シチュエーションサバイバルドラマ ☆4.5点
『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』の矢口史靖監督によるオリジナル脚本で、ある日突然、電気(電子)が無くなった世界を描くサバイバルドラマ。
主演に小日向文世と深津絵里、共演に泉澤祐希と葵わかな
予告編
映画データ
製作がフジテレビジョン・東宝・電通・アルタミラピクチャーズとなってる作品です。
この映画も昨年から頻繁に映画館で予告編を観ました。『ラ・ラ・ランド』『恋妻家宮本』と同じくらい目にした感じがします。
映画を観た印象はいい意味で予告編とはイメージ違ったな、です。
予告編のイメージだと、もっとポップで軽いコメディな印象でしたが、わりとシリアスなドラマで、突如、電気が無くなった世界をシチュエーションとするサバイバルドラマで、もう一歩進めればサバイバルスリラーにも発展しそうな雰囲気の映画でした。
ネタバレ感想
映画はまず電気のある生活に浸りきっている鈴木家(私たち)の描写から始まります。
お父さん(小日向文世)は会社の財務畑でほぼパソコンと向き合う仕事。家に帰ってからは晩酌でテレビ三昧の生活です。
息子(泉澤祐希)は大学生。大学での講義の板書を写すのもスマホのカメラで撮ってパソコンで管理する生活です。ダウンロードした音楽も欠かせません。
娘(葵わかな)は高校生。友達とのスマホでのSNS交流が何よりも大切です。
お母さん(深津絵里)は専業主婦。IHのキッチンらしいです。電気とは関係ないですが、実家の鹿児島のお父さん(柄本明)が送ってくれた魚が捌けません。
最初に電気が止まった様子が描かれるのは、お父さんの目覚まし時計が止まってるシーンです。
お父さんが朝起きて時計を見ると3時頃で止まっていて、ビックリして寝坊したと思います。
寝室から居間に出てお母さんに何で起こしてくれなかったんだと言いますが、お母さんは家の電気が止まってると言います。
家のブレーカーが落ちてるのかと思って息子が懐中電灯を手に暗い玄関口にあるブレーカーを上げようとしますが、懐中電灯は付かず家のブレーカーも落ちてません。どうやら住んでる団地一帯が停電している模様です。
それでもお父さんは会社へ、息子は大学へ、娘は高校へ行こうとしますが、電車は止まっていて駅は人で溢れています。
振替輸送のバスも動いてなく、タクシーを拾おうとするも自動車も動きません。
普通、停電だったら、電池を使用している時計や懐中電灯は使用できますし、自動車(エンジンを着火させるバッテリー)も動くと思うんですが、そうならないのは電気(電子)という存在そのものが無くなってしまった世界を描いてるからなんですね。
これ、クロエ・グレース・モレッツが主演した『フィフス・ウェイブ』で異星人が第一の攻撃に使用したのに似てて、地球上のあらゆる電子機器が止まるっていうやつです。
フィフス・ウェイブでは電子パルスによる攻撃でそうなってましたが、本作ではなぜそうなったのか原因は分からないままストーリーが進んでいきます。もう、そういうシチュエーションに放り込まれるんですね。
なので、なぜ電気が無くなったのかは、大事ではないです。
一応、映画のラストで電気が復旧して「太陽フレアが~」とかのニュース映像が流れますが、原因は分かりません。
電気が無くなった世界というのは、エジソンなどが白熱電球を実用化する以前の世界に戻ることです。
電気ポンプを使用している水道は流れませんし、電池で着火させるガスコンロはマッチが無ければ火が付きません。電子式の100円ライターも使えないです。
じゃあ、この状況をどうやってサバイブしていくかっていう話なんですが、昔の生活に戻ればいいだけで、鈴木家(私たち)がそれに気付いていくっていうお話です。
映画では印象的なシーンがいくつもありました。
1週間経っても回復しない状況に、鈴木家は鹿児島へ避難することに決め自転車で移動するのですが、最初は沿道で安く売られていたペットボトルの水が段々と高くなっていったり、お米屋さんではお金や高価なもの(高級腕時計や高級スポーツカー)は意味をなさなくて食料との物々交換だったりと、貨幣が意味をなさなくなります。
鈴木家が初めて野宿することになる海老名サービスエリアでは、寝てる間にペットボトルの水を盗まれるんですが、犯人の男を追いかけていくと、赤ちゃんのミルクに困っていた夫婦の犯行だったりと切ない。
途中でサバイバルに長けている一家(時任三郎、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳)に出会うんですが、お父さん(時任三郎)がサバイバルに大事なことを教えてくれます。まず、体温を保持すること。水を確保できること。火を起こせること。食料はそのあとだそうで、その辺のことは日経スタイルの矢口監督のインタビューに書いてありました。
鈴木家は、大阪は電気が使えるという噂に希望を持って進むんですが、大阪でも電気が使えなくて愕然とします。
ここでは大阪人の逞しさが描かれていて、水族館の魚やカニを捌いて炊き出しを行ってる様子が描かれます。
炊き出しの列に並ぶも目前で空になってしまう状況に至り、お父さんは子どもたちだけにでもと土下座します。
ここに至ってようやく家族は一致団結し覚悟を決めて鹿児島に向かいます。
途中、畑にいる豚を捕まえて殺し、どうやって捌こうかとしていたところ、逃げていた豚を探していた農家(大地康雄)に見つかり怒られるも、作業を手伝うことを条件に許してもらい、しばらくやっかいになります。
そこでの生活は井戸水を汲み、洗濯板で洗濯し、桶で水を運んで薪でお風呂を沸かし、冷蔵庫は使えないため豚肉は長期保存が効くように燻製にします。
妻に先立たれ、結婚して独立した子供はアメリカに住んでるため、一人暮らしだという農家は鈴木家にずっと居ていいといいますが、鹿児島のお父さんが心配な鈴木家は鹿児島に向かいます。
途中、お父さんが川で死にそうになったり、お母さんが野犬に襲われそうになったりしますが、岡山以西は蒸気機関車が通っていて、無事鹿児島に着くことが出来ました。
電気が無くなってから108日目のことでした。
映画の途中途中で何日目と出るんですが、大阪まで45日?だったかな、結構かかるなと思ったんですが、この辺はきちんとシミュレーションした数値なのかは分かりません。
ただ鹿児島に着いたのが108日目というのは、煩悩の数を意識したと思いました。鹿児島に着いたときには一切の煩悩が無くなったみたいな。
鹿児島での生活が2年と125日(くらいだったかな?)経って、突然、時計のアラームが鳴ります。
これ最初にお父さんが寝坊したと思った目覚まし時計ですね。
電気は普通に戻り、情報番組やニュースでは2年以上の長きに亘る世界同時停電の検証番組を放送してます。彗星とか太陽フレアの影響かも?といってます。
この2年と何日という日数も、きっと何か意味があると思いますが、それが何かは分かりませんでした。
ところで、矢口史靖監督はフジテレビ関係の人だと思ってたんですが違うんですね。
元々が、ぴあフィルムフェスティバルを受賞した自主映画出身の監督で、『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』でそのイメージが強いんだな。『ハッピーフライト』もありますし。
最近のフジテレビ映画はひどいのが多くて(ボクの妻は関西テレビ)
本作も期待してなかったんですが、これは良作でした。
テーマとしては矢口監督の前作『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』を更に突き進めた感じですけど、構想自体はもっと前からあったみたいです。
この製作のフジテレビ・東宝・電通・アルタミラの4社と矢口監督の組み合わせは『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『ロボジー』があるみたいですけど、アルタミラピクチャーズというのが周防正行監督が取締役を務めている会社なんですね。なのでエンタメ作品でありながらも、ある種のメッセージ性が感じられるのかなぁと思いました。
とりあえず今のところ、今年観た邦画では一番いいかなと思いましたよ。
鑑賞データ
TOHOシネマズ新宿 モク割 1100円
2017年 23作品目 累計19200円 1作品単価835円
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