トム・ハンクス版カフカの城? ☆4点
予告編
映画データ
『クラウド アトラス』のトム・ハンクスとトム・ティクヴァ監督が再び組んで、デイヴ・エガーズの著書を映画化した人間ドラマ。
TOHOシネマズシャンテで鑑賞。
年末年始にフリーパスポートがあったときにシャンテでよく観てたので、本作の予告編はよく目にしていました。
最初はトム・ハンクスが映画化熱望のコピーに釣られ、観たいと思いましたが、何回か予告を観てるとカフカの「城」みたいだなと思いました。
監督は『ラン・ローラ・ラン』や『クラウド アトラス』のトム・ティクヴァ
ランローラランは語呂がいいので、何かの機会によく使いますが観たことありません。
クラウドアトラスはWOWOWでやってたのを観ました。
監督は(ウォシャウスキー兄弟⇒ウォシャウスキー姉弟⇒)ウォシャウスキー姉妹のイメージが強かったですが、トム・ティクヴァも監督してたんですね。
内容はちょっと難しかった気もしましたが、公開時の評判ほど悪くないと思いましたし、面白かった記憶が。
でももう内容は憶えてません(笑)
主演はトム・ハンクス
ティクヴァ監督とはクラウドアトラスに続いてのタッグです。
原作はデイヴ・エガーズによる同名小説で全米図書賞にもノミネートされた作品だそうで、監督は原作発売のわずか2日後には映画化を申し出たそうです。
あらすじ
物語のあらすじは、大手自転車メーカーの取締役だったアラン・クレイ(トム・ハンクス)が中国進出失敗の責任により解任され、妻とも離婚し娘もとられ、家も車も失い、IT企業に再就職してホログラムによるテレビ会議システムをサウジアラビアの国王に売り込む職を得てサウジアラビアに派遣されます(ここまで映画中で1分くらい)。
サウジアラビアでは首都のリヤドに次ぐ大都市のジッダのホテルに宿泊しますが、時差ボケはひどいわ、国王にプレゼンするための新都市の事務所までは遠いわ、プレゼンする段取りをつけるためのサウジ側の担当者には会えないわ、とネガティブなことばかり。
アメリカの上司からは、君が国王の甥の知り合いだから採用したと契約をせっつかれる始末。
文化も習慣も全く異なる異国の地で、アラン・クレイは契約をとれるのか?っていうお話です。
ネタバレ感想
映画は予告編の冒頭にある、車とか家とか消えちゃうところから始まるんでビックリしました。
予告編がほぼ、冒頭映像みたいになってる感じでローグネイションか、と思いました(笑)
サウジアラビアの事務所はジッダから車で1時間くらいのところにあるんですが、まだ建設が始まったばかりの新都市で砂漠の中にポツンポツンと大きな建物があるくらい。臨海副都心構想の初期のお台場みたいな感じです。2025年に150万人都市になる予定。
ホテルから新都市に行くまでに通勤用のシャトルバスが出てるんですが、アランは時差ボケが酷くてことごとく寝坊するんですが、この時差ボケが酷くて調子が出ないってので『インソムニア』のアル・パチーノを思い出しました。
シャトルバスに乗れないのでホテルでレンタカーを手配しようするんですが、国際免許を持ってないってことで、運転手付きのレンタカーみたいのを紹介してもらってそれを利用します。
レンタカーの人はユセフ(アレクサンダー・ブラック)っていう青年で、大学時代はアメリカに留学してたので英語も話せてアランとコミュニケーションがとれます。
アランは毎日寝坊するので毎日ユセフを呼ぶので次第に仲良くなります。
新都市の事務所は砂漠の中にポツンとあるオフィスビルのすぐ近くにあるテントで、先に現地入りしてる3人の部下がいます。
テントは空調設備がボロくて暑いですし、固定電話も繋がれてなくWi-Fiの電波も弱くて仕事になりません。
アランは近くのオフィスビルに居るサウジ側の担当者であるカリームって人に会おうとしますが、受付では今日は出張中で明日には居ますと言われ、次の日に行きますが、また受付で予定が変わって今日も出張になったって言われて会えません。
3日目に行くと受付に今日も居ないって言われるんですが、さすがにアランも昨日と話が違うと怒って揉めるんですが、受付が席を外した隙にエレベーターに乗ってフロアを訪れると、カリームの部下だというデンマーク人女性のハンナ(シセ・バベット・クヌッセン)に声をかけられます。
聞けばハンナも赴任して1年半ですが国王に会ったことないと。
もうこの展開は完全にカフカの「城」で、結局、国王に会えないままで終わる不条理劇なのかな?と思いましたが、違いました。
ハンナとは異邦人同士ということで気が合ったのかサウジでは禁止されているお酒(オリーブオイルの瓶で偽装した)をもらい、ホテルに帰って飲んでシャワー浴びてたら、背中にコブみたいな物(サウジなんでラクダのイメージだと思います)が出来ているのに気付きます。
アランは親権は取られましたが娘との関係は良好で、娘の学費を稼ぐためにも契約を成功させなければならないのですが、そういったプレッシャーや時差ボケによる疲れ、異国の地でのアルコールが回って、その背中のコブをナイフで取ろうとします。
この辺の描写は『裸のランチ』を思い浮かべました。
翌朝目覚めると、ベッドのシーツには大きな血のシミが。
二日酔いもあってそれを見て嘔吐してしまいます。
そして安定の寝坊。
ユセフに来てもらいますが、ユセフは事務所に向かわず、アランに前に話してたお店にランチに連れて行かれます。
ランチを食べ終えて車に乗ろうとしたらユセフが背中の傷のシミに気付いて、病院に連れて行ってくれます。
病院ではサウジでは珍しいハキムという女医(サリタ・チョウドリー)が診てくれて、粉瘤か脂肪腫と診断されますが、念の為、組織検査をしとくから週明けの日曜日に来てと言われます。
サウジでは金・土休みだと。
夜になるとハンナから電話がかかってきてパーティーに誘われます。
そこは大使館をクラブやディスコみたくしてEDMがガンガン流れお酒も飲めて外国人しかいません。
乱交パーティーな雰囲気もあってハンナから誘われますが、サウジに来てからというものアラン自身も調子が出ません。
次の日事務所に行くとスタッフがグッタリしています。
聞けば空調が壊れたと。
これは背に腹は変えられんと直談判に行き、案の定、受付には今日も居ないと言われるも、ハンナの元へ向かいます。
すると、今日はハンナが居ないとのこと。
一瞬困ったアランでしたが、対応してくれたその人こそがカリームでした。
カリームはここ数日は居たり居なかったりしたけど基本居たとのこと。
受付が新人でよく分かってないんだって言ってて、なんだそりゃです。
カリームは建設中のビルで打ち合わせがあるってことで時間が無いから、移動する車の中で話そうと。
アランはテントのオフィスの空調の修理とWi-Fiの安定、ランチが取れるようにすることと固定電話の回線を依頼し、電話回線だけ却下されますが、あとはすぐに手配すると。
ただ国王はいつ来るか分からないと。
建設中のビルに着くと、カリームに電話が入って時間がかかるから5階にある部下の部屋に行ってくれと。
建設中なのでエレベーターは使えず、階段を昇るも、まだ建物自体全然できていない。
5階に着くと、外国人労働者がファイトクラブみたいなことやってて怖いんですが、この辺もカフカっぽい。
奥に進むとちゃんと部屋があってカリームの部下が迎えてくれます。広い部屋で装備も充実してて、聞けばモデルルームで部下は1つ上の階に住んでるとのこと。
週末。ユセフが実家に帰るっていうんで、ユセフの実家が山に近いということもあり連れてってもらいます。
途中で従兄弟だか弟だかを拾うんですが、一夫多妻制なので説明されてもよく分からず。
道路を走ってると途中でムスリム・非ムスリムの看板が出てたのですが、ユセフが見落としてムスリムの道に入ってしまいます。
それはメッカに通じる道で非ムスリムであるアランは入れないのですが、シュマーフ(頭からまくスカーフみたいなやつ)を巻いてやり過ごします。
ユセフの実家に着くと、景色が素晴らしいのでアランはちょっと散歩に出ます。
野生のラクダとかも珍しくてパシャパシャ写真をいっぱい撮ってたら、ご近所と思われる人にCIAか?って聞かれて、アランは局員じゃないフリーランスだって答えます。
ユセフの家に戻るとさっきの人が来て、アランはCIAだって言って怒ってます。
アランは冗談のつもりだったので、ユセフがその人に説明して事なきを得ましたが、ここでそういう冗談は通じないと注意されます。
空港にいて爆弾があるって言ってるようなものだと。
週明け、テントの事務所に行くと空調やWi-Fiは改善されプレゼンのためのホログラムシステムもばっちり動くようになってて、部下は大喜び。
一体どんなマジックを使ったんだと感動されます。
病院へ組織検査の結果を聞きに行くと、週明けは居ると言っていたハキムは不在で男性医師が対応してくれました。
検査の結果、癌の前段階ということで翌日手術しようということになりました。
病室を出て廊下を歩いてると不在のはずのハキムの姿が見え声をかけますが、シャットアウトされてしまいます。
翌日、テント周辺にはヤシの木などが植えられ、カーペットなどもひかれて物々しい雰囲気。
遂に国王がやってきます。
プレゼンは成功しあとは結果を待つだけ。
背中のコブの手術は、前日の男性医師と補助の中国人医師が執刀するとのこと。
アランが元いた大手自転車会社では、当初、中国進出は成功したのですが、現地で工場を作って高品質な自転車が作れるようになるとノウハウが盗まれ、たちまち業績が悪化しました。
なのでアランは中国って言葉に敏感です。
手術に入っていざ切ろうとするとハキムが現れ執刀してくれます。
術後の経過もよく、憑き物が落ちたように、体調も気分もよくなったアランはハキムにお礼のメールを入れます。
それをきっかけに2人はメールのやり取りをするようになり、アランはハキムを食事に誘いますが、サウジではどうしていいか分からないのでハキムに任せます。
ハキムはアランのイニシャルを書いた車をホテルに回すからそれに乗るように指示します。
車に乗ると後部座席にハキムがいて、ハキムの海沿いの家だか別荘だかに向かいます。
組織検査の日に居留守使ったのは、その前に夫との離婚調停で裁判所に行って辛かったから。
お互いの子供の話などをして心を通わせます。
海沿いの家に着くと、泳ごう(シュノーケリング)と誘われます。
アランが先に水着に着替えて泳いでると、ハキムが泳いでやってきますが、男と同じように上半身裸のまま。
ご近所の目があるので、遠くから見れば男2人が泳いでるように見えると。
2人は水中でキスして(このシーンよかった)、部屋に戻って結ばれます。
後日、国王へのプレゼンの結果は中国にもっていかれました。
同じようなシステムがアランの会社の半値でした。
アランはサウジで転職し、ハキムと暮らし始めます。
そこそこ稼げているようで娘の学費の心配も無くなりハッピーエンドで終わります。
本作を観てて思ったのは、途中まではカフカの「城」でしたが、全体的な構図から見ればビル・フォーサイス監督の1983年のイギリス映画『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』だったなと。
ローカルヒーローはかなり好きな映画なんですが、あの映画はアメリカの大手石油会社の社員がスコットランドののどかな田舎町に石油コンビナート建設のための用地買収に訪れる話でしたが、非常に似てると思います。
マット・デイモン主演で2014年に公開されたガス・ヴァン・サント監督の『プロミスト・ランド』もローカルヒーローを非常に意識した作品でしたが、プロミストランドより本作の方がよかった気がします。
アメリカで企業戦士としてバリバリに働いてたっていうのは資本主義の象徴みたいなものだと思います。
時間感覚がゆったりしているサウジにアメリカのやり方を持ち込んでも通用しなくて、ユセフとランチすると物事が好転するっていうのも象徴的です。
言わば「郷に入れば郷に従え」なんですが、変化できるっていう柔軟性が物事を開けさせてくれるっていう。
アランのキャラで面白くて気になったのは、初対面の人には必ず出身地を聞くことなんですが、あれ何でかな?
テーマ的にはローカルヒーローと被るのでそれを超えることはないですが、アメリカとスコットランドよりかは、アメリカとサウジアラビアの方が文化の差が大きいので相互理解という点で重要ですし、グローバル化が一歩後退した感のある今だからこそ、公開する意味があるんだな、と思いました。
追記:本作の原作デイヴ・エガーズは、『プロミスト・ランド』の原案デイヴ・エッガースなんですね。
どうりで似てる訳だ。
そのデイヴ・エッガースが一番観た作品がローカル・ヒーローってプロミストランドの感想のリンク先に書いてありました。
なので本作はデイヴ・エッガースによるサウジアラビア版『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』なんだと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズシャンテ シネマイレージデイ 1400円
2017年 30作品目 累計26900円 1作品単価897円
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