過剰な演出を抑えて淡々と描写した良作 ☆4点
予告編
映画データ
あらすじ
2009年ニューイヤーズ・デイ。新年を迎え歓喜に沸く人々でごった返すフルートベール駅で、22歳の黒人青年が、鉄道警官に銃で撃たれ死亡した。銃を持たない丸腰の彼は、なぜこのような悲惨な死を迎えることになったのか。全米で抗議集会が行われるなど、大きな波紋を巻き起こしたこの事件を基にした本作は、彼が事件に巻き込まれる前の“人生最後の日”を描くことにより、ニュースなどで報じられた人種差別という一面だけではなく、一人の人間の非業の死がいかに悲しく、どれほど周囲の人を傷つけるものであるか、そして、ただ一人の人間の命が、いかに重く尊いものなのかを観る者の心に訴えかける。
(公式サイトhttp://fruitvale-movie.com/intro.phpより引用)
ネタバレ感想
2009年の元日、サンフランシスコのフルートベール駅で実際に起きた、警官による黒人青年射殺事件の映画です。
駅のホームでの尋問の最中に起きた事件で、電車の乗客など多数の目撃者がおり、また携帯電話で撮影された動画がネットに出回ったことからアメリカでは大変なニュースになった事件のようですが、私はこの映画まで事件のことを知りませんでした。
映画は冒頭、実際に出回った事件の動画から始まるので観客は結末から知ることになります。
そして、被害者の黒人青年の最後の一日、2008年の大晦日の出来事が淡々と描写されます。
この映画が良いと思ったのは被害にあった黒人青年が完全な善人とは描かれてなかった点です。
この青年は過去に麻薬の売人として逮捕服役した過去があり、社会復帰を目指して勤めたスーパーの鮮魚売り場も度重なる遅刻のため、事件の2週間前にクビになっています。
正式には籍を入れていない妻と愛娘が一人いて、妻にも大晦日まで仕事をクビになったことを打ち明けていませんでした。
映画を観ていると、この青年はとても家族思いで、周囲の人物にもとても親切なのですが、私が感じたのは上昇志向が強く、家族に良い思いをさせたい、自分を良く見せたいというところから無理をしてしまう人物に映りました。
そのため母親や妻に弱いところを見せまいと嘘をついてしまい、それが元でケンカになったりします。
そして、その時にみせる青年の感情の沸点の低さが彼の生活を不安定なものにしていて、危ういものにしていると感じました。
一方、対照的にこの青年の母親はとても出来た人で、息子を正しい道へ導こうと、甘やかすことなく、時には突き放し、時には諭すように接し、息子家族の生活が安定したものとなるように努めています。
そういった一連の日常生活のやり取りが抑えた演出で淡々と描かれているため、ラストの悲しみがより深いものになっていると感じました。
27歳の新鋭ライアン・クーグラ監督はこれが初の長編作ということですが、かなりの力量と思いました。
上映時間は86分と短いですが短すぎると感じることもなく上手くまとまっていると思います。
映画ではなぜ警官が青年を撃ったのかは明らかにされていません。
殺人罪で起訴された警官は裁判で警告用の銃と間違えたことを主張して、過失障害致死で刑が確定し1年以下くらいの懲役になったことが、最後テロップで流れるのみです。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
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