見てる途中は面白くなかったが後から反芻するとじわじわ来る映画 ☆5点
予告編
映画データ
あらすじ
1918年。ヴェルサイユ条約締結を目的にフランスに送り込まれた米政府高官。彼には、神への深い信仰心をもつ妻と、まるで少女のように美しい息子がいた。しかし、その少年は終始何かに不満を抱え、教会への投石や部屋に籠城するなど、その不可解な言動の数々に両親は頭を悩ましていた。その周囲の心配をよそに、彼の性格は次第に恐ろしいほど歪み始める―。
そして、ようやくヴェルサイユ条約の調印を終えたある夜、ついに彼の中の怪物がうめき声を上げる―。20世紀が生んだ最悪の怪物=”独裁者”誕生の謎に迫る至高の心理ミステリー。(公式サイトhttp://secret-monster.jp/より引用)
ネタバレ感想
1ヶ月ちょっと前からでしょうか、映画館の予告編で見て面白そうだなぁと思い鑑賞。
ジョナサン・デミが絶賛し「身震いする緊張感、戦慄の映画」のキャッチコピーにやられましたが、よく考えると『羊たちの沈黙』しか無かったな(嘘、フィラデルフィアもありました)と思いながら本編を観てました(が、ウィキペディア見たら一発屋と思っちゃいけないですね。ヴェネチアで評価高そう)。
あらすじは、1919(イクイク)ベルサイユ条約でお馴染みですが、それを締結するためにアメリカはニューヨークからフランスのどこか(パリからちょっと離れた田舎)に赴任して来た、あるアメリカ政府国務長官補佐官の家族(父、母、息子)のお話です(主に躾がメイン)。
映画は出だしから完璧にデザインされたであろうスタッフやキャストのクレジットがシンメントリーやアシンメトリーで表現され、なんか映画の内容からしてナチス・ドイツの鷲のマークをデザインしてるのかな?と思いましたが、それは気のせいかもしれません。
ただ冒頭にしてはやけにクレジットが多いなと思いました(これは後に分かります)。
そして、そのままスコット・ウォーカーの音楽による不協和音の波へ一気に飲まれていきます。この音楽は公式サイト http://secret-monster.jp/ (リンク切れ)をパソコンで開けばずっと鳴っているのですが、パソコンで聴くとそうでもないですが映画館で聴くと、もう、とにかく凄いんです。
このスコット・ウォーカー(ウォーカー・ブラザース)って人、知らなかったんですけど、めちゃめちゃ凄い人みたいで、音楽が凄いのも納得ですし、若い監督(ブラディ・コーベットまだ28歳)なのに、こういう人に依頼できるのもセンスいいし凄いなって思いました。
それで、肝心の映画の本編の方なんですが、怪物(ヒトラーっぽい人の幼少期と思って勝手に見てる)の幼少期はどんな恐るべき少年なのだろう?と見ていると、結構拍子抜けしちゃって、教会に石を投げるとか、親に反抗的になって部屋に引きこもるとか、恐るべきぶりが地味なので、観てて眠くなっちゃったんですけど、忘れた頃にスコット・ウォーカーの不協和音が鳴り響くので、それでハッとさせられまして、また集中して観るって感じなんで、観てる途中は正直あんまり面白くなかったんです。
ただ、本作を観ていると両親はネグレクト気味で、裕福な家だからでしょうが、息子の面倒とかは乳母に任せっ放しなんですよね。
母親は四か国語(英語、フランス語、ドイツ語、あと一つ何語か忘れましたけど意味がありそう)話せて息子にもそうなって欲しいと思ってるのに自分では教えないで、わざわざ家庭教師を雇うとかして、まあちょっと変なんです。
両親の育て方がもうちょっと普通ならばあんな風にならないのにな?と思って観てるのですが、まぁそこはあまり主題じゃないんだろうなとも思いました。
父(リアム・カニンガム)が家庭教師(ステイシー・マーティン)と不倫してるっぽい雰囲気があったり、母(ベレニス・ベジョ)も馴染みの記者(ロバート・パティンソン)と親密な雰囲気だったりと、直接的な表現はないのですが、雰囲気で暗示する映画でそれがラストに繋がっていきます。
結局、息子(トム・スウィート)が起こす大きな事件は、ベルサイユ条約締結を祝って自宅で開かれたパーティの席上で、腕を吊っている三角巾に隠した石で母を殴ったことなんですが、息子の幼少期が描かれるのはここまでです。
映画は章立てになっていて、序章(といっても時代背景を説明するフィルム)から始まって、1つ目の癇癪(教会に石を投げる)、2つ目の癇癪(引きこもる)、3つ目の癇癪(母を殴る)と続いて、最終章の「私生児プレスコット」となります。
それで、ここまで観てて、そういえば息子の名前知らなかったよなぁと気づきます。
両親は息子の名前を呼ばないですし、家に仕えてる者たちは坊ちゃんと呼ぶので、最終章で”児プレスコット”と書いてあるので名前がプレスコットだったんだなと気付きます。
でも何で私生児なんだろう?
最終章は時間軸が飛んだ感じで、どこかの軍が会議してる様子で、その場所は息子が怖い夢で見た場所です。
偉い人が来るみたいで会議は終了し軍の幹部たちは偉い人を出迎えにいきます。
出迎える場所には軍や大勢の聴衆が集まっていて、軍服の感じはナチスというよりは共産圏(ロシアとか中国)の感じです。
そこに1台の車が入ってくるので、ヒトラーみたいのが乗ってるのだろうなと思うと、後部座席にはハゲ頭にあご髭面でヒトラーというよりはレーニンみたいな感じです。
演じているのはロバート・パティンソンで、あれ?ロバート・パティンソン記者役じゃなかったっけ?一人二役?
最近、自分的に外人の顔が区別つきにくいので、記者役を勘違いしてたのか分からなくなりました。
カメラはめまいするみたいに広場をぐるぐる映した後、暗転してスクリーン右下に謎のマーク(その軍というか政党のマーク)。
で、エンドクレジットになるんですが、普通なら、ずらずらと長いエンドロールが流れるんですが、2回くらいエンドクレジットが切り替わって終了。
こんな短いエンドクレジット初めて見ましたし、そのセンスのよさに脱帽。
そして冒頭にクレジットが多かったのに納得です。
映画観終わって、ロバート・パティンソンの二役が勘違いかと思って、色んな人のブログを読みましたら真相が!
あー、プレスコットの顔がロバート・パティンソンなのは、父の子でなく記者の子であるからなのですね。
なので私生児と。
これ気づかなかったorz
この映画、ほぼ予告編だけの知識で観に行って、独裁者=ヒトラーをイメージし、その幼少期を描いているが、雰囲気としては『オーメン』のダミアン(外交官の家族で可愛い少年という設定が同じ)みたいなのかな?と思いましたが、全然違いまして、どちらかというとこの家族の物語でした。
また公式サイトなどにある「戦慄の謎に迫る心理ミステリー」というのともちょっと違っていて、色々な暗喩や暗示なので明確に正解みたいのは無いと思うんですが、それだけ見た人が色々考えられる余白の大きい映画で、最近だと題材とか全く違うんですけど、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『複製された男』に似た雰囲気で、アーティスティックな部分がかなり強いながらも、ぎりぎりエンタメ性も保ってる感じでして、この辺のバランス感覚が非常に絶妙で素晴らしいなと思いました。
しかしこのブラディ・コーベット監督は元々俳優にしてまだ28歳。
この脚本は17歳頃から書いてたという非凡さで、『セッション』のデミアン・チャゼル監督とか、若くしてカンヌ常連のグザヴィエ・ドラン監督なんかと並んで要注目の若手監督ではないかと思います。
とにかくこの映画、一回見た後でまた見に行くと違った感じで見れるんじゃないかと思いまして、幸いTOHOシネマズのフリーパスポートで観たので、もう一回観に行きたいと思います。
鑑賞データ
TOHOシネマズシャンテ シネマイレージ特典1ヶ月フリーパスポート 0円
2016年 136作品目 累計149900円 1作品単価1102円
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