エイズが死の病じゃ無くなった今だからこそ見るべき映画 ☆5点
ロバン・カンピヨ監督による90年代初頭のパリのエイズ活動家団体「ACT UP-Paris」の活動を描いた群像劇で、2017年第70回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。
主演にナウエル・ペレース・ビスカヤート、アルノー・ヴァロワ
予告編
映画データ
本作は2018年3月24日(土)公開で、全国10館での公開です。
今後順次公開され、最終的には25館での公開です。
劇場で予告編は目にしなかったんですけど、昨年のカンヌグランプリ作品ということで観てきました。
監督はロバン・カンピヨ
モロッコ生まれのフランス人で、初めましての監督さんです。
2008年のカンヌパルムドール受賞作『パリ20区、僕たちのクラス』で脚本と編集
2013年のヴェネツィア映画祭で監督作の『イースタンボーイズ』がオリゾンティ部門の最高賞を受賞してます。
主演のナウエル・ペレース・ビスカヤートとアルノー・ヴァロワはフランスの俳優さんなんで初めましてです。
共演にアデル・エネル
近作は『午後8時の訪問者』を観てます。
他に共演と配役は以下の通りです。
ショーン: ナウエル・ペレース・ビスカヤート
ナタン: アルノー・ヴァロワ
ソフィ: アデル・エネル
チボー: アントワン・ライナルツ
あらすじ
90年代始めのパリ。HIV/エイズは目に見えない形で確実に広がり、とくに若い世代に大きな被害を及ぼしていた。だが政府も製薬業界も一向に対策に本腰を入れず、社会的にもHIV感染者に対する偏見や差別が広がりつつある。そんな状況のなか、パリを拠点にする活動団体「ACT UP – Paris」には、さまざまな人々が集まっていた。
恐怖や不安に苛まされる感染者たちはもとより、恋人や子供が感染し対策を訴える家族、あるいは陽性ではないものの問題意識を持った者。彼らにとって、団体こそが本音を語れるいわば疑似家族のような存在であり、他のメンバーたちと熱心な議論を交わしたり、抗議運動に参加することは個人的な支えにもなっていた。新しくメンバーに加わったナタンもそんなひとりで、HIV陰性ながら、積極的にミーティングや示威活動に参加していく。彼らはエイズ患者やHIV感染者への不当な差別や環境を改善するため、正しい知識を啓蒙するためのデモ行進や、政府や製薬会社への抗議、高校での性教育などの活動を行っていた。
グループのなかでももっとも政治的で行動派なカリスマ的存在のショーンは、自身もHIV陽性という現実を抱えており、温和な活動を続けていてはいつまでも現状を変えられないと訴えていた。メンバーのまとめ役であるチボーやオーガナイザーのソフィは、そんなショーンのやり方に、時に反感を覚えながらも、製薬会社の責任者たちの偏見や無関心さに失望し、行動を共にする。
やがて彼らは、製薬会社のオフィスに押しかけ、血液に見立てた真っ赤なペンキを袋詰めにしてオフィス中に投げつけたり、許可なく学校を訪れて生徒たちにコンドームを配ったりと、その活動は日に日に過激さを増していった。
内向的なナタンは密かにショーンに惹かれていく。ある日、女子学生に差別的な言葉を投げかけられたナタンにショーンがキスをしたことをきっかけに、ふたりの距離は一気に縮まる。
まるで死への恐怖に抗うかのように、エネルギッシュに生を謳歌し、お互いを求め合うふたり。だが病魔は確実に、ショーンの身体を蝕んでいた。
一向に治療薬の開発は進まず、手の施しようがない状況下で、目に見えてやつれていくショーン。そんな彼をナタンとACT UPのメンバーたちはただ見守ることしか出来ず―。
(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
面白かったと言っては不謹慎なのかもしれないですけど、いやー面白かったですね。
上映時間143分と少し長めの映画でしたけれど、あっという間でした。
世界各地にあるACT UP(AIDS Coalition to Unleash Power(エイズ解放連合)の頭文字から)という団体の存在は知らなかったんですけど、ドキュメンタリー映画にもなったりしてるんですね。
本作でも描かれている過激な抗議手法は、現在の視点で見ると賛否あると思うんですが、当時の状況に身を置いてみると見方も変わるかもしれないなと思いました。
ACT UPの中も一枚岩ではなくて、過激な行動に異を唱える者もいますし、一番過激な行動をしてた同性愛によって感染したショーンが、血液製剤で感染した息子を持つ母が大臣を牢屋に入れるっていうのには反対したりするのも興味深いところです。
でもその息子はショーンの過激なやり方に憧れているところとか。
劇中、頻繁にC4という数値を示す言葉が出てくるんですが、CD4陽性リンパ球数のことかしら?
健康な成人だとその値が500~1000の間らしいんですが、200未満だと免疫不全状態になるらしくて、映画では50って言ってた人がいて、その人は一番最初に亡くなってしまいます。
ショーンもその値が下がっているので、大臣を牢屋に入れるっていう後ろ向きな活動では無くて、新薬を早く流通させるっていう方に力を入れてる訳です。
映画はACT UPの活動ばかりでは無くて、その間にショーンとナタンの恋愛模様が描かれるんですが、『アデル、ブルーは熱い色』ばりに描かれるゲイセックスがこれまた切ないのです。
ショーンとナタンが初めて結ばれたあとのピロートークで感染の経緯が語られるんですが、ショーンは15才のときに年上の数学講師との初体験の1回で感染してしまいます。
数学講師は陽性の自覚があったかどうかも分からず、ショーンに至ってはHIVの知識が全くありませんでした。
一方のナタンは陰性ですが、カポジ肉腫の症状が出てた男性との性交経験がありました。
それ以降怖くなり、ずっと性交をしてなく、ショーンとが久々だったことが語られますが、コンドームが苦手で不発に終わるのでした。
ショーンの症状が進んでくると入院を余儀なくされます。
痛み止めにモルヒネが処方されるまで症状が進み不安に陥るショーン。
見舞いと看病に来ているナタンが慰めてキスをして繰り出される手コキ。
ショーンの腹の上にぶちまかれるスペルマを見て笑う2人。
いいシーンです。
いよいよショーンの余命が幾ばくもなくなってくると、病院を退院して自宅で過ごします。
ナタンとショーンの母で看病をしますが、退院した夜、痛みで寝付けないショーンにナタンがモルヒネを打ってあげると、その深夜に亡くなってしまいます。
続々と駆け付けるアクトアップパリのメンバーたち。
ショーンの遺言で遺灰は抗議活動に使って欲しいと言われてます。
ソフィがショーンの母に遺灰の分配を50:50?60:40?と聞きます。
母親が80:20と答えるとメンバーは笑いますが、もちろん納得します。
ビュッフェスタイルの製薬会社のパーティーに乗り込むと、ショーンの遺灰をぶちまけるメンバーたち。
「3年B組金八先生」第2シリーズの第24話「卒業式前の暴力(2)」のようなスローモーションで描かれます。
ラストはそれまでに幾度か挿入されるダンスシーンです。
原題にもなっている120BPMの音楽(ハウスミュージック)で一心不乱に踊るメンバーを映して映画は終わります。
エンドロールは無音です。
本作は前半はメンバーの群像劇ですが、中盤からショーンとナタンの恋愛にシフトしていきます。
ショーン役のナウエル・ペレース・ビスカヤートは前半から過激な活動と色気のある妖しい魅力を放ってましたが、病状が進んでやせ細っていく役作りは見事でした。
ちょっとトム・ハンクスの『フィラデルフィア』を思い出したんですけど、この映画が公開されたのが1993年です。
トム・ハンクスがアカデミー主演男優賞を初めて受賞して世界的にもヒットした映画で、この頃から人々のエイズへの意識も変わってきたんじゃないかと思います。
劇中にも出てくる「AZT」という薬の開発者は日本人で、徐々に改良されてエイズが「死の病」じゃ無くなったのもこの少しあとだと思います。
なので我々世代には馴染みのある話なのですが、日本では梅毒が増えてる現在、逆に若い人には馴染みのない話なんじゃないかと思います。
本作の映倫区分はR15+ですが、若い人にこそ見て欲しい作品だと思いました。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ料金 1300円
2018年 53作品目 累計43500円 1作品単価821円
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