2016年邦画のベスト級になりうる一本 ☆5点
予告編
映画データ
あらすじ
家庭をかえりみなかった男・白岩は、妻に見限られ、東京から故郷の函館に戻りつつも実家には顔を出さず、職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしていた。
訓練校とアパートの往復、2本の缶ビールとコンビニ弁当の惰性の日々。なんの楽しみもなく、ただ働いて死ぬだけ、そう思っていた。
ある日、同じ職業訓練校に通う仲間の代島とキャバクラに連れて行かれ、そこで鳥の動きを真似る風変わりな若いホステスと出会う――。名前は聡(さとし)。
「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで、頭悪いだけだから。」そんな風に話す、どこか危うさを持つ美しい聡に、白岩は急速に強く惹かれていくが…。
自由と苦悶のはざまでもがく女の一途な魂にふれることで、男の鬱屈した心象は徐々に変化していくが、それでもままならない時間を過ごすしかない一組の男女。
そして孤独と絶望しか知らなかった男たち。
美しく壊れかけた男と女が、フェンスの先に見つけるものとは――。(公式サイトhttp://overfence-movie.jp/より引用)
ネタバレ感想
いやー、これ、すごく面白かったです。
観る人によっては、泣いたりする人もいるみたいですが、私はどちらかというとゲラゲラ笑ってた方のタイプです。
佐藤泰志さん原作の函館三部作の前二作(『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』)は観たいなと思いつつも劇場鑑賞を逃してしまったのですが、イメージとしてはシリアスで暗いのかな?と思ってましたが、本作は結構コミカルで面白かったです。
山下敦弘監督の作品は昨年『味園ユニバース』を劇場鑑賞し、『苦役列車』をDVDで観たくらいですが、ちょっと新境地を開拓したんじゃないですかね。
この作品、出てる役者さんの演技が非常によかったですね。
脚本がよかったのでしょう、台詞がとても自然に感じられリアリティがありました。
まずオダギリジョーさんが演じた白岩義男
彼は一番観客に近いというか一番まとも。
過去に家庭を顧みず奥さんを壊してしまったとありますが、函館での生活を見る限り、彼は限りなく常識人です。
次に蒼井優さん演じた田村聡
女性なのに聡と名付けられてるいる時点で、もう強烈。
鳥の求愛行動を真似て踊ったり、積極的にアプローチしてくる様は魅力的ですが、あれは完全にメンヘラ女。
関わったら苦労することは目に見えていますが、普通の人は惹かれると思います。
案の定、普通の人である白岩は惹かれていきました。
私は彼女が突然ブチ切れるシーンのたびに笑ってしまいました。
得体が知れなかったのが松田翔太さん演じた代島和之
なんでこの人職業訓練校にいるの?というくらい動機不明(まぁ失業手当が長くもらえるという動機ですが)で、クラスの人間を一番観察しているタイプ。
だからといって距離を置くタイプではなく、得意の営業力で誰とでもうまくやっていける。
聡との関係は不明ながらも「この女ヤリマンで」とか「聡が会いたがっている」とか、何気に白岩をコントロールしていて恐ろしい。
そして「聡になんて本気になってはいけない」とある意味、真理も言っていて、聡に惹かれてしまった白岩を共同経営するには難ありと見限ります。
半分、聡をリトマス試験紙にして実験していたかのようにも思えます。
最後の方でヤクザチックなスーツに袖を通した彼は、一体どこに向かっていくのか考えると空恐ろしくもありました。
他にも北村有起哉さん演じる原さんは原さんの家での朝食シーンがいいですね。
子供の「お魚見るー?」の一瞬で彼の全てが分かるあのシーンは本当に見事なのと同時に、非常にコミカルでこの映画のハイライトシーンではないかと思います。
また、満島真之介さん演じる森は、こいつヤベーぞ、そのうちヤルぞ、ヤルぞ、はい、やったーという感じですし、松澤匠さん演じる島田は味園ユニバースと同じく非常に嫌な奴の感じが上手かったですし、鈴木常吉さん演じる勝間田さんの飄々とした感じは何でしょうか!素晴らしかったです。ああいうキャラクターを生み出せたのはこの映画の奇跡と言っていいと思いますね。
ラストも映画的には希望が持てるような終わり方でよかったと思います。
でも自分は違った見方をしていて、白岩と聡はうまくいかないと思いますし、前述したように、代島のこの先を考えると末恐ろしくもあり、そういうことも含めて色々と考えられる映画で、非常におすすめであります。
鑑賞データ
テアトル新宿 水曜サービスデー 1100円
2016年 110作品目 累計124700円 1作品単価1134円
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