黒沢清監督の最高傑作だと思います ☆5点
予告編
映画データ
あらすじ
元刑事で現在は犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、かつて同僚だった刑事・野上(東出昌大)から、6年前に発生した一家失踪事件の分析を依頼される。
だが、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどり調査を進めても核心にはたどりつけずにいた。
一方、高倉が妻・康子(竹内結子)と共に最近引っ越した新居の隣人は、どこかつかみどころのない家族だった。
病弱な妻と中学生の娘・澪(藤野涼子)をもつ人の良さそうな主人・西野(香川照之)との何気ない会話に高倉夫妻は翻弄され、困惑する。
そんなある日、澪は高倉に「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」と告げる。
その言葉に高倉が衝撃を受ける中、未解決の一家失踪事件と隣人一家の不可解な関係が繋がり、高倉夫妻の平穏な日常が崩れてゆく……。(MovieWalkerより引用)
ネタバレ感想
北九州監禁殺人事件をベースにしたっぽい前川裕さん原作の同名小説の映画化で、原作は未読です。
元々、サイコサスペンスやサイコスリラーのジャンルが好きなのもありまして『CURE』や『叫』は好きな映画なのですが、これらの作品はレンタルDVDで見たこともあって黒沢清監督の作家性というものをあまり意識したことはありませんでした。
黒沢監督の作家性を意識したのは『リアル〜完全なる首長竜の日〜』を劇場で観てからです。
このときは、黒沢監督が原作があるものを撮るのは珍しいなと思いまして、原作は未読でしたが、監督のカラーには合わない作品じゃないかと思って観ました。
そして実際に鑑賞すると原作を読んでなくても、原作とは違うのだろうなと感じました(主にストーリーテリングの点で)。
ただ、ストーリーとは全く関係ないところで、画面に漂う不穏さとか全編を通して漲る緊張感とかに惹きつけられました。
気になって調べてみると、それこそが黒沢監督の作家性の部分で、観てて違和感を感じた部分も完璧に計算されてて、凄いと思いました。
そして本作のクリーピーですが、もう冒頭から釘づけでした。
シンメトリーのようでアシンメトリーな真っ白な部屋。
何だろうと思ってると、カメラが引いて警察の取り調べ室だと分かります。
容疑者を友達のようにクン付けで呼ぶ刑事。
ハンサムな容疑者は北野映画がよくやるようなミスマッチで、ほどなくして恐ろしい連続殺人犯だと分かります。
もう序盤から引き込まれました。
黒沢監督の画面はどのシーンでも不穏さや奇妙な感覚が溢れていて、ちょっとダリの絵画を見ているような不思議な感覚に陥りましたし、全編に漂う緊張感で吐きそうにもなりました。
圧巻なのは香川照之さんの演技で、とにかく不気味。
終盤、屋上から望遠鏡を覗いてるだけなのに、なんという画になるのでしょうか。
そして主人公たち(西島さん竹内さん)でさえ、こちらの期待通りに動いてくれない不快さ。
西島さんは被害者家族(川口春奈)にさえ腕を掴んで聞き出そうとするし、竹内さんは好奇心溢れるご近所さんを地でいくように、わざわざシチューを持って行ったりして、観客を不快にさせることこの上ないです。
高倉家と西野家が食事するシーンでも、西島さんがワインを取りに行って香川さんを呼ぶけど香川さんが返事しないとか凄い違和感のあるシーンがありますが、そういうシーンがいっぱいありました。
でも、そういうの全部計算されてやってるんですよね。
それで何でそういうことをやってるんだろうと考えたときに、映画を観てる観客は、どこまでいっても傍観者なんですね。
映画の中で起きてることは第三者的に見てて、どこまでも他人事。
でも主人公たちでさえ、観客の期待通りに動いてくれない不快さとか違和感は確実に存在していて、主人公たちが抱いてる隣人への不快さとか恐怖にリンクしてくるんですよね。
観客も映画の中に引きずり込まれる感じで、2Dで体感型4DXみたいなことやってるわけで凄いですよ。
市川崑監督が「映画は光と影だと思います」と言ってるんですが、最近、なんとなくそういうのが分かってきて、本作にしても光と影が凄いですよね。
同じ場面でも僅かに暗くなったりして、何ともいえない焦燥感とか不安感を煽られます。
作家性の強い黒沢監督ですが、本作は原作物のエンタメ性と作家性が上手いところでかみ合っていたと思うんで、ヤフー映画の点数とかもう少し上がってもいいと思いました。
鑑賞データ
渋谷シネパレス メンズデー 1000円
2016年 73作品目 累計85800円 1作品単価1175円
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