SNS時代のリアルな現代的復讐譚 ☆5点
現在44歳でありながら弱冠36歳で世界三大映画祭の全てで主要な賞を受賞しているトルコ系ドイツ人監督ファティ・アキンによる人間ドラマ。
主演はダイアン・クルーガーで本作で第70回(2017年)カンヌ国際映画祭女優賞を受賞
予告編
映画データ
本作は2018年4月14日(土)公開で、全国16館での公開です。
今後順次公開されて、最終的には40館での公開となるようです。
劇場で予告編を目にしたことが無く、ファティ・アキン監督作も見たこと無かったんですが、ダイアン・クルーガーがカンヌで女優賞を受賞した作品とのことで興味を惹かれて、どんな内容かも分からず観に行ってきました。
監督はファティ・アキン
ハンブルグでトルコ移民の2世として生まれ、高校在学中から映画監督を目指すようになったようです。
2004年の『愛より強く』で第54回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞
2007年の『そして、私たちは愛に帰る』で第60回カンヌ国際映画祭脚本賞と観客賞を受賞
2009年の『ソウル・キッチン』で第66回ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞
となってて凄すぎます。
主演はダイアン・クルーガー
昔『トロイ』を映画館で見たことがあります。
あとDVDで『アンノウン』を見ました。
『ナショナル・トレジャー』と『イングロリアス・バスターズ』は未見です。
近作は『潜入者』を観てます。
本作はドイツ映画なので他の共演者は馴染みが無い感じです。
他に共演と配役は以下の通りです。
カティヤ: ダイアン・クルーガー
ダニーロ: デニス・モシット
ハーバーベック: ヨハネス・クリシュ
ユルゲン・メラー: ウルリッヒ・トゥクール
ヌーリ: ヌーマン・アチャル
ビルギット: サミア・チャンクリン
アンドレ・メラー: ウルリッヒ・ブランドホフ
エダ・メラー: ハンナ・ヒルスドーフ
あらすじ
ドイツ、ハンブルク。
生粋のドイツ人のカティヤとトルコ系移民のヌーリはカティヤの学生時代に出会った。結婚後、ヌーリはトルコ人街で在住外国人相手にコンサルタント会社を始め、カティヤは経理を担当。
愛息ロッコは6歳。カティヤは機械に強く、壊れたラジコンを直して、ロッコが喜ぶ、そんなささやかだけれど幸せな日々を送っていた。ヌーリの事務所にロッコを預けた。親友のビルギットとスパに行くのだ。車を借りようとすると、ヌーリは渋い顔。「ビルギットは妊婦だ。いたわらなきゃ」と言うロッコ。人想いの良い子に育った。私たちの自慢の息子。
事務所の前で自転車に鍵を掛けずに歩き出す女がいた。
「カギは? 盗まれるわよ」「すぐ戻るの」夕方に帰ってくると、ヌーリの事務所付近にパトカーが止まり、人だかりが出来ている。鼓動が早まる。何があったの?
「爆発事故です」
思わず駆け出した先に、目に入ったのは焼け焦げた瓦礫の山。
案内された救護所にヌーリとロッコの姿は見つからない。どのくらい時間が経ったのか、DNA鑑定を終えた捜査官がやってきた。
「悲しいお知らせです……犠牲者はご主人とご子息でした」
家族が泣き崩れる声が響く。
そんなこと信じられない!警察からヌーリについて質問を受ける。
熱心なイスラム信者だったか? クルド人か? 政治活動は? 敵は?
まるで容疑者への尋問。
警察は外国人であるヌーリが闇社会と繋がっていて、そのために狙われたと考えているようだ。
違う。
外国人が多く行き交うあの街で白昼に爆弾が爆発するのは、ネオナチによるテロだ。
「女が自転車をすぐ前に停めてたわ。カギをかけるように言ったの。荷台にボックスが載ってた」ネオナチの夫婦である容疑者が逮捕され、裁判が始まる。
絶対に法の裁きを受けさせてやる。しかし、アリバイを証言するものが現れ、物証も曖昧となり、私の目撃証言も受け入れられない。
このまま、裁判は終了してしまうのだろうか。
許せない。ふたりは苦しんだだろうか。ロッコは怖かっただろう。痛かっただろう。なぜ私はそばにいなかったのか。家族を守ることが出来なかった。一緒に死ねなかった。
繰り返すのは後悔の念。最愛の家族を奪われたとき、受け入れることなんてできない。
この悲しみが癒える日は来ない。
私は私のやり方で、この苦しみの日々を終わらせる――。(公式サイトより引用)
ネタバレ感想
いやー(この書き出し多いな)、これも面白かったですね。
昔はカンヌの受賞作っていうと、小難しくて面白くないっていうイメージだったんですけど、最近のはエンタメしてるとは言いませんが、カタルシスもあって面白いですね。
若い時はつまらないと感じてたけど、年取って面白いと感じるようになったのかしら?
本作は「爆弾テロの~」というくらいを知ってて、あとは何も知らずでの鑑賞です。
冒頭は何やら刑務所の中。
1人の男の出所が決まったのでしょうか、囚人たちが祝福するように歓声を上げて、男が出てくると刑務所と隣接する教会に入ります。
教会にはダイアン・クルーガー演じる女性がウェディングドレス姿で待っていて結婚式を挙げるんですが、獄中結婚ということになるのかな?
指輪が無いので、お互いの指に指輪代わりのタトゥーが入ってます。
新婦の方はパンク少女のようにタトゥーだらけです。
時間が飛んで現在。
ダイアン・クルーガー演じる女性が男の子を連れてます。
通りに面した事務所に入ると夫に子供を預けるようです。
冒頭の刑務所のカップルは結婚して男児を授かり、今は6歳のようです。
妻であるカティヤはどこかへ出かけるようで、夫であるヌーリに車を借りると言ってますが、夫には車で行くなよと言われます。
しかし息子のロッコが「ビルギットは妊婦だよ、いたわらなくちゃ」と助け船を出してくれます。
カティヤは夕方には戻ると言い車の鍵を受け取ると、通りの向かいに停めてある車に乗り込みます。
夫の車は新型のBMWだったので羽振りはいいんだと思います。
カティヤが事務所を出る際、事務所の前の電柱に、真新しい自転車を鍵もかけずに停める若い女性がいました。
カティヤは親切に「鍵をかけないの?盗まれるわよ」と声を掛けてあげます。
何てことないシーンですが、伏線になってます。
カティヤが訪れたのはスパで、妊婦である友人のビルギットの息抜きに来たのでした。
ビルギットは妊娠してからご無沙汰なので、イッてやると女同士下ネタで盛り上がります。
2人でサウナに入ってるとカティヤの脇腹付近に彫られているサムライのタトゥーを見て、ビルギットは「まだ途中なの?」と聞きます。
カティヤは辺りも暗くなった頃、事務所に戻ると周囲に規制線が張られています。
警官に聞くと爆発があったとのことで、よく見ると事務所付近が一番焼けていました。
カティヤは警官の制止を振り切って規制線の中に入ると、夫と子供が中にいると叫びます。
カティヤは怪我人が収容されてる病院にいますがヌーリとロッコの姿がありません。
すると警官がやってきて、男性と子供の遺体が見つかったと言います。
取り乱すカティヤ。
警察はDNA鑑定させて欲しいと言います。
カティヤの自宅に着くと、警察は数時間でDNA鑑定の結果が出ると言って、2人の歯ブラシを持っていきます。
カティヤに付き添う女性警官が誰か呼びたい人はいるかと尋ねると、鑑定の結果を待つ間にビルギットやカティヤの母親が集まり始めます。
DNA鑑定に行った警官が戻ってくるとヌーリとロッコと一致したことが報告されます。
絶句する一同にカティヤの慟哭。
カティヤはヌーリとロッコの遺体に会わせてと言いますが、警察はバラバラだから見ない方がいいと言います。
警察は爆破殺人事件として捜査を始めます。
警察は事務所の前が一番燃えてたことから、ヌーリが狙われたとみてカティヤに話を聞こうとします。
落ち着いてからと遮るビルギットに、カティヤは大丈夫と答えて事情聴取に応じます。
警察はヌーリが大麻で逮捕歴があるのを掴んでいて、現在の仕事を根掘り葉掘り聞いてきます。
裏の仕事はなかったか、誰か恨まれてる人がいなかったか、金銭トラブルがなかったを聞いてきますが、カティヤに心当たりはありませんでした。
カティヤは自分が出かける直前に見た、自転車を停めた女の話をすると、警察は似顔絵を作りその線でも捜査することになります。
警察の事情聴取に「自分が知らなかった夫の裏の一面があるのではないか?」と不安になったカティヤは、友人の弁護士ダニーロにそのことを尋ねると「現在、裏の仕事は一切してない」と言われます。
ダニーロの見立てでは現場がトルコ人街であることから、ネオナチによる排斥活動の可能性が高いと言われます。
憔悴したカティヤに同情したダニーロは求めに応じてコカインを渡してしまいます。
自宅に戻ったカティヤは気を紛らすためにコカインを使用します。
カティヤは気をしっかり持ち、ヌーリとロッコの棺を選ぶなど、葬儀の準備もしなければなりません。
するとそこに警察がやってきて、被害者宅なのに家宅捜査をすると言います。
警察の家宅捜索はあらゆる可能性を探るためでしたが、運悪くカティヤが使用したコカインが見つかってしまいます。
コカインが見つかると、カティヤの母親はヌーリの物だと言いますが、カティヤは自分の物だと正直に言います。
担当の刑事は微量であることから逮捕はされないと言い、カティヤに署まで来て事情聴取を求めます。
警察署で事情聴取に応じるカティヤですが、刑事は相変わらずヌーリに対する怨恨の線で捜査してました。
何度も同じことを聞かれ疲弊するカティヤですが、夫が裏社会と関わってることは無いと断言します。
そしてカティヤは停められた自転車の後部座席にバイク便で使うボックスが設置してあったことを話します。
警察から「犯人は誰だと思うか?」と聞かれたカティヤは、ネオナチと答えます。
葬儀をするためヌーリとロッコの遺体が戻ってきます。
ヌーリの両親は葬儀が終わったら遺灰をトルコに引き取りたいと言います。
夫と息子を失ったカティヤに追い打ちをかけるような義理の両親の言葉ですが、カティヤは毅然と拒否します。
葬儀の日、深い悲しみに暮れながらも気丈に喪主を務めるカティヤ
遺灰のことがあり葬儀に来てくれないと思っていた義理の両親も来てくれます。
カティヤが「来てくれたんですね」と言うと、ヌーリの母は「あなたがちゃんと見ていればロッコは死ななかったのに」と言います。
葬儀が終わってカティヤの母たちも帰っていくと、そばにいるのはビルギットだけになります。
ビルギットはカティヤを心配しますが、カティヤに一人にして欲しいと言われ自宅に戻ります。
時間が経っても癒えることのない心の傷。
犯人も捕まらず、悲しみのうちにカティヤは暮らします。
しかし遂に限界にきたカティヤは風呂場で手首を切って自殺を図ってしまいます。
ちょうどその時、ダニーロから留守電が入ります。
犯人が捕まったと。ネオナチによるものだと。
薄れゆく意識の中でその声を聞いたカティヤは、幸いにして死にきれず意識を取り戻すと、電話機のそばに行って繰り返し留守電を聞きます。
犯人に罪を償わす。
生きる気力が湧いたカティヤは、日本でいう被害者参加制度を利用して裁判に臨みます。
起訴されたのはカティヤが目撃した自転車を停めた若い女エダとその夫のアンドレのメラ―夫妻で2人はネオナチでした。
入廷してくるなりキスをする2人を睨みつけるカティヤ。
裁判が開廷すると更に被告弁護人ハーバーベックはカティヤの退廷を求めてきます。
カティヤ自身が今後証人となることから、裁判の内容を事前に知るのは公平では無いという理由です。
カティヤの感情を逆撫でする被告弁護人ですが、法廷を揺さぶる弁護戦術でした。
ハーバーベックは執拗にカティヤの退廷を求め、判事の評議を仰ぎますが、結果的には却下されます。
裁判はあらゆる状況証拠が被告たちの有罪を示してましたが、ハーバーベックは証拠の揚げ足を取るような弁護に終始します。
苛立つカティヤ、それをなだめるカティヤの弁護人のダニーロ、そしてそれを他人事のように見ている被告たち。
司法解剖した医者が爆発の被害による詳細な死因を語ると、覚悟も持って臨んだカティヤでしたがさすがに気持ち悪くなります。
息子ロッコの眼球が溶ける様子を語られて、平気でいられるはずがありません。
ダニーロは休廷を希望して、カティヤを一旦、退廷させますが、その際に被告人の態度に怒ったカティヤが飛び掛かろうとします。
刑務官に引き離されたカティヤでしたが、法廷が再開すると裁判官から「次やったら退廷ですよ」と注意を受けます。
再開した法廷には被告人アンドレの父ユルゲン・メラ―が証人として立ちます。
父親は息子の考え(ネオナチ)は間違っていると言い、息子を庇う気は無いようです。
そして、自宅のガレージには爆弾の材料として使われた物と同じ肥料や釘があったことを証言します。
事件が起きたとき、直感的に息子がやったと思い通報したとも言います。
しかしハーバーベックはガレージの戸締りや鍵の管理について質問すると、第三者が侵入した可能性も否定出来ないと反論します。
それでも父親は息子の犯行と確信し、裁判長に断りを入れると、振り返ってカティヤを見つめ謝罪します。
別の日の公判では捜査した刑事が証人に立ちます。
刑事はカティヤの証言通り、爆発現場からは自転車の破片が見つかり、ガレージの材料からはアンドレとエダの指紋が出たと言います。
しかし、もう1人身元不明の指紋が見つかったとも言います。
それを聞いたハーバーベックはガレージの戸締りの件と併せて第三者の犯行の可能性を指摘します。
次に弁護側の証人としてギリシャ人のホテルオーナーが証言します。
通訳を介して証言するそのギリシャ人は、爆発のあった日はメラ―夫妻が宿泊してたと言います。
証拠として宿の台帳を見せますが、明らかに後から付け加えられたようなものでした。
それを見てすかさずダニーロは反論します。
用意したタブレットを裁判長の許可を得て公開すると、そのギリシャ人のSNSのサイトを見せます。
そのギリシャ人はギリシャ極右政党の党員でネオナチとも交流があり、SNSに上げられた党首と写った写真にはアンドレの「いいね!」が付けられていました。
ぐうの音も出ないハーバーベックと思われましたが、カティヤが証人として立つと巻き返してきます。
ハーバーベックはカティヤの薬物問題に触れ、証言能力自体を否定します。
カティヤが見た女性が本当にエダだったのか怪しいと言うのです。
ムキになって反論するカティヤを抑え、ダニーロはその件は本件とは関係無いと言い、被害者を更に貶める行為だと非難します。
しかしハーバーベックも譲らず、カティヤの薬物検査をして証人としての能力の有無を確認することを要請します。
怒ったダニーロはこれを断固として拒否します。
判決の日。
裁判長は被告人に無罪を言い渡します。
ガッツポーズするメラ―夫妻。
しかし、無実では無いとも付け加えます。
法廷は、ガレージの戸締りと指紋から第三者の可能性があることと、カティヤが薬物検査を拒否したことから証言に疑わしさが残るため、疑わしきは罰せずの推定無罪に則ったものであると言います。
裁判費用は国庫から支出され、被告たちには補償金が出ると説明されます。
茫然自失となるカティヤ
無罪判決を聞いたカティヤはサムライタトゥーを完成させます。
場面変わってカティヤは海が見える場所にいます。
「国からの補償金で休暇中!」と神経を逆なでする写真をアップするメラ―夫妻のSNSを見るカティヤ。
SNSの写真はどこかの浜辺で、2人がギリシャにいると踏んだカティヤはギリシャに来ていました。
ダニーロから電話が掛かってきますがカティヤは出ません。
まずは裁判で証言したギリシャ人のホテルに向かうと、車の中からしばらく様子を伺います。
すると荷物を運びにギリシャ人がやってきて運び終えるとすぐ帰っていきます。
カティヤは車を降りるとフロントへ向かい、人を探すフリをして受付の女性にドイツ人を探してると言います。
受付の女性はドイツ人は来ないと言います。
カティヤはメラ―夫妻のSNSの写真を背景が映らないように拡大して見せると、女性の顔が一瞬変わりますが知らないと言われます。
カティヤが車に戻ると受付の女性はギリシャ人に電話します。
カティヤが車を発進させようとすると、受付の女性が近づいてきて連絡先を聞いてきます。
カティヤが嘘の電話番号を教えたりして押し問答してるとギリシャ人がやってきます。
車から降りるギリシャ人が、バールを手にしていたのを見たカティヤは、野原を車で突っ切って逃げます。
ギリシャ人から逃げ切ったカティヤが気持ちを落ち着かせるために、タバコを買おうと道路沿いの商店に車を停めると、ギリシャ人の車が通ります。
カティヤは気づかれないように尾行すると、ギリシャ人は浜辺に車で入っていき、キャンピングカーで生活しているメラ―夫妻と会うのでした。
ギリシャ人はカティヤが探してることをメラ―夫妻に告げます。
メラ―夫妻はドイツに戻ろうか相談しますが、マスコミが騒いでることを理由にギリシャにとどまることにします。
宿泊してるホテルに戻ったカティヤは、裁判資料の爆弾製造に関する箇所に目を通すと、ホームセンターに向かいます。
肥料や長い釘や圧力鍋といった、メラ―夫妻が爆弾製造に使ったものを買い揃えると、カティヤはラジコンカーのリモコンを使った爆弾を作り上げます。
ラジコンカーはロッコに買ってあげた物で、カティヤが直した物でした。
爆弾をリュックに入れたカティヤは早朝、メラ―夫妻の元に向かいます。
カティヤがキャンピングカーの様子を窺ってると、メラ―夫妻が早朝のランニングに出かけます。
その隙に車の下に爆弾をセットしますが、夫妻が戻ってくるのを待ってるうちに気が変わり爆弾を回収します。
ホテルに戻ったカティヤがベンチに腰掛け海を見てると、事件以来止まっていた生理が始まります。
カティヤがナプキンを買いに行くとダニーロから電話がかかってきます。
ようやく出た電話にダニーロは「翌日が控訴期限だから控訴しよう」と言います。
カティヤも了承すると翌日朝8時にダニーロの事務所で会うことになります。
ホテルの部屋に戻ったカティヤはスマホで撮った家族の映像を見ます。
幸せだった日々を思い出して微笑むカティヤ。
映像は家族で海水浴に行ったときのもので、波打ち際でヌーリと遊ぶロッコがママもおいでと手招きしています。
場面変わって、キャンピングカーのある浜辺。
メラ―夫妻がランニングから帰ってきます。
夫妻がキャンピングカーに入ると、カティヤがリュックを背負って近づいてきます。
カティヤはキャンピングカーのドアの脇に立つとリュックを胸に抱えます。
意を決したカティヤはドアを開けて車の中に入ります。
次の瞬間キャンピングカーは爆発し、黒煙を上げて燃えていきます。
カメラはカティヤの魂が天に昇っていくように、ゆっくりと上空を映して映画は終わります。
本作は第1部「家族」、第2部「正義」、第3部「海」と章立てに分かれていて、映画の最後に2000年から2007年にかけてドイツで起きた、国家社会主義地下組織(NSU)の事件がテロップで表示されるんですが、日本人には馴染みの無い事件だと思います。
自分はこの事件は知らなかったんですが、事件の概要を知ると第1部の「家族」と第2部の「正義」の流れは、裁判の経過などを含めて実際の事件を参考にしているものと分かります。
(エダ・メラーの役もベアテ・チェーペをモデルにしてる感じですよね)
特に本作の裁判で、ガレージの中の爆弾の材料の中から第三者の指紋が見つかるのは「ハイルブロンの怪人」を意識してると思います。
そこに第3部の「海」で、物語を『狼よさらば』的な復讐譚にして映画のオリジナル性を高めている訳ですが、ここも現代らしく自爆テロによるものとなってます。
(裁判の時に爆発の詳細を語るのでより効いてきます)
だからストーリーに説得力があるんですよね。
特に本作の場合、主人公がサムライタトゥーをしてるので仇討ち的要素があり、「忠臣蔵」が好きな日本人には、スッと入ってくるんではないかと思います。
そしてこの理不尽さに抗うのは自分の好きな作品で、1963年の第16回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した『切腹』の要素も入ってるなと思いました。
それにしても、監督の撮影・編集は上手いですね。
要所要所で幸せだった頃のホームビデオの映像を挟み込んでくるので、カティヤの深い喪失感が伝わってきました。
映像的にもフィックスで撮りながら背景のぼかし具合を変化させるなど、主人公の心情がより強く伝わってきました。
演じたダイアン・クルーガーも見事でカンヌで女優賞を受賞したのも納得です。
インタビューを読むと、役作りには相当時間をかけたようで、とてもリアルだったと思います。
公開館数がまだ少ないですが、社会問題を背景にしつつも小難しい映画ではなく、基本的にはエンタメ作品(後味がいいとは言えないですが)に仕上がってるので、非常におススメです。
鑑賞データ
ヒューマントラストシネマ有楽町 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
2018年 66作品目 累計57600円 1作品単価873円
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