T2 トレインスポッティング 評価と感想/サッチャリズムからEU離脱まで

T2 トレインスポッティング 評価と感想
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おれは、マーク・レントン ☆4.5点

予告編

映画データ

T2 トレインスポッティング (2017):作品情報|シネマトゥデイ
映画『T2 トレインスポッティング』のあらすじ・キャスト・評価・動画など作品情報:『スラムドッグ$ミリオネア』でオスカーを手にしたダニー・ボイル監督作『トレインスポッティング』の続編。
http://cinema.pia.co.jp/title/172382/

丸の内ピカデリー1(座席数802)の大スクリーンで観てきました。
公開から1週間、平日の夜なので100人も入って無かったかな。

実は、前作の『トレインスポッティング』は観たことなくて、イメージはイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」で走るのと、アンダーワールドの「ボーンスリッピー」で便器の中に入るイメージくらいで、内容はよく知りませんでした。

この映画で一躍有名になったダニー・ボイル監督作も、なぜか観たことなくて、ユアン・マクレガーは一番脂が乗ってたであろうスター・ウォーズ新三部作のときもリアルタイムで観てなかったので、あまり思い入れはありません。

前作は当時大ヒットしたといっても、ミニシアター系のヒットですよね。
シネマライズ渋谷で33週に亘るロングランを記録して、当時の渋谷系のオシャレさも相俟って話題になったという。

『トレスポ』ブームが呼んだ奇跡 渋谷シネマライズ代表が熱狂を振り返る|シネマトゥデイ
1996年に公開され、若者を中心に一大ムーブメントを巻き起こした青春映画『トレインスポッティング』。

なので丸の内ピカデリーの大スクリーンで観るのは、何か違う気もしますが、ミニシアター減っちゃいましたからね。

トレインスポッティング - シネマライズ オフィシャルサイト
東京渋谷の映画館シネマライズ(閉館)、そのすべての上映作品(1986~2016年)を閲覧できる公式サイトです。

前作の影響で印象深いのは、やっぱりアンダーワールドのボーンスリッピーに代表されるデジロック、ビッグビートの台頭でケミカル・ブラザーズ、プロディジー、ファットボーイ・スリムなどが次々に入ってきて、この辺の音楽はホント席巻してました。

それで、本作を観るにあたり、前作を観ておこうと思いましたら、ちょうどWOWOWで放送するってことで待ってましたら、NetflixやHulu、アマゾンプライムで配信されてて、とっとと見ればよかった。

で、20年前の前作を観た感想は、まず94分と短いんでサクッと観れちゃいました。
で、ヘロイン中毒の若者が刹那的に生きる映画。
色彩感覚とか映像表現は当時としては斬新だったのかな?いま見ちゃうとあれですけど。
で、主人公たちがどうしようもないクズで感情移入出来ないんですけど、薬物依存の怖さは伝わってくる映画で、清原選手やASKAさんのことなんかを思い浮かべたりしながら観てました。

で、正直言ってそんなに面白い(そこまで話題になるほど)とは思わなかったんですけど、一見ポップでオシャレな音楽がかかってるドラッグ映画で、「人生を選べ」って格言めいたセリフも出てくるんですけど、そこまで社会的なメッセージがある訳でもなさそうで、結局何が言いたいかも分からなかったのですが、やめたくてもやめられないヘロインや薬物をアメリカ主義的なもの、市場原理主義的なものに置き換えたら、わりとテーマは深いんじゃないかと思いまして。

主人公たちの中で家族背景が描かれるのは、ユアン・マクレガー演じるマーク・レントンだけなのですが、一軒家でお父さんもお母さんも居て、電車の絵で囲まれてる自分の部屋もあって、いわゆる中産階級の家庭じゃないかと思ったんですが、なぜあんなにドラッグにハマってしまうかが分からなかったんですよね。
で、これを、周りの仲間含めて中産階級が転落していく映画だと捉えると合点がいって、レントンは金を奪って何とか踏みとどまろうとしたのが前作ではないかと思った次第です。

あらすじ

スコットランド、エディンバラ。
大金を持ち逃げし20年ぶりにオランダからこの地に舞い戻ってきたマーク・レントン(ユアン・マクレガー)。
表向きはパブを経営しながら、売春、ゆすりを稼業とするシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)。
家族に愛想を尽かされ、孤独に絶望しているスパッド(ユエン・ブレムナー)。
そして刑務所に服役中のベグビー(ロバート・カーライル)。
想像通り?
モノ分りの良い大人になれずに荒んだ人生を疾走する彼らの再会、そして彼らが選ぶ未来とはー。

公式サイトより引用)

ネタバレ感想

本作は逃げたレントンが20年ぶりに戻ってくるところから始まります。
オランダのアムステルダムに逃げて会社員をやってました。
前作でもロンドンで不動産会社に就職してたけど仲間に潰されてます。
なので戻ってこない方がいいんじゃないかと思いますけど、戻らざるを得なかったんですね。
勤務先が外資に買収されて、学も資格もないレントンはクビを切られた訳です。
空港だか駅に着いて、チラシ配ってる女の子にどこ出身?と聞きますとスロベニアと答えます。
今やコンビニや飲食店のバイトが外国人ばかりな日本と同じです。

レントンはシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)に金を返しに行きます。
シック・ボーイは20年前のまま、相変わらずクズです。
祖母の遺産で貰った潰れかけたバーをやりつつ、ブルガリア人の彼女ベロニカ(アンジェラ・ネディヤコバ)に美人局的なことをやらせて、サウナ(売春宿)を開こうとしています。

スパッド(ユエン・ブレムナー)はレントンが逃げた際に貰った金で更にヤク中になり妻子と離婚。
労働者階級には全く関係ないサマータイムにも馴染めず、毎回1時間の遅刻。仕事もクビになり自暴自棄になって自殺しようとしたところ、レントンが訪ねて来て命を救われます。

ベグビー(ロバート・カーライル)は逮捕されて懲役20年の服役中。
囚人仲間に腹を突き刺してもらい、病院に運ばれたのち脱走します。

レントンは当初、シック・ボーイにアムステルダムでの順調な生活ぶりをアピールしてすぐに帰ろうとしますが、正直にクビを切られたことを話すと、サウナをやろうと持ち掛けられスパッドとベロニカと共に奔走します。

脱走したベグビーは自宅に戻り、立派に育った大学生の息子をコソ泥の道に引き入れようとするっていう、前作に更に輪をかけてのクズっぷりで、こいつはもう殺すしかないんじゃないかと思いますが、ベグビーの生い立ちも後になって分かります。

シック・ボーイとレントンはバーをサウナにするための改装費を捻出するために、何か(イングランド国教会orプロテスタントとか)の集まりに潜入して、キャッシュカードを盗みます。そのときにカトリックを揶揄する歌を歌って参加者から喝采を浴びるシーンがあるのですが、観客席で凄く笑ってる人がいて、何でかな?と思ったんですが、中年の白人男性2人が観に来ててその人たちが大笑いしてました。日本人だとこの辺の面白さは分からないですね。イギリスの宗教の歴史に詳しくないと。

前作で象徴的だったトイレのシーンは、本作ではレントンとベグビーが鉢合わせするシーンになります。
レントンが金を持って逃げたことを根に持ってるベグビーは執拗に追いかけます。
この追跡シーンでは、レントンが車にぶつかるシーンも再現されてました。

シック・ボーイは美人局で恐喝してた相手から訴えられて逮捕されてしまいレントンに弁護士を頼みます。
レントンは女弁護士と話してるんですが、会話からは親しそうな雰囲気と、何か見たことある顔だなと思ったんですが、あとから調べたら前作でレントンと付き合ってた女子高生ダイアン(ケリー・マクドナルド)でした。
彼女はちゃんと人生を選べたんですね。

レントンはシック・ボーイの目を盗んでベロニカと寝ていましたが、ベロニカとの食事のシーンで「人生を選べ」についてまくしたてるように熱く語るシーンがあるんですが、これを聞いてるとレントンたちはそもそも選べなかったんだなと思いました。

ベグビーがスパッドとベロニカを脅してレントンをバーにおびき出すと、ベグビーとレントンの過去が明らかになります。
ベグビーとレントンは小学校からの同級生でしたが、ベグビーは留年してたので年上なこと。
昔、廃駅に忍び込んで小便してたとき、ベグビーに近づいてきた不審者(浮浪者)はベグビーの父だったことなどが分かると、幼くしてベグビーの人生が詰んでたのが分かります。

本作で唯一、明るい兆しが見えるのはスパッドだけで、それはベロニカのアドバイスでもたらされます。
スパッドが仲間たちとの過去をベロニカに話すと、それは面白い話だから文章にして書いた方がいいとアドバイスされます。
スパッドは自分でも気づかなかった文才を発揮して夢中になれるものを見つけるのですが、物語的には本作の原作者であるアーヴィン・ウェルシュと入れ子構造になる訳で、芥川賞作家の西村賢太さんみたいになれればいいなと思いました。

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ベロニカはレントンが画策した国の中小企業融資制度でおりた10万ポンドを持ってブルガリアに逃げますが、レントンが前作でアムステルダムに逃げたのとは対照的で、ブルガリアには幼い子がいました。イギリスには出稼ぎに来てた訳で覚悟が違うんですよね。

ベグビーは刑務所に逆戻り。
レントンとシック・ボーイはオワコンですが、ベグビーがいないだけマシでしょうか。

 

監督のダニー・ボイルと脚本のジョン・ホッジが描く物語は「人生を選べ」といって、一見、自己責任を突き付けてるように見えますが、廃れ行くエディンバラで選択肢の無かった若者を描いてる気がして、特に、一番酷いベグビーを演じたロバート・カーライルがケン・ローチ監督の『リフ・ラフ』という映画で主演デビューしてることは偶然じゃない気がして、先日観たケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』とテーマ的に非常に近いのではないかと思いました。

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サッチャー政権が残した暗い影が色濃く残るんじゃないかと思って調べてみると、前作でもそういう評論がありました。

http://c-cross.cside2.com/html/a00sa001.htm

そして、それから20年、シック・ボーイやベグビーが変わらないように、結局イギリスはサッチャーの呪縛から逃れられず、グローバリズムの波に乗ったかに見えたレントンも市場原理主義に弾かれ、戻ってきたイギリスにはスロベニアやブルガリアなどの移民が押し寄せ、耐え切れなくなってEUから離脱しようとしてるところで、閉塞感しかない状況は全く救いが無いんですが、日本も似たような状況で、いつ「わたしは、ダニエル・ブレイク」「おれは、マーク・レントン」になってもおかしくないな、と思った『T2トレインスポッティング』の感想でした。

鑑賞データ

丸の内ピカデリー SMTメンバーズ次回割引クーポン 1200円
2017年 59作品目 累計59600円 1作品単価1010円

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