幻のシカ ☆5点
予告編
映画データ
あらすじ
明治の頃には1万頭もいるも、大正の頃には絶滅したと思われる両毛鹿。
そんな幻の鹿を子供の頃に見たという3兄妹。
街は幻の鹿で町おこしを画策し、3兄妹も時の人となるが、結局幻の鹿は発見されず、疑いの目で見られるようになる3兄妹。
それから20数年後、地元に残り細々とした父の工場を継ぐ長男。
鹿事件で精神を病んでしまって病院暮らしの次男。
都会に出て行き小説家志望の男と結婚するも離婚問題に揺れる妹が、父危篤の知らせに地元に戻ってくるが…というお話です。
ネタバレ感想
足利出身の菊地健雄監督が地元を舞台にしたファンタジックな人間ドラマで、長男を演じた桐生コウジさんがプロデューサーも努め、御自身の経験(お父様が亡くなり負債のある会社を引き継ぎ)をそのまま役に反映させたかのような脚本にもなっています。
日本各地にはツチノコ伝説がありますが、それよりもイギリスのコティングリー妖精事件をイメージさせるようなお話で、その騒動が3兄妹にもたらした心の機微が丁寧に描かれていると共に、地元出身の監督が足利の街をとても魅力的に撮られた作品となっています。
主役を演じられた3兄妹(長男・冨士夫役:桐生コウジさん 次男・義夫役:斉藤陽一郎さん、末娘・顕子役:中村ゆりさん)の演技も素晴らしく、桐生さんは長男ゆえ地元に残って周囲に気を使って生きていかなければならなかった苦悩を、斉藤さんは3兄妹のうち一番繊細で傷付きやすい心を、中村さんはタバコだったりお酒だったり男だったりと常に何かに依存してしまう末の妹と、それぞれ皆さん見事に演じられておりました。実際の年齢には開きのあるお三方ですが、映画が終わる頃にはしっかりと3兄妹にしか見えなくなりました。
また脇を固める役者さんも皆さん素晴らしく、特に初めて知った役者さんで、タクシーの運転手の畠中役を努めた政岡泰志さんが、荒川良々さんみたいに味わいがある中にも面白味があってとても気になる役者さんになりました。
友情出演の染谷将太さんはさすがの貫禄で、公開中の『バクマン。』の新妻役と比べても、本当に作品によってコロコロとイメージが変わって、改めてカメレオンのような役者さんだなぁと思いました。
数々の名匠の助監督を努められてきた菊地監督の人柄が垣間見えるような作品で、低予算であろう長編デビュー作ですが、監督の地元愛と映画愛が詰まったとても素敵な作品に仕上がっていると思います。
鑑賞データ
テアトル新宿 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
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