20センチュリー・ウーマン 評価と感想/私と世界の1979年を総括する

20センチュリー・ウーマン 評価と感想
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ストップ・メイキング センスの塊のような映画 ☆5点

『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ監督が、自身の母親をモデルにしたオリジナル脚本のヒューマンドラマで2017年のアカデミー脚本賞ノミネート作品。
主演に『アメリカン・ビューティー』のアネット・ベニング、共演に『ネオン・デーモン』のエル・ファニング

予告編

映画データ

20センチュリー・ウーマン (2016):作品情報|シネマトゥデイ
映画『20センチュリー・ウーマン』のあらすじ・キャスト・評価・動画など作品情報:『人生はビギナーズ』などのマイク・ミルズ監督が、自身の母親をテーマに撮ったヒューマンドラマ。
http://cinema.pia.co.jp/title/171311/

本作は映画館で上の予告編は目にしてないんですが、下に置いた30秒の特報はよく目にしてて、内容は想像つかなかったのですが、凄く面白そうだなと思って公開を楽しみにしてました。

普段から観る映画に対して事前に情報をあまり入れないので、本作も母と息子の話だろうくらいの知識で観に行ったんですが、丸の内ピカデリーのエレベーターは階数表示の上の所に公開中の作品のチラシというか案内が貼ってあるんですが

1979年、二度と忘れることのない特別なあの夏-
今のボクがいるのは、普通じゃない彼女たちと、ちょっと不器用なあなたのおかげです

って書いてあって、もうこれだけで胸熱でした。
ちょっとこのコピー最高じゃないですか?
30秒の特報と併せて日本版制作のスタッフのセンスが光ります。

席に座って本編が始まるまでの間は、あの夏モノに弱いんだよなぁとか思いながら、ミスチルの「君がいた夏」が頭の中でグルグルとかかってて、もうウルっときてました(笑)

監督はマイク・ミルズ
『サムサッカー』と『人生はビギナーズ』と脚本・監督を務めていて長編は3作目。
アディダス、ナイキ、ギャップなどのCM監督や、エール、ブロンド・レッドヘッド、パルプなどのミュージック・ビデオ監督、ソニック・ユースやビースティ・ボーイズのレコードカバーのデザインなんかも手がけているグラフィックデザイナーで相当センスありそう。
監督の作品はどれも未見ですが、日本でうつをテーマにしたドキュメンタリー映画も撮っていたなんて知らなかった!
これも凄く面白そう。

映画『マイク・ミルズのうつの話』公式サイト
2013年10月下旬より、渋谷アップリンク他全国順次公開 “心の風邪”をこじらせた普通の人々の、壊れそうだけど愛おしい日々の暮らしを描いたドキュメンタリー。

主演はアネット・ベニング
ウォーレン・ベイティの奥さんとしても有名です。
初めて見たのは『グリフターズ/詐欺師たち』で凄い美人でしたが、本作ではいい感じのお母さんになってました。
本作ではキャリア最高の演技の声もあるみたいですが、本当に非常に良かったです。

共演にエル・ファニング
何といっても今年マイベスト級の『ネオン・デーモン』

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先日観た『夜に生きる』にも出てました。

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共演にグレタ・ガーウィグ
『フランシス・ハ』の女優さん。
初めましての方でしたが、出演作を見ると日本公開の作品が少ないようです。

あと共演にビリー・クラダップとルーカス・ジェイド・ズマン

あらすじ

1979年、サンタバーバラ。
シングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)は、思春期を迎える息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)の教育に悩んでいた。
ある日ドロシアはルームシェアで暮らすパンクな写真家アビー(グレタ・ガーウィグ)と、近所に住む幼馴染みで友達以上恋人未満の関係、ジュリー(エル・ファニング)に「複雑な時代を生きるのは難しい。彼を助けてやって」とお願いする。
15歳のジェイミーと、彼女たちの特別な夏がはじまった。

(公式サイトより引用)

ネタバレ感想

取り立てて何が起こるという映画でも無いのでずらずらと書いていきたいと思います。

まずキャラクター設定ですが、公式サイトのキャストのところに詳しく載ってるので、そちらをご参照下さい。(2018年2月10日リンク切れ確認)

まず母ドロシアと息子ジェイミーですが、ドロシア40歳のときに出来た子で、当時(1964年)としては高齢出産。
息子15歳なのに母55歳とかなり年の離れた親子になっています。
夫との離婚理由は物語の中では、はっきりと語られてはいません。

ドロシアはアンティークなものが好きで、家も、今風に言えば古民家改装というんでしょうか、古い家を買ったか借りてて(部屋貸してるんで買ったと思いますけど)、アビーとウィリアム(ビリー・クラダップ)に部屋を貸してて大家さんみたいなことをやってますが、本業は別にあって製缶メーカーでデザインをしている会社員です。

30秒の特報に消防士を食事に呼ぶシーンがありますが、この日はドロシアの誕生日で自宅でパーティをするので呼ぶのですが、ドロシアは基本、知り合ったばかりでも気が合えばすぐに自宅に食事に誘うオープンな人です。

でもちょっとクレーマー気質なところもあって、学校に息子の休みの申請を出していても認められなかったら先生に食ってかかったり、車を運転してるときに交差点内で車線変更をしてパトカーに停められたら、それにも食ってかかったりして、権力といえども理不尽なことには媚びないタイプです。

最初のうちは『ガープの世界』のお母さんみたいと思いましたが、それとも少し違いました。

この夏に起きる大きな出来事は、まず車の炎上です。
これはドロシアとジェイミーがスーパーで買い物してる間に駐車場に停めてあった車が燃えてしまったもので、原因は夫が残していった古い車をいつまでも乗っていたからでした(整備不良)。
ジェイミーは車が古くて調子悪いから買い換えようと言ってましたが、ドロシアは気に入ってるのかまだ乗れるってずっと乗ってたんですね。
ドロシアは古いものが好きで、変わらないものの象徴として描かれていたと思います。

次に大きな事件はジェイミーの失神遊びで、これは友達と流行っていた遊びで、深呼吸を早くしたのち、後ろから手を回してもらって横隔膜をギュッと刺激すると失神するというもので、通常は2~3秒もすれば意識が戻るんですが、ジェイミーの場合30分以上意識が戻らず病院送りの騒ぎになります。

これには普段、あんまり怒らないドロシアもさすがに怒るんですが、何で息子たちがこんなことをやってるか理解出来ないんですね。
若者とのカルチャーギャップに愕然とさせられる訳です。

思春期の男の子で父親もいないとあって、子育てに少し自信を無くしたので、ジェイミーと年の近いアビー(9歳差)とジュリー(2歳差)に託したんですね。

ジュリーはジェイミーと幼馴染ですが、2歳上とセラピストの家に育ったということで、ませてて冷めてます。
ただ家庭環境が複雑なため、家から逃避するように、夜になるとジェイミーのベッドに潜り込みに来ますが、この夏までドロシアにバレていませんでした。
ジェイミーはジュリーを好きでしたが、ジュリーはジェイミーを弟みたいに思ってるのかなぁ。
ヤリマンなんですけど、ジェイミーにはさせません。

アビーはサンタバーバラで生まれ育ちましたが、18歳のときに美術学校に入るためニューヨークに行きます。
学校を卒業したあとはニューヨークで写真家をしてましたが、子宮頸がんの疑いが発覚し、地元に戻ります。
アビーの母は2回流産してアビーを授かったんですが、その当時処方されてた薬に子宮頸がんを誘発する疑いがあり社会問題になっていて、そのことが原因で母親と折り合いが悪くなり、ドロシアのところで住むようになります。
アートシーンに明るく、パンクロックが好きで、フェミニズムにも詳しく、この夏のジェイミーに一番影響を与えた人物で、新しいものの象徴として描かれていたと思います。

ウィリアムは1970年代後半衰退したヒッピームーブメントの生き残りの象徴でふわふわと漂ってます。
文化的にはドロシアとジェイミーの中間的な存在ですが、ジェイミーがウィリアムに興味を示しませんでした。

ジェイミーは15歳にしては外見はまだ幼いかもです。
男の子の反抗期も早ければ12~3歳でくると思うのですが、比較的いい子でお母さんが心配するほどでは無いのでは?と思って観てました。
ただドロシアに夫がいないことで、愛情がジェイミーだけに向けられるので、ちょっと鬱陶しくなる年頃かなと思いました。
あと、お母さんはお母さんで、自分の幸せを探して欲しいと願っています。
ジュリーとのことはあんな年頃で添い寝とかしてたら耐えられないと思いましたが、ジェイミーはかなり耐えててエラいやつだと思いました。

映画はジェイミーがアビーのフェミニズムに影響を受け過ぎたのを危惧したドロシアと距離を置くため(母離れ)と、ジュリーとの関係(恋愛)を発展させるべく計画した旅行が不調に終わり、ジェイミーの失踪騒ぎが起きたことで終焉を迎えます。

エピローグではそれぞれのその後の人生が語られ、皆やがてバラバラになります。
長い人生の中でその1979年の夏は一瞬の出来事なんですが、確かに存在した夏でもあり感慨深いものがあります。

マイク・ミルズ監督が5年もかけて完成させた脚本は119分の中で様々なことが語られ、説明するのも難しいんですが、劇中、『コヤニスカッティ』にも触れられてたのでヒントになるかなと思います。

現代文明の創造と破壊を描いたドキュメンタリー映画「コヤニスカッティ」を5分間で(動画) : カラパイア
1982年に公開されたアメリカの映画「コヤニスカッティ」は、当時の最先端映像技術を駆使して、現代文明の創造と破壊を、古代文明と比較させながら、現代物質文明に警告を鳴らすべく、その危機を音と映像だけで描いたドキュメンタリー映画。

監督が日本の媒体のインタビューにも結構登場してるようなので、映画を観てから読むとより深く考察できると思います。

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トーキング・ヘッズをはじめとする劇中でかかる音楽もいいんですよねぇ。

公式サイトも映画の公式サイトにしては恐ろしくオシャレでセンスの塊みたいな映画で激しくおススメします。

 

そういえば、まだ観たことないんだよなぁ。

鑑賞データ

丸の内ピカデリー SMTメンバーズ次回割引料金 1200円
2017年 89作品目 累計94000円 1作品単価1056円

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