マーキュリー計画の裏方を描く ☆5点
1960年代、差別や偏見と戦いながらアメリカ初の有人宇宙飛行計画に従事したNASAの黒人女性数学者たちを描いたノンフィクション小説「Hidden Figures」の映画化で監督はセオドア・メルフィ、主演にタラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ
予告編
映画データ
本作は2017年9月29日(金)公開で全国で65館程での上映ですが、今後順次上映されるところもあるみたいで最終的には106館程での上映となるようです。
アメリカでは2016年12月25日(日)から限定公開され、2017年1月6日(金)から拡大公開されると大ヒットして1億7千万ドル弱稼いでいます。
今年公開の映画だと『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』と『キングコング: 髑髏島の巨神』の間くらい稼いでいます。
監督はセオドア・メルフィで脚本と製作も担当してます。
初めましての監督さんです。
監督作で日本公開作は『ヴィンセントが教えてくれたこと』だけみたいですが、今年公開された『ジーサンズ はじめての強盗』で脚本を担当してます。
ジーサンズも面白かったので脚本が上手いんだと思います。
主演にタラジ・P・ヘンソン
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたみたいですが、未見ですので初めましての方です。
主演にオクタヴィア・スペンサー
近作はこちらも黒人差別を描いた『フルートベール駅で』を観てます。
それから『ズートピア』では凶暴になっちゃったカワウソの奥さんの声だったようです。
主演にジャネール・モネイ
自身で作曲しプロデュースもこなす歌手だそうです。
映画出演は今年アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』が初めてだったのは知りませんでした。
主人公の幼少期に面倒を見てくれた近所のカップル役で、優しいお姉さんでした。
ちなみにこの時のカップル役がマハーシャラ・アリで本作ではキャサリンの夫になります。
他に共演と配役は以下の通りです。
キャサリン・G・ジョンソン役: タラジ・P・ヘンソン
ドロシー・ヴォーン役: オクタヴィア・スペンサー
メアリー・ジャクソン役: ジャネール・モネイ
アル・ハリソン役: ケヴィン・コスナー
ヴィヴィアン・ミッチェル役: キルステン・ダンスト
ポール・スタッフォード役: ジム・パーソンズ
ジム・ジョンソン役: マハーシャラ・アリ
ジョン・グレン役: グレン・パウエル
あらすじ
東西冷戦下、アメリカとソ連が熾烈な宇宙開発競争を繰り広げている1961年。ヴァージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究所では、優秀な頭脳を持つ黒人女性たちが“西計算グループ”に集い、計算手として働いていた。リーダー格のドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は管理職への昇進を希望しているが、上司ミッチェル(キルスティン・ダンスト)に「黒人グループには管理職を置かない」とすげなく却下されてしまう。技術部への転属が決まったメアリー(ジャネール・モネイ)はエンジニアを志しているが、黒人である自分には叶わぬ夢だと半ば諦めている。幼い頃から数学の天才少女と見なされてきたキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は、黒人女性として初めてハリソン(ケビン・コスナー)率いる宇宙特別研究本部に配属されるが、オール白人男性である職場の雰囲気はとげとげしく、そのビルには有色人種用のトイレすらない。それでも、それぞれ家庭を持つ3人は公私共に毎日をひたむきに生き、国家の威信をかけたNASAのマーキュリー計画に貢献しようと奮闘していた。
1961年4月12日、ユーリ・ガガーリンを乗せたソ連のボストーク1号が、史上初めて有人で地球を一周する宇宙飛行を成功させた。ソ連に先を越されたNASAへの猛烈なプレッシャーが高まるなか、劣悪なオフィス環境にじっと耐え、ロケットの打ち上げに欠かせない複雑な計算や解析に取り組んでいたキャサリンは、その類い希な実力をハリソンに認められ、宇宙特別研究本部で中心的な役割を担うようになる。ドロシーは新たに導入されたIBMのコンピュータによるデータ処理の担当に指名された。メアリーも裁判所への誓願が実り、これまで白人専用だった学校で技術者養成プログラムを受けるチャンスを掴む。さらに夫に先立たれ、女手ひとつで3人の子を育ててきたキャサリンは、教会で出会ったジム・ジョンソン中佐(マハーシャラ・アリ)からの誠実なプロポーズを受け入れるのだった。
そして1962年2月20日、宇宙飛行士ジョン・グレンがアメリカ初の地球周回軌道飛行に挑む日がやってきた。ところがその歴史的偉業に全米の注目が集まるなか、打ち上げ直前に想定外のトラブルが発生。コンピュータには任せられないある重大な“計算”を託されたのは、すでに職務を終えて宇宙特別研究本部を離れていたキャサリンだった……。
(公式サイトhttp://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/より引用)
ネタバレ感想
公開前に邦題問題で、すったもんだした本作
ですが、結果的に知名度上がってよかったんじゃないかと思います。
そのおかげが100館以下の小規模公開なのに初週の動員ランキングが7位で、2週目は6位に上昇してます。
観たら絶対面白い作品ですので口コミで伸びると思います。
今年は本作公開前の7月に『ライトスタッフ』でのチャック・イェーガー役がめちゃめちゃカッコよかったサム・シェパードが亡くなったニュースがあり残念に思っていたところです。
『ライトスタッフ』は1983年の作品ですが、繰り返しテレビ放映されてるので、見たことがある方も多いんじゃないかと思います。
この作品を初めて観たときはめちゃめちゃ面白くて、ビル・コンティの音楽もめちゃめちゃ良くてテンション上がったんですが、この作品で「マーキュリー計画」という言葉を知った方も多いんじゃないかと思います(自分もその口です)。
本作の劇中内で「マーキュリー・セブン」という言葉が出てきますが、マーキュリー計画のために選ばれた7名の宇宙飛行士のことで、この中にチャック・イェーガーはいないんですが、『ライトスタッフ』でエド・ハリスが演じたジョン・グレンが重要な人物として頻繁に登場します。
劇中内ではこのジョン・グレンがめちゃめちゃいい人で、最初から黒人に偏見がなく、主人公キャサリンを引き立ててくれる存在でもあり、本作はいわば「裏ライトスタッフ史」ともなってます。
しかし、このマーキュリー計画の裏でこのような黒人女性による活躍があったことは、アメリカでも最近まで知られてなかったそうで、それがそのまま原題の『Hidden Figures』にも繋がってるそうですが、同じようにこれまであまり知られてなかった数学者アラン・チューリングの第二次世界大戦での功績を描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』みたいだと思いました。
本作はキャサリン、ドロシー、メアリー3人の性格の描き分けが上手いなと思いました。
冒頭の車が故障するシーンでしっかり描き分けられていて、ドロシーはみんなのリーダーで黒人といえども卑屈にならず主張すべきところは主張していく人間、メアリーは黒人であることを自虐にし半ば色々と諦め夢を見ないようにしている人間、キャサリンは天才的な数学の能力を持ちながらもそれをひけらかすことなく耐える人間で3人それぞれ違うんですが、そのいじらしさに序盤から涙が出そうでした。
ドロシーはIBMのコンピューターが導入されると、ゆくゆくは自分も含め部下20人の計算係が不要になるのを見越し、部下たちにFORTRAN(フォートラン)を勉強させ、計算係からプログラマーへの転換を図ります。
メアリは技術部に配属になるとユダヤ人ながらエンジニアになった同僚に励まされます。
キャサリンは、これアメリカが有人宇宙飛行でソ連に遅れをとったのはトイレが遠かったせいじゃないかと本気で思うんですが、ジム・クロウ法のせいで大変無駄な時間を強いられることになります。
黒人が利用できるトイレに行くには800mも歩かねばならず自転車に乗ることもできません。
トイレに行って戻ってくるたびに1.6kmかかるわけで無駄以外の何物でもありませんでした。
それまでずっと耐えていたキャサリンが涙ながらに訴えると、ハリソンによってトイレなどの白人・黒人の区別は撤廃されます。
しかし今度は人種差別が撤廃されても男女差別や非能力主義の壁が立ちはだかります。
女性というだけで重要な会議に出席出来なかったり、能力があっても上司を飛び越えて仕事をすることは出来なく、非効率的な仕事を強いられます。
そんな垣根を取っ払ってくれるのが本作ではジョン・グレンで、2人とも前例のないことに取り組むという点で共通してました。
他にも印象的なシーンがいくつかありました。
キャサリンとジム・ジョンソンは後に結婚することになりますが、出会ったときは同じ黒人同士でも男女の差別があり、ジムはキャサリンを傷つけます。
キルステン・ダンスト演じるミッチェルもドロシーに「偏見は無い」と言いますが、偏見そのものを理解してなく自覚が無いということはこんなにも罪なことなのかと気づかせてくれます。
本作がよかったのは、そんな暗くなりそうな展開でも、主人公たちがマーキュリー計画に夢を持って取り組んでいたことで、その時代の公民権運動なども平行して描かれるんですが、彼女たちは彼女たちなりの方法で周囲に認められるよう工夫し努力したことで、この辺は今何かに不満を持ってる人、認められてないと感じてる人にも、物事に取り組む際の心構えになるのではないかと思いました。
ファレル・ウィリアムスによる音楽もよかったです。
黒人差別だ、虐げられた、ばかりでなくそんな中でも当時存在したであろう楽しい生活、そこにあった音楽を再現し、映画をポップでポジティブなものにしてくれてます。
なんかこの辺の描き方は『この世界の片隅に』と共通するところがあって、しみじみとよかったなと思いました。
今の日本を見回してみても色々なことで対立していますが、彼女たちの行動から学べることは多いんじゃないかと思いました。
鑑賞データ
TOHOシネマズ六本木ヒルズ シネマイレージデイ 1400円
2017年 167作品目 累計178400円 1作品単価1068円
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