後篇で一気に失速 ☆3.5点
1966年に発行された寺山修司の唯一の長編小説を時代設定を2021年に変更し前・後篇2部作で映画化。
監督は『二重生活』の岸善幸、主演に菅田将暉と『息もできない』のヤン・イクチュン
予告編
映画データ
本作は2017年10月21日(土)公開で全国で40館ほどでの公開です。
前篇が10月7日(土)から2~3週間程での公開で、後篇も2~3週間程での公開なので上映終了しているところもあると思いますが、すでにDVDも発売されています。
前篇のときの感想はこちらになります。
前篇を観た後にヤン・イクチュンさん監督・主演の『息もできない』を見てみたんですけど、同じ人とは思えないほど全く違くて凄いなぁと思いました。
配役は以下の通りです。
沢村新次/新宿新次: 菅田将暉
二木建二/バリカン建二: ヤン・イクチュン
曽根芳子: 木下あかり
二木建夫: モロ師岡
宮木太一: 高橋和也
西口恵子: 今野杏南
山本裕二: 山田裕貴
曽根セツ: 河井青葉
川崎敬三: 前原滉
七尾マコト: 萩原利久
立花劉輝: 小林且弥
石井和寿: 川口覚
福島: 山中崇
オルフェ: 鈴木卓爾
馬場: でんでん
君塚京子: 木村多江
堀口/片目: ユースケ・サンタマリア
あらすじ
プロデビュー戦を終えた後、トレーニングに打ち込む沢村新次(菅田将暉)と二木建二(ヤン・イクチュン)。
因縁のある山本裕二(山田裕貴)との試合が決まって一層トレーニングに励む新次は、自分の父親の死にまつわる建二との宿命を知ってしまう。
一方の建二は本屋で出会った西口恵子(今野杏南)に心惹かれるが、孤独を消せずにいた。
そんな自分を変えようと、彼は兄弟のような絆で結ばれてきた新次と決別することを心に誓う。
ネタバレ感想
うーん、前篇は傑作だと思ったんですけど、後篇は伊集院光さんの「20世紀少年」評みたいでした(笑)
後篇は2022年から始まります。
まずメインとなるボクシング部分は前篇からの因縁どおり新次と裕二の対戦になるんですが、この試合が相手を抱えたり投げたりとおよそボクシングの試合ではありません。
新次は裕二を殺してやると言ってたので無理も無いんですが、レフェリーがいるボクシングでこれをやってしまうとリアリティがありません。
3Rから4Rの中盤以降は打ち合いになりますが、それでもかなりの大振りでおよそトレーニングしてきたプロボクサーには見えませんでした。
結果は8Rまでのフルラウンド判定で2-0で新次の勝ちなんですが、拳を交えてもなお新次が裕二に対する認識が変わるわけでも無いので物語的にカタルシスがある訳でもありません。
裕二と劉輝がお互いを認め合っているということが更に強調されただけで、新次の半グレ時代に対する総括は宙ぶらりんのままでした。
前篇では元・風俗王で変態で老人ホームの経営者と異彩を放っていた宮木ですが、後篇ではその上のオーナー的立場である二代目と呼ばれる石井和寿いう人物が出てくると、途端に日和ってきます。
海洋拳闘クラブは石井の父である先代と呼ばれる人がボクシング好きで始めたもので、ボクシングに興味のない二代目は土地の再開発に絡んでジムを撤収させようとします。
宮木が二代目にボクシングに興味を持ってもらおうとジムを見学させたところ、二代目が建二に興味を持ち結果的に引き抜かれることになるんですが、引き抜く理由がいまいちよく分かりませんでした。
物語的に建二が新次を超えるべく決別するというのは分かるんですが、そこまでに至る過程が説得力を持って描かれてなかったと思います。
宮木の老人ホームも新次がよく入浴の介護をしていた女性が死ぬと、それと共に経営が傾いていき金策に追われるようになります。
前篇では、その2人の決別の理由になりそうに思われた新次の父の死が建二には全く関わってこないんですよね。
新次は母・京子から父の死に関する資料を渡されます。
それによると、父は自衛隊での海外派遣時に建二の父である二木建夫の部下だったんですけど、敵に弾を撃ち込まれた恐怖で兵舎を脱走してしまいます。
そのことでパワハラや折檻を受け、帰国後ノイローゼになって自殺してしまうんですが、新次はそれを知っても建二を恨むことはありません。
新次は建二にそのこと自体話さないので建二は何も知りません。
建夫は遺族である京子に会って謝罪したいと言ってくるのですが、京子が拒否したため新次が建夫と会うことになります。
新次は父の墓参りをしている建夫に会いますが、建二と一緒にボクシングをやってることを告げるだけです。
前篇で、高校のクラスメイトが教室で飛び降り自殺したのを目撃したことによって自殺防止研究会に入った七尾マコトは、主宰の川崎が自殺したあともなぜかホームレスである建夫の面倒を見ています。
マコトは選択的徴兵制で自衛隊に入ることを決めると、建夫の面倒が見れなくなるからといって建二と会わせますが、ここも意味不明です。
建夫はこの頃には、化膿した手で目を擦ったことによって、目が見えなくなっていましたが、建二がボクシングをやってると知っても鼻で笑うだけです。
建二も当然、建夫の面倒など見る気はありません。
ただ、このことが契機となり建二は別のジムへの移籍を考えるようになります。
前篇で自殺した川崎の子供を宿していた西口恵子は、たまたま立ち寄った書店で破水して流産してしまいます。
建二は偶然その場に居合わせ恵子を助けたことから、交流を持つようになります。
内気で童貞の建二と恵子の仲はなかなか進展しませんでしたが、建二が移籍先のジムで初勝利をあげると祝勝会の流れからベッドを共にします。
しかし建二は自分が繋がれるのは新次だけだと思い、恵子と最後まではできませんでした。
新次は建二と対戦が決まると減量に入ります。
芳子の家で新次が待ってると芳子が帰ってきます。
新次が来ていることを知らない芳子は、コーラとフライドチキンを買ってきていたので、新次を気遣ってごめんねと言います。
ちょっと立ち寄っただけの新次はそのままジムに帰りますが、これが芳子と会う最後になります。
芳子は新次に何も告げず中華料理店を辞め家も引っ越してしまうんですが、これもよく分かりませんでしたね。
戦いに生きる新次と建二の間には入っていけないということでしょうか?
前篇の最後でオルフェで働くようになったセツは堀口との交流が薄っすらと描かれます。
1つは店を閉めて一緒に帰る時、脚の不自由なセツをおんぶして送ってあげます。
もう1つは閉店後の店内で堀口がセツに告白し結ばれます。
セツと芳子は最後、新次と建二の試合会場に来るのでニアミスしますが、この母娘の関係も何ら描かれませんでした。
新次と京子の関係も完全に他人のままで、新次、建二、芳子の3人とも親子関係が断絶してるというのが共通点でしょうか。
ラストは新次と建二の対戦になります。
そもそも何で2人が闘うのかもよく分からず、試合でのパンチも山本裕二戦と同じように大振りなので、あまり見応えがありません。
ラストは唐突に建二が一方的に打たれ出して、白昼夢のような描写の中でパンチ数をカウントしていきます。
煩悩の数の108発までいくのかな?と思ったら89発という中途半端な数字で、結果、ボクシングの試合で建二は死んでしまうというものでした。
新次と建二の試合の合間には、選択的徴兵制に反対するデモの様子が挟まれ、マコトが建夫をおんぶして試合会場に向かう様子が描かれます。
試合会場には芳子、セツ、恵子、マコト、建夫、石井、宮木、京子、馬場、堀口という主要登場人物が居て、それぞれの立場で試合を見守り映画は終わります。
物語的に言えば、前篇で描かれた人間関係は、後篇では一切回収されないんですが、そもそも原作がそうみたいです。
寺山修司のあとがきによると、キャラクターの設定だけ決めておいて、あとはジャズのように即興的に描いたということで、人生は脚本のある映画やドラマのように、ドラマチックなものでは無いということなのでしょう。
なのでストーリーを追ってしまうと端的に言ってつまらないです。
見どころは前篇でのそれぞれのキャラクター描写がマックスで、あとは最近の邦画としては異様に多い濡れ場でしょうか。
それも1本の映画で3人の女優さんが脱いでるという珍しさです。
前篇での木下あかりさん演じる曽根芳子のセックス描写はキャラクターを描くのに重要なものでしたが、河井青葉さん演じる曽根セツと今野杏南さん演じる西口恵子のベッドシーンは有っても無くてもいいようなものだった気もします。
特に河居青葉さんは他の映画でもよく脱いでるので、完全にヌード要員な気がしました。
昔で言えば風祭ゆきさんみたいな。
建二と恵子のベッドシーンも愛を確かめ合うというものではなく、最後まで出来ないという珍しいものでしたが、演じた今野杏南さんのおっぱいは今年の邦画で脱いだ女優さんの中でもナンバーワンおっぱいだった気がします。
今年の邦画、結構女優さん脱いでるんですよね。
冨手麻妙さん、筒井真理子さん、柴田千紘さん、伊藤沙莉さん、瀧内公美さん、満島ひかりさん、初音映莉子さん、桜井ユキさん、木下あかりさん、河井青葉さん、今野杏南さん、と私が観た作品だけでもこれだけいます。
先ほども書いたように伏線の回収とかは一切されないので、物語的なカタルシスは一切無いです。
ジャズ的手法によって描かれた原作なら、ラストの描写もデイミアン・チャゼル監督の『セッション』みたいにすれば違ってきたかなぁと思いました。
☆的には前・後篇併せて4点というところでしょうか。
P.S. シネマトゥデイさんも映画.comさんも、あらすじ・解説のところに「建二(バリカン)は図書館で会った(君塚)京子に心惹かれる」って間違えて書いてあるんですけど、逆にそっちの方がドロドロして面白かったんじゃないかと思います(笑)
鑑賞データ
新宿ピカデリー SMTメンバーズ割引料金 1200円
2017年 181作品目 累計194500円 1作品単価1075円
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