長いですかね。
集中しては見れますが。
ストーリーの軸としては、スリを巡る騒動と「ザ・スクエア」のプロモーションを巡る騒動を2本軸にして、インタビューアーであるアンとの男女関係と猿人間のくだりを絡ませてお話を進める感じです。
作品全体の雰囲気としてはシニカルなコメディにしつつも、敢えて不快な作りをしていて観客の心をざわつかせるといいましょうか。
観てて、面倒くさい映画だなぁと思いましたが、この面倒くささがフランス向きといいますか、カンヌ向きであるとも思いました。
スリの騒動は、出勤中のクリスティアンが歩いてると女性の「助けてー、殺されるー」という悲鳴が聞こえます。
駅のすぐそばなので人通りは多いですが、振り返りはすれど誰も足を止めません。
やがてその女性がクリスティアンの近くにいる男性に助けを求めます。
男性はその女性が騒いでるのでクリスティアンにも手伝ってもらいます。
するとその女性を追って来たと思われる男が走ってきます。
クリスティアンたちは走ってきた男性に「まぁ落ち着け」と痴話喧嘩の仲裁のように言いますが、その男性は「ただ走ってる(ジョギング)だけだ」と行ってしまいます。
そして騒いでいた女性もいつの間にかいなくなっていて、クリスティアンは手伝っていた男性と顔を見合わせます。
「今のは何だったんだ」「心臓がバクバクしてる」
いたずらかドッキリカメラにひっかかったような2人には妙な連帯感が生まれ、「じゃあ」と言って別れて出勤して行きますが、クリスティアンはしばらく歩いたところで財布とスマホと袖のカフスをスラれたことに気づきます。
クリスティアンは美術館に到着すると、その出来事を部下のキュレーターたちに面白可笑しく話します。
「カフスとか一体どうやって盗ったんだよ」
カフスは家に帰るとポケットから出てくるので、クリスティアンが忘れてただけなんですが、まぁ話を盛ってます。
幸いにしてスマホの方はGPSが作動していて、おおよその場所が分かります。
その地域は比較的貧しい人が住む地域でした。
GPSを基にスマホを取り返す方法を部下にアドバイスされるとクリスティアンは実行に移します。
部下のアドバイスは、GPSで団地の建物までは特定できるので、あとはポストに「お前が盗んだのは分かってる。放っておくと大変なことになるぞ。すぐに中央駅のコンビニに送り返せ」というビラを入れるだけで、犯人はビビッて返してくるというものでした。
クリスティアンはそれを聞いた当初は及び腰でしたが、部下が「ポストにピピピピピピって入れてくだけですよ」と簡単なことのように言うのでやることにします。
しかし建物に着いたら、部下は自分はアドバイスしただけで投函作業はやらないと言い、車からも降りません。
クリスティアンは呆れつつも自分の事なので、一軒一軒玄関のポストに入れて回ります。
ここも集合ポストが無いところとか面倒くさいなぁと思いますし、廊下の電灯が暗かったりで観客を不安にさせる演出でした。
まぁ何より、「スラれたんだから警察に届ければいいのに?」と思って観てました。
でも、この方法はあっさり功を奏します。
数日するとコンビニ(予告編に出てくるセブンイレブン)から電話があり、クリスティアン宛の荷物が届いてると言われます。
クリスティアンがコンビニに取りに行くと、財布の中身も無事でスマホも無事に返ってきて満更でもない顔をします。
ここは、人助けをした⇒なのにスラれた⇒でも無事に戻って来た、とクリスティアンの感情を揺り動かすように描かれていましたね。
これでスリの件は片付いたと思っていたクリスティアンですが、再びコンビニから電話がありクリスティアン宛の手紙を預かっていると言われます。
心当たりがないクリスティアンは電話でその手紙を読んでもらいます。
「よくも人を泥棒扱いしたな、謝れ。家族に怒られてゲームも何もかも取り上げられた。下記まで連絡して謝れ。さもなければカオスが訪れるぞ」と読み上げられます。
クリスティアンは後日取りに行くと言いますが、自分では行かず、例の部下に取りに行かせます。
部下が手紙を取りに行くと、その手紙を書いたと思われる少年が居て、大人顔負けのえらい剣幕で迫ってきます。
部下は上司に頼まれて取りに来ただけだと言いますが、少年は「なら上司を連れて来い」と凄むのでした。
クリスティアンは部下に嫌な思いをさせただけで、少年に謝るでもなく、それ以上の実害が無かったので放っておきますが、暫くすると少年がクリスティアンのマンションに現れます。
ちょうどその日は2人の娘を連れていたことから、少年を適当にあしらおうとしますが、少年は引き下がりません。
少年がクリスティアンの部屋の前まで上がってくると追い返しますが、そのときに弾みで少年が転んでしまいます。
しかしクリスティアンは少年を心配するでもなく、大人しく帰れと言って部屋に入ってしまいます。
クリスティアンが部屋に入って暫くすると、少年の「助けて」「痛い」の声が聞こえてきます。
暫くシカトしてたクリスティアンですが、あまりにも続くので様子を見に行きますが、少年の姿は見えませんでした。
このあとも、部屋に戻る、また声がする、見に行くを繰り返すんですが、クリスティアンが階段を降りて見に行かないのでイライラするんですよね。
結局、少年の声にさいなまれたクリスティアンは、少年に連絡しようと、部下に取りに行かせて捨ててしまった手紙をマンションのゴミ捨て場から探します。
そして手紙に書いてあった番号に電話しますが、現在は使われていませんでした。
するとクリスティアンはスマホで動画を撮り始めて、少年への謝罪を口にし始めますが、そのうちに富める者と貧しい者との間に横たわる社会的な問題の話にすり変わっていくのでした。
しかしクリスティアンはこのままではいけないと思ったのでしょう。
上の娘のチアリーディング大会の応援の後、娘2人を連れて少年の団地に向かいます。
団地に着いたクリスティアンは「10分か20分で戻ってくるから車で待ってて」と娘2人に言いますが、娘2人は部下と違って「一緒に行く」と言います。
クリスティアンは団地の住人を一軒一軒訪ね、ビラのことと少年のことを尋ねますが、ビラのことは知らないと言われます。
ただ住人の中に、少年を知ってる人がいましたが、引っ越したようだと言われます。
クリスティアンは引っ越し先を知らないかと尋ねますが、そこまでは知らないと言われ、少年探しは頓挫します。
スリを巡る騒動の話はこれで終わりで、映画自体もここで終わります。
プロモーションを巡る騒動は、「ザ・スクエア」の展示をどうアピールしていくかの打ち合わせから始まります。
まず、クリスティアンを含む美術館のキュレーター数人とPR会社の2人を交えて打ち合わせが行われます。
PR会社の2人は、最近のPRで成功した例としてアイス・バケツ・チャレンジを取り上げます。
そしてプロモーション方法としてPR会社は、「ザ・スクエア」のテーマである「思いやりの聖域」を逆手に取ったインパクトのある方法を提案すると、クリスティアンも了承し、この線で話が進められていくことになります。
次の打ち合わせの場ではPR会社がより具体的な提案をし、YouTube上にインパクトのある動画を上げ、拡散を狙っていくというもので、具体的にはザ・スクエアの中にホームレスの少女が入っていくというものでした。
PR会社の2人はザ・スクエアの中で、具体的にどのようなことが起きるかまでは決めていないようでしたが、金髪の少女にすると効果が何%上がるなど具体的な数字を口にします。
打ち合わせに遅れて入って来たクリスティアンは少年の手紙の件があり、半分上の空です。
資料にざっと目を通すと、「いいね、続けて」と言ってすぐに出て行ってしまうのでした。
次にクリスティアンがプロモーションのことを知るのは、娘2人とショッピングセンターで買い物をしてる時です。
YouTubeから電話があってアップした動画が数時間で30万回再生されてて、広告を出さないか?というものでした。
動画の内容を把握してなかったクリスティアンは一体どんな動画なんだ?と尋ねますが、YouTubeの担当者も部署が違うから分からないと答えます。
クリスティアンは美術館のスタッフに連絡すると動画が送られてきます。
その動画は金髪のホームレスの少女がザ・スクエアの中に入ると爆発するというものでした。
PR会社の2人が「めっちゃ拡散、めっちゃ拡散」と喜んでる動画も添付されていました。
PR会社の2人は拡散と喜んでいましたが炎上してるのは明らかでした。
世間から猛バッシングを浴びると理事会が開かれクリスティアンはチーフ・キュレーターを辞任することになります。
クリスティアンは記者会見を開くと、動画の件で理事会を開き、辞任に至ったことを告げます。
記者からは、炎上を狙ったのか?というような質問が飛びますが、クリスティアンはチェック体制の不備だったというような言い訳に終始します。
また別の記者からは、クビなのか?自ら辞めるのか?といった質問が飛びますが、クリスティアンは理事会の決定だと言い、プライドを守るためか、クビであるのか、自らの責任で辞めるのかを明らかにしません。
さらに別の記者からは、今回の動画で辞任するということは表現の自由を脅かすものでは無いのか?とバッシングを逆手に取った質問が飛んできてクリスティアンは答えに窮します。
しかし結果的に翌日の新聞各紙は記者会見のことを取り上げ、「ザ・スクエア」の展示についても紙面を割くのでした。
インタビュアーのアンとは冒頭のインタビューから始まります。
クリスティアンは現代美術館が置かれている現状を話し、アンからは美術館のHPに載ってる言い回しの理解し辛い部分を質問されたりします。
次にクリスティアンがアンに会うのはクラブに踊りに行ったときでした。
トイレの順番を待ってるとアンと隣になります。
クリスティアンは「この女性とは寝ないぞ」と心の中で誓いますが、次のシーンではアンの部屋に行ってます。
アンの部屋にはなぜか猿がいますが、そのことの説明などは一切ありません。
クリスティアンはコンドームを付けて行為が終わると、アンがコンドームを捨ててあげると言います。
しかしクリスティアンは自分で捨てると言うと押し問答が続き、お互いにゴムを引っ張るのでゴムパッチンのユートピアになりそうになります。
アンはクリスティアンに「プライドが高いのね」と言うので折れるのかと思いきや、別の部屋から蓋付きゴミ箱を持ってきて目の前で捨てさせるのでした。
次にアンは美術館にやって来ます。
クリスティアンに「こないだのこと覚えてる?」「誰とでも簡単に寝るのか?」「私の名前は憶えてる?」と矢継ぎ早に質問します。
アンが「具体的に何をしたか言って?」と聞いても、「セックスした」と言わずに曖昧な言葉で表現するクリスティアン。
背後には椅子を積み上げたオブジェがあってガタンガタンと不快な音を立ててますが、オストルンド監督は『フレンチアルプスで起きたこと』のときも同じようなことをしていました。
猿人間はパーティで登場するまでに1シーンか2シーンあって、現代美術館の映像アートとして猿人間を撮ったものが流れてます。
パーティの余興では参加者たちにここはジャングルであることが告げられ、そのように振舞うように告げられます。
完璧に猿になりきってるオレグが登場すると人々のテーブルを回ります。
本当のジャングルにいるように息を潜める人、思わず声を上げてしまう人など様々で、その反応に合わせてオレグは行動します。
そうしてるうちに猿人間はセカンド的立場のキュレーターのジュリアンにちょっかいを出します。
耐えられなくなったジュリアンは、もうパフォーマンスは終わりだとばかりに「分かった、分かった」と猿人間に言います。
すると猿人間は更に興奮するのでジュリアンはクリスティアンに助けを求めます。
クリスティアンは「オレグの素晴らしいパフォーマンスでした」と言って閉めようしますが、猿人間は止まりません。
1人の女性に興味を示すと最初は髪などを触っていましたが、行動が段々エスカレートしていきます。
助けてと悲鳴を上げる女性でしたが、誰も席を立ちません。
猿人間がさらに女性の椅子を押し倒して馬乗りになると、ようやく1人の男性が立ち上がりに止めに入ります。
すると堰を切ったように複数人が立ち上がり、猿人間をボコボコにするのでした。
大きなエピソードは以上の4つですかね。
猿人間のエピソードなんかは投げっ放しですし、アンが美術館に来てクリスティアンを問い詰めてるシーンなんかは、クリスティアンが周囲を気にしてるので、他の場所に移ればいいと思うのですがそうしませんし、不快な音がどこから出てるのかも明らかにしません。
ただ、そういう映画なんですね。
監督の前作の『フレンチアルプスで起きたこと』もそういう傾向がありましたが、本作では更に意地が悪く面倒くささが加速しています。
なので不快に思ってダメな人にはダメな映画だと思います。
町山さんのトークイベントの動画を見ると、リューベン・オストルンド監督の出発点は『ジャッカス』みたいなところにあるので、なるほどなと思いました。
あと、公式サイトにあった町山さんのコメント、「世界一のなんとかツリー騒ぎみたいで爆笑」はホントそう思いますね(笑)
あと青年会議所の宇予くんなんかも思い浮かべました。
主人公のクリスティアンはパッと見はイケオヤジですが、その実は姑息な男で、これもフレンチアルプスの主人公に似てると思いました。
劇中では言及されてませんが、クリスティアンの離婚した妻の方が理事になってるようで、クリスティアンの方がいわゆる玉の輿婚ではないのかな?と思います。
だから意識高いところの上っ面だけをなぞってるように見えました。
劇中は頻繁に物乞いが出てきます。
スウェーデンにはあんなに物乞いがいるのかな?と思いましたが、いるんですね。
そしてその度に現金が無いと言うクリスティアンなので、そんなに意識高いなら現金持ち歩けばいいのに?と思ってしまいましたが、ここまでキャッシュレス化が進んでいたとは、驚きました。
「現金お断り」ってw
こういうことを知ると、映画を観てて腑に落ちなかったところが、実際は現実に即していたことだと分かり、現代スウェーデンの縮図が詰め込まれていたんだなぁと思いました。
物乞いがチキンサンドを恵んでもらったのに「玉ねぎ抜きで」と言ったり、美術館のトークイベントでトゥレット障害の人が卑猥な言葉を発したり、ちょっとしたシーンでも毒気に当てられてげんなりするんですが、不快に思っても頑張って最後まで観るといいんじゃないかと思います。
実際、自分も鑑賞直後は不快指数の方が面白さよりも上回ってた(それが監督の狙いだと分かっていても)んですが、感想を書くにあたり、同じ先進国でも日本とはまたちょっと違うスウェーデンの現状を知ると、理解出来る部分もあって不快指数はかなり抑えられるんじゃないかと思います。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
2018年 76作品目 累計69100円 1作品単価909円
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