タンク車での放水が空しくもあり ☆3.5点
マイケル・ムーア監督による劇場長編ドキュメンタリー映画の第10作目。
2016年11月9日のアメリカ大統領選挙で勝利し誕生したドナルド・トランプ大統領の中間選挙までの2年間を通して、アメリカ社会が抱える問題を総括するドキュメンタリー。
予告編
映画データ
本作は2018年11月2日(金)公開で、全国80館での公開です。
2019年2月頃まで順次公開されて、最終的には100館程での公開です。
日本での配給はギャガとなっています。
東京でのヘッド館がTOHOシネマズ シャンテなので、シャンテに行った時に予告編は何回か目にしましたが、ヒューマントラストシネマ渋谷でも上映してたのでそちらで観てきました。
監督はマイケル・ムーア
マイケル・ムーア監督を知ったのはアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ボウリング・フォー・コロンバイン』からで、これはレンタルで見ました。
「進め!電波少年」的というか、『ゆきゆきて、神軍』的といいますか、ラストで当時の全米ライフル協会会長のチャールトン・ヘストンに突撃取材する辺りは、当時、TBSの深夜の放送でよく見ていた「CBSドキュメント」の上品な感じとはまた違って、斬新で面白かったのを覚えています。
その後は『華氏911』と『シッコ』を劇場公開時に観て、その後の3作『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』『マイケル・ムーア・イン・トランプランド』は未見です。
あらすじ
2016年11月7日、投票日前夜、アメリカの人々は初の女性大統領の誕生を確信していた。だが、11月9日、当選者として発表されたのは、ヒラリー・クリントンではなく、「あり得ない」はずのドナルド・トランプだった。
「僕らはどれだけ彼を知っているだろう?」と、マイケル・ムーアは問いかける。娘のイヴァンカを異常なほど溺愛し、人種差別を堂々と表明し、独裁者など強い男が大好きで、女性にはセクハラ三昧。誰もが知っているそんなスキャンダルはしかし、トランプというモンスターの爪先ほどの情報にすぎなかった。
時は2010年にさかのぼる。トランプの古くからの友人であるスナイダーという大富豪が、ムーアの故郷であるミシガン州の知事に就任した。権力に目がくらんだ知事は、緊急事態を宣言して市政府から権限を奪い、代わりに自らの取り巻きを送り込んだ。2013年、スナイダーのもとを訪れたトランプは、友人が支配する街を見て、羨ましそうに「次に進むためなら仕方ない。国も同じかも」などと発言。さらにスナイダーは金儲けのために、黒人が多く住むフリントという街に民営の水道を開設するが、この水に鉛が混じっていた。だが、知事は頑として問題ないと主張し続ける。
時は再び選挙運動の真っ只中へ。そもそもアメリカは左寄りの国で、トランプの支持率は元々低い。リベラルな民主党が常に高い支持率を誇り、大統領選の得票数も、ヒラリーがトランプより300万票多く獲得した。では、いったい何があったのか? ムーアはこの国の根深い問題である、ひとり1票ではない“選挙人制度”と無投票数が絡み合い、トランプを支持する少数派がアメリカ全土の意志へと変わってしまう、恐ろしい“からくり”を明かしていく。
さらにムーアは、罪はトランプだけではないと、勝利だけに走り民主党のハートを失くしたビル・クリントン、労働者階級や若者から絶大な人気のあったバーニー・サンダースを降ろしてヒラリーを代表にするために、民主党が使った禁断の手を紐解いていく。
カメラは一転、腐敗した権力と闘うために、立ち上がった人たちを追いかける。フリントの汚染水問題に抗議する地域住民、「誰もやらないなら私がやろう」と下院に立候補した、1年前まではレストランで働いていたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス、ウエストバージニア州で教師の低賃金に抗議するために決行されたスト、フロリダ州パークランドの高校銃乱射事件で生き残った高校生エマ・ゴンザレスの銃規制への訴え──。
激しくなる一方の抗議に追いつめられたスナイダー知事は、当時の大統領オバマに助けを求める。オバマとの対話集会が開かれ、市民は“私たちのヒーロー”が助けてくれると歓喜するが、あろうことか彼は壇上で水を飲むパフォーマンスを行い、人々を心底ガッカリさせる。
再びカメラがトランプに戻り、ムーアはヒトラーが暴走する前のドイツと今のアメリカとの共通点を挙げる。そしてヒトラーは、“ドイツ・ファースト”を掲げて人気を博した。トランプは今、2期目への選挙運動を始めている。「4年、8年、16年だっていい」などと口走りながら。もはや民主主義はそこにあるものではなく、守らなければならないものに変わったのだ。
果たして、世界一のトランプ・ウォッチャーとなったムーアが出した、未来のための答えとは──?(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
本作はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『華氏911』にちなんでタイトルを付けたようですが、『華氏911』がパルムドール受賞してたのはすっかり忘れてました。
また『華氏911』が、制作費を出していたミラマックスの親会社であるディズニーによって、アメリカでの公開が危ぶまれていたのは、今になって初めて知りました。
結局このときは、ミラマックスの創業者だったワインスタイン兄弟が一旦配給権を買い取って、そこからライオンズゲートに売却され公開されたようですが、14年経ってそのハーヴェイ・ワインスタインもセクハラでハリウッドから追放されたんですから年月を感じます。
そんな感じで2004年の『華氏911』、2007年の『シッコ』以来、久しぶりに劇場で観たムーア作品ですが、全編に亘ってジョージ・W・ブッシュ大統領を批判していた『華氏911』のイメージがあったので、てっきり本作も全編トランプ批判に終始するのかと思っていたのですが、トランプ批判は序盤での導入と終盤からの締めにして、物語の大半はマイケル・ムーア監督の出身地であるミシガン州フリントでの水道汚染に充てられていました。
というのも、ムーア監督は前回の大統領選で誰もがヒラリー・クリントンが大統領の座に就くだろうと予想していたところ、識者の中でも数少ない「トランプが大統領になるかもしれない」と言っていた人で、その理由は2011年にミシガン州知事に就任した共和党のリック・スナイダー知事を見ていたからでした。
スナイダー知事はパソコン会社ゲートウェイの元会長でトランプの友人ですが、ミシガン州知事の座に就くとその経営者的手法で様々な権力を掌握し始めますが、その背景にあるのがミシガン州の財政難でした。
かつてはデトロイトを中心として自動車産業で栄えたミシガン州ですが、日本車などの進出により自動車産業が衰退すると、20年以上に亘って経済が空洞化し、ラストベルトと呼ばれ貧困層が住む割合が多くなります。
スナイダー知事はまずデトロイト市に財政上の非常事態宣言を発令します。
そしてデトロイト市に連邦破産法を申請させるとこれを承認し、デトロイト市の財政はミシガン州の管財人の下に置かれます。
しかし、管財人はスナイダー知事の息のかかった人物で、実質的にデトロイト市の財政はスナイダー知事のやりたい放題になりますが、これを友人であるトランプはそばで見ていて「これは国にも適用できるのではないか」という思いに至らせ、大統領への夢を抱かせることになります。
そしてこれはフリント市をはじめミシガン州の複数の自治体にも適用されていて、結果的にこのことが原因でフリント市に水道汚染を引き起こすことになります。
ムーア監督は出身地で起きてるこの出来事を間近で見ていてスナイダー知事を批判しますが、当初のスナイダー知事は「問題は既に解決した」の一点張りでした。
埒が明かないムーア監督はスナイダー知事の自宅に突撃し、タンク車に積んだフリントの水道水を庭に放水しますが、『ボウリング・フォー・コロンバイン』でチャールトン・ヘストンの自宅に突撃取材出来た頃とは違って、『シッコ』以降は対象者に警戒されているので、スナイダー知事への取材は当然出来ないですし、誰もいない庭に放水してるだけなので、やや空しくも感じました。
結局、この問題は2年弱経ってオバマ大統領が非常事態宣言するに至り、職員が訴追されたりスナイダー知事の辞任を求める声が大きくなります。
そしてオバマ大統領がフリントの水道汚染に非常事態宣言を出してから、4か月近く経ってフリントにやってくることになり、住民は事態が一気に解決することを期待しますが、オバマ大統領がやったのは水道水を飲んで安全をアピールすることだけでした。
この何の解決にもならないパフォーマンスに住民はがっかりしますが、ムーア監督はこのパフォーマンス自体も裏切るオバマ大統領を映します。
計2回試飲したオバマ大統領のパフォーマンスですが、水は全く飲んでなく2回とも水を唇につけただけでした。
そしてムーア監督はオバマをこう評します。
オバマは歴代大統領の中でも内部告発者の摘発に厳しく、メディアに対しても非常に厳しい大統領だったと。
そして黒人として初めて誕生した大統領だったが、彼自身はマイノリティではなくエリートの黒人であると。
そしてラストベルトの問題はオバマ時代の民主党だけでなく、ビル・クリントン時代の民主党の頃から放置され続けてきて、リベラルを謳う民主党がマイノリティとして救済したのも移民やLGBTが中心で、アップル創業者のスティーブ・ジョブズはシリア系移民2世で、アマゾンのジェフ・ベゾスはキューバ系移民2世であると紹介します。
ヒルビリーと呼ばれる貧困白人層は、ビル・クリントン大統領以降放置され続け、そこに光を当てたのがトランプだと言い、トランプに勝てなかった民主党自体も批判します。
2016年の大統領選挙では得票数で上回り選挙人の数で負けた民主党のヒラリー・クリントン候補でしたが、実は民主党の代表を決める予備選挙で同じようなことが起こっていました。
民主党の予備選は途中で様々な候補が脱落し、最終的にヒラリーとバーニー・サンダースの一騎打ちとなりましたが、一般代議員の得票数がほぼ互角であるのに対し、特別代議員の得票数ではヒラリーが圧倒的大差を付けていましたが、ここには民主党幹部の思惑が働いていました。
黒人初の大統領となったオバマに続き、女性初が付くヒラリーの方がインパクトがあり、ハリウッドなどの白人富裕層などもヒラリーを推していたのに対し、サンダースは地味でトランプの対立候補としては弱いと考え、一般代議員の投票結果に縛られない特別代議員の投票でヒラリー勝利の流れを作り、事実上サンダースを撤退させていました。
しかし、この民主党幹部のやり方に怒ったのはサンダースの支援者たちで、民主党員でありながら民主党に絶望しますが、トランプと同じくラストベルトに目を向けていた人こそサンダースでした。
そして民主党の代表に選ばれたヒラリーは大統領選挙中、一度もラストベルトを訪れずトランプに負けたのでした。
民主党も批判したムーア監督ですが、それでもやはりスナイダー知事やトランプ大統領のようなやり方はヒトラーと同じで危険だと説くと、絶望した民主党から出てきたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス候補など新しい希望も映します。
また銃規制推進運動のアイコンになりそうなエマ・ゴンザレスさんなども取り上げ、若い世代が積極的に政治に関心を持つことが重要と結んで映画は終わります。
個人的にはトランプが大統領になったとき、「世界は終わった」と思いました。
ただ、あれだけヒドいトランプに負けるヒラリーも大概だと思いました。
ヒラリー陣営や支持者は得票数で300万票弱上回ってるのに多数決や民意が反映されないと言っていましたが、あのヒドいトランプとギリギリの勝負してどうする?と。
ヒラリーはハリウッドセレブなどからも支持されて表の顔は良く見えますが、負けた要因でもある裏の顔を見れば表と裏の顔にギャップがあり、ずっとヒドいことを言い続けて裏表の無いトランプの方がまだマシじゃないか?とも思えてくるんですから、日本もそうですが世界にはリーダーたる資質のある人がいなくて人材不足なんだなと思いました。
また本作で出てきたオバマも大概で、黒人初の大統領が誕生したときは熱狂の渦に包まれ、ノーベル平和賞を受賞するなどしましたが、2期目になると本当の顔が見え、「自分の名声をいかに高めるか、歴史に名を残すか」しか考えてないように見受けられました。
ちなみに水道水を飲むパフォーマンスは2期目の任期終了まで残り半年くらいで、もうどうでもよかったんだと思いますが、このシーンを見たとき厚労大臣時代にカイワレ一気食いのパフォーマンスで有名になった菅直人元首相を思い出しました。
自身の最初の発言でカイワレ業者に風評被害が出て自殺者まで出た件を笑って話せるんですから、この方も大概だと思いますが、震災時の対応でそれは既に広く知られていましたね。
オバマ大統領が菅直人元首相とダブるように、ヒラリーは小池百合子都知事とダブって見えるんですが、この方も政治塾とかどこ行っちゃったんでしょうかね?
思えば、「聖域なき構造改革」という響きのいい言葉で格差社会の下地を作った小泉政権が何となく長く続き、その後アベちゃんが首相の座に就くも、その頃は線が細くてお腹痛くなっちゃって辞め、その後、福田さん、麻生さんが首相の座に就くも、日本もアメリカのような二大政党制の機運が高まり民主党の攻勢が続き、民主党政権になればバラ色の未来が待ってるかのように謳われるも、政権を奪取したら経験の無さが露呈し、宇宙人鳩ちゃんは寝てたはずの辺野古を起こして以降現在まで続く政争のタネを残し、自分は政界から引退しちゃうという宇宙人ぶりを発揮し、イラ菅さんは前述の通りで、ヨシヒコは胆力を発揮して消費税を上げるも馬鹿正直に解散して腹痛から復活したアベちゃんに政権を明け渡し、挙げ句の果てに上げた消費税は社会保障に回されないという完全にババを引いただけの役に終わり、アベちゃんは税収が増えるといういいとこ取りで存在感を増し、ひっそりと内閣人事局を設置するとこれが忖度という概念を官僚に生み出し上手く長期政権に繫がり、モリカケ問題や統計不正のきっかけを作るも忖度が働いているため高みの見物が決められ、しんきろうセンセイと一緒に東京オリンピックまでやる気満々なのだと思いますが、では次の首相は?と聞かれても全く思い浮かばない訳でして、「あぁ、やっぱり世界は人材不足なんだな」と思った『華氏119』を観ての感想でした。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ渋谷 TCGメンバーズ ハッピーチューズデー 1000円
2018年 178作品目 累計160800円 1作品単価903円
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