オン・ザ・ミルキー・ロード 評価と感想/動物使いが凄い

オン・ザ・ミルキー・ロード 評価と感想
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3つの実話と多くの寓話からなる物語 ☆4点

世界三大映画祭全てで受賞しているエミール・クストリッツァ監督の9年ぶりの新作。
戦時中の架空の国のミルク配達人を自身で演じ、村にやってきたモニカ・ベルッチ演じる美しい花嫁との恋模様を描く。

予告編

映画データ

オン・ザ・ミルキー・ロード (2016):作品情報|シネマトゥデイ
映画『オン・ザ・ミルキー・ロード』のあらすじ・キャスト・評価・動画など作品情報:『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』などのエミール・クストリッツァ監督が、イタリアを代表する女優モニカ・ベルッチをヒロインに迎えたドラマ。
http://cinema.pia.co.jp/title/169571/

わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督を調べてるときに、世界三大映画祭全てで受賞している監督と知ったエミール・クストリッツァの新作ということで観に行ってきました。

本作は2017年9月15日(金)公開で、全国で8館ほどとまだ上映館数が少ないですが、順次全国公開されて最終的には30館ほどでの上映となるようです。

また本作の公開にあわせて恵比寿ガーデンシネマでエミール・クストリッツァ監督特集上映「ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!2017」が9/16~9/29まで行われているようです。

エミール・クストリッツァ監督作品・特集上映『ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!』オフィシャルサイト
エミール・クストリッツァ監督特集上映「ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!2017」9月16日(土)ー2週間限定、YEBISU GARDEN CINEMAにて上映

監督はエミール・クストリッツァ
作品は初めて見ます。
1985年『パパは、出張中!』でカンヌパルムドール

1989年『ジプシーのとき』でカンヌ監督賞

1993年『アリゾナ・ドリーム』でベルリン銀熊賞

1995年『アンダーグラウンド』で2度目のカンヌパルムドール

1998年『黒猫・白猫』でヴェネツィア銀獅子賞

監督作は11本くらいなんですけど、この打率たるや凄いですね。
天才なんだと思います。

主演はモニカ・ベルッチ
近作は『007 スペクター』を観てます。

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他に共演と配役は以下の通りです。

花嫁: モニカ・ベルッチ
コスタ: エミール・クストリッツァ
ジャガ: ミキ・マノイロヴィッチ
ミレナ: スロボダ・ミチャロビッチ

あらすじ

隣国と戦争中のとある国。右肩にハヤブサを乗せたコスタ(エミール・クストリッツァ)は、村からの戦線の兵士たちにミルクを届けるため、毎日銃弾をかわしながらロバに乗って前線を渡っている。 国境を隔てただけの、すぐ近場同士で続く殺し合い。いったい戦争はいつ終わるのか、誰にも見当がつかない。
そんな死と隣り合わせの状況下でも、村には呑気な暮らしがあった。おんぼろの大時計に手を焼いている母親と一緒に住んでいるミルク売りの娘ミレナ。美しく活発な彼女の魅力に村の男たちはメロメロで、皆がミレナ目当てもあってこの家のミルクを注文する。

そのミルクの配達係に雇われているのがコスタだ。コスタに想いを寄せているミレナは、ひとつの計画を思い描いていた。戦争が終わったら、兵士である兄のジャガが戦場から帰ってくる。兄は、この家に花嫁として迎える女性と結婚する予定だ。その時と同じ日に、自分はコスタと結婚するのだと――。

ところがミレナの求愛に対し、コスタは気のない素振りで話をそらしてばかり。
そんな折、家に花嫁(モニカ・ベルッチ)がやってくる。ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれたという絶世の美女だった。
彼女とコスタは、初めて会った瞬間からお互い惹かれ合うものを感じる。二人にはかつて人生を一変させたほどの重い過去の影があった。
「私たち、きっと似た者同士ね」
「……そうかもな。少しだけ」

まもなく奇跡のような報せがもたらされた。突然、敵国と休戦協定を結んだというのだ。
久々に訪れた平和の時。村人たちは狂喜して酒を呑み、楽器を弾き、歌をうたい、踊る。陽気な音楽があふれるどんちゃん騒ぎの中、とりわけミレナは大はしゃぎ。コスタもバンドに交じって得意のツィンバロムを演奏する。やがて戦争終結。ミレナの兄ジャガも帰還。コスタの気持ちはさて置き、“ダブル結婚式”の準備は着々と進んでいった。

しかし平和は束の間で一変する。
過去に花嫁を狂おしく愛した多国籍軍の英国将校が、彼女を自分のもとに連れ去ろうと特殊部隊を村に送り込んだのだ。残忍な兵士たちに村はすべて焼き払われる。愛すべき村人たちはみんな死んでしまった。

村に帰る途中で蛇に引き留められ、運よく生き残ったコスタは、花嫁を連れて決死の逃避行を開始。いまや二人きりとなった彼らの運命の愛は燃え上がる。果たして追っ手から無事に逃げ切り、幸せをいまや二人きりとなった彼らの運命の愛は燃え上がる。果たして追っ手から無事に逃げ切り、幸せをつかむことができるのだろうか――?

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

クストリッツァ監督の作品を初めて観た印象はアレハンドロ・ホドロフスキー監督に近い感じかな?と思いました。

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映画は冒頭から雄大な自然とハヤブサ、豚、ガチョウといった動物たちの生命力に圧倒されます。(ロケ地はセルビアでしょうか?自然が美しかったです)
冒頭、豚がビービー泣きながら大人2人に小屋に連れてこられるので、あ、屠殺されるなと分かります(直接の描写はありません)。
すると豚の血が入ったバケツを持った人が出てきて、外にあるバスタブに溜めます。
ガチョウが代わる代わるそのバスタブに飛び込んで真っ赤になるんで、何やってるんだ?と思うのですが、答えはすぐに明かされます。
たくさんのハエが豚の血の臭いにおびき寄せられてガチョウの羽に止まるとガチョウはハエを食べます。
なるほど、これは効率がいい。

隣国との戦争は国境を挟んで鼻と鼻を突き合わせてるので銃弾が村にもビュンビュン飛んでくるんですが、休戦時間はきっちり守られ、村人にもギリギリのところで当たらないのでコメディタッチに描かれます。
コスタも銃弾が飛び交う中、ロバを走らせ村の前線の兵士にミルクを届けます。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言いますが、隣国同士の戦争は夫婦喧嘩のようにも見えます。

ミルク屋の家に付いている大時計の錘は、人も持ち上げ、歯車に巻き込まれると怪我をします。
否応なく過ぎる時間は、ときに人を傷つけるという暗喩でしょうか。

停戦協定が結ばれ村に平和が訪れますが、コスタは2人の魅力的な女性に悩むことになります。
ミレナの兄ジャガが帰ってくると結婚の準備は着々と進み、このままだとジャガは義理の兄に、恋する花嫁は義理の姉になってしまいます。

が、村の平和は束の間で終わります。
花嫁が村や難民キャンプに来る以前に、彼女に入れあげていた多国籍軍のイギリス人将軍が、彼女と一緒になりたいが為に自分の妻を殺していました。
花嫁はその裁判でイギリス人将軍に不利な証言をしたため恨まれていました。

3年の刑期を終え出所した将軍は特殊部隊を村に送り込むと跡形もなく焼き尽くします。
村人は殺され、ジャガとミレナの兄妹も丸焦げにされていました。

隣国との戦争では死者が描かれなかったのに対し、多国籍軍が介入すると跡形も無くなったのも何か暗示めいたものを感じさせます。

ミルクの配達のあと村に帰る途中だったコスタは、毎日ミルクをあげていたお礼か、蛇に巻き付かれたため足止めされて助かり、村にいた花嫁は井戸の中に隠れていて助かりました。
村に戻ったコスタは井戸に隠れていた花嫁を見つけると2人で逃げます。

そこからは逃げる2人と追ってくる3人の特殊部隊との攻防が描かれます。
葦が茂る沼で特殊部隊を1人殺すと、川を下り滝に飛び込み、途中大きな鳥たちに助けられながら、広い牧羊地に出ます。

牧羊地に出るまでに足を折っていたコスタが羊たちの水場で休んでいると、牧羊地を見渡せる大きな岩山から鏡に反射した光が届きます。
岩山の上には2人の特殊部隊がいました。

逃げ場のない2人は羊の群れの中に逃げ込みます。
追って来た特殊部隊の2人には羊の数が多すぎて人の姿が見えません。

コスタは羊の群れに従って這って進むと牧羊地の先に地雷原があるのに気づきます。
コスタは羊を誘導させ地雷原を切り開いて進むことにします。

あちこちで地雷を踏んで吹き飛ぶ羊、右往左往する羊の群れは阿鼻叫喚の図。
追ってくる特殊部隊を地雷で吹き飛ばそうと、足が折れてなく動ける花嫁が羊を誘導しようとするとバランスを崩して地雷を踏みそうになってしまいます。
するとコスタに巻き付いて救った蛇が現れて花嫁に巻き付きます。
巻き付いて威嚇するかのような蛇に抵抗する花嫁でしたが、コスタはその蛇は守ってくれると言います。
しかし、ギリギリのところで地雷に触れてしまい、花嫁は爆発で高く打ち上げられて死んでしまいます。
爆発と爆風で足元がおぼつかなくなった特殊部隊2人も地雷を踏んで吹き飛び、コスタだけが生き残ります。

花嫁が死んだ悲しみでコスタも自殺しようとしていたところ、離れた場所で見ていた羊飼いがやってきて、誰が彼女の記憶を留めていくのかと諭され思いとどまります。

15年後
教会に通い祈りを奉げるコスタは白い瓦礫を集めています。
それを地雷原だったところに持っていくと敷き詰めています。
カメラが上空からズームアウトすると、白い瓦礫は一面に敷き詰められていて、あと少しで完成するのが分かります。
ミルキーロードの完成まであと少しを映して映画は終わります。

 

本作の見どころは何と言ってもたくさん登場する動物たちですね。
クストリッツァ監督の外見や雰囲気的に『ジャングル・ブック』のジョン・ファブロー監督とダブるんですが、あちらはフルCGなのに対し、本作もCGは使ってるんでしょうが、よく調教されている動物たちは、一体どうやって撮ってるんだろうと思います。

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出演する動物と何年もかけて仲良くなるなんて、並の監督には出来ない話でこの辺が鬼才だと言われる所以だと思います。

テーマは難しいです。
監督が過去の作品でやり尽してる部分も多いのでしょう。
設定が架空の国になっていることからも直接的なメッセージやテーマは避け、より比喩的、暗喩的になっているんだと思います。
ユーゴスラビアという長年に亘る紛争地域に身を置いた人々と平和ボケした日本人とでは同じものを見ても感じるものは違ってくるでしょう。

本作は皮肉な話でもあります。
戦争が終結し平和な世の中になったら主人公は恋愛の部分で悩むことになります。
イギリス人将軍の焼き払いが無ければ花嫁と結ばれることも無かったわけで、平和な状態が続けばあの行為は不倫とみなされるんだと思います。

ただ物語はあくまでファンタジックで、小難しいことを考えずに観れると思います。
バルカン・ミュージックとダンスの賑々しさ、大小様々な動物たち、クストリッツァがただ共演したかっただけであろうモニカ・ベルッチを堪能すればいい映画で、サーカスのような楽しい映画に仕上がってると思います。

鑑賞データ

TOHOシネマズシャンテ 会員6ポイント鑑賞 0円
2017年 154作品目 累計163700円 1作品単価1063円

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