ザ・シェフ 悪魔のレシピ 評価と感想/まさかの真面目な社会派スリラー

ザ・シェフ 悪魔のレシピ 評価と感想
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邦題付けたの誰だ(笑) ☆4点

予告編

映画データ

ザ・シェフ 悪魔のレシピ (2016):作品情報|シネマトゥデイ
映画『ザ・シェフ 悪魔のレシピ』のあらすじ・キャストなど作品情報:理髪店の客がカミソリで殺され人肉パイにされるスウィーニー・トッドの話に着想を得た、イギリス発のリベンジホラー。
http://cinema.pia.co.jp/title/171803/

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ホントはシネマート新宿で『哭声/コクソン』を観ようと思ったんですけど、本作がこの日で最終上映だったのと、今年の未体験ゾーンで唯一のR18+相当だったので観てきました。

あらすじ

包丁を片手にミンチを開始!

ロンドン郊外のサウス・コースト。酒とセックスに溺れた若者たちが、夜な夜な暴れまくる荒れ果てた街。有名起業家がオープンさせたナイトクラブの登場が、若者たちの言動に拍車を掛けていた。そんな街の一角にあるケバブ屋は、彼らのたまり場と化している。病気がちな店主と、息子のサラールが店を切り盛りしているが、店内で客同士の大乱闘が発生しても、警察が駆けつけるのは3時間後だったりもした。トルコ移民のサラールは、社会的に苦痛な日々の中、懸命に生き抜いていた。しかしある日、客に絡まれた店主が、暴行を受け死んでしまう。怒りを押し殺すことしか出来なかったサラールだったが、遂に復讐という名の行動を開始するのだった―。

あの“スウィーニー・トッド”にインスパイアされたリベンジ・ホラー衝撃作!酒とセックスに溺れる若者たちに暴行され、ケバブ屋を営む父が死亡。残された息子は、店を切り盛りするため奔走するのだが…。哀しみに暮れながらも、悪化の一途を辿る治安の悪さに加え、移民であることへの社会的閉塞感から、父を殺された怒りが倍増!包丁を片手に狂気を爆発!若者たちをひとり、またひとりと殺しては、遺体をミンチにし、ケバブにしていく!記録的な売上に味を占め、いつしか孤独な男は悪魔と変貌を遂げるのだった!カミソリの代わりに包丁を、パイの代わりにケバブを用いて、復讐に人生を捧げた男の運命を描く、衝撃のリベンジ・ホラーが誕生した!

未体験ゾーンの映画たち2017公式HPから引用)

という感じで、おバカグロ映画かと思って観に行ったのですが、意外や意外、真面目な社会派スリラー映画でした。

グロシーンを除けば『サウルの息子』ならぬ「息子のサラール」や『ディーパンの闘い』ならぬ「サラールの闘い」って感じでカンヌで賞を獲ってもおかしくないと思いましたよ。

ネタバレ感想

時代設定はベッカムがまだマンチェスター・ユナイテッドに在籍してた2001年頃の話で、ロンドン郊外のサウス・コースト地区でケバブ屋を営むトルコ系(クルド人)移民の父と大学生の息子サラール(ジアド・アバザ)が主人公の話です。

サラールは大学で経営学を学んでいてあとは卒論を提出すれば国連職員の道も開けそうな状態ですが、病弱気味な父が入院してしまいます。
入院中は自分が店を営業すると言いますが、父からは夜の営業はツラいから無理しなくていいと言われます。
というのも、周辺はクラブが密集していて週末ともなるとガラの悪い連中が集まるからです。
が、サラールは暇な時間は店で卒論書いてるからいいってことで店を開けますが、夜になると案の定ガラの悪い連中が集まりだし、客同士がトラブルになります。
椅子などが壊され警察に通報しますが、警察が来たのは3時間後で街の治安悪化に追いついていません。
店の損害も泣き寝入りの状態です。

1か月後、父が退院します。
父が店のオープン前、テレビでサッカーの試合を見ていると、ガラの悪い連中が店を開けろと入口を叩いています。
開店前だと説明するも、突き飛ばされ、当たり所が悪く、元々、病弱なのもあって父は死んでしまいます。

父が死んで店の顧問弁護士に話しを聞くと、父には以前から自己破産を勧めていて経営状態は厳しいことや、突き飛ばしが直接の原因でなく、移民前の内戦の毒ガスによる呼吸器疾患が原因で死んだと説明され、捜査も行われないことを聞いて落胆します。
ただ父には夢があって、レストランを開くためにレシピ帳を作っていて古い洋館な作りの物件も見つけていたことを弁護士から知らされます。

サラールがその建物を見に行くと、ある男性が、いい建物だよな、と声をかけてきます。
近くにいた若い女の子たちがその男性を見つけると2ショットを撮ってとサラールに言ってきます。
その男性はリアリティ番組などに出てる有名な若手実業家ジェイソン・ブラウン(スコット・ウィリアムズ)で、後日、その建物がクラブになったとテレビで流れてきました。

父の死後もサラールは卒論を書きながら店を営業していましたが、肉が配達されません。
肉屋に電話すると支払いが滞っているせいと言われ、支払いを条件に肉を配達してもらいます。

その日の閉店間際、寝てしまっている若い男性酔客に声をかけるも起きません。
あと5分で閉店すると声をかけ閉店準備をしてると、その男性酔客が勝手にキッチンに入ってフライヤーで商品を揚げています。
注意して揉み合いになるうちに男性は足を滑らせてフライヤーに頭から突っ込んで大やけどをしてしまいます。
慌てたサラールは手当するために事務室兼冷凍庫がある地下のバックヤードに連れて行きますが、男性は死んでしまいます。
警察に通報することも考えましたが、あてにならない警察では移民の自分が不利になると考えてやめます。
遺体をどうするか考えたときに肉屋の支払いが滞っていたのを思い出し、予備の肉として使うことを思いつきます。
遺体を大きな包丁で切断し、ミンチにしますが、直接的にグロい表現が出てくるのはここだけでした。

後日、営業してると2人組の若者がやってきてラム肉のケバブを頼みますが、ラムが品切れのためチキンに変更してもらいます。
ケバブを作ってる間、その若者たちの会話を聞いていると、どうやら老人相手に振り込め詐欺的なことをしている、ろぐでなし共でした。
サラールはまだラムがあったと言って、予備の肉、人肉ケバブを喰らわせてやります。
食べながら一瞬固まる2人でしたが、固まった後、こんな美味いケバブは食べたことないと言うお約束のシーンが描かれます。

卒論提出期限まであと1日と迫ったある日の閉店間際、2人組の酔客女性が男を取った取らないで言い合いしながら店に入ってきました。
注文も頼まずにエキサイトする2人に注意するサラールでしたが、1人の女性のタチが悪く、店で暴れ始め卒論を書いていたノートPCも破壊されます。1人は逃げ、タチの悪い方に切れたサラールは地下室に誘導し殺してミンチにします。
骨だけは処分できないので海に行って捨てていました。

時間が飛んで7年後。
サラールは同じ場所でケバブ屋を続けています。
一連の行為は、イギリスでも連続失踪事件として取り上げられていましたが、捜査は全く進展していません。
それどころか、サラールのケバブ屋は美味いと少し評判になっています。

ある晩、着ぐるみを着た食い逃げ客を追っているサラール。
公園で追いつき痛めつけるも逃げられてしまいます。
それを公園の陰から見ている少年たちが話をしています。
どうやらトルコ系移民の少年たちの間では、正義感の強い店主として少し評判になってるようです。
食い逃げ犯をなおも追っていくと安いビジネスホテルに逃げ込んだようで宿泊客でした。
部屋のドアを叩いて開けさせようとしてると、ホテルの女性支配人サラ(クリスティン・アザートン)に声をかけられます。
騒ぎを起こしてほしくないけど悪いようにはしないと言われ受付で話すと、彼女もトルコ移民で大学では経営を学んでいたことから意気投合して仲良くなります。

別の日。募集はしていませんでしたがバイト志望の大学生マリク(リース・ノイ)がやってきます。
マリクは公園でサラールを見ていたトルコ系移民の少年の1人でサラールに憧れていました。
バイトする環境としては悪いし大学生なら勉学に励んだ方がよいと言いましたが、熱意にほだされクリスマスまでは忙しいので雇い入れます。
また地元では古い教会を改装して、ジェイソン・ブラウンが新しいクラブを出すと話題になっています。

サラールの店は相変わらず夜になるとガラの悪い連中が来ます。レイシストだったりヤクの売人だったりするんですが、それらを必殺仕事人よろしく処刑していくのですが、食い逃げ犯を含めてどうやらみんなジェイソン・ブラウンと繋がってるようで、表の顔は青年実業家ですが、裏の顔はヤクの元締めだったりする諸悪の根源というのが分かってくると、サラールの怒りの矛先はジェイソン・ブラウンに向かっていきます。
食い逃げ犯が着ていた着ぐるみを着てジェイソン・ブラウンを狙うのですが、ボディーガードに阻まれて失敗します。

サラールはこのときに男を1人捕まえていて、普段ならすぐに殺すんですが、標的がジェイソンに変わってきていてこのときはすぐに殺さず冷凍庫に繋げていました。会話をしてるうちにお互い国は違えど新自由主義による社会的弱者だと分かり解放してやります。

ある夜、サラールが店を営業していると、着ぐるみの正体はバレてないはずでしたが、ジェイソンがやってきます。
ジェイソンは評判のケバブ屋と聞いて、という体で店を訪れますが、その実は行方不明になった友人について探りを入れることでした。
いろいろ話してるうちに店を買うと言い出すジェイソンでしたが、何でも金に物を言わせるやり方に反発するサラールでした。

マリクはサラールが闇の処刑人だと疑っていて、地下室に忍び込み、証拠を見つけ、自分も協力したいと申し出ますが却下されます。
サラールは今まで殺してきた者が持っていたジェイソンに繋がる証拠品を持って今度オープンする教会のクラブに忍び込み、証拠映像をユーチューブに上げてジェイソンを告発します。

が、少年をおとりに使ったジェイソンの手下の奇襲に遭い、店の地下に監禁されてしまいます。
薬やお酒で意識が朦朧とする中、目を覚ますとジェイソンがいました。
着ぐるみの袖口に隠したナイフで反撃を試みるも失敗し、脇腹を刺されてしまいます。
街中を逃げるジェイソンを追いますが、サラールは力尽きて死んでしまいます。

後日、ニュース映像で逮捕されるジェイソン。
失踪事件との関わりは薄いとされましたが、違法薬物を蔓延させたかどで逮捕されて終わります。

 

いや、もう、脳天気にヒャッハーするグロ映画かと思ってたら、EU離脱した今のイギリスの現状とか考えると、ホントどんよりする映画でした。
主人公サラールの卒論のテーマも、資本主義による社会構造の変化、みたいなことを書いていて、それを完成させて提出できていれば、また違った未来があったかもしれないのに、バカ女のせいでそれもパァになってしまって、最初の死は不可抗力でしたが、二番目のはプッツンする気持ちがよく分かりました。

一見すると、邦題やキャッチコピー、人肉ケバブに目が行きますが、金に物言わせて快楽だけを追求するジェイソンのキャラクターはアメリカ的価値観の象徴のようにも見えましたし、イギリスの移民問題、サラールの背景にあるクルド人問題など、扱っているテーマはなかなかに真面目でヘビーな良作でした。

鑑賞データ

ヒューマントラストシネマ渋谷 TCGメンバーズ ハッピーフライデー 1000円
2017年 40作品目 累計38700円 1作品単価968円

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