ソリッドな映像と音楽で魅せる ☆3.5点
2013年に発行されたアメリカ人作家ジョナサン・エイムズの原作を、イギリス人女性監督リン・ラムジーが脚本し映画化。
2017年第70回カンヌ国際映画祭脚本賞&男優賞受賞作品。
殺しも厭わない孤独な行方不明者捜索人の活躍を描いたスリラーで、主演はホアキン・フェニックス
予告編
映画データ
本作は2018年6月1日(金)公開で、全国6館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には45館での公開となるようです。
劇場での予告編はヒューマントラストシネマ有楽町及び渋谷に行ったときに目にしました。
予告編の最後の方でタイトルが出てきたときに流れるベース音が、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」のイントロドンみたいで印象に残りました。
今年は第70回(2017年)カンヌ国際映画祭の公式選出受賞作はほぼ観てる感じで、審査員賞の『ラブレス』だけ見逃しましたが、本作の鑑賞で最後になります。
監督はリン・ラムジー
初めましての監督さんです。
イギリスの女性監督でこれまでに短編を4本、長編を3本撮っています。
前作の『少年は残酷な弓を射る』で主演のティルダ・スウィントンがヨーロッパ映画賞女優賞を受賞してます。
主演はホアキン・フェニックス
近作は『ザ・マスター』『her/世界でひとつの彼女』『インヒアレント・ヴァイス』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
ジョー: ホアキン・フェニックス
ジョーの母: ジュディス・ロバーツ
ニーナ・ヴォット: エカテリーナ・サムソーノフ
ジョン・マクリアリー: ジョン・ドーマン
アルバート・ヴォット上院議員: アレックス・マネット
ウィリアムズ州知事: アレッサンドロ・ニヴォラ
子供時代のジョー: ダンテ・パレイラ=オルソン
エンジェル: フランク・パンド
あらすじ
元軍人のジョーは行方不明の捜索を請け負うスペシャリスト。ある時、彼の元に舞い込んできた依頼はいつもと何かが違っていた。依頼主は州上院議員。愛用のハンマーを使い、ある組織に囚われた議員の娘・ニーナを救い出すが、彼女はあらゆる感情が欠落しているかのように無反応なままだ。そして二人はニュースで、依頼主である父親が飛び降り自殺したことを知る―
(公式サイトhttp://beautifulday-movie.com/about.phpより引用)
ネタバレ感想
原題は「You Were Never Really Here」
早川書房から出てる原作の日本語版は新書で120ページなので短編小説になると思うんですが、本の内容紹介に書いてあるあらすじを貼っときますね。
元海兵隊員のジョーは、売春を強要されている少女や女性の救出を生業とするフリーランサーだ。ある時、仲介役のマクリアリーから、誘拐された上院議員の娘を助ける仕事が回ってきた。娘が娼館に閉じ込められているという情報を得たジョーは、現場へと急行するが背後には穢らわしい陰謀が――。
(ハヤカワ・オンラインhttp://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013895/より引用)
映画だけを観てると、ジョーが元海兵隊員であることや、少女や女性の救出に特化してるフリーランサーだということは分かり辛く、暗殺者にも見えるんですが、Me too運動の広がりや国連での女性の人権が叫ばれる昨今、この設定は面白いと思いました。
原作が短編ということで本作の上映時間も90分と短いんですが、それでも台詞は少なくて映像と音楽で魅せるタイプの作品です。
より詳しいストーリーはウィキペディアを見ていただきたいのですが、そこに書いてある「FBI時代、人身売買されている女性たちを救えなかった」というのもテロップや台詞で説明される訳ではなく、時折挿入される短いフラッシュバックのシーンで想像できるだけです。
なので普通に観てるだけでは、ジョーに何らかのトラウマがあるというのは分かるものの、詳しい過去とか設定は分からないようになっています。
おそらく台本は相当薄いと思いますが、これが脚本賞を獲ったのが面白いと思います。
台詞や説明描写を極力排し、台詞の行間や台本の余白で魅せた作品だと思います。
また、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる音楽も独特で、幻想的ながらも焦燥感や不安感、不快感を感じさせる音楽となっていたと思います。
削ぎ落された台詞に、詩的な映像と相まって、映画全体がソリッドなMV(ミュージックビデオ)の趣もありました。
本作を形容するとすれば、エンタメ性を排した『レオン』、あるいは2010年代の『タクシードライバー』といった感じだと思います。
ニーナ役を演じたエカテリーナ・サムソーノフが今後、ジョディ・フォスターやナタリー・ポートマンのようになるのか要注目だと思います。
さてウィキペディアのストーリーの続きを言うと、黒幕はウィリアムズ州知事なんですが、選挙参謀でもあるヴォット上院議員が自身の出世のために娘のニーナを差し出していたんですね。
そして心変わりしたヴォット上院議員はジョーにニーナ救出を依頼したものの、良心の呵責に耐え切れず自殺したんですが、ウィリアムズ州知事にバレて殺された可能性もあり、はっきりとしたことは分かりません。
とにかく周囲の人物を皆殺しにされたジョーは、再びニーナを救うべくウィリアムズ州知事が休暇を取る別荘の屋敷に向かいます。
ジョーは屋敷に着くとボディーガードを殺して、ウィリアムズ州知事の元に辿り着きますが、知事は喉を掻っ捌かれて死んでます。
食堂に行くとニーナが血の付いた手で食事してて、傍らには血の付いたナイフが置いてありました。
場面変わってジョーとニーナはカフェにいます。
ニーナが席を外すとジョーは拳銃自殺しますが、これは夢でニーナが席に戻ってくると机に突っ伏してジョーが寝ています。
ジョーが起きるとニーナが邦題になってる「It’s a beautiful day」と言って映画は終わります。
それにしても本作のウィリアムズ州知事、昨年(2017年)公開されたイタリア映画『暗黒街』の少女買春する議員、韓国映画『アシュラ』の悪徳市長と、悪徳政治家が出てきた映画が共通して評価が高いのが興味深いところです。
作品のテイストも、鈍器で殴られたような重くどんよりとした雰囲気で共通していましたが、本作はラストに救いがあるので、他の2作品よりは鑑賞後感がいいかもしれません。
ところでジョーは暗殺者では無いですが、トンカチを武器にするキャラクターで珍しいです。
『ヒーローマニア -生活-』では片岡鶴太郎さん演じるサラリーマンがトンカチを振り回していました。
ヒーローマニアではトンカチを振り回しても人が死なない御都合主義が描かれてましたが、本作では正しく死ぬのでリアリティがあります。
リアリティがあると言えば、本作のような少女売春組織が実際にあるというのも恐ろしい話です。
ジョーのトラウマも含めて、アメリカの闇は深いです。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ渋谷 TCGメンバーズ 会員料金 1300円
2018年 107作品目 累計101000円 1作品単価944円
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